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レンゴーのニュース
―「緩和環境継続」で安心感、想定超えの賃上げでカギを握る企業の価格決定力―
日銀の金融政策がマイナス金利政策の解除という大きな転換期を迎えた。本来は悪材料である政策金利の引き上げとETF(上場投資信託)購入策の終了が宣告されたにもかかわらず、日経平均株価は頑強な動きをみせ、4万円台を回復した。「超」緩和環境が終了しても、緩和環境自体には変わりがない――。市場ではそんな声も聞かれるが、想定を超える伸びとなった賃上げそのものは、来期以降の企業のEPS(1株利益)を圧迫する要因となる。個人消費の先行きに不透明感がくすぶる現状では、コスト上昇分を製品・サービス価格に転嫁するための価格決定力を持つ企業への関心が、これまで以上に高まることとなりそうだ。
●政策公表後に不動産株が上昇
今回の政策変更と市場の反応を改めて整理してみる。日銀の発表内容はほぼ事前報道に沿ったものとなったが、まずマイナス金利の解除である。これまで日銀は金融機関が資金を預ける日銀当座預金を3階層に分け、「基礎残高」にプラス0.1%、「マクロ加算残高」に0%、「政策金利残高」にマイナス0.1%の金利を適用していた。マイナス金利が適用される政策金利残高の存在ゆえ、「マイナス金利政策」と表現されてきたのだが、今回、日銀は無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を「0~0.1%程度」とする形に見直した。
オーバーナイト物の金利はイールドカーブ(利回り曲線)の起点となり、その上下動は教科書的には、期間が1年以内の短期から5年以内の中期、10年以内の長期、10年超の超長期のそれぞれの金利の変動要因になる。今後は日銀当座預金でのマイナス金利適用を回避する目的で銀行がコール市場などで資金を貸し出すことがなくなるため、需給要因で短期金利には上昇圧力が掛かることとなる。更に、日銀当座預金の超過準備にはプラス0.1%の付利金利が適用されることも決まった。金融機関の収益にはプラスの要因となるが、政策公表後の 銀行株は方向感を欠く展開となった。
対照的に気を吐いたのが三井不動産 <8801> [東証P]や住友不動産 <8830> [東証P]、三菱地所 <8802> [東証P]といった、金利上昇デメリットセクターである 不動産株だ。今回、マイナス金利政策の解除とともに、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の撤廃も公表されたが、長期国債の買い入れについては「これまでと概ね同程度の金額」で継続する方針が示された。需給面では長期金利の上昇を抑える要因となるため、政策公表後の新発10年債利回り(長期金利)には低下圧力が掛かった。そもそも短期金利が上昇したとしても0~0.1%と歴史的にみれば低水準である。国内要因での金利の上昇余地は乏しいとの見方が銀行株を圧迫し、不動産株には刺激材料となったようだ。
●ETFは当面塩漬けの公算
加えて、日銀からはETFとREIT(不動産投資信託)の購入を停止する方針が示された。コロナ禍初期に金融市場が大きく混乱し、日経平均が一時1万6300円台まで調整した4年前の2020年春、日銀は立て続けに1日あたり1000億~2000億円規模の巨額のETFの買い入れを行った。だが、東証1部だった当時と比べ、足もとの東証プライム市場の売買代金は大きく、リスクオフ局面において日銀がETFの買い入れを行ったとしても、その下支え効果はかつてほどのものではないとの指摘も出ていた。
日銀がETFを市場に放出すれば、需給要因で日本株にはマイナスとなる。しかし投資家のセンチメントの悪化をあえて招く愚を犯す必然性などないだろう。市場の一部には政府が永久債と引き換えに日銀からETFを買い取り、国民に無償配布するとの思惑もある。いずれにせよ、時期はともあれ、しばらくは日銀内で塩漬けになる公算が大きい。
これらの金融政策正常化への流れを後押ししたのが、今年の春闘での賃上げ状況だ。連合がまとめた今年の春闘の回答集計(第1回)によると、賃上げ率は大企業で5.3%、中小企業で4.4%に上った。ベースアップ率は明確にわかる654組合で3.7%となっている。企業にとっては新たな人件費負担分を製品やサービス価格に転嫁できなければ、利益を圧迫する要因となる。
今年の賃上げ結果を受けて、2%の物価安定目標を大きく上回る水準へインフレ圧力が強まる形となれば、日銀は追加の利上げに迫られることとなる。銀行株にとっては、政策保有株式の縮減効果への期待もあることから、上値余地を広げる格好となりそうだ。半面、「今年の春闘は瞬間風速のようなもの」(国内証券ストラテジスト)との声もある。そもそも現役世代には老後などの将来不安が強い。今以上に物価が上昇した場合には、個人消費が腰折れするリスクも横たわっている。来年も今年と同じような賃上げが実現され、物価上昇との好循環が継続できるのかどうかを考察すると、かなりのナローパスと言える。
●為替は1ドル=150円台へ突入
為替相場の動向もポイントになる。日銀の政策公表後にドル円相場は1ドル=150円台へと円安が進行し、トヨタ自動車 <7203> [東証P]など自動車株のサポート要因となった。
日本国内での低金利環境の継続を市場は織り込む一方で、米国ではインフレ環境が長期化するとの見方から、米連邦準備制度理事会(FRB)による0.25%幅の利下げが年内に3回行われるとの観測が、2回に修正されようとしている。これまで有力視されてきた6月の利下げが見送られるとすれば、その後米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれるのは7月と9月、11月と12月の4回である。米大統領選が迫る9月と、大統領選直後の11月のFOMCで、FRBが利下げに踏み切るハードルは決して低いものではない。経済データ次第では、年内の利下げ幅が一段と狭まる可能性も出てくる。その際は、米国金利の上昇を伴って、ドル高・円安圧力が強まりかねない。
そして、米国の期待インフレ率が2.1~2.5%の範囲内で推移を続けていることを踏まえると、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利が一段と上昇した場合には、金融相場を見込んだ投資資金の巻き戻しを引き起こすリスクが高まることとなり、高PER(株価収益率)銘柄に逆風が吹きつけることも予想される。
●「価格決定力」と「生産性向上」に注目
ひとまず市場は3月のFOMCでのドット・チャートや、パウエル議長の記者会見での発言を注目することとなるが、米金利の緩やかな上昇による円安シナリオと、東証による低PBR(株価純資産倍率)是正運動を考慮すれば、中期的な観点で外需系バリュー銘柄は無視できない存在と言えそうだ。
ニッチな分野で高いシェアを持つ「ニッチトップ企業」も、価格決定力の高さゆえ、賃上げ後の利益創出力という観点で投資対象の候補に加わる可能性が高い。こうした観点で「ファクトセット・グローバル・ニッチトップ・ジャパンエンタープライズ指数」の構成銘柄(2月末時点)をみると、メラミン化粧板国内首位のアイカ工業 <4206> [東証P]や通信計測器のアンリツ <6754> [東証P]、食品トレーのエフピコ <7947> [東証P]は全体相場との比較で出遅れ感が意識される。ゲーム機向けコネクターのホシデン <6804> [東証P]や、段ボール大手のレンゴー <3941> [東証P]のPBRは1倍を下回っている。
人件費の増加への対応策として有効なDX(デジタルトランスフォーメーション)も、注目を集め続けることとなると見込まれる。大手ではNTTデータグループ <9613> [東証P]や野村総合研究所 <4307> [東証P]が候補に挙がるが、営業DXツールのアイドマ・ホールディングス <7373> [東証G]や店舗DX事業のピアズ <7066> [東証G]、製造業・建設業向けDX支援のコアコンセプト・テクノロジー <4371> [東証G]など、着実に利益を積み上げている企業は多い。DXにとどまらず、日本企業にとって生産性の向上は息の長いテーマとなっている。賃上げ環境下で、関連企業の成長期待は一段と強まる形となりそうだ。
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