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―課題山積みも、民間企業のノウハウ活用で自治体の窮状救え―
新型コロナウイルスのワクチン接種が、徐々にではあるが軌道に乗り始めている。菅義偉首相は23日、記者会見で65歳以上の高齢者のワクチン接種に関して「2回の接種を7月末までに終える」と表明した。今後、夏場にかけワクチン接種は本格化する可能性がある。ただ、予約システム、会場整備、人材確保など多くの問題が噴出しており自治体の抱える悩みは大きい。こうした状況を背景にして、ワクチン接種の 支援業務にさまざまな企業が相次ぎ参入している。感染拡大阻止の決定打ともいえるワクチン接種を後方支援する関連銘柄を追った。
●3度目の緊急事態宣言
25日、4都府県を対象とした3度目となる緊急事態宣言が発令された。変異株の感染が急速に拡大するなか、5月11日までの17日間という短期決戦で感染拡大を抑え込む構えだ。しかし、人流抑制の効果がどこまで出るのかは懐疑的な面も多い。また、いったん陽性者が減少したとしても、繰り返される感染拡大への懸念は拭えず、結局のところワクチン接種のスピードを加速させる以外には、新型コロナと根本から対峙する方法が見当たらないという厳しい状況だ。
しかし、ワクチン接種は緒に就いたばかり。かつて経験したことのない短期間で大規模なものとなるだけに、本格化を前にして業務を担う自治体は対応に追われている。国も円滑な接種を支援するために「ワクチン接種記録システム(VRS)」を運用するが、自治体の現場では接種券発行をはじめ多岐にわたる業務がのしかかっている。
●民間パワーに活路
地方自治体数は1700を超えるが、ワクチン接種の会場は公営施設、医療機関、高齢者施設をはじめ多くの施設が使用されることになり、その会場数となるともはや計り知れない。また、自治体の規模にかかわらず、それぞれの地域が抱える特有の問題も多く、円滑に接種体制を構築するためには、民間企業のノウハウを活用しなければならない状況だ。
自治体でのワクチン接種が進むなか、こうした業務を支援する企業が相次いでいる。円滑に進めるためのシステム構築から、接種のための医療人材の確保、会場整備のための備品整備に至るまでその分野は幅広い。企業側も自治体との連携を深めることで、今後のビジネス展開にもつながることが予想されるだけに期待も大きい。ワクチン接種に関しては、記録が適切であることに加え、効率的に管理・運営するための仕組みが求められているが、一部地域でトラブルが発生するなど、なかなか思うようには進んではいない。こうしたなか、奮戦する自治体をバックアップする民間企業が注目されている。
●サイボウズ、大塚商会と強力タッグ
サイボウズ <4776> は3月8日に北海道石狩市の新型コロナワクチン接種に関する総合情報管理システムの構築で、同社の業務アプリ開発プラットフォーム「kintone(キントーン)」が採用されたと発表。同システムは大塚商会 <4768> が構築しているが、ノンプログラミングで短期間にシステムが作成できるkintoneを活用し、接種予約の受け付けから接種情報の管理、関連システムへの情報連携までを一気通貫で行うことができるという。システムを構築した大塚商会では「ほかの自治体においても、柔軟に利用できるシステムになっている」(共通基盤データベース・グループウェアプロモーション課)と話すだけに、接種体制の構築を急ぐ自治体のニーズを捉えそうだ。
●NCS&Aは「予約受付管理システム」
ソフト開発老舗のNCS&A <9709> [東証2]も予約受付管理システム(コロナウイルスワクチン接種)を手がけており注目したい。同社のホテル業界向け予約システム「i-honex」を活用して立ち上げたもので、自治体におけるワクチン接種の予約受付管理業務向けのサービス。住民が事前に予約をすることで、ワクチン接種時の混雑・密状態を緩和し、自治体職員の負担軽減を実現する。株価は、4月中旬から出来高を伴い上げ足を速めていたが、ここにきては上昇一服となっている。ただ、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の投資需要を捉え商機につなげているだけに、今後の展開から目が離せない。同社は3月1日、21年3月期の連結業績予想について、営業利益を6億5000万円から7億5000万円(前の期比16.3%減)へ、純利益を6億円から7億3000万円(同35.6%減)へ上方修正している。
●AIins「接種管理業務ソリューション」で先駆け
AI inside <4488> [東証M]は、国内での新型コロナワクチン接種開始に先駆け、1月に同社のAI-OCR「DX Suite」を活用した「ワクチン接種管理業務ソリューション」を自治体向けに提供を開始。今月16日にはNTTアドバンステクノロジ(川崎市幸区)が、自社のRPAツール「WinActor」とAIinsの「AI inside Cube」の連携を開始したと発表。これにより、AIinsが提供する「ワクチン接種管理業務ソリューション」で「WinActor」による自動化・効率化が実現できたという。株価は下値模索の展開が続くが、煮詰まり感もあるだけに目を配っておきたい。
そのほかでは、新型コロナワクチン接種前後の症状管理・共有を担うPHRプラットフォームを手がけるWelby <4438> [東証M]、新型コロナワクチン接種事業における市区町村の実施業務について支援策を強化しているTKC <9746> にも注目。また、新型コロナワクチン情報のチャットボットを自治体に無償提供しているMacbee Planet <7095> [東証M]もワクチン接種が加速するなか関心を集める可能性がある。
●MRT、医療人材確保で本領発揮
システム面での支援提供が進むなか、ワクチン接種を担う医療人材の不足を訴える自治体は多い。新型コロナワクチン接種は、医師と医師の指示のもとで看護師が行えることになっているが、医療現場が逼迫するなか人材の確保が困難な状況となっている。厚生労働省は、一定の条件のもと歯科医師にも接種を認める方針で人材の確保を進めるが、切迫する状況を解消できるかはなお不透明だ。
医療人材の確保が喫緊の課題として浮上するなか、非常勤医師紹介サイトなどを運営するMRT <6034> [東証M]は、4月に入り接種に向けた支援業務の受託を矢継ぎ早に公表している。八王子市(東京都)から新型コロナワクチン接種の委託を受けている医療機関の医療人材確保に向けて支援を開始したことに続き、伊丹市(兵庫県)からは新型コロナワクチン接種における医療人材紹介コンサルティング業務を受託した。まさに同社の本領発揮といったところだが、会社側では「現在も、いくつかの自治体から問い合わせがある。今後もこうした医療人材の確保に向けた受託業務は増加していくと考えている」(広報)と話す。株価は、底値圏で上値の重い展開となっている。
●エムスリー、チェンジ連携で「まるっとお任せ」
エムスリー <2413> グループも今月6日から新型コロナワクチン接種事業を担う自治体などに対して、医療職の採用を支援する「【新型コロナワクチン接種体制】医師・薬剤師採用まるっとお任せサービス」を開始している。医師、薬剤師の採用支援にあたっては、日本最大級の医療従事者専用サイトm3.comの会員データベースを活用し、全国の医療職にアプローチする。事前のアンケートでは、回答した医師の約9割がワクチン接種に対して協力の意向を示しており、全国でスピード採用できる環境を整えているという。更に、7日にはチェンジ <3962> と連携し、同サービスの自治体向けマーケティングを進めると発表するなど展開力の強化にも余念がない。同社は、前週末23日に発表した21年3月期決算で、営業利益が前の期比68.8%増の579億7200万円と最高益更新を継続(22年3月期業績予想は非開示)。しかし株価は、目先材料出尽くし感から大きく売られている。
●ウェーブHDは備品確保で活躍の舞台
大規模な接種会場の設置・運営も、自治体担当者の頭を悩ませる。当然、備品の確保も重要になる。株式市場では、ワクチン接種への思惑から医療廃棄物専用容器「ミッペールシリーズ」を展開する天昇電気工業 <6776> [東証2]の株価が急騰した経緯があるが、安心・安全が求められる接種会場での備品確保は重要課題だ。
ウェーブロックホールディングス <7940> グループのイノベックスは、接種会場向けの製品を4月1日から販売開始した。会場の床面を保護する「ボンガードコロナワクチン接種会場用フロアシート」、ソーシャルディスタンスを保つための床面案内表示シール「ロードペースト」、飛沫感染防止のパーテーション「クリアセーフスプラッシュシールド」、飛沫感染対策のための「タフニール防炎透明フィルム」、「医療用防護服」、「仮設テント」など、さまざまな製品を揃えニーズに応える構えだ。今後、多くの接種会場が設置されることもあり、同社の活躍舞台が広がることになる。
政府は新型コロナワクチン接種で、自治体とは別に、東京、大阪で1日あたり1万人規模となる大規模な接種会場を5月にも設置する方針と複数のメディアが伝えている。遅れが指摘されるなかで加速するワクチン接種だが、後方支援に携わる民間企業の役割は高まるばかりだ。
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