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シンクロ・フードのニュース
―売上創出や雇用の受け皿となるキッチンカー、買い物弱者対策の移動スーパーに注目―
新型コロナウイルスの感染拡大に伴いキッチンカー(調理設備を備えた移動販売用の車両)や移動スーパーなど移動販売が増加している。昨年来の外出自粛による客数の減少、国や自治体からの営業時間短縮や休業要請を受けて苦境に立たされた外食産業などの機会損失を少しでも埋めるため、デリバリーやネット販売に参入したが、それらに次ぐ第3の販売手段として移動販売に乗り出すところが増えているためだ。近年は個人だけではなく、大手企業の参入も増えており、今後もキッチンカーを巡る動きは活発化しそうだ。また、キッチンカーをはじめとする移動販売は、地域によっては買い物難民対策としても注目されている。
●東京都の移動販売は直近10年間で2.1倍
キッチンカーは、店舗を設けて開業するのに対して初期投資が抑えられることが最大のメリット。特に人口の多い都市部で増加しており、東京都では年間の営業許可件数(飲食、喫茶、菓子)が2019年度に前年度比12.6%増の4152件となり、4000件を突破した。09年度には年間1966件だったことから、10年間で2.1倍に増えたことになる。
これまでキッチンカーを開業するのは、初期投資を抑えたい個人事業主が多かったが、新型コロナウイルスの感染拡大以降は、大手外食企業の参入も増えている。大手企業にとっては販売機会を取り戻すだけではなく、余剰となった従業員の受け皿としてキッチンカーを活用する目的もあるようだ。
●大手もキッチンカーを展開へ
大手の参入例では、セブン&アイ・ホールディングス <3382> 傘下のファミリーレストラン「デニーズ」が今年2月に「デニーズのフードトラック」を東京都渋谷区に出店し、実証実験を行ったことが挙げられる。同実験では店舗の駐車場への出店だったが、更にオフィス街などランチの需要がありそうな場所へ展開することも検討されている。
また、「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービス <3053> は、ステーキ専用の調理器具を備えた「いきなり!キッチンカー」を今年2月に都内でスタートした。「密」を避けながらステーキを楽しめると評判も良く、ホームページ上に出店予定スケジュールを掲載することで、各地で人気化しているという。
吉野家ホールディングス <9861> は、4トン車をベースとした「オレンジドリーム号」を展開していたが、18年からは軽自動車を用いた「オレンジドリーム号・軽」を展開している。実店舗で働いた60歳以上のベテラン社員を対象にした業務委託制度で、台数も徐々に増加しているという。
このほか外食企業ではないが、カルビー <2229> はアンテナショップ「カルビープラス」の揚げたて商品を提供するキッチンカー「ポテりこカー」を8月から展開している。まず三井ショッピングパーク「ららぽーと横浜 セントラルガーデン」で販売を開始、9月以降は大型ショッピングモールやロードサイド、学園祭などへの出店も計画している。
●出店を支援する企業にも注目
これらはキッチンカーを展開する企業だが、一方で、キッチンカーを支援する企業にも注目したい。
ハウス食品グループ本社 <2810> は今年3月に新規事業として、キッチンカープラットフォーム「街角ステージ weldi(ウェルディ)」の正式提供を開始した。同サービスは、飲食事業者と遊休地を持つスペースオーナーをつなぐプラットフォームで、新たにキッチンカーの事業を始める飲食店に対してキッチンカーを貸し出すほか、営業する場所の選定や駐車場の確保も代行し、飲食店側は初期投資が必要なく利用料を支払うだけでキッチンカーでの営業を始めることができる。同社では19年9月から事業可能性の調査検証(フィジビリティーテスト)を実施し、その結果、事業の更なる成長が見込めるとして正式にサービス開始に乗り出しており、まずは22年に月間売上高500万円を目指すという。
シンクロ・フード <3963> は、20年8月にキッチンカーのシェア・マッチング事業を取得し、キッチンカーを運営する飲食店に出店場所の提供や出店・運営の支援を行う移動販売プラットフォーム「モビマル」を展開している。キッチンカーの出店はオフィス街やイベント会場など駐車料金が高い立地が多く、イベントなども不定期なため、移動販売車を探す企業や自治体と出店場所を探す飲食店をマッチングさせるビジネスに成長余地がある。また、今年3月にはプレミアグループ <7199> 子会社のPASと業務提携し、共同で飲食店に対して「出店サポート・車両レンタル・出店場所」が一体となったパッケージサービスの提供を開始している。
●移動スーパー需要も拡大
一方、キッチンカーと並んで需要が拡大しているのが移動スーパー だ。少子高齢化や人口減少時代に入り、小売企業は店舗とネット以外の販路を開拓し、需要の取りこぼしを着実に拾っていく必要がある。特に地方では、過疎化と高齢化による買い物弱者問題が深刻になっており、この解決策の一つとして注目されている。
経済産業省などの統計によると、買い物弱者は全国に700万人以上いるとされ、今後も増加が見込まれている。農村や山間部ばかりではなく、大都市やベッドタウン、地方都市でも問題が深刻化する可能性が高いとされ、移動スーパーの需要は拡大が期待される。
●「とくし丸」流通総額は右肩上がり
移動スーパーの需要が拡大していることは、「とくし丸」の流通総額が右肩上がりで増えていることからみてとれる。
オイシックス・ラ・大地 <3182> が16年に子会社化した移動スーパー大手の「とくし丸」の21年3月期の流通総額は165億円で、子会社化初年度の17年3月期から4.6倍に成長した。特に21年3月期はコロナ禍により前期比54.2%増となり、稼働台数も年間225台と過去最高の増車を記録し740台(前期515台)と成長が加速している。同社では、早期に稼働台数1000台の達成を目指しているが、前述のように成長が加速していることから、今期中に目標を達成する可能性がある。
とくし丸は、地域のスーパーなどと商品供給基地として契約し、そのスーパーと販売委託契約を結んだ個人事業主が販売パートナーとして商品の移動販売を行うビジネスモデル。21年3月期末時点で143社のスーパーと提携しているが、なかでも買い物弱者問題が深刻な北陸を地盤とするアルビス <7475> や東北を地盤とするヤマザワ <9993> などには要注目だ。このほか移動スーパー関連では、四国や中国地方を地盤とし、独自に移動スーパー「おまかせくん」を手掛けるフジ <8278> も注目したい。
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