S&P 500月例レポート (2018年8月配信)_前編
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET: 2018年7月
われわれは大きくなっても子供心を忘れていないようです(中にはちゃんと大人になっている人もいますが)。子供たちが大好きなものといえばサーカスですが、7月の市場はまさにサーカスのような展開でした。株式市場の子供たちは笑顔で月末を迎え、ごく少数は8月の夏休みに出かけ、7月に取っていなければ大部分は短い休暇に出かけました。というのも、7月のS&P 500指数が4カ月連続の上昇となり(累計で6.64%上昇)、中でも7月は3.60%もの最大の上昇率だったからです。
この4カ月間は減税の影響が出始めた時期で、2018年第1四半期の企業利益が記録的な水準なり、予想を上回る売上高になったことに加え、第2四半期も現時点で指数構成銘柄の74.8%が決算発表を終了し、通常よりも多くの企業(過去平均の67%に対して現時点で80%)で利益が予想を上回っています。売上高も現時点で前年同期比10.3%増は過去最高となる見込みで、2四半期連続の増収となり、利益率も過去最高となりそうです。
企業利益は毎回Twitter(TWTR、年初来32.7%高、7月は27.0%安)やFacebook(FB、同2.2%安、11.2%安)に投稿されるほどのことではありませんが、中にはAmazon(AMZN、同52.0%高、4.6%高)を始め大幅に増加した企業もあり、楽観ムードが再び高まっているようです。S&P 500指数は終値での最高値から1.97%安の水準にあり、直近の高値更新は2018年1月26日の2,872.87です。
企業利益がサーカスの最大の目玉だとしたら、2番目は貿易でしょう。米国と欧州連合(EU)は正式交渉を経て合意し、北米自由貿易協定(NAFTA)交渉も前進し、市場は秋に合意に達するとみています。残る重要な交渉相手国は中国です(近いうちに交渉が再開するとの報道もあります)。
3つ目の演目(それほど心躍る内容ではありませんが、投資では重要です)は経済で、住宅関連指標は予想を下回る結果となりました。しかし、経済は依然として上向いており、2018年第2四半期GDP成長率速報値は前期比年率4.1%となり、市場予想こそ下回りましたが、大幅な伸びとなりました(第1四半期のGDP成長率は当初発表の同2.0%から2.2%へ上方修正)。
ここで問題になるのは、サーカスが嫌いなのは誰かということです。この答えが、サーカスが永遠に続く方に賭けているピエロでないことを願うばかりです。
7月は新たな議論も浮上しました。というよりも、とどまることのない気まぐれに振り回され、そのたびに事態を解釈し直し、書き直さなければならない執筆者泣かせの1カ月でした。ウォール街としてはまるで他人事だったようです。
というのも株価に影響がなければ自分に火の粉が及ぶことはないからです。つまり、トランプ大統領とプーチン大統領の2時間にわたる第1回会談(第2回は米国中間選挙投票日の2018年11月6日より前にホワイトハウスで行われる予定)や、貿易に関する「非常に」公式な議論といった一連のイベントを受けて、市場への影響はほとんどありませんでした。貿易に関しては、全体としては正式交渉や水面下での合意に向けた合意で進展しているように見えますが、依然としてパフォーマンス感は否定できません。
市場に一時的な反応が全くなかったわけではなく、今後も反応しないとは限りませんが、前述の通り、S&P 500指数は史上最高値から1.97%安の水準にあり、現在の強気相場は2018年8月22日に過去最長を更新する見通しです。
「嘘には3種類ある。普通の嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」(マーク・トウェイン)
・貿易問題がメディアを賑わし、グローバル市場を左右しました。そうした中、米国市場は企業業績を中心に展開し、他の地域に比べてかなり順調でした。
→米国市場は7月に3.25%上昇し、年初来で5.62%上昇
◇時価総額は7月に8,760億ドル増、年初来で1兆2,140億ドル増
→米国以外の市場は7月に1.91%上昇、年初来で3.16%下落
◇時価総額は7月に5,020億ドル増、年初来で8,640億ドル減
・貿易をめぐる正式交渉が実を結び、EUとは合意に向けた合意がまとまり、NAFTAでは第3四半期中の合意に向けて交渉が進んでいます。米中問題はもっぱらメディアで大きく取り上げられていますが、近いうちに交渉が再開される見通しです。
・米国10年国債利回りは2.96%と、6月末の2.86%から上昇して月を終えましたが、5月に付けた3.13%には届きませんでした。
・S&P 500指数構成銘柄の74.8%(時価総額ベースで62.4%)が2018年第2四半期の決算発表を終えた時点で、80%の企業で営業利益が予想を上回り、売上高は前年同期比10.3%増、営業利益率は11.69%(過去平均は8.08%)となりました。
・S&P 500指数は終値での最高値から1.97%安の水準にあり、2009年3月9日に始まった現在の強気相場は2018年8月22日に過去最長を更新する見通しです。
・年初来のS&P 500指数は上値の重い展開となっていますが、年率換算の年初来リターンは9.23%、配当込みのトータルリターンは11.23%となっています(2017年通年は19.42%とプラス21.83%)。
・Appleの時価総額(2018年8月1日の取引開始前時点)は9,580億ドルと、1兆ドルの大台達成まであと4.4%の水準まで来ています。
主なポイント
・7月のS&P 500指数は2,816.29で取引を終え、6月末の2,718.37から3.60%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス3.72%)。同指数は、6月は0.48%の上昇(同プラス0.62%)、5月は2.16%の上昇(同プラス2.41%)でした。また、過去3カ月間で6.35%上昇(同プラス6.87%)、年初来では5.34%上昇(同プラス6.47%)、過去1年間では14.01%上昇(同プラス16.24%)、大統領選当日(終値2,139.56)からは31.63%上昇(同プラス36.17%)しました。S&P 500指数は7月中に最高値を更新することはなく、終値での最高値更新は年初来で14回となっています(直近の高値更新は2018年1月26日で2,872.87)。最高値の更新回数は2017年に62回(1995年の77回に次ぐ過去2番目の更新回数)、大統領選以降で84回となりました。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は25,415.19ドルで取引を終え、6月末の24,271.41ドルから4.71%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス4.83%)。6月のダウ平均は5月末から0.59%下落(同マイナス0.49%)、5月は4月末から0.15%上昇していました(同プラス1.41%)。過去3カ月では5.18%の上昇(同プラス5.80%)、年初来では2.82%の上昇(同プラス4.07%)となっています。ダウ平均も7月中に最高値を更新することはありませんでした(年初来では終値での最高値を11回更新、直近の高値更新は2018年1月26日で26,616.71ドル)。最高値の更新回数は2017年に71回と過去最高を記録し(1896年以降。1995年は69回)、大統領選以降で99回となっています。
・米国10年国債利回りは6月末の2.86%から上昇して2.96%で取引を終えました(2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。
・英ポンドは6月末の1ポンド=1.3205ドルから1.3123ドルに下落し(同1.3498ドル、同1.2345ドル)、ユーロは6月末の1ユーロ=1.1685ドルから1.1693ドルに上昇しました(同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は6月末の1ドル=110.68円から111.84円に下落し(同112.68円、同117.00円)、人民元は6月末の1ドル=6.6225元から6.814元に下落しました(同6.5030元、同6.9448元)。
・原油価格は6月末の1バレル=74.31ドルから下落して68.43ドルとなりましたが、5月末の66.93ドルを上回りました(同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(米エネルギー情報局(EIA)による全等級)は6月末の1ガロン=2.913ドルから小幅に下落して2.911ドルで取引を終えました(同2.589ドル、同2.364ドル)。
・金価格は6月末の1トロイオンス=1,254.40ドルから下落して1,232.90ドルで取引を終えました(同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。
・VIX恐怖指数は7月中に18.08の高値と11.44の安値を付け、6月末の16.09から低下して12.84で月を終えました(同11.05、同14.04)。
・S&P 500指数の時価総額の74.8%の企業が2018年第2四半期の業績発表を終え、80%の企業で営業利益が予想を上回りました。予想を上回った企業の割合は過去最高を更新しました。売上高は前年同期比10.3%増と力強い伸びを示しており、営業利益率とともに過去最高を更新する可能性があります。
・自社株買い承認額の57.3%の買い戻しが実施されました(総額1,074億ドル)。2018年第2四半期は過去最高を記録した2018年第1四半期を1.9%下回っている一方、2017年第2四半期を62.6%上回っています。
・ビットコインは7月中に8,486ドルの高値と5,538ドルの安値を付け、6月末の5,921ドルから上昇して7,703ドルで取引を終えました(同13,850ドル、同968ドル)。
・ボトムアップベースで算出した1年後の目標値はS&P 500指数が3,053(現在値から8.41%上昇、6月末時点では3,023)、ダウ平均は27,831ドル(同9.50%上昇、同27,798ドル)と、市場の動きに合わせて引き続き上昇しました。
・S&P 500指数に対する上位5社の寄与度は20.0%と予想されます(Amazon(AMZN)、Microsoft(MSFT)、Facebook(FB)、Berkshire Hathaway Inc.(BRK.A)、Apple(AAPL))。
株式市場
世論は引き続き盛り上がり、政治、経済、金融の見方次第では、議論はさらに高まりました。市場も同様に活発化し、米国市場は4カ月連続で上昇しましたが、米国以外の市場は年初来、難しい時期に陥っています(これはうまい言い回しで、米国以外の市場は年初来で3.16%下落)。数々の試練があっても、最終的に損失よりも利益が得られるほうが良いに決まっています(7月は、米国市場は3.25%上昇、米国以外の市場は1.91%上昇)。
市場を動かす材料となったのは例のごとく決算発表で、S&P 500指数構成銘柄のほぼ75%が決算を終えた段階で80%の企業で利益が予想を上回り、売上高も伸びています(前年同期比10.3%増)。現時点では、好調な企業業績が市場を牽引しており、好業績の原動力となっているのが税率の引き下げと、個人の所得減税による売上増加の見通しのようです。
貿易問題は依然として新聞紙面を賑わしており、今後もこの状況が続くと思われます。7月終盤に米中が新たな交渉を行うとの臆測が広がり、追加関税を求める公式の意見がトランプ大統領の顧問から上がったことから、貿易問題は引き続き世論の注目を集め、市場にも影響を与えました。市場は世論に無関心ではありませんが、政治的議論が市場に与える影響は小さくなっており、その影響が持続する時間も短縮されている模様です(午前11時に株価が下がり、午後1時には回復するといった具合に)。現時点では、実体経済も金融市場も好調で、話題の中心はバリュエーション、長期にわたる強気相場の行方、いずれ訪れる金利上昇ですが、ポートフォリオに対しては楽観的な見方が優勢です。
8月は引き続き貿易に関する議論の他に短期的な変動が予想され、特定の銘柄とグループのボラティリティは市場全体の変動よりも大きくなると思われます。決算発表は小売セクターに移りますが、このセクターの決算発表は消費者が新たな節税分をどのように使用しているか、米国経済を全体的にどう見ているか(およびどう予想しているか)について、(願わくは)より明確な手掛かりを与えてくれるでしょう。
過去の実績を見ると、8月は58.9%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.87%、下落した月の平均下落率は4.01%、全体の平均騰落率は0.69%の上昇となっています。今後のFOMCのスケジュールは、7月31日-8月1日、9月25日-26日*、11月7日-8日、12月18日-19日*、2019年1月29日-30日(*は記者会見が行われる)となっています。
ファンダメンタルズ
2018年第2四半期の企業業績のポイントは以下の通りです。時価総額で全体の74.8%に相当する企業(企業数では全体の62.4%)が決算発表を終えましたが、これらの企業の80%で営業利益が予想を上回るという驚異的な結果となりました。EPSは3四半期連続で過去最高を更新する見込みで、今後も更新が続く見通しです。第1四半期に過去最高の11.40%となった営業利益率(従来の過去最高は10.27%、過去20年間の平均は8.08%)はさらに上昇し、現時点で11.69%となっています(小売セクターはまだ業績発表を終えていませんが)。売上高は前年同期比10.3%と力強い伸びを見せており、過去最高を更新する可能性もあります。小売りセクターの決算発表はこれからですが、今期の決算シーズンは事前予想を大幅に上回る内容が続いています。
一方で問題も生じています。Facebook(FB)は売上高が予想に届かず、今後の業績に対して警告を発しました。しかし、全般的に企業の業績見通しは良好で、税率の低下が再度利益を過去最高に押し上げる原動力となっているようです。こうした「幸せな日々」の陰では、減税効果が一巡した後の成長がどの程度になるかについて懸念がくすぶり続けていますが、売上高の増加(そしておそらくは過去最高となる見通し)が市場の不安を打ち消すのに一役買っています。減税効果が完全に織り込まれた後は、為替差損益に関する報道が続き、またその分析も行われていますが、売上高といったファンダメンタルズが株価の決定要因となるでしょう。
315社が第2四半期の決算発表を終え、利益が事前予想を上回った企業は253社、予想を下回ったのは42社、予想通りだったのは20社でした。 売上高では、完全に比較可能なデータがある310社のうち227社(73.2%)で予想を上回りました。セクター別でもほとんどが予想を上回りましたが、唯一エネルギーセクターでは営業利益が予想を上回った企業数が20社のうちの9社にとどまりました(45.0%)。次に振るわなかったのが不動産セクターで、予想を上回ったのは20社のうち11社でした(55.0%)。S&P 500指数全体の過去の平均は67%です。
2018年に関しては、企業の業績予想は引き続き好調で、第3四半期、第4四半期ともに予想の水準は維持されています(それぞれ0.4%と0.1%引き上げられています)。通期でも、2018年の利益は2017年を27.0%上回る見通しです(大半は減税効果による)。2019年は2018年から11.7%の増益が予想されています。この予想は引き続き楽観的と受け止められていますが、例年この時期にはこうした傾向が見受けられます。
2018年7月に支払われた1株当たり配当は3.20ドルで、2017年7月から10.3%増加しました。年初来では29.10ドルとなり、前年同期から8.98%増加しました。2018年年初以降259銘柄が増配し、減配を行ったのはわずか1銘柄だけでした。減配を実施したホテル大手のWyndham Worldwideは、事業をスピンオフして2社に分社化しました(スピンオフ後の2社の配当率は分社化前と同じ)。259対1という比率は最近の指数の歴史において比類するものがありません(筆者が入手しているデータは2003年以降のものです)。7月の配当金増加率の中央値は13.04%となり、6月の10.26%、5月の12.00%、年初来の10.26%を上回りました。また平均増加率は17.95%となっています(6月は12.29%)。年初来の平均増加率は14.29%(6月末時点では13.55%)となり、2017年の同期間の11.36%を上回っています。過去の支払いスケジュールと公表されている8月の予定から判断すると、来月の支払配当額は560億ドルを突破し、過去最高となる見通しです。
7月までの12カ月間の支払配当額は前年同期比で7.9%増加し、2018年は過去最高となることが予想されます。事業環境、現金の入手可能性、予想される利益の増加、株主還元を強調する企業の「意欲」を踏まえれば、実際の配当金の増加率も前年比で2桁になることもあり得ますが、現時点ではその可能性は低いと思われます(ただし、見込みはあります)。
承認額の57.3%に相当する自社株買い(1,074億ドル)が実施されました。2018年第2四半期の自社株買い額は過去最高となった第1四半期を1.9%下回りましたが、2017年第2四半期を62.6%上回りました。Appleは2018年第2四半期に208億ドルを自社株買いに投じました(指数の歴史において過去2番目の規模)。しかし、この額は2018年第1四半期に同社が実施した228億ドルという指数史上の最高額には及びませんでした。
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