●経済好調、政治不安との顕著なコントラストが市場低迷をもたらした
政治面の不透明性の高まりと、明るさを増す経済環境、この両者のコントラストが現情勢の特徴である。後述する経済面での明るさとは裏腹の政治面での混迷が、ここ数週間の市場低迷(おそらくテクニカル調整)の口実になってきた。昨年末急伸した日本の株式市場は今年に入ってから足踏みを続けている。3月半ばまで史上最高値を更新するなど好調であった米国株式も3月23日のオバマケア代替法案の不成立をきっかけに調整色を強めている。トランプ政権の政策実現能力に大きな疑問符がつけられたから、と取りざたされている。3月29日には英国が正式にEU(欧州連合)離脱を通告した。5月のフランス大統領選挙、9月のドイツ総選挙などでは欧州ポピュリストの台頭が懸念されるなど、政治面での不透明性は高い。メディアはこの政治面の不透明性にことさら焦点を当てるので、人々は悲観に流れがちになっている。
●トランプ政権の進化・成長が見え始めた
こうした中での先週末の米中会談と、米国によるシリアアサド政権の軍事基地爆撃は、トランプ政権の進化と信頼性の高まりと評価されるのではないか。トランプ氏は「非人道的化学兵器を使用し罪のない子供や赤ん坊を殺すような行為はレッドラインをいくつも超えている」と主張し、それまでのロシアとの連携の下でアサド政権を追認してイスラム国(IS)に対処するという戦略を、大きく転換させた。同時に米国第一主義を主唱し、対外関与やシリア攻撃に反対したとされるスティーブ・バノン氏が国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外された。また米中会談では、対北朝鮮政策で中国が協力しないなら米国の単独行動も辞さないとの意思が示された。トランプ政権が孤立主義的傾向を拭い去り、国際主義に回帰する画期となるのではないか。トランプ政権が一度はオバマ政権によって捨てられた世界の警察官の任に戻る意思の表れと考えられる。
また米中会談において通商問題では、対中貿易赤字削減のための「100日計画」が決定され、中国の市場開放、不公正貿易慣行の是正などのアクションプランの策定とその検証を行う体制が作られた。これは形骸化した多国間機関に頼らず公正な通商基盤を二国間で建設しようとするもので、より効果的な自由貿易体制創設の努力とみなされるのではないか。
トランプ政権の評価は、移民の入国制限、オバマケアの見直しなど主要な政策の挫折により、地に落ちていた。しかし、先週を底にトランプ政権の進化・成長が評価される場面に入っていくと見られる。当社は2月13日のストラテジーブレティン177号(「トランプ政権の本質、保護主義ではなく帝国主義~守りではなく攻撃~」)で、以下のように主張していた。「(トランプ氏が目的としている) (1)強いアメリカ、(2)安全な世界、(3)強い国内雇用を実現するためには、孤立主義や保護主義が全く逆効果であることは論を待たない。また世界で最も民主的な米国において、過激な差別主義が定着するとは思われない。トランプ政権の政策の成長進化、メディアの曲解是正により、トランプ政権の3つの負のイメージ(孤立主義・保護主義・差別主義)は急速に是正されていくはずである。」
一旦政策実行能力が疑われたトランプ政権だが、その親ビジネス・成長重視政策が再評価される余地は大きいのではないか。相次ぎ規制緩和を打ち出したトランプ政権が、4月以降、税制改革、インフラ投資などの経済成長政策に踏み出せば、市場は再度それを好感し始めるだろう。
●市場は絶好調の経済を無視できない
他方、経済に目を向けると、米国はもとより欧州、日本、中国と軒並み大きく好転している。特に情報インターネット革命に支えられたイノベーションと生産性向上により、企業業績の向上が著しい。好業績に支えられて世界的な投資ブームが起こりそうな気配が濃厚である。米国ではトランプ政権によるビジネスにやさしい政策への期待が企業家心理を大きく押し上げている。中小企業景気楽観指数はリーマンショック以降88~96で推移していたが、昨年12月以降104前後の過去最高水準へと大きくジャンプした。米国利上げは始まっているものの金融緩和姿勢は根強く、世界的に投資資金は潤沢かつ低金利であり、起業家のアニマルスピリットが大きく前進しているのである。原油価格上昇による資源・エネルギー・鉱業部門の回復に加えて、2015年から2016年にかけて停滞していたハイテク景気循環が拡大局面に入っている。ハイテク製品の在庫調整完了、プロダクトサイクルの好転、中国での半導体・液晶投資の急拡大などが背景にある。日本でも半導体製造装置受注、電子部品受注、工作機械受注などが内需・外需向けともに浮上してきた。
この世界的景気拡大は当分続きそうである。なんといっても情報化の進展と新興国の低賃金労働により賃金が抑えられインフレ圧力が小さいので、金融引き締めが抑制的と考えられていることが大きい。米国では最初の利上げからリセッションに陥るまでの期間は最低3年、最長7年、平均5年であるが、現在はまだ一年余り、リセッションに陥る心配はここ数年著しく低いと考えられている。リセッションが到来しない限り株価はピークアウトしないという経験則を重ねて考えれば、今の株高トレンドの持続性は高いと見ざるを得ない。米国株式が再度史上最高値を更新するとなればリスクオフの円高も限定的、1ドル110円程度が円高の限界になるのではないか。
●年度末の乱気流を終え株価再騰開始へ
日本株式もそうした米国主導の世界株高に合流していくだろう。日経平均株価は円ベースでは足踏みだが、ドル建てで見ると3月末時点で昨年末来5%程度値上がりし、リーマンショック後の高値を更新し続けている。かつてのように円高になっても株価が下落しにくくなっているのは、日本企業の円高抵抗力が評価されつつある証といえる。年度末のテクニカル要因による乱気流が沈静化した後は、日本株式も出直っていくだろう。アベノミクスの長期上昇相場は一休止を終えて、再び騰勢を開始すると期待できるのではないか。
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