S&P 500 月例レポート

S&P 500®

企業決算のことで頭がいっぱい

大都会ニューヨークに対する想いを歌ったビリー・ジョエルの名曲「New York State of Mind」風に言えば、ウォール街について歌った曲の題名は「I’m In An Earnings State of Mind(企業決算のことで頭がいっぱい)」とでもなるでしょうか。ティーンエージャーさながらに、この金融街を行き交う人々はひっきりなしにスマートフォンを操作し、グーグル検索に追われていました(少なくとも株式取引をしている人、NetFlix、Amazon、Chipotleといった大きく値上がりした銘柄を保有している投資家はそうでした)。ギリシャや中国、イランの問題で気分が滅入りがちだった株式市場は、決算シーズンに入って関心が国内材料に向かいました。指数構成銘柄の4分の3を上回る企業が決算発表を行い、業績内容が相場を再度下支える展開となりました。後掲の基本統計のセクションでも触れている通り、決算発表がスタートしてから株価は1.97%上昇しましたが、これは年初来上昇率の2.18%にほぼ匹敵します。ニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引システムに障害が発生し、8日の午前11時32分から午後3時10分まで取引不能となる事態になっても、市場機能が損なわれることはありませんでした。市場は効率的に機能し、売買は他の取引所に場を移して執行され、ほとんど影響はありませんでした。ギリシャでは銀行が営業を再開しましたが、取引には制限が課せられています。また、同国のアテネ証券取引所は8月3日(月曜日)に再開される見通しです。個人的な話になりますが、通りには高揚感も溢れていました。その場にいなければ(あるいは、1886年以降、今回を除いて205回開催されたイベントに1回でも参加したことがなければ)、こうしたイベント自体や、イベントの際に湧き上がってくる感情を表現するのに適切な形容詞は思い浮かばないでしょう。ここで言う通り(ストリート)は、ウォール街ではなくブロードウェイを指し(確かにこの2つの通りはダウンタウンで交叉しています)、そこで行われたイベントは206回目となるニューヨーク市で紙吹雪が舞う祝賀パレードでした。「英雄たちの峡谷(“Canyon of Heroes”パレードが行われるブロードウェイの通称)」で、ワールドカップで優勝した女子サッカーチームによる凱旋パレードが行われたのです。この日は株式市場だけでなく、正午に行われるイエレンFRB議長の演説でさえ(パレードは午前11時から)、この最高潮の盛り上がりを見せるイベントを前に、隅に追いやられた格好となりました。こうしたパレードの高揚感については私自身の経験から話しています。私が初めて見たパレードは1962年3月1日にジョン・グレン氏の宇宙からの帰還を祝して行われたものです(父の職場がブロードウェイの市庁舎の真向かいにあったのです)。私はこの伝統を受け継ぎ、息子に2009年の(私にとっては5回目となる)ニューヨーク・ヤンキースの優勝パレードを見せてやりました。
M&A市場では活発な取引が続き、10億ドル規模の案件が相次いで成立しています。医療保険会社のAnthem(ANTM、7月は5.6%安)と同業Cigna(CI、11.2%安)の間での買収交渉は、何度か物別れとなった末にようやくまとまり、取引総額540億ドルの案件として決着しました。石油精製会社のMarathon Petroleum(MPC、8.8%高)は、MLP大手のMarkWest Energy Partners L.P.(MWE)を158億ドルで買収すると発表しました。バイオ医薬品会社のCelgene(CELG、14.0%高)は、バイオテクリサーチのReceptos(RCPT)を現金72億ドルで買収することを明らかにしました。資源開発のHalliburton(HAL)による同業のBaker Hughes(BHI、4.9%安)の買収には、米国司法省が難色を示しています。ホームセンター大手のHope Depot(HD、4.8%高)は、16億ドルで保守・修理サービスを手掛けるInterline Brandsを買収すると発表しました。英Pearson PLCは、傘下のFT Group(フィナンシャル・タイムズ紙の発行主)を日本経済新聞社に13億ドルで売却することを発表しました。後発医薬品メーカーのTeva Pharmaceutical(TEVA)は、Allergan(AGN、8.4%高)から405億ドルで後発薬事業を買い取ることを明らかにしました。金融サービスのMcGraw Hill Financial(MHFI)はSNL Financialを22億ドルで買収すると発表しました。


世界の経済関連のニュースでは、中国の株式市場で安定化の動きが続きました。市場のボラティリティは低下しましたが、依然として高水準にあり、上海市場は7月に14.3%下落しました。中国の6月の輸出は予想を上回る伸びとなりました(前年同月比2.8%増、事前予想は同0.5%増)。米国では、生産者物価指数と鉱工業生産がいずれも事前予想を若干上回りました。7月のNAHB住宅市場指数は2005年11月以来の高水準となりました。6月の住宅着工件数と許可件数も予想を上回りましたが、新築住宅販売は出遅れました。FRBが開催した連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文からは、米国経済(雇用と設備稼働率)は改善しているものの、リスクは依然として残っており、低インフレが引き続き懸念されるとの見解が示されました。重要なのは、FRBが今年中の利上げに向けた道筋から外れていないということです。毎週公表される新規失業保険申請件数は引き続き低位で推移しており、41年ぶりの低水準を記録しました。第2四半期の雇用コスト指数は前期比0.2%と、過去33年間で最も低い伸び率となりました。低成長の影響から、賃金の伸び、ひいては消費者の支出能力が疑問視されています。FRBはシステム上重要な金融機関(SIFI、別名「大き過ぎて潰せない」銀行)である大手米銀8行に対して適用される新たな準備資本要件を公表しました。対象となる8行は、Bank of America(BAC)、Bank of New York Mellon(BK)、Citigroup(C)、Goldman Sachs(GS)、J. P. Morgan(JPM)、Morgan Stanley(MS)、State Street(STT)、そしてWells Fargo(WFC)です。

個別銘柄では、業績発表を材料に株価が変動しました。Amazon.com(AMXZ)は23.51%(年初来は72.76%高)、Google(GOOGL)は21.75%(同23.90%高)、Chipotle Mexican Grill(CMG)は22.68%(同8.43%高)、それぞれ値上がりしました。一方でエネルギー関連銘柄は値下がりし、Freeport-McMoRan(FCX)は36.90%安(同49.70%安)、Newmont Mining(NEM)が26.50%安(同9.15%安)、ENSCO(ESV)は25.55%安(同44.64%安)、そしてExxon Mobilは4.80%安(同14.32%安)となりました。注目銘柄についてみると、7月はApple(AAPL)が3.29%安(同9.89%高)、Microsoft(MSFT)が5.78%高(同0.54%高)、Facebook(FB)が9.61%高(同20.49%高)となりました。

金利は7月に低下し、米国10年債利回りは2.18%で取引を終えました(6月末は2.36%、2014年末は2.17%、2013年末は3.03%)。また、30年債の利回りは2.91%となりました(同3.13%、2.75%、3.94%)。為替市場では1ユーロに対してドルは1.0984ドル(同1.1114ドル、1.2098ドル、1.3756ドル)、英ポンドに対しては1.5522ドル(同1.5708ドル、1.5582ドル、1.6564ドル)、円は1ドルに対して123.89円(同122.50円、119.80円、105.2円)となりました。金は1,195.00ドル(同1,172.10ドル、1,183.20ドル、1,204.80ドル)となり、原油価格は46.99ドルに下落し(同59.09ドル、53.27ドル、98.70ドル)、ガソリン価格は2.835ドルに上昇して(同2.812ドル、2.299ドル、3.271ドル)7月の取引をそれぞれ終えました。VIX恐怖指数は12.12で7月を終えました(同18.23、19.20、13.72)。

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7月は中国の株価下落よりも好調な企業決算に注目が集まり上昇
ギリシャ、イラン、中国を巡る問題が過去のものとなり(中国は少なくとも7月開始時点では)、株式市場は上昇して下半期のスタートを切りました。世界的なコモディティ価格下落が懸念され始めたものの、企業決算が株価の支援材料となりました。その後、中国の株式市場は政府の株価対策が試される中、下落し始めました。市場の関心が、中国の株式市場下落が同国経済に及ぼす悪影響に移ると、懸念は世界中に広がりました。中国は大量の製品(最終製品と部品)を輸出し、製品(およびサービス)コストの大部分を占めるサービスを提供しているため、これは特に重要です。輸出が反落あるいは変動すれば企業の最終利益、ならびにコモディティ需要に直接影響が及びます。その結果、株価は世界的に下落しました。直撃を受けたのはアジアで、欧州もそれほど深刻ではないものの下落し、米国は下落圧力にさらされましたが、限定的な影響に留まりました。米国では市場の関心は依然として企業決算に集中していました。決算結果は総じて事前予想を上回ったものの、依然として強弱混在する内容でした。7月の中国株式市場は、上海総合指数が前月比14.34%下落し、月中には一日で8.51%下落した日もありました。そして2015年6月5日の直近高値から27.06%下げています。一方、米国の株式市場は、値動きは激しかったものの1.97%上昇となりました。

恐怖指数に「恐怖」は反映されませんでした。先月の18.23から月間の最低水準に近い12.12まで下げて月を終えました(月中には20.05まで上昇)。しかしボラティリティは上昇し、取引レンジ(高値/安値)は先月の3.58%から4.34%に上昇しました。とはいえ1年平均の5.73%を依然として大幅に下回る水準です。指数構成銘柄レベルでは、7月は49.8%の銘柄が5%以上変動し(150銘柄が値上がり、100銘柄が値下がり)、年初来では52.8%の銘柄が10%以上変動しました(139銘柄が値上がり、126銘柄が値下がり)。

7月のS&P 500は、決算が(再び)市場を左右する中、1.97%上昇して2,103.84で取引を終えました。この上昇で、S&P 500は2015年5月21日に付けた終値ベースでの最高値(2,130.82)を1.27%下回る水準となりました。最高値更新が話題に上らなくなり、市場の地合いは若干弱含んだものの、依然として楽観的でした。年初来の騰落率は2.18%上昇となり、1年間のリターンは8.97%となりました。

7月は10セクター中7セクターの月間騰落率がプラスとなりました(これに対して6月はわずか1セクター)。金利低下の恩恵を受けた公益事業セクターが最も好調で6.01%上昇しましたが、同セクターは年初来では依然として7.05%下落しています。生活必需品が5.30%の上昇でこれに続き(先月は0.46%の上昇で唯一の上昇セクター)、年初来では3.13%上昇しています。エネルギーセクターが最も振るわず、7.81%下落しました。原油価格の下落が続き、高水準の供給に対して需要が低調だったことが背景にあります。同セクターは年初来で13.39%の下落と、パフォーマンスは最下位です。ヘルスケアセクターは上昇を続けて2.73%上昇し、年初来の上昇率は11.73%と、唯一2桁台の上昇率を付けています。

7月は値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回りました。6月は142銘柄しか値上がりしませんでしたが7月は292銘柄が値上がりし、平均上昇率は5.85%となりました。10%以上値上がりした銘柄数は39銘柄と、6月の7銘柄から増加しました。一方、月間の値下がり銘柄数は6月の359銘柄に対して208銘柄で、平均下落率は7.25%となりました。このうち下落率が10%以上となったのは40銘柄で、6月の24銘柄から増加しました。

8月に企業業績以外でまず注目されるのは小売売上高でしょう。「雇用、賃金の伸び、原油安で消費者の懐が潤っているなら、なぜ消費は増えないのか?」という景気を巡る難問の一つに対する答えがある程度見えてくるでしょう。雇用統計とインフレ統計も重要なカギを握ります。低調な指標が続けば、FRBは9月16、17日のFOMCで利上げを見送るというのが大方の見方だからです。8月は夏季休暇シーズンが本格化し、蒸し暑い毎日が続き、市場は概して閑散とします - とはいえ、ウォール街は常に熱気に包まれています。


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INVESTORS TAKEAWAY:投資家が押さえておくべきポイント
・中国の株安は海外市場にも波及するかもしれませんが、これまでのところ影響は限定的です(ただし、ギリシャ問題よりも影響は大きくなっています)。
・7月にVIX指数は低下しましたが(6月終値の18.23から12.12)、個別材料に株価が反応し、銘柄レベルではボラティリティがはるかに高くなっています。
・現在米国株式市場は、全てのタイプの銘柄が一方向に動くような上昇基調にも下落基調にもなく、個別銘柄レベルで取引される、銘柄物色相場となっています。
・決算サプライズ:これまでに決算発表を行ったS&P 500構成銘柄のうち、EPSが事前予想を上回った企業は71%でした(通常は67%)。
・S&P 500構成銘柄の20%超が株式数を前年比4%以上減らしており、株式数の減少によってEPSが押し上げられた過去6四半期のトレンドが現在も続いています。とはいえ、M&Aが活発化する中(発表がさらに続いてます)、株式数が増加している企業もかなりあります。

考えのメモと注目のポイント:
・コモディティ
・中国の政策:中国株式市場に大きな注目が集まっていますが、中国では大量の製品とサービスが生み出されており、中国の労働力、政府による支援および消費の変化は多くの米国企業の利益にとって重要です(影響を受けるのは売上高だけではありません)。
・6四半期にわたり自社株買い戻しによる株式数の大幅な減少(前年同期比4%以上)が続いた後、M&Aが活発化していますが、その理由は様々です。ヘルスケアセクターでは業界再編が動機づけとなっています。低成長の環境下で売り上げを拡大する必要性も背景的な要因となっています。そして、言うまでもなく、結果論からあれこれ口を出す人々、別名アクティビストも相変わらず大きな声を上げています(社外からではなく取締役会を通じて主張する場合もあります)。
・M&Aの増加により投資銀行の第2四半期の収益が押し上げられたことに満足している向きは、米司法省の動向に関係なく(司法省が待ったをかけることは少ないとみられます)、下半期にも大きな期待を抱いて良いでしょう。
・米大統領選で、ドナルド・トランプ候補とバーニー・サンダース候補が支持を集めています(トランプ候補の出身地クィーンズ区とサンダース候補の出身地ブルックリン区という、隣り合った区の悪ガキが顔を合わせれば、何かしら騒ぎが起こらずには済まないでしょう)。両候補が支持を集める根底にある共通の理由は、両氏が大統領選に勝てなくとも、一部の国民の間で現状に対する不満が高まっていることにあると考えられます。また地方レベル、国レベルで他の候補も両候補と同じ道をたどることができるのでしょうか?あるいは、同じ道をたどろうとするのでしょうか?
・「私は非常に憤っている。これ以上我慢できない」-> では、あなたは叫ぶ以外に何をするつもりなのか?


基本統計:
・7月のS&P 500は、ギリシャ、イラン、中国の問題が過去のものとなり(中国の場合、実際にはそうではなかったようです)、また決算内容が全体的に事前予想を上回ったことも好感され、月初から20日の日中にかけて3.38%上昇しましたが、その後はコモディティ価格の下落や中国市場の動向に注目が集まる中、28日までに3.06%値を下げました。月末は良好な決算発表を手掛かりに値を上げ(中国の状況も幾分か落ち着きを取り戻しました)、前月から1.97%上昇して取引を終えました。
・上海総合指数は7月に14.34%下落し、今年6月5日の直近高値から27.06%、また2007年10月6日につけた終値での過去最高値から39.86%低い水準にあります。
・S&P 500構成銘柄の4分の3以上で決算発表が終了しましたが、第2四半期の営業利益は前年同期比3.0%減となっています。ただし、同58.5%減のエネルギーセクターを除けば同2.6%の増益です。売上高が引き続き問題となっており(M&Aを促す要因となっています。売上高を伸ばすことが無理ならば、それを買えということです)、第2四半期は同3.1%の減収が予想されています(前期比では3.7%増)。S&P 500構成銘柄のボラティリティが高まっています。7月は構成銘柄の49.8%が5%以上変動し(150銘柄が値上がり、100銘柄が値下がり)、年初来では52.8%の銘柄が10%以上変動しました(139銘柄が値上がり、126銘柄が値下がり)。
・S&P500は過去1年間に8.97%上昇しましたが、同期間に27.72%下落したエネルギーセクターを除くと上昇率は13.35%となります。

8月のフューチャー・ショック
過去の実績を見ると、8月は59.8%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.94%、下落した月の平均下落率は4.05%で、全体の平均騰落率はプラス0.73%となっています。

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FOMCの会合:
9月16-17日※、10月27-28日、12月15-16日※、2016年1月26-27日、3月15-16日※、4月26-27日、6月14-15日※、7月26-27日、9月20-21日※、11月1-2日、12月13-14日※
※議長の記者会見が通常、米東部時間午後2時に行われます。また、四半期ごとの経済見通しの改定も発表されます。
 

ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

本翻訳は、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。
SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム