花の一里塚~市場見通しサマリー
2016年11月1日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
短期的に、11月上旬にかけて、株安・円高への反動を懸念していたが、今のところその心配は杞憂に済んでいる。そのように、短期的な市場波乱を見込んでいた背景は、1)米国株の割高さが修正されうる、2)米大統領・議会選挙や米財務省半期為替報告書などによる、政治的な米ドル安が生じうる、3)日本株については、7~9月期までの企業業績の不振を織り込みに行くと予想される、といった点だった。米国株は上値が極めて重い展開が続いており、その点は予想通りだったが、為替市場は財務省半期為替報告書の米ドル高けん制を軽視し、国内企業業績の不振はある程度織り込み済みとして国内株価は推移している。現時点ではまだ米大統領選挙も国内企業の決算発表も終わってはおらず、ごく目先の市場波乱の可能性は残っているが、徐々に(世界景気の持ち直しによる)中長期的な内外株高・外貨高の流れに入っていくと考えている。
2016年12月までの予想について、具体的な修正は次の通り(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 14700~17500 ⇒ 16000~18000
10年国債利回り(%) -0.3~0.3 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 97~107 ⇒97~ 108
ユーロ(対円) 105~120 ⇒ 110~120
豪ドル(対円) 70~85 ⇒ 75~85
2017年6月までの予想について、具体的な修正は次の通り(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 15000~21000 ⇒ 16000~21000
10年国債利回り(%) -0.1~0.5 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 100~115 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 110~130 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 75~100 ⇒変更なし
シナリオの背景
・前号の当レポートでは、中長期的な株高・外貨高見通しを堅持しながらも、そのなかで11月初旬にかけては、短期的な内外株安・円高が生じると懸念し、予想レンジを引き下げていた。
・そのような短期警戒シナリオを掲げた背景要因は、1)米国の株価水準が予想PERでみて高過ぎるため、株価下落によるPERの低下が必要、2)米大統領・議会選挙に向けて米ドル高けん制の発言が候補者からなされる可能性や、10月発表の米財務省半期為替報告書でも予想される米ドル高けん制的な内容、3)国内企業の7~9月期までの決算実績の不振、だった。
・これら1)~3)の事項そのものについては、特に予想から外れてはいない。1)については、米国株価は総じて8月半ばからの上値切り下げ傾向を続けており、結果として予想PERは過去の上限に向けて低下してきている(図表1)。
・2)については、米大統領候補同士の争いは、スキャンダル合戦となり、為替政策どころか経済・外交政策全般がきちんと議論されない体たらくだが、米財務省為替報告書は10月 14日に公表され、昨年来の米ドル高けん制のトーンを維持している。監視リストには、引き続き日本が載っている状況だ(他のリスト入り国は、ドイツ、中国、韓国、台湾で、今回はスイスが加えられた)。
・3)は、見込んだ通り、7~9月期も企業収益は減益色が強く、税引後利益の前年比は、4~6月期に続いて2割前後の減益の様相だ。
(図表1)
(図表2)
・こうした実態面の材料が、ほぼ予想通りであったにもかかわらず、特に日本株と米ドル円相場は予想外の推移となった。米国株価の調整気味の推移や、米財務省半期為替報告書の米ドル高けん制にもかかわらず、日本株や米ドル円相場はむしろ強含む展開となった。また国内企業の減益も、「思ったほどは悪くなかった」として、日本株の大きな悪材料とはなっていない。
・このような、米国株価の調整に反して日本株が上昇気味で推移している、という状況を、ニューヨークダウ工業株指数と日経平均株価の移動相関係数(移動平均値を計算するように、期間をずらしながら両者の相関係数を計算する)でみると(図表2)、昨年央(図中の丸印)に並ぶマイナス幅となっている。昨年央は、米国株価が調整気味で推移していたにもかかわらず、米ドル高・円安が日本株を押し上げ、移動相関係数がマイナス(逆相関)に陥っていた。その後は両指数がともに下落する形で相関係数はプラスに復した。現在も短期的には、昨年夏と同様、日米両指数がともに調整する局面に突入してもおかしくはない。
・足元の日本株の上昇や米ドル高・円安は、しっかりとした裏付けを欠いているように感じられる。日本株を買い上げた主体は外国人投資家の株価指数先物買いであるとみられ、その多くは短期筋であると推察される。また、日本の株価と米ドル円相場の相関の高さに基づいた投機筋が、日本株買い・円売りのポジションを積み上げた可能性もある。
・加えて、現時点では、まだ米大統領選は終わっていない。クリントン候補のメール問題(国務長官在任時に、機密漏えいの恐れがある私的メールを、公的な通信に用いた疑い)を再捜査すると、FBIが公表し、同候補の支持率が低下したが、依然としてクリントン候補勝利の可能性が高いだろう。ただ、選挙が終わってみるまでわからない、といった手控え心理が、当面は強まると懸念される。
・しかし11月で、米大統領選は終了し、国内企業の収益も、10~12月期以降は、前年比でみた減益幅が縮小に向かうと予想されている。内外株価や外貨の対円相場は、今後も引き続き波乱を交えながらも、基調としては、世界的な景気の持ち直しに沿った、緩やかな株高・外貨高が、優勢となってこよう。
・中長期的な来年のシナリオ(基調並びにリスク)については、次号(2016年12月号)で予想期間を2017年12月に延長する際に、整理して述べたいが、以下簡単にまとめると、まず世界全体の景気は持ち直しを持続すると期待される。世界全体の実質経済成長率は、IMF(国際通貨基金)の10月時点の見通しによれば、2015年3.2%→2016年3.1%→2017年3.4%と、底固く推移すると予想されている。
・先進国においては、米国景気の安定性は損なわれていない。連銀は慎重な利上げペースを守ると予想され、短期金利は景気回復に沿った落ち着いた上昇を示すだろう。そうした緩やかな短期金利上昇が、米株価の堅調さを損なうとは見込みにくいが、長期金利が市場の思惑などから跳ね上がり、短期的に株式・外為市場に波乱をもたらす恐れがある点は、引き続き要注意だ。
・欧州経済は低成長から脱することは難しいが、ECBなどが緩和的な金融政策を持続すると期待される。現在テクニカル面から検討されている量的緩和(買い入れる債券の範囲を広げるなどの検討を行なっている)は、期限とされている来年3月以降も延長され、欧州景気の下支えとして働こう。加えて、ドイツ銀行の7~9月期の収益が黒字であったことから、欧州銀行の経営不安は今のところ後退している(今後、個別行の破たんがない、と考えているわけではない)。
・日本は外需が円高や新興国経済の減速などで打撃を受けるなか、これまでは内需が相対的に好調な形で、経済が支えられてきた。これが、外需部門については、今のところ円高進行に歯止めがかかったことや、国際商品市況の下げ止まりによる資源国を中心とした新興諸国経済の底入れなどから、輸出数量は前年比で戻り歩調を強めている(図表3)。
(図表3)
・一方、内需は、個人消費が消費者マインドの停滞によりデフレ的な様相(低価格品へのシフト)を帯びていることに加え、外国人観光客による「爆買い」の縮小(GDP上は輸出となる)などにより、停滞色を足元強めている。
・しかし、常用雇用者数の伸びをみると(図表4)、これまで伸びが低かった一般労働者(正社員、派遣社員など)の増勢が強まっており、雇用面の改善がうかがえる。円高に歯止めがかかったことなどから、消費者の景気先行き不安も薄れ、マインドが徐々にではあろうが改善していくと予想されることから、個人消費が盛り返してくるものと期待できる。
(図表4)
・新興諸国経済は、中国の経済成長率は高水準ながら、引き続き減速が続くと考えられる。ただしこれは、過剰設備の解消には必要な調整とも言える。一方、資源価格の下げ止まりから、ブラジルやロシア等の資源諸国は景気の昀悪期を通過しつつあり、再度成長力を高めるには時間がかかろうが、新興諸国景気の持ち直しが全般に見込まれよう。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2016年10月号)見通しのレビュー。
前月号見通し(2016/10/3 時点)のレビュー
①日経平均株価
・日経平均株価は、前号では、米国株価の調整や円高の可能性、足元の企業収益の不振などから、短期的な下振れを懸念していた。しかし米国の米ドル安牽制にもかかわらず米ドル高・円安が進んだうえ、収益不振も織り込み済みとして、国内株価は堅調な推移となった。
②国内長期金利
・10年国債利回りは、完全に日銀の管理下に置かれた状況だ。今後も、ほとんど動きのない推移を続けるだろう。
③外国為替相場
・10月の外貨相場は、対円で堅調に推移した。なかでも米ドルは、米財務省半期為替報告書による米ドル高けん制にもかかわらず、米国景気の堅調さを反映して、対円だけではなく、対ユーロなど他の主要通貨に対しても上昇する形となった。
・豪ドルはじわじわと上値を伸ばしているが、これは世界経済に対するいたずらな悲観論が薄れ、鉱物類を含む国際商品市況が底固さを増していることと、それに基づく豪州経済への悲観論並びに金利先安観が後退していることによる。
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