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―米ギリアドや富士フイルムの展開に期待、世界の企業がしのぎ削る―
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。
震源地である中国では既に経済活動の再開に乗り出しているほか、感染者数、死者数ともに世界最多の米国でも、感染拡大のピークは過ぎたとして、トランプ政権では経済活動の早期再開を目指している。ただ、仮に抑え込みに成功したとしても、感染拡大の第2波、第3波が懸念される。収束のカギを握っているのは、やはり治療薬や ワクチンの開発といえよう。現在、世界では650以上の新型コロナウイルスの治験が登録されており、さまざまな研究過程が話題に上る。これに伴い国内外の株式市場では新型コロナウイルス治療薬の本命を探る動きが活発している。
●既存薬の転用に期待
新型コロナウイルスは未知のウイルスであり、この脅威を駆逐するためには、一刻も早くウイルスに対抗できるものを見つける必要がある。
世界で進められている対新型コロナウイルス薬としては、感染していない人に摂取して感染を防ぐ、あるいは重症化を抑える手段であるワクチンと、効く薬を一から開発する新薬開発があるが、これらは通常、年単位の期間が必要となる。
そこで注目されるのが、現在ある別の薬のなかから、新型コロナウイルスに効く薬を見つけ出す既存薬の転用で、効果や安全性が確認されればすぐに使用することができるメリットがある。現在、世界各国では候補となる薬が探し出され、治験が進められている。
●レムデシビルは薬事承認間近
こうしたなか、安倍晋三首相は4月27日、新型コロナウイルス治療薬の候補である「レムデシビル」をまもなく薬事承認できるとの見通しを示した。海外での承認などを条件に審査手続きを簡略化するという。承認されれば国内で最初に利用可能な治療薬になることから注目されている。
レムデシビルは米バイオベンチャーのギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱の治療薬として開発した世界で未承認の薬だ。米国立衛生研究所や日本の国立国際医療研究センターなどが、新型コロナウイルスへの効果を検証するための治験を実施。また、人道的使用により重症例の68%で改善が見られたという報告もある。ドイツや米国で近く承認される見通しで、これを受けて国内で申請されれば、緊急時に国内の審査を簡略化できる医薬品医療機器法の「特例承認」制度を適用し承認される見通しだ。
同薬に関しては、広栄化学工業 <4367> [東証2]がレムデシビルの原料である「ピロール」、抗インフルエンザ薬「アビガン」の原料である「ピリジン」を国内で唯一供給しており、足もとで生産体制強化を発表している。なかでもピロールについては、ギリアド社との直接取引が決定し、生産量を拡大する計画とも報じられており、関連銘柄として注目されている。
●アビガンは増産体制
また、安倍首相は同会見で、抗インフルエンザ薬「アビガン」の新型コロナウイルス薬としての承認も急ぐとした。
アビガンは富士フイルムホールディングス <4901> 傘下の富士フイルム富山化学が開発した薬で、ウイルスの増殖を防ぐメカニズムを持つことから、特に軽症や中等症の患者に効果があるとみられている。政府は、アビガンの備蓄量を200万人分以上まで拡大することを決定し、これを受けて富士フイルムは生産体制を拡充させて増産を開始しているが、新型コロナウイルス感染症患者を対象とした治験でシミックホールディングス <2309> がモニタリング業務を提供。また、原料・原薬や中間体の供給をデンカ <4061> やカネカ <4118> 、宇部興産 <4208> 、三谷産業 <8285> と日医工 <4541> の合弁などが担当するほか、受託製造でダイト <4577> が9月から受託製造をスタートさせるという。
ただ、アビガンは インフルエンザ薬としては、他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合にのみ使える、つまりほかに対応する手段がないと判断された場合に使われる薬である。また、動物実験で胎児に対する催奇形性の可能性が指摘されていることから、それがどのように関連銘柄に影響するかは見極める必要がある。
●イベルメクチン、アクテムラなどの関心も高い
このほか、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏が発見した菌から開発された抗寄生虫薬「イベルメクチン」も新型コロナウイルス薬としての効果が期待されている。オーストラリアのモナシュ大学の研究グループが、試験管内の1回投与で新型コロナウイルスが48時間以内に増殖しなくなったと発表。また、米ユタ大学などの研究チームのまとめによると、新型コロナ患者の死亡率が約6分の1に下がったと報告した。日本では科研製薬 <4521> が、国内におけるアタマジラミ症に対する治療剤としての独占的な開発及び販売の権利を取得している。
中外製薬 <4519> は4月8日、重症の新型コロナウイルス肺炎患者を対象に関節リウマチ治療薬「アクテムラ」に関して、国内第3相臨床試験を実施すると発表した。アクテムラに関しては国内外の期待も高く、18年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏も4月6日付で公表した緊急提言で、「急性期には抗ウイルス剤アビガン、重症肺炎時の炎症反応の暴走時にはトシリズマブ(アクテムラ)などを実地導入すべき」としている。
帝人 <3401> 子会社の帝人ファーマが販売する気管支喘息「オルベスコ」は、国立感染症研究所が1200種類の既存の薬を調べたところ、同薬が同じコロナウイルスのMERSにウイルスの増殖を抑える効果がみられたという。また、神奈川県立足柄上病院が3例の症例報告を行い、大幅に症状が改善したという。
急性膵炎治療薬「フサン」は、東京大学医科学研究所が3月18日、新型コロナウイルス感染症の阻止を期待できる国内既存薬剤として同定したと発表した。同剤は日医工が製造販売を行っているほか、後発品を富士製薬工業 <4554> 、コーア商事ホールディングス <9273> [東証2]傘下のコーアイセイなどが手掛けている。
更には、回復した人から血しょうを採取して投与する血しょう治療も注目されている。米国や韓国では、新型コロナウイルス感染症の患者に対して投与した結果、効果が得られたとしている。武田薬品工業 <4502> など世界的な製薬メーカー6社は、高免疫グロブリン製剤と呼ばれる、回復した人から提供された血しょうを使った薬の開発で連携しており、数ヵ月以内に臨床試験を開始する計画だ。
●感染爆発防止のカギを握るワクチン
治療薬と並んで注目されるのがワクチンだ。ワクチンは病原体に似たものを作り、少量を人体に投与する方法。実際に病気に感染した時に、人体の免疫システムがその記憶をもとに病原体を攻撃することで、発症や重症化を防ぐ働きがある。ただ治療薬同様、開発には時間がかかり、WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルスのワクチンが完成するのは少なくとも12~18ヵ月先とみている。
米国では、国立衛生研究所の一部門である国立アレルギー・感染症研究所がバイオベンチャーのモデルナと共同で臨床試験を開始した。イノビオ・ファーマシューティカルズ社やノババックス社など多くの企業が臨床試験に乗り出した。大手でもジョンソン・エンド・ジョンソンが米国生物医学先端研究開発局などと提携して開発を加速化させており、今年9月までに治験を開始し21年初頭の承認を目指すとしている。
日本では、アンジェス <4563> [東証M]が3月5日、大阪大学などと共同で予防用DNAワクチンの開発を行うと発表した。アンジェス及び大阪大学が有するDNAプラスミド製品の実績を生かして開発を目指すというもので、安全かつ短期間で製造できる特徴があるという。同プロジェクトには、製造をタカラバイオ <4974> が行うほか、開発にダイセル <4202> やヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ <6090> [東証M]、フューチャー <4722> 、医薬品開発支援機関としてEPSホールディングス <4282> 、安全性検証業務で新日本科学 <2395> などの参加が決まっており、開発の加速が期待されている。
また、アイロムグループ <2372> は、子会社IDファーマが中国・復旦大学附属上海公衆衛生臨床センター(上海公衆衛生臨床センター)と共同でワクチン開発をスタート。リプロセル <4978> [JQG]はワクチンの開発を目指す国際的研究コンソーシアムへの参加を発表した。三菱ケミカルホールディングス <4188> 傘下の田辺三菱製薬もカナダ子会社メディカゴがワクチン開発の第一歩であるウイルス様粒子の作製に成功しており、今年8月までの臨床試験開始を目指している。
最近では、塩野義製薬 <4507> が4月27日、予防ワクチンの開発を正式に決定したと発表した。20年内の臨床試験開始を目指すという。将来的には1000万人規模の提供を可能とするよう、生産体制の拡張なども検討するとしている。
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