S&P 500月例レポート(2017年8月配信)
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
S&P 500指数:今でも君が最高
「今でも僕を笑顔にしてくれる、今でも僕を儲けさせてくれる、今でも最高値を更新し続けている、そんな君は今でも最高だ。政府なんて関係ない。金利を低く抑え、活力に満ちあふれ、空売りなど寄せ付けない。噂を吹き飛ばし、住宅価格を押し上げ、ファンダメンタルズを重視する、そんな君は今でも最高だ。恐れを知らず、ハイテク株をさらなる高みに引き上げ、楽観的な君の勢いは、まさか根拠なき熱狂なんかではないよね」
S&P500の上昇はもはや歯止めが効かず、7月も終値ベースで最高値を5回更新しました。市場はワシントンの動向など顧みず、目の前の株価に集中し続けています。政府が重要でないというわけではありませんが、彼らの発言に賭けるよりも、企業利益に賭ける方が利益になるという見方が強いようです。
運用リターンは政府次第とまでは言い切れませんが、もし税制改革案が議会で審議されるようになれば、市場は注目するでしょう。そして万が一にも(可能性はかなり低いですが)議会通過の見通しが浮上すれば、ウォール街は反応し、海外利益の還流とは別の多くの投資資金が市場に流入することを見越した取引や、資産の再配分に動くと思われます。それまでは、企業利益が株価を押し上げる「最高」の要素であり続けるでしょう。
心配症の方のために言っておくと、VIX恐怖指数は心配ありません。同指数は8.84となり、1993年に付けた8.89の過去最低を更新しました。それでも何か心配していたいというのなら、来年度予算と債務上限について考えるのはどうでしょう。それでも恐怖心が沸かないという場合は、政府高官がその場しのぎで使う臨時措置を心配してみてください。少なくとも次の選挙が終わるまでは心配の種になるでしょう(海外に目を向ければ北朝鮮という問題もあります。アルゼンチン問題はそれほど深刻ではないようです)。これでは大した悩みにならないという方もご安心を。
9月12日にヒラリー・クリントン氏が出版する新著『What Happened』を読んで、最新の謎解きに挑戦するのはいかがでしょう(大統領選に敗北した理由など)。もちろん、この本は他のあらゆるものと同様にAmazonで買うことができます。ついでに言うと、Amazonは世界の上場企業の中で時価総額がApple、Alphabet、Microsoft、Facebookに次ぐ第5位に位置しています。本を読んだ感想は、ぜひツイッターでつぶやいてください(ちなみにTwitterは911位です。緊急通報番号の911とは関係ありません。これは7月28日時点のS&P Global BMIのランキングですが、9月末がどうなるか楽しみです)。
●ワシントンのイベントは、取引ではほとんど考慮しない(今のところ)
7月も市場は好調が続き、投資家を喜ばせました。市場は緩やかな上昇軌道を維持しました。もちろん、目的地にたどり着いた時にどうなるかは分かりませんし、ましてやその「目的地」がどこなのかも分かりませんが、夏休みと含み益で気分が高揚している今のところは、心配はなさそうです。
7月のS&P500は1.93%上昇し(配当込みのトータル・リターンは2.06%)、年初来の上昇率は2桁台の10.34%(同11.59%)となりました。トランプ政権をめぐる議論は様々ありますが、昨年11月8日の大統領選以降では15.46%(同17.15%)の上昇率となっており、ショート筋以外の全ての市場参加者にとって良好な展開となっています(エネルギー株は例外で4.10%下落)。
騰落率は11セクター全てがプラスとなり、6月の5セクターや5月の7セクターから増加しました。6月に2.98%下落した電気通信サービスセクターは7月に反発して5.07%上昇し、月間騰落率で最も高いセクターとなりました。AT&T(T)とVerizon(VZ)は決算発表を受けて株価が上昇しましたが、同セクターの年初来騰落率は依然として8.36%のマイナスです(AT&TとVerizonも年初来ではマイナス)。
情報技術セクターは、利益予想が高かったにもかかわらず大半の企業が予想を上回ったことで4.27%上昇しました。同セクターでは上昇分のほとんどを大型株が占め、大型株の比重が一段と高まっていることが懸念されていますが、7月に関しては68銘柄中55銘柄が上昇し、平均上昇率は3.74%でした。加重平均による上昇率は下回りますが、それでも十分に高い成績です。年初来の上昇率は21.34%と(55銘柄が上昇し、平均19.22%上昇)、依然として最高のパフォーマンスを維持しています。
エネルギーセクターは、原油価格が1バレル50ドル台を回復したことで(ただし、2016年末の54ドルには未達)7月に2.44%上昇しましたが、年初来では11.71%の下落と、最低のパフォーマンスが続いています。
ヘルスケアセクターは0.67%上昇しました。医療保険制度改革法(オバマケア)についてはほぼ毎日のようにニュースで取り上げられており、最終的にオバマケアが修正されることはありませんでしたが、今後大統領令により補助金が見直されることになれば、業界を取り巻く状況は大きく変わると予想されます。結局のところウォール街では、種々雑多なイベントにもかかわらずヘルスケアセクターは上昇するとみているものの、セクターのボラティリティが高まる恐れがあります。同セクターの年初来の上昇率は15.84%と、依然として素晴らしいパフォーマンスを維持しています。
金融セクターは6月に6.31%上昇して最も好調なセクターでしたが、7月は1.61%の上昇にとどまり、年初来の上昇率は7.67%となっています。
もう一つの注目すべき展開として、消費関連セクターが7月にアンダーパフォームしました。一般消費財セクターは7月に1.76%上昇(年初来では12.17%上昇)、生活必需品セクターはわずか0.01%の上昇(同7.01%上昇)となり、月間で最低のパフォーマンスとなりました。
銘柄の変動をみると、7月は値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回りました。値上がりは326銘柄(6月は294銘柄)で、そのうち20銘柄が10%以上上昇し、値下がりは178銘柄で、そのうち14銘柄が10%以上下落しました。
原油価格は50.25ドルで7月を終え、6月末の46.23ドルから上昇しましたが、2016年末の53.89ドルからは下落しています。米国10年国債利回りは6月の2.30%からわずかに低下して7月末は2.29%となり、2016年末の2.45%からも低下しています。VIX恐怖指数は(恐れることなど何もありませんが)、一時8.84(これまでの過去最低は1993年12月の8.89)と過去最低を更新した後、10.58で7月を終え、6月末の11.18や2016年末の14.04から低下しました。
今になって思えば、7月半ば以降に明白になったように、株式市場を押し上げたのは企業利益であり、70%の企業が予想営業利益を上回りました。売上高も好調で、予想を上回った企業の割合は69%と、極めて高い水準となりました。ただし小売企業の決算発表はこれからです。現時点において、企業利益は過去最高を更新する見通しで(個人的にもそう思います)、売上高も過去最高を更新すると予想されています(こちらに関しては2週間後に判断します)。
数値以外の市場のポイントとして、市場は引き続き企業利益や経済指標といったファンダメンタルズに注目し、ワシントンの動向(および海外の政局)も視野に入れるものの、取引では考慮しないと思われます。議会が夏季休暇に入り、8月後半は通常薄商いとなりますが、8月にある小売企業の決算発表で市場は引き続き注目されるでしょう。しかし、ファンダメンタルズよりも海外の動向が重視され、市場の変動要因になるかもしれません(誰にも予測はつきませんが)。
●7月の重要ポイントは以下の通りです
*S&P500は2,470.30で7月を終え、月間上昇率は1.93%(配当込みのトータル・リターンは2.06%)となりました。6月の終値は2,423.41、月間上昇率は0.48%でした。年初来の上昇率は10.34%(同11.59%)、また2016年11月8日の米大統領選当日の終値2,139.56からの上昇率は15.46%(同17.15%)となりました。月内に終値ベースで最高値を5回更新しました(直近の高値更新は2017年7月26日で2477.8246)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(NYダウ)は21,891.12ドルで7月を終え、6月末の21,349.63ドルから2.54%上昇しました。年初来の上昇率は10.77%となり、月中に終値ベースで最高値を8回更新し、月末にかけて4日連続で最高値を更新しました。
*原油価格は引き続き不安定な展開となったものの、50ドルの水準を回復し、6月末の46.23ドルから8.7%上昇して50.25ドルで7月を終えました。2016年末の53.89ドルからの下落率は6.8%となりました。
*米国10年国債の7月末の利回りは2.29%となり、6月末の2.30%から低下して、市場は上昇しました(2016年12月末は2.45%)。
*金価格は1トロイオンス1,276.30ドルで7月の取引を終え、6月末の1,241.50ドルから2.8%上昇し、2016年12月末の1,152.00ドルからは10.8%の上昇となりました。
*英ポンドは6月末の1ポンド=1.3026ドルから1.3194ドルに上昇(2016年12月末は1.2345ドル)し、ユーロは6月末の1ユーロ=1.1423ドルから1.1833ドルに上昇(同1.0520ドル)、円は6月末の1ドル=112.46円から110.29円に上昇しました(同117.00円)。
*VIX恐怖指数は6月末の11.18から10.58(一時8.84まで低下し、1993年12月に付けた8.89の過去最低を更新しました)に低下しました(2016年12月末は14.04)。
*ボトムアップ分析によるS&P500指数の1年後の目標株価は2,689(現行水準から8.9%の上昇余地)、NYダウは23,757ドル(同8.5%の上昇余地)。
●トランプ大統領と政府高官
トランプ大統領はドイツのハンブルクで開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席しました。この2回目の外遊の途中で数カ国を訪問しましたが(訪問先の国々でトランプ大統領に対する抗議が起きました)、最も注目を集めたのはG20サミットの最中に行われたプーチン大統領との会談でした。G20サミットでは、貿易をめぐる意見の不一致が浮き彫りになり(米国を除く全ての国がトランプ大統領の「米国第一主義」に反対しました)、気候変動対策に関する新たな妥協案の起草も断念する結果となりました。トランプ大統領とプーチン大統領の(2時間16分に及ぶ)会談では、シリア南西部での停戦が合意されました。初期段階では、この停戦合意は維持されている模様です。
トランプ大統領とマクロン大統領はパリで会談を行い、双方の意見の違いに理解を示し、両国共通の利益に係る分野において努力することを表明しました。トランプ大統領は、米国がパリ協定に再び参加する可能性があることを示唆しました。
一方、トランプ大統領の息子であるドナルド・トランプ・ジュニア氏は、2016年11月に行われた米大統領選の前にロシア政府の代表者と会談していたことが報道され、トランプ・ジュニア氏が公表した電子メールでもそれが確認されました。この会談はヒラリー・クリントン候補にとって不利な情報の入手に関するものでした。この件が明らかになったことで、ホワイトハウスの関係者に対する調査が強化され、トランプ・ジュニア氏は後に、米国上院委員会において非公開で証言しました。
トランプ大統領は、セッションズ司法長官がロシア疑惑の調査から身を引くことが分かっていたら、同氏を司法長官には指名しなかった、と語りました。一方、セッションズ司法長官は職務を継続することを表明しました。トランプ大統領はロシア疑惑の捜査の対応にあたっている、大統領の個人的な法律チームのメンバーを刷新しました。また、ホワイトハウスのスタッフ数名も更迭し、投資家であるアンソニー・スカラムッチ氏をホワイトハウス広報部長として新たに採用しました。この採用に反発したショーン・スパイサー大統領報道官が辞任した後、トランプ大統領はラインス・プリーバス首席補佐官を更迭し、後任にケリー国土安全保障省長官を起用しました。ホワイトハウス広報部長に就任したアンソニー・スカラムッチ氏は就任後10日で辞職しました。
議会上院では共和党員の党派心が発揮され、ヘルスケア法案の審議開始が辛うじて可決されましたが(上院議長を務めるペンス副大統領が議長決済票で賛成票を投じました)、その後の法案通過は否決されました。オバマケアの廃止の範囲を縮小した「スキニー」と呼ばれる廃止法案(オバマケアにわずかな修正を加えた法案)はギリギリの攻防の末に、賛成49、反対51で否決されました。この結果、スキニー廃止法案は放棄され、共和党指導部は民主党に対して、交渉による総合的な法案を提出する姿勢を示しました。医療保険業者は今後の政府助成金を案じて(トランプ大統領は7月分を支払うことを表明しています)、州が運営する保険制度から徐々に撤退しつつあります。今後に目を向けると、上院は8月の休会終了後(2017年9月5日)に、税制改革の審議を開始する予定であることを表明しました。本稿執筆時点で、市場が税制改革による押し上げ効果を織り込んでいる様子はありません。
●各国中央銀行の政策行動
カナダ中銀は7年ぶりの利上げで政策金利を0.50%ポイント引き上げて0.75%とし、今後の金利政策は「経済指標次第」であるとの見方を示しました(米国の連邦公開市場委員会・FOMCも同様の文言を用いています)。日銀は金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期を2020年に先送りしました。
欧州中央銀行(ECB)の政策理事会はこれまでの政策を据え置き、秋(2017年第4四半期)に資産購入プログラムについて(理事会内で)議論することを理事会後の記者会見で示唆しました。6月の政策理事会の議事要旨では、ECBがユーロ圏経済に対する自信を深め、量的緩和プログラム(QE)における資産購入規模の縮小を検討していることが明らかになりました。
FOMCは7月25~26日に2日間の会合を行い、これまでの政策を据え置きました。会合後の声明によれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は今後早い時期に保有債券の再投資政策を変更し、バランスシートを縮小する見通しです。FOMCはまた、インフレ率が2%を下回る水準で推移する中、米国経済は改善しており、リスクバランスは引き続き均衡していることを指摘しました。
トランプ大統領は投資ファンドのマネジャーであるランダル・クオールズ氏をFRBの大手銀行監督担当の副議長に指名しました。クオールズ氏はFRB理事の定員7人に名を連ねることになります。さらに、トランプ大統領は2018年2月3日に任期切れを迎えるFOMC議長職の有力候補として、イエレン現FRB議長と、(元ゴールドマン・サックス役員で、国家経済会議委員長でもある)ゲイリー・コーン経済担当大統領補佐官の名を挙げました(FOMC会合は2017年9月19~20日、10月31~11月1日、12月12~13日、2018年1月30~31日)。
ECBのドラギ総裁はカンザスシティー連銀主催のジャクソンホール・シンポジウムで講演を行う予定です(2017年8月24~26日)。ドラギ総裁は前回2014年8月にジャクソンホールで講演した際に、ECBの資産購入プログラムの開始を示唆したことから、今回の講演でECBの景気刺激策の縮小が示されるのではないかと予想する向きもあります。
●世界の動き
ベネズエラではマドゥロ大統領が目指す憲法改正のための制憲議会発足に反対する非公式の国民投票が実施され、国民が反対票を投じました。米国は制憲議会選挙の実施に先立ち、ベネズエラ高官ら13人に対して制裁を科しました。
ポーランドではドゥダ大統領が、政権与党が提出した司法改革法案に拒否権を発動しました。同法案は政府に最高裁判事全員に退任を迫る権限を認める内容でした。
北朝鮮は今年に入って11回のミサイル発射を実施しましたが、直近に発射されたのは米国本土を射程圏内に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)でした。米国は国連安保理の緊急会合開催を要請し、より厳しい対応が協議されて強い非難声明が発表されましたが、(最終的に)米国は外交努力を続ける姿勢を示しました。7月末に北朝鮮は再度米国を射程圏内とするICBMを発射したため、これに対抗して米国は朝鮮半島上空に爆撃機を飛行させました。
●企業の雇用とレイオフ関連
6月のマークイット製造業購買担当者景気指数(PMI)は、予想の52.2や5月の52.7を下回る52.0となりましたが、依然として景気判断の分かれ目とされる50を大きく上回っています。サプライ管理協会(ISM)製造業景況指数は予想の55.1を大きく上回る57.8となりました(5月は55.1)。6月のサービス業PMIは53.0に低下するとの予想に反して54.2となりました。7月のマークイット総合PMIの速報値は6月の53.0を上回る54.2となりました。また、同製造業PMIの速報値は53.2(6月の52.1から上昇)、同サービス業PMIの速報値は54.2(6月の53.0から上昇)となっています。
6月の生産者物価指数(PPI)は前月比0.1%上昇、前年同月比では2.0%上昇となりました。6月の消費者物価指数(CPI)は前月比横ばい、前年同月比では前月の1.9%上昇から1.6%上昇に伸びが低下しました。コアCPIは前月比0.1%上昇、前年同月比では1.7%の上昇でした。
6月の耐久財受注は予想の前月比3.5%増を大きく上回る同6.5%増(5月と4月の数値は冴えないものでした)、前年同月比では16.1%増となっています。5月の建設支出は前月比では変わらず、前年同月比では4.5%増となりました。5月の製造業受注は前月比0.8%減、予想は同0.5%減でした。6月の鉱工業生産は予想の前月比0.3%を上回る同0.4%増となりました。
5月の卸売売上高は予想の前月比0.3%増を上回る同0.4%増となりました。また6月の卸売在庫は前月の前月比0.3%増に対し同0.6%増となりました。6月の小売売上高は予想の前月比0.1%増に対して同0.2%減となりました。自動車を除いた小売売上高も予想の前月比0.2%増に対して同0.2%減となりました。
7月のミシガン大学消費者信頼感指数の速報値は93.1となりましたが、市場は前月確報値と変わらずの95.1と予想していました。7月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は121.1と予想の117.0を上回りました。また、6月の景気先行指数は予想の前月比0.4%の上昇に対して同0.6%の上昇となりました。
6月の財の貿易収支は639億ドルの赤字となりました。輸出が1.4%増加したのに対し、輸入は0.4%減少しました。6月の輸入物価指数は予想通り前月比0.2%低下しました。前年同月比では1.5%の上昇でした。輸出物価指数も前月比変わらずとの予想に反して同0.2%低下しました。前年同月比では0.6%上昇しました。
米国の2017年第2四半期のGDP成長率は予想通り前期比年率換算で2.6%増となりました。また、第1四半期は当初の同年率1.4%増から同1.2%増に下方修正されました。第2四半期の雇用コスト指数は前期比0.5%上昇、前年同期比では2.4%上昇しました。
●住宅市場
6月の新築住宅着工件数は予想の117万戸を上回る121万5,000戸(年率換算)となりました。前月比で増加したのは4カ月ぶりのことです。6月の住宅建築許可件数は予想の121万戸を上回る125万4,000戸となりました。6月の中古住宅販売件数は前月比1.8%減の552万戸(年率換算)となりました。予想は562万戸で、前年同月比では0.7%増となりました。6月の中古住宅販売仮契約指数は前月比1.5%上昇し、予想の同0.9%上昇を上回りました。6月の新築住宅販売件数は予想通り61万戸(年率換算)となりました(5月の60万5,000戸から微増)。
7月のNAHB住宅市場指数は予想の68に対して64となり、6月分も当初の67から66に下方修正されました。米連邦住宅金融局(FHFA)が発表した5月の住宅価格指数は前月比0.4%上昇し、前年同月比では6.9%の上昇となりました。5月のS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数は4月と同様に、前年同月比で5.7%上昇しました。予想では4月の同5.7%から同5.8%に加速すると見込まれていました。
●企業業績
企業の決算発表は株価を過去最高値に押し上げました。企業利益は事前予想を上回っただけでなく、多くの企業で、ウォール街の投資プロフェッショナルの間でささやかれている非公式な予測(whisper numbers)を上回りました。また、売上高も予想を上回っています。本稿執筆時点で285銘柄(S&P500の時価総額の67%に相当)が決算発表を終え、そのうち営業利益の予想を上回ったのは202銘柄(全体の70.9%。過去平均は67%)、下回ったのは55銘柄、予想通りだったのは28銘柄でした。
金融セクターはこれまでに決算発表を終えた51銘柄中39銘柄(同76.5%)が予想を上回りました。ただし、一部の金融機関はトレーディング収入や成長への懸念を示し、非公式の予測を下回りました。
情報技術セクターは事前予想が既に高かったものの、現時点で37銘柄中32銘柄(同86.5%)が予想を上回りました。しかしエネルギーセクターでは、予想を上回った銘柄は16銘柄中7銘柄(同47.1%)にとどまりました。
全体的には、第2四半期の増益率は前年同期比で19.1%(前期比6.2%)となり、過去最高益を更新する模様です(これまでの過去最高である2014年第3四半期比で3.4%)。売上高は増加基調となり、予想を上回ったのは282銘柄中200銘柄と、全体の同70.9%を占めました。これは異例の高水準です。前年同期比の増収率は6.1%と、1株当たり利益(EPS)の伸びに比べると低いものの、これまで伸びが減速していた売上高にとっては明るい動きと言えるでしょう。
個別銘柄では、ソーシャルメディアのTwitter(TWTR)は米国のユーザー数が減少し、米国で減収となりました。Amazon(AMZN)は、売上高は増加したものの、コストが増加して77%の減益となりました。同社は成長を続ける中、利益の伸びが低くなっており、市場予想による2017年度予想株価収益率(PER)は154倍(2018年度は90倍)となっています。
また、本稿執筆時点でダウ平均の構成比率トップとなった航空機メーカーのBoeing(BA)や、重機メーカーCaterpillar(CAT)は予想を上回りました。予想を下回ったディスクドライブ製造Seagate(STX)や玩具メーカーHasbro(HAS)では株価が下落しました。大幅増益となった通信大手のAT&T(T)はTime Warner(TWX)買収の資金を調達するため、225億ドルの起債を実施しました。
●金利
FOMCが(予想通り)政策据え置きを決定する中、7月の金利は上下し、イールドカーブは若干変動しました。米国10年国債の7月末の利回りは2.29%と、前月末の2.30%および2016年末の2.45%を下回りました。米国30年国債の7月末の利回りは2.90%と、前月末の2.83%から上昇しました(2016年末は3.07%)。
外国為替市場では、ユーロは6月末の1ユーロ=1.1423ドルから1.1833ドルに上昇し(同1.0520ドル)、英ポンドも6月末の1ポンド=1.3026ドルから1.3194ドルに上昇しました(同1.2345ドル)。円は6月末の1ドル=112.46円から110.29円に上昇し(同117.00円)、人民元は6月末の1ドル= 6.7805元から6.7266元に上昇しました(同6.9448元)。
金価格は1トロイオンス1,276.30ドルで取引を終え、6月末の1,241.40ドルから上昇しました(同1,152.00ドル)。原油価格は6月末の1バレル46.23ドルから50.25ドルに反発して月を終えました(同53.89ドル)。米国のガソリン価格(全等級)は7月末に1ガロン2.426ドルと、6月末の2.404ドルから上昇しました(同2.419ドル)。
VIX恐怖指数は月中8.84まで下落して1993年に付けた過去最低の8.89を下回り、最終的に10.58と、6月末の11.18から低下して月を終えました(同14.04、2016年11月8日の米大統領選直前は23)。
●個別銘柄
油田サービスのBaker Hughes(BHGE、BHIから変更)の株主は、同社がGeneral Electric(GE)の石油・ガス事業と統合したことを受けて1株当たり17.50ドルの特別配当を受け取りました。若者向け衣料大手Abercrombie & Fitch(ANF)は売却交渉を白紙撤回したと発表しました。
Amazon(AMZN)は、今年で3回目となる会員限定の特売セール「プライムデー」を開催しました。売上高はこれまでで最高の10億ドルに達した模様で、他の小売業者もAmazonに対抗してセールを開催しました。
フランスの行政裁判所は、Alphabet(GOOG)に13億ドルの納税を求めていたフランス政府の訴えを却下しました。
日用品大手Proctor & Gamble(PG)は、投資家のネルソン・ペルツ氏が率いるトライアン・ファンドから取締役会の議席を求められていましたがこれを拒否し、トライアンは委任状争奪戦の開始を宣言しました。
メキシコ料理のファストフードChipotle(CMG)の株価は、バージニア州の店舗で食事をした客が体調不良となったことを受けて4年ぶりの安値まで下落しました。同社は2015年にも同様の品質管理上の問題を起こしています。
General Electric(GE)は将来の業績について、退任するイメルト最高経営責任者(CEO)の後任からの(2018年に関する)追加情報を待って判断すべきとして投資家を牽制しました。
●7月のS&P500の動き
7月も緩やかな上昇が続き、長期に及ぶ強気相場がさらに継続され、S&P500は最高値を5回更新しました。市場は相変わらずファンダメンタルズ(企業業績、住宅市場、金利)に注目し、ワシントンでのイベントには全く目もくれません。これは政治家の発言や現在の政治環境を市場が「織り込み済み」であることを示しています。目下、市場はワシントンでの動向に注視しているとはいえ、材料視はしていません。
しかし、こうした状況は税制改革がスタートし、法案のメドが立ち始めれば、ただちに変化する可能性があります。現時点で市場は税制改革を織り込んでおらず、今後この面で進展が見られなくとも、相場への影響は軽微にとどまる見通しです。ただし、政策が具現化するようであれば、市場で急速な資産配分見直しの動きが生じ、実効税率の高い銘柄も低い銘柄も揃って買われることになるでしょう。とはいえ、現在実効税率の高い銘柄は減税によりさらなる業績向上が見込まれる一方、実効税率の低い銘柄は税負担が増加する恐れがあります。
確実に分かっていることとして、7月の市場は広範囲にわたって上昇し、S&P500指数は最高値を5回更新しました。S&P500指数は7月に1.93%上昇し(配当込のトータル・リターンは2.06%)、年初来では10.34%の上昇(同11.59%)、過去1年間では13.65%(同16.04%)と好調な上昇を見せています。また、米大統領選挙(2016年11月8日)以降の上昇率は15.46%、配当込みのトータル・リターンは17.15%となっています。
●セクター
7月の騰落率は11セクター全てがプラスとなり、6月の5セクターや5月の7セクターから増加しました。
6月に2.98%下落した電気通信サービスセクターは7月に反発して5.07%上昇し、月間騰落率で最も高いセクターとなりました。AT&T(T)とVerizon(VZ)は決算発表を受けて株価が上昇しましたが、同セクターの年初来騰落率は依然として8.36%のマイナスです(AT&TとVerizonも年初来ではマイナス)。
情報技術セクターは、利益予想が高かったにもかかわらず大半の企業が予想を上回ったことで4.27%上昇しました。同セクターでは上昇分のほとんどを大型株が占め、大型株の比重が一段と高まっていることが懸念されていますが、7月に関しては68銘柄中55銘柄が上昇し、平均上昇率は3.74%でした。加重平均による上昇率は下回りますが、それでも十分に高い成績です。年初来の上昇率は21.34%と(55銘柄が上昇し、平均19.22%上昇)、依然として最高のパフォーマンスを維持しています。
エネルギーセクターは、原油価格が1バレル50ドル台を回復したことで(ただし、2016年末の54ドルには未達)7月に2.44%上昇しましたが、年初来では11.71%の下落と、最低のパフォーマンスが続いています。
ヘルスケアセクターは0.67%上昇しました。医療保険制度改革法(オバマケア)についてはほぼ毎日のようにニュースで取り上げられており、最終的にオバマケアが修正されることはありませんでしたが、今後大統領令により補助金が見直されることになれば、業界を取り巻く状況は大きく変わると予想されます。結局のところウォール街では、種々雑多なイベントにもかかわらずヘルスケアセクターは上昇するとみているものの、セクターのボラティリティが高まる恐れがあります。同セクターの年初来の上昇率は15.84%と、依然として素晴らしいパフォーマンスを維持しています。
金融セクターは6月に6.31%上昇して最も好調なセクターでしたが、7月は1.61%の上昇にとどまり、年初来の上昇率は7.67%となっています。もう一つの注目すべき展開として、消費関連セクターが7月にアンダーパフォームしました。一般消費財セクターは7月に1.76%上昇(年初来では12.17%上昇)、生活必需品セクターはわずか0.01%の上昇(同7.01%上昇)となり、月間で最低のパフォーマンスとなりました。
●銘柄変動
銘柄の変動を見ると、7月も値上がり銘柄数が値下がり銘柄柄数を上回り、その差は拡大しました。7月の値上がり銘柄数は326銘柄(平均上昇率4.37%)と、6月の294銘柄(5月は283銘柄)から増加した一方、値下がり銘柄数は178銘柄(平均下落率3.87%)と、6月の211銘柄から減少しました。7月は10%以上上昇した銘柄は20銘柄(平均上昇率16.64%)と、6月の29銘柄から減少し、10%以上下落した銘柄も14銘柄(平均下落率12.45%)と、6月の15銘柄から減少しました。2銘柄(6月は1銘柄)が25%以上上昇した一方、25%以上下落した銘柄はありませんでした(6月もゼロ)。
年初来では、引き続き値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回っており、その差は拡大しています。年初来での値上がりは361銘柄と、6月の349銘柄(5月は330銘柄)から増加し、254銘柄(6月は231銘柄)が10%以上、91銘柄(6月は71銘柄)が25%以上上昇した一方、年初来での値下がりは142銘柄(6月は155銘柄、5月は173銘柄)となり、66銘柄(6月は70銘柄)が10%以上、23銘柄(6月は24銘柄)が25%以上下落しています。
企業の株価は業績に関するニュースに反応する動きを見せたものの、市場のボラティリティは低下しました。出来高は5月の前月比22%増、6月の同2%減の後、7月は同22%強増加しましたが、これは過去5年平均を15%下回っています。日中の高値と安値の差で見た変動率は3.17%に上昇し、6月の2.00%、5月の2.80%を上回りましたが、これは過去1年平均の3.30%を下回り、過去5年平均の5.12%と比べれば大幅に低い水準です。
2016年11月8日の大統領選以降では、391銘柄が上昇した一方(6月は389銘柄)、113銘柄が下落し(6月は114銘柄)、11セクターのうち10セクターが上昇しています(金融セクターは25.44%上昇、情報技術セクターは22.61%上昇、エネルギーセクターは4.10%下落)。
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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