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―トヨタ復権で自動車周辺株に活気みなぎる、国策支援を追い風に商機獲得へ―
週末22日の東京株式市場は日経平均株価が168円安の3万2402円と4日続落。中銀ウィークとなった今週は想定以上に荒れ模様となり、4営業日合計で日経平均は1100円以上の下落を強いられた。しかし、先物主導で全体相場がリスクオフ一辺倒となり、ファンダメンタルズから離れた形で売られ過ぎた感も否めない。ここはしたたかに押し目買いの好機と捉え、成長シナリオの描ける強い銘柄を選別してみたい。目先テーマ買いの対象として注目したいのは電気自動車(EV)関連で、特に経済安全保障の観点からにわかにマーケットの視線を集めているEV電池周辺株に照準を合わせたい。
●2030年に10倍化するEV電池需要
世界的な脱炭素への取り組みを背景に400兆円産業といわれる自動車産業のパラダイムシフトが加速している。これはガソリン車からEVへのシフトチェンジの流れに置き換えてもおおよそ間違いではない。最近ではEVオンリーではなく、エンジンとモーター2つの動力を有するハイブリッド車(HV)を許容する動きが欧米などを中心に広がっているが、搭載したバッテリー(車載電池)がモーターを動かして走行するメカニズムが、自動車には必須の時代となっていくことに基本的に変わりはない。
国際エネルギー機関(IEA)の2021年度の試算では30年にEVの世界普及台数が1億4500万台と劇的に増加する見通しが示されている。そして、これまでのガソリン車とは異なり、そのEVの中核部品として2次電池が新たな巨大市場を形成することが確実視される状況にある。なお、IEAによると22年の車載用電池需要は前年比65%増と急増し約550ギガワットアワー(GWh)に達したとされる。しかし、それで驚くのは早い。同機関が公表したリポートでは、50年に温暖化ガス排出量を実質ゼロとする「NZEシナリオ」を前提において、車載電池の需要は30年に最大で5500ギガワットアワーまで拡大するという試算がなされている。つまり、昨年比で10倍の電池需要が見込まれていることになる。
●民間企業への巨額支援が意味するもの
EVを本格的に普及させる方策として、インフラ面では当然ながら充電設備の拡充が求められるが、車両本体には航続距離をいかに伸ばすかという課題のもと大容量電池の開発が重要となる。日本政府も国策として、民間企業を支援する姿勢を明示している。今年6月中旬に経済産業省は、トヨタ自動車 <7203> [東証P]が国内で計画するEV向け電池の開発・生産計画に最大で1178億円を補助金として支給することを発表。国内製造業の盟主であるトヨタに資金支援を行うことで国内の生産基盤を強化する構えを前面に押し出した。また、これに先立って4月にはホンダ <7267> [東証P]とジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> [東証P]が新たに建設するEV電池工場に最大1587億円の助成を決めている。
現在、EV電池の生産は中国と韓国のメーカーが双璧をなして上位10傑をほぼ独占しており、シェアトップが中国の寧徳時代、2位が韓国のLGエナジー、3位が中国のBYDという状況にある。4位にパナソニック ホールディングス <6752> [東証P]が何とか食い込んでいるが、10位以内に入っている日本企業は他に存在しない。国際競争で大きく後れをとっている日本も官民を挙げて巻き返しを図る。今年はその動きを明確に打ち出した日本における“EV電池元年”といってもよい。
●パナHDも“失地回復”に向け虎視眈々
自動車メーカー以外の個別企業の動きも活発だが、やはり注目されるのは中韓メーカーが急台頭する以前は世界トップの座を占めていたパナHDだ。同社は北米で相次いでEV電池の新工場を建設するなど復活に向けて虎視眈々である。既にネバダ州の電池工場をテスラ
直近では21日、日本政府がカナダとEV電池のサプライチェーンの強化で協力するための覚書を締結したことが伝えられている。リチウムなど電池製造に必要な重要鉱物の開発及び日本企業の現地生産の促進を柱とするもので、主に経済安全保障の観点からEV電池大国である中国への依存度を引き下げることを目的としている。奇しくもこれとほぼ同じタイミングでパナHD傘下のパナソニックエナジーは22日に、カナダ産の天然黒鉛をEV向け電池の材料に活用する技術的なメドがついたとし、電池材料の量産に向けてカナダの黒鉛メーカーと協業する計画を発表している。天然黒鉛は中国産が世界の6割を占めているが、調達先を多様化することで、サプライチェーンの強化を図る構えだ。
●トヨタは全固体電池搭載EVにメド
EV電池は現在 リチウムイオン電池が主流で年々加速度的な伸びを示している。今後もリチウムイオン電池を巡るシェア争いが激化することが予想されるが、現在は次世代電池の研究開発も加速している。その代表的な存在が 全固体電池である。全固体電池とは、電解質に従来のリチウムイオン電池のように液体ではなく、固体を用いた2次電池のことを指す。電解質は、電池のプラス極とマイナス極の間にあるイオンを移動させる機能材料であり、ここが“電解液”の場合は液漏れや発火リスクが排除できないが、全部分を固体化することでこの弱点を解消できる。また、充電時間が短く、航続距離の延伸も可能となる。
トヨタは既にこの全固体電池の量産・実用化を視野に入れているとみられ、27~28年に投入するEVに搭載する計画にある。トヨタの全固体電池搭載EVは充電時間が10分未満という高速充電で、航続距離も1200キロメートルと現在のEVと比較して約2.5倍の水準を確保できる見通しとなっている。
東京株式市場では時価総額を45兆円強に膨らませ最高値圏を走るトヨタの復権が目立つ。そのなか、EV関連のテーマが再び輝きを増しているが、その中核部品である2次電池にさまざまな角度で商機が生まれている。今回のトップ特集では、EV電池分野で中期的に飛躍の可能性を秘める関連有力株を5銘柄厳選エントリーした。
●中期成長路線まい進する5銘柄をロックオン
【マクセルは全固体電池量産技術に脚光】
マクセル <6810> [東証P]は電池と産業用部材を主力に手掛けるが、独自のアナログコア技術を武器に成長が期待されるモビリティ、5G/IoT、ヘルスケアの3つの成長分野の需要を開拓している。需要先としては自動車関連分野に傾注しており、足もとでは車載向け光学部品が好調に推移し収益の牽引役を担っている。また、世界で初めて大容量の全固体電池の量産体制を確立している点は大きなポイントで、産業用ロボット向けに生産を開始しているが、将来的には電気自動車(EV)向けで同社の量産技術が生かされる可能性が高い。
24年3月期営業利益は前期比33%増の75億円を見込むが、更に上振れる可能性も指摘されている。第1四半期(23年4~6月)は前年同期比57%増の20億2400万円を達成し順調なスタートとなっている。
株価は今月20日に年初来高値1803円をつけた後は調整を入れているが、信用買い残の整理が進み需給面で上値は軽く、PERやPBRなど指標面からも割安感があり、早晩買い直される場面が想定される。2000円近辺まで上値のフシは見当たらず意外高の展開もありそうだ。
【カワタはEV電池用スーパーミキサーに注目】
カワタ <6292> [東証S]はプラスチック成形関連機器及び省力化機器のトップメーカーで、自動車業界向けで実績が高い。輸送、乾燥、計量、混合、温調の5分野でコアテクノロジーを有し、自動車軽量化でニーズの高い微粒子分散技術など技術開発でも強みを発揮する。売り上げの4割を海外で占めているが、米国、メキシコのほかアジア各国に営業拠点を持ち、中国及びインドネシアでは生産拠点も確保しており、グローバル対応は万全だ。
また、EV用リチウムイオン電池関連機器が好調で収益への貢献度も高く、同社オリジナル設計による撹拌羽根を高速回転させるスーパーミキサーを中心に高水準の電池向け需要を獲得している。
24年3月期営業利益12億8000万円(前期比2倍)予想は若干未達の可能性があるものの大幅増益となることは疑いがない。中期経営計画として開示している26年3月期営業利益15億8000万円の達成は確度が高い。株価は1100円近辺のもみ合い離脱のタイミングで、6月16日の年初来高値1281円奪回に再挑戦へ。
【芝浦機はBSF製造装置が成長担う戦略商品に】
芝浦機械 <6104> [東証P]は射出成形機やダイカストマシン、工作機械、産業用ロボットなど幅広く手掛ける。中国景気の減速は収益環境に逆風ながらも、射出成形機は高水準の受注を確保。24年3月期はトップラインが大幅に伸び、利益採算も向上して営業利益段階で前期比2.6倍の150億円予想と収益拡大基調が顕著だ。
24年3月期第1四半期(23年4~6月)営業利益は前年同期比6.2倍増益を達成した。EV向け製品ではリチウムイオン2次電池向けBSF製造装置(セパレーターフィルム製造装置)への引き合いが旺盛で、同社の成長を後押しする戦略商品となっている。
株価は5月中旬にマドを開けて大きく上放れ、急騰後も売り物を吸収し5000円台まで駆け上がった経緯がある。その後は反落、直近は4000円近辺でのもみ合いが続いているが、テクニカル的には26週移動平均線とのカイ離解消で再浮上の機が近い。株式需給面では貸株調達による空売りが溜まっているもようで、その買い戻しによる浮揚力が株価にプラス作用する可能性がある。
【GSユアサはホンダと連携しEV用電池に注力】
ジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> [東証P]は車載用鉛蓄電池の大手で産業用電池電源も手掛ける。車載用は世界的な電動車ニーズに対応して、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)向けリチウムイオン電池の育成に力を入れている。
この車載用電池ではホンダと協業関係を築いており、HV用だけでなくEV用電池でも共同出資会社を設立、リチウムイオン電池の製造に絡む研究開発や、知的財産の管理及び効率的な生産システムの構築などで連携体制にある。政府による巨額支援も大きなアドバンテージとなっている。また、HV用電池については生産能力の大幅増強に動き、トヨタ向けにも納入を行っている。
24年3月期業績は売上高が前期比12%増の5800億円と2ケタ伸長を見込み、営業利益は同5%増の330億円を予想するものの、コスト低減努力による利益採算向上で営業利益は増額修正含みとみられている。株価は25日移動平均線を絡め2700円近辺の推移を続けているが、早晩上放れ8月初旬の年初来高値2932円50銭の更新が期待。
【日製鋼は裏芸のEV向け装置で抜群の実力】
日本製鋼所 <5631> [東証P]は大型の鋳鍛鋼で高い実績とシェアを有し、火力・原子力向けでは世界屈指の存在だが、近年は樹脂製造・加工装置など産業機械に重心を移し、現在はこれが収益を牽引する成長部門となっている。
特にEV電池に使われるセパレーター用のフィルムシート装置では圧倒的な世界シェアで他社を大きく引き離す。また、自動車や車載機器の部材として使用されるマグネシウム合金は、軽量化が課題のEV向けでも高水準の需要が見込まれる。そうしたなか、同社のマグネシウム射出成形機の第3世代製品が高い評価を得ており、今後の受注拡大が期待される状況にある。
業績も回復色が鮮明だ。23年4~6月期は営業利益段階で前年同期比4.3倍化し受注高も増勢を確保している。24年3月期は売上高が前期比17%増の2800億円と2ケタ伸長見通しで、営業利益は同34%増の185億円を予想している。株価は目先調整色を強め26週移動平均線まで水準を切り下げたが、ここは押し目買い好機だ。滞留出来高の多い3000円近辺をブレークすれば上値追いに弾みがつく可能性がある。
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