S&P 500月例レポート(2018年9月配信)_前編

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2018年8月
S&P 500過去最高値を更新

 みんなパーティーが大好きで、多くは毎年8月を海辺の別荘で過ごしますが、今年はブロードストリートとウォールストリート沿いでパーティーを何度も開いたようです。旅行者は写真を撮るために通りを挟んだ階段を上り、トレーダーは含み益を積み上げました ― ポジションを減らして実際に利益を確定したトレーダーは少数でした。

 月初に輝きを放ったのはiPhoneメーカーのApple(AAPL)でした。決算が予想を上回り、株価は前月末から19.6%上昇し、同社の時価総額は完全公開会社としては初めて1兆ドルを超え、月末には1.1兆ドルまで増加しました。ちなみに、Amazon(AMZN)は時価総額9,820億ドルですぐ後ろまで迫っていました。1980年の新規株式公開(IPO)時に22ドル(株式分割調整後で1株当たり0.39ドル)で1株を買っていれば、現在1株が56株となり、市場価値は12,747ドルとなります。もし1万ドルを投資していれば、持ち株の現在価値は579万4,218ドルになっています(配当は含まず)。

 8月の真の成果、そして何より重要な出来事は、終値での最高値を再び更新したことです。S&P 500指数は取引レンジ(2018年1月26日の最高値2,872.87~2月8日の直近安値2,581.00のレンジ)を上抜けて、取引時間中ならびに終値での最高値を記録しました。具体的には、8月24日の終値は2,874.79となり、年初来15回目の最高値を更新しました。前回終値で最高値2,872.87を付けた1月26日から210日後のことです。同指数はその後、終値で16回目、17回目、18回目の最高値を連日更新し、18回目となる8月29日は2,914.04で取引を終え(2016年11月8日の大統領選当日以降、最高値は88回更新されています)、この日初めて2,900を超えました(2,800を超えたのは2018年1月17日)。また、同日は2,916.50で取引時間中の最高値も更新しました。

 好調なのはAppleだけではありません。S&P 500指数の強気相場は過去最長となり、2000年に付けたこれまでの記録3,452日(1990年~2000年)を抜き、3,462日で目下更新中です。強気相場の持続(2009年3月9日以来)により、株式リターンは年率16.60%(全体で329%)、配当込みのトータルリターンは年率19.14%(同423%)となりました。セクター別では、リターンが最も高かったのは一般消費財セクターで年率25.43%(同756%)、最も低かったのはエネルギーセクターで年率8.83%(同123%)でした。

 しかし、重要なのは強気相場が今後も続くかどうかです。現時点でファンダメンタルズは前向きです。98%の企業が2018年第2四半期の決算発表を終え、利益は前年同期比26.9%増で過去最高を更新するとともに、売上高は同11.2%増、利益率は11.57%でそれぞれ過去最高を更新しました。また、失業率は低く、景気拡大が続く中(当初報告に基づくと減税による効果で)消費支出は好調です。マイナス材料は、段階的とは言え、9月25-26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げが見込まれるように、金利上昇とフラットなイールドカーブ、債務コスト(債務の増加を背景に、たとえ金利上昇ペースが緩やかであってもコストはいずれ大きく膨らむでしょう)、米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート、関税、貿易です。前回の取引レンジは(元に戻らなければ)そこから抜け出そうとした者に機会を与えるためのサポート水準を提供して、市場の底堅さを強めたようであり、現時点でモメンタムは上向いています。

 トルコ経済を巡る懸念(特に20%の債券金利、ならびに同国債券の多くをEUの加盟国や機関が保有していること)が高まる中、市場はトルコに関してマイナスにもプラスにも傾きませんでした。ただし、危機の伝播は限定的でしたが、トルコは打撃を受け、トルコリラと市場は大幅に下落しました。米国の南側では、アルゼンチンペソの下落が続き、中央銀行は政策金利を60%に引き上げるとともに、同国は国際通貨基金(IMF)に500億ドルの融資前倒しを要請しました。

 S&P 500指数は、2018年第3四半期の期初来(2カ月間)好調に推移し、夏場の低迷は目をつむるとして、9週間のうち8週間で上昇し(トルコのニュースが伝わった週に0.25%下落)、リターンは良い意味で予想を裏切る6.74%となりました。

 お祝いのシャンパンのコルク栓を抜く前に言っておきたいのは、値上がりが全ての市場共通ではなかったということです。米ドルが上昇する中、北米自由貿易協定(NAFTA)交渉は3分の2が終わり、米中事務レベル協議は早くも閉幕(米市場関係者は再開を見込んでいます)するなど、貿易問題は解決しておらず、ショックで失望的な政治動向は先行きに不透明感をもたらし、ヘッドライン、市場の認識、リターンに悪影響をもたらしましたが、血圧を上昇させたこれらの要因は、少なくとも米国市場にとっては好材料となりました。

 上述のように、全般的に、第3四半期はこれまでのところ株式ロング筋(あるいは8月に3.79%下落したエネルギーセクターのショート筋)にとって良好な相場展開となっていますが、主要な投資市場のすべてに当てはまるわけではありません。例えば、原油価格は第2四半期末(6月30日)に1バレル=74.31ドルを付けた後(2017年末は60.09ドル)、64ドル台を試す展開となり、69.92ドルで8月を終えました。英ポンドは上昇局面から抜けたようで、6月末の1ポンド=1.3205ドルから下落して1.2960ドルで月を終えました(月中に1.2700ドルを割り込みました。2017年末は1.3498ドル)。6月末に2.86%(2017年末は2.41%)だった米国10年国債利回りは、FOMCの影響で上昇が予想されていましたが、7月末の2.96%から低下しました。金は輝くことなく、価格は月中に1トロイオンス=1,200ドルを割り込み、1,205ドルで8月を終え、第2四半期末の1,254ドルから下落しました(2017年末は1,305ドル)。

 そして海外市場に目を向けると、米国を除く先進国市場は下落し、新興国市場は著しく下落しました。現時点では、米国株式はこれまでのところ順調に推移しており、コピーキャット投資(上手くいっている投資家を真似ること)が奏功する可能性はありますが、さらに儲けを追求するよりも手に入れた利益を守ろうとする心理が働くこともあるため、米国株式は利益確定の対象になる可能性もあります。
 

 

 
「嘘には3種類ある。普通の嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」(マーク・トウェイン)

・貿易問題は引き続きメディアを賑わし、グローバル市場を左右しました。米国とメキシコはNAFTA再交渉で合意し、残るカナダとの交渉は来週に予定されています。米国とメキシコは、もしカナダが歩み寄らない場合はカナダ抜きでの署名も辞さない姿勢を見せています。米中問題は決着せず、事務レベルの協議はあったものの、追加関税が発動されました。米国市場では企業の力強い利益と売上高が主要な材料となっており、S&P 500指数は終値での最高値を更新しました。一方で、海外市場はさえないパフォーマンスとなりました。

  →米国市場は8月に3.26%上昇し、年初来で9.06%上昇
    ◇時価総額は8月に9,440億ドル増、年初来で2兆1,580億ドル増

  →米国以外の市場は8月に2.12%下落し、年初来で5.22%下落
    ◇時価総額は8月に5,630億ドル減、年初来で1兆4,280億ドル減

・米国10年国債利回りは2.86%と、7月末の2.96%から低下し、6月末と同水準で月を終えました。

・S&P 500指数構成銘柄の98.6%(時価総額ベースで97.8%)が2018年第2四半期の決算発表を終えた時点で、79.7%の企業で営業利益が予想を上回りました。売上高は73.7%の企業で予想を上回り、前年同期比11.2%増、営業利益率は11.57%(過去平均は8.08%)となりました。

・S&P 500指数は8月24日の終値が2,874.79となり、210日ぶりに終値での史上最高値を更新しました(前回の高値更新は2018年1月26日で2,872.87)。最高値の更新は今年に入って15回目で、その後16回目、17回目、18回目と連日の更新となり、8月29日には史上最高値となる2,914.04で取引を終えました(最高値の更新回数は2016年11月8日の大統領選以降で88回)。また、S&P 500指数は初めて2,900を超えました(2,800を超えたのは2018年1月17日)。

・現在の強気相場は過去最長を更新し、強気相場が始まった2009年3月9日以降のS&P 500指数の年率リターンは16.60%、配当込みのトータルリターンは年率19.14%となっています。

・年初来のS&P 500指数は上値の重い展開とはいえ着実に上昇しており、年初来のトータルリターンは9.94%、年率換算で15.16%となっています(2017年通年の上昇率は19.42%、トータルリターンは21.83%)。

・Appleの時価総額が1兆ドルの大台に乗りました。株価は8月に19.6%上昇し、8月末時点の時価総額は1兆1,000億ドルとなりました。第2位のAmazonは8月に13.2%高となり、時価総額は9,820億ドルで月を終えました。

○AppleとAmazonの時価総額を合計すると2兆ドルを超え、S&P 500指数全体の8.1%を占めます。1982年当時は、IBMと当時のAT&Tの時価総額の合計が1,108億ドルで、S&P 500指数の10.9%を占めていました。

主なポイント

・8月のS&P 500指数は2,901.52で取引を終え、7月末の2,816.29から3.03%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス3.26%)。7月は3.60%の上昇でした(同プラス3.72%)。過去3カ月間では7.25%上昇(同プラス7.76%)、年初来では8.52%上昇(同プラス9.94%)、過去1年間では17.39%上昇(同プラス19.66%)、大統領選当日の2016年11月8日(終値2,139.56)以降では35.61%上昇(同プラス40.61%)となっています。8月中に終値での最高値を4回更新し、年初来では18回となっています(直近の高値更新は8月29日で2,914.04)。最高値の更新回数は2017年に62回あり(1995年の77回に次ぐ過去2番目の更新回数)大統領選以降では88回となりました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は25,964.82で取引を終え、7月末の25,415.19から2.16%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス2.56%)。7月は4.71%の上昇でした(同プラス4.83%)。過去3カ月間では6.34%上昇(同プラス6.99%)、年初来では5.04%上昇(同プラス6.73%)となっています。ダウ平均は8月中に最高値を更新することはありませんでした(年初来の終値での最高値更新回数は11回、直近の最高値更新は2018年1月26日で26,616.71)。最高値の更新回数は2017年に71回と過去最高を記録し(1896年以降、1995年は69回)、大統領選以降で99回となっています。

・米国10年国債利回りは7月末の2.96%から低下して2.86%で8月を終えました(2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。

・英ポンドは7月末の1ポンド=1.3123ドルから1.2960ドルに下落し(同1.3498ドル、同1.2345ドル)、ユーロは7月末の1ユーロ=1.1693ドルから1.1606ドルに下落しました(同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は7月末の1ドル=111.84円から111.17円に上昇し(同112.68円、同117.00円)、人民元は7月末の1ドル=6.8112元から6.8318元に下落しました(同6.5030元、同6.9448元)。

・原油価格は7月末の1バレル=68.43ドルから上昇して69.92ドルとなりましたが、6月末の74.31ドルには届きませんでした(同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(米エネルギー情報局(EIA)による全等級)は7月末の1ガロン=2.924ドルから下落して2.906ドルで8月の取引を終えました(同2.589ドル、同2.364ドル)。

・金価格は7月末の1トロイオンス=1,232.90から1,205.30ドルに下落しました(同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。

・VIX恐怖指数は7月末の12.84から12.86に上昇しました。8月中の高値は16.86、安値は10.17でした。(同11.05、同14.04)。

・S&P 500指数の時価総額の97.8%に相当する企業が2018年第2四半期の決算発表を終え、営業利益が予想を上回った企業は79.7%の異例の高さとなりました。売上高は前年同期比11.2%増と力強い伸びを示しており、営業利益率も11.57%と、いずれも過去最高を更新する可能性があります。

・自社株買い承認額の98.2%が実施され(総額1,851億ドル)、2018年第2四半期は過去最高を記録した2018年第1四半期(総額1,891億ドル)を3.0%下回る一方、2017年第2四半期を55.1%上回っています。

・ビットコインは8月中に7,761ドルの高値と5,891ドルの安値を付け、7月末の7,703ドルから下落して7,067ドルで月を終えました(同13,850ドル、同968ドル)。

・ボトムアップベースで算出した1年後の目標値はS&P 500指数が3,093(現在値から6.60%上昇、7月末時点の目標値は3,053)、ダウ平均は28,261ドル(同8.84%上昇、同27,831ドル)と、市場の動きに合わせて引き続き上昇しました。

 過去の実績を見ると、8月は58.9%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.87%、下落した月の平均下落率は4.01%、全体の平均騰落率は0.69%の上昇となっています。

 今後のFOMCのスケジュールは、年内は9月25日-26日、11月7日-8日、12月18日-19日、2019年は1月29日-30日、3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月18日-19日、7月30日-31日、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日となっています。

後編に続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム