イグニス Research Memo(3):市場が拡大している「with」は単月黒字化を達成

配信元:フィスコ
投稿:2018/06/21 15:03
■決算動向

1. 2018年9月期上期決算の概要
イグニス<3689>の2018年9月期上期の業績は、売上高が前年同期比12.7%減の2,470百万円、営業損失が666百万円(前年同期は195百万円の利益)、経常損失が674百万円(同184百万円の利益)、親会社株主に帰属する四半期純損失が855百万円(同91百万円)と減収減益となり、営業損失となった。

減収となった主な要因は、リリースから3年を経過した「ぼくとドラゴン」(ネイティブゲーム)の減収によるものである。もっとも、ライフサイクルの成熟期に入ってきたことから、利益重視の運営によりプロモーション費用を抑えたことも影響しており、利益面での貢献は依然として大きい。売上ランキングも高水準で推移していることから、中長期での安定運営を継続していると言える。一方、社会的認知の高まりとともに、市場が拡大しているオンライン恋愛・婚活サービス「with」(コミュニティ)は大きく伸びており、単月黒字化(2018年2月)を実現した。また、「その他」の伸びは、新たに立ち上がってきた「TLUNCH」(ライフハック)によるものである。

損益面では、減収による収益の押し下げに加えて、「with」を中心とした広告宣伝費のほか、新作ゲームやVR事業の開発・立ち上げに向けた研究開発費など、先行投資の拡大により営業損失となった。ただ、これらの先行投資は想定内とみられる。なお、営業外費用に計上されている「持分法による投資損失」(約5.3百万円)については、持分法適用会社ロビットによるものである。ロビットは、前述のとおり、「めざましカーテンmornin’」やAI技術を活用した検査工程の自動化などに取り組んでいるが、現在は投資段階である。

財政状態は、総資産が「現金及び預金」の減少等により前期末比14.8%減の5,361百万円に縮小した一方、自己資本も純損失の計上により同20.0%減の3,235百万円に減少したことから、自己資本比率は60.4%(前期末は64.3%)に低下したが、依然として高い水準を維持している。また、流動比率も269.9%(前期末は339.4%)と高水準にあることから財務の安全性に懸念はない。なお、「営業貸付金」(1,315百万円)については、現段階では未公表となっているが、新規事業にかかるもののようだ。

2. 事業別の上期業績及び活動実績
「コミュニティ」の売上高は、前年同期比116.0%増の726百万円と大きく拡大した。注力するオンライン恋愛・婚活サービス「with」が、外部要因(社会的認知の高まり等に伴う市場の拡大)や内部要因(心理学を生かした最適なマッチング機能による差別化やプロモーションの強化等)により好調に推移。ユーザー数は90万人を突破し、売上ランキングも上位に位置している。損益面でも、積極的な広告宣伝費を投入しながらも、売上高の拡大により単月黒字化を達成した(2018年2月より)。積み上げ型の収益モデルであるため、今後も一時的な費用拡大(例えば、テレビCMの開始など)の影響を除けば、安定的な利益成長を期待することができる。したがって、「ぼくとドラゴン」とともに、収益の柱が2本に増えた点においても大きな成果と言えるだろう。下期に入ってからも、テレビ番組での紹介※1や映画とのコラボイベント実施※2などによりユーザー数は順調に伸びているようだ。さらには、これまでのFacebook認証に依存しないマルチログイン対応※3を準備中であり、それが実現すれば、Facebookアカウントを保有していない人でも会員登録が可能となることから、ユーザー数の拡大に拍車がかかる可能性も期待できる。

※1 2018年5月6日に日本テレビ「B面政治家」でwithが紹介された。
※2 映画「ラブ×ドック」とのコラボイベント実施。
※3 これまでの本人認証については、Facebook認証に依存する形(Facebook利用者に限定)を取っていたが、今後は独自の認証制度を導入することにより、Facebookアカウントを保有していない人でも会員登録が可能となる。


「ネイティブゲーム」の売上高は、前年同期比32.8%減の1,545百万円と縮小した。リリースから3年が経過し、成熟期を迎えた「ぼくとドラゴン」への広告宣伝費を抑え、利益重視の運営を行ったことも影響しているようだ。ただ、それでも累計ダウンロード数は350万DLを突破し、国内アプリストア売上ランキングでも6位を記録(iOS版)するなど、高い業績水準(安定運営)を維持しており、とりわけ利益面での貢献は依然として大きい。今後も効果的なプロモーション(各種キャンペーン等)により中長期での安定運営を目指す方針である。一方、2018年3月28日にリリースした新作ゲーム「メガスマッシュ」については計画を下回る立ち上がりとなり、様々な施策を講じたものの大幅な改善には至らなかったことからサービス終了を決定した(2018年5月18日リリース)。今後は、「ぼくとドラゴン」のように収益の見通しの立ちやすいプロジェクト(手堅いジャンル)と、当たれば大きな収益が見込めるプロジェクト(チャレンジジャンル)のバランスをキープする開発体制により、安定と成長を両立させていく方針である。

「その他」の売上高は、前年同期比2.8%増の198百万円となった。新たに立ち上がった「TLUNCH」が順調に拡大している一方、ビジネスパーソン向けメディア「U-NOTE」及び転職メディア「U-NOTE.CAREER」については大きな進展はないものの今のところ「その他」売上の大部分を占めている。なお、「TLUNCH」を運営する子会社mellowについては、前述のとおり、成長に向けた資本政策上の事情から持分法適用関連会社へと移行する。したがって、持分法適用関連会社への移行後は、同社の持分割合に対する損益のみが、営業外損益として計上されることに注意が必要である。

3. 新規事業の進捗
(1) VR事業
子会社パルスが展開するVR事業については、前述のとおり、Virtual Live Platform「INSPIX」の開発加速とIP創出のプロジェクトに取り組んでおり、2018年5月5日には、その第1弾として業務提携先である岩本芸能社に所属するVRアイドルグループ「えのぐ」の初めてのライブを生配信した。他にもVRアイドルに限らない複数のプロジェクト(第5弾まで)が進行中であり、IPによる多様なマネタイズ(チケット、グッズ、ファンクラブ、音楽、ゲームなど)の早期実現を目指す。また、具体的な内容は開示されていないものの「INSPIX」も活用したVR事業最大のプロジェクトも進んでいるようだ(ローンチタイミングを調整中)。

(2) ライフハック
a) IoT関連
持分法適用関連会社ロビットが展開するスマートフォン連動型カーテン自動開閉機「めざましカーテンmornin’」は着実に販売実績を上げており、累計販売個数は35,000個を突破。「2017年度グッドデザイン賞」(公益財団法人日本デザイン振興会主催)を受賞した。また、2018年2月に販売を開始した新型限定モデルを始め、乃木坂46等とコラボした限定モデルの販売も好調のようだ。現状、収益貢献には至っていないものの、技術や販売ノウハウの蓄積を含め、今後の事業展開に向けて様々な可能性を探っている段階と言える。

b) フード関連
また、子会社mellowが展開する「TLUNCH」(フードトラック・プラットフォーム)についても、利便性の高さや需要の大きさ等を背景として足元で急激に拡大しており、出店スペースは60(前年同期比200%増)を突破し、流通総額でも5億円(前年同期比144%増)を達成している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)

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配信元: フィスコ

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