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メディネットのニュース
■要約
メディネット<2370>は、「がん免疫細胞治療」領域のパイオニアとして走り続けてきた、創業25年を迎える老舗バイオベンチャーである。創業者である木村佳司(きむらよしじ)氏(現 代表取締役社長)と東京大学医科学研究所において、がんと分子免疫学の研究者であった故 江川滉二(えがわこうじ)氏(東京大学名誉教授)が出会い、当時認知されていなかったがん免疫細胞治療を、“患者さんのため”に新しい治療法を提供すべく、「免疫細胞療法総合支援サービス」(当時)という画期的な新しいビジネスモデルをデザインし、事業化するに至った。
1. 「新型コロナウイルス感染症ワクチン」の開発について
新型コロナウイルス感染症ワクチンは世界で開発競争(約160品目の研究開発、26品目は臨床試験中)が繰り広げられている。そのなかで同社はがん治療分野で独自開発した「自家樹状細胞ワクチン」のメカニズムを新型コロナウイルス向けに応用開発し、現在国立がん研究センターや慶応義塾大学と共同研究を進め、2021年中頃を目途に第I相治験の開始を目指している。一般的なワクチンは主に液性免疫により、ウイルス(SARS-CoV-2※)抗体に対する中和抗体を産生させウイルス感染を予防するが、最近の研究では、ウイルスに対する抗体価が長期保存されない可能性があり、抗体価が十分上昇しない場合、抗体依存性感染増強による重症化を誘発する懸念がある。一方、この自家樹状細胞ワクチンは、ウイルス(SARS-CoV-2)抗体の“目印”を記憶し、体内でウイルスに感染した細胞そのものを攻撃する。一部の細胞傷害性リンパ球は、細胞傷害活性を持ったまま宿主に記憶されるため、長期的予防効果が高いとされている。そして、この自家樹状細胞はがん治療分野で十数年前から実地医療現場で使用されており十分な安全性を有している。
※SARS-CoV-2:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスをSARS-CoV-2と言う。
また、同社では今回の新型コロナウイルス感染症だけに限らず、「樹状細胞ワクチンプラットホーム」構想を描いている。その仕組みとしては、体内に侵入してきた異物(抗原)の“目印”を樹状細胞に記憶させそのターゲット(特定のウイルスや細菌)を攻撃させる。ターゲットを切り替えれば、新型コロナウイルスの変異種をはじめ、いまだ有効なワクチンや治療薬が確立していない感染症(「SARS」「MERS」「エボラ出血熱」「ジカ熱」「デング熱」等)や多様な疾病(ウイルス性肝炎、HIV感染症等)に対応した迅速なワクチンや治療薬の開発が可能となる。同社のコア技術は「免疫細胞」であり、免疫細胞技術をベースに既存のがん細胞治療分野から感染症(ウイルスや細菌)分野、さらにアンメット・メディカルニーズ対応新薬開発への道筋が開かれ、このビジネスモデルが国内外の医療機関や製薬業界に高く評価されれば、同社の企業価値が高まるものと弊社では期待している。
その他、新型コロナウイルス関連で言えば、「迅速抗体検査キット」の輸入販売を2020年9月から開始した。直販と代理店販売で、医療・介護施設、研究機関、企業へ販売を強化している。特に、大手企業ではESG視点や健康経営視点で、“社員の健康を守る”ことが重要視されており、大口需要やリピート需要として、大いに期待されている。
2. 2020年9月期通期業績及び2021年9月期の業績見通し
2020年9月期通期の業績は、売上高が前期比26.1%減の783百万円、営業損失が926百万円(前期は1,008百万円の損失)、経常損失が836百万円(同995百万円の損失)、当期純損失が842百万円(同795百万円の損失)となった。コロナ禍の影響で医療機関の患者数(インバウンド)が減少し、売上高は前期比で2ケタの減収となった。売上高が縮小すれば収益も減少し大きな損失を招きかねない。しかし実際は、細胞加工業のセグメント損失は33百万円(黒字見通しも期末に滞留債権の貸倒引当金33百万円計上)に食い止められた。これは、2019年9月期に同社創業以来初の「合理化とリストラ」(細胞加工施設の統廃合、早期退職の募集、研究開発投資の選別等)による事業構造のスリム化ができていたからこそ、最小限の影響で食い止めることができたと言える。
今後は、リソースを増やさず製造受託の処理能力を如何に増やせるかが喫緊の課題である。ただ、細胞は“生もの”であり、均一品質を確保するに高度な製造技能と運営ノウハウが求められる。このハードルをクリアできれば、細胞種拡大や新規顧客(アカデミアやバイオベンチャー等)の開拓などで製造受託件数が増大し、さらに、“バリューチェーン/ストック型ビジネス”(再生・細胞医療のコンサルティング、細胞培養加工施設の運営管理、細胞加工技術者の派遣・教育システムの提供等)が本格的に事業展開されてくれば、安定収益軌道に乗るものと推測できる。
2021年9月期通期の業績は売上高が前期比3.4%増の810百万円、営業損失が1,775百万円(前期は926百万円の損失)、経常損失が1,762百万円(同836百万円の損失)、当期純損失が1,768百万円(同842百万円の損失)を見込んでいる。
3. バイオベンチャーでは“両利きの経営”を実践する希有な存在
現在、同社の事業ポートフォリオは「細胞加工業」と「再生医療等製品事業」から成る。前者は医療機関で保険外診療(自費診療)として行われる治療用の細胞の加工・培養を行う特定細胞加工物製造業を始め、CDMO事業※1
(開発・製造受託業)とバリューチェーン事業(施設設計から運用管理業務受託)に細分され、いずれも収益化が実現しているビジネスである。後者は、薬機法で規定された再生医療等製品を開発し、失われた臓器やからだの機能を修復させる製品として、保険診療で用いられることで収益となる再生医療ビジネスである。同社は「細胞加工業」で最新の再生医療を今必要としている患者に届け、「再生医療等製品事業」では、保険診療を通じてより多くの患者に再生医療を届けたいという想いを持ち、開発を行っている。一般的にはバイオベンチャーはハイリスク・ハイリターンである再生医療や創薬の一本足打法が多いなか、同社は二兎を追う“両利きの経営”※2
を実践する希有な存在である。
※1 CDMO(Contract Development Manufacturing Organization)とはバイオ医薬品の受託開発・製造企業を指す。
※2 不確実性の高い「探索」(新結合のための試行錯誤)を行いながらも、「深化」(既存の深掘り、改善)によって安定した収益を確保しつつ、そのバランスを取って両者を高いレベルで実現していく。
■Key Points
・がん治療分野で実績のある強み技術(自家樹状細胞)を生かした「新型コロナウイルス感染症ワクチン」を開発中
・コア事業の「細胞加工業」はコロナ禍の影響を最小限に食い止める。中長期的な成長基盤固めが整いつつある
・バイオベンチャーでは“両利きの経営”を実践する希有な存在
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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メディネット<2370>は、「がん免疫細胞治療」領域のパイオニアとして走り続けてきた、創業25年を迎える老舗バイオベンチャーである。創業者である木村佳司(きむらよしじ)氏(現 代表取締役社長)と東京大学医科学研究所において、がんと分子免疫学の研究者であった故 江川滉二(えがわこうじ)氏(東京大学名誉教授)が出会い、当時認知されていなかったがん免疫細胞治療を、“患者さんのため”に新しい治療法を提供すべく、「免疫細胞療法総合支援サービス」(当時)という画期的な新しいビジネスモデルをデザインし、事業化するに至った。
1. 「新型コロナウイルス感染症ワクチン」の開発について
新型コロナウイルス感染症ワクチンは世界で開発競争(約160品目の研究開発、26品目は臨床試験中)が繰り広げられている。そのなかで同社はがん治療分野で独自開発した「自家樹状細胞ワクチン」のメカニズムを新型コロナウイルス向けに応用開発し、現在国立がん研究センターや慶応義塾大学と共同研究を進め、2021年中頃を目途に第I相治験の開始を目指している。一般的なワクチンは主に液性免疫により、ウイルス(SARS-CoV-2※)抗体に対する中和抗体を産生させウイルス感染を予防するが、最近の研究では、ウイルスに対する抗体価が長期保存されない可能性があり、抗体価が十分上昇しない場合、抗体依存性感染増強による重症化を誘発する懸念がある。一方、この自家樹状細胞ワクチンは、ウイルス(SARS-CoV-2)抗体の“目印”を記憶し、体内でウイルスに感染した細胞そのものを攻撃する。一部の細胞傷害性リンパ球は、細胞傷害活性を持ったまま宿主に記憶されるため、長期的予防効果が高いとされている。そして、この自家樹状細胞はがん治療分野で十数年前から実地医療現場で使用されており十分な安全性を有している。
※SARS-CoV-2:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスをSARS-CoV-2と言う。
また、同社では今回の新型コロナウイルス感染症だけに限らず、「樹状細胞ワクチンプラットホーム」構想を描いている。その仕組みとしては、体内に侵入してきた異物(抗原)の“目印”を樹状細胞に記憶させそのターゲット(特定のウイルスや細菌)を攻撃させる。ターゲットを切り替えれば、新型コロナウイルスの変異種をはじめ、いまだ有効なワクチンや治療薬が確立していない感染症(「SARS」「MERS」「エボラ出血熱」「ジカ熱」「デング熱」等)や多様な疾病(ウイルス性肝炎、HIV感染症等)に対応した迅速なワクチンや治療薬の開発が可能となる。同社のコア技術は「免疫細胞」であり、免疫細胞技術をベースに既存のがん細胞治療分野から感染症(ウイルスや細菌)分野、さらにアンメット・メディカルニーズ対応新薬開発への道筋が開かれ、このビジネスモデルが国内外の医療機関や製薬業界に高く評価されれば、同社の企業価値が高まるものと弊社では期待している。
その他、新型コロナウイルス関連で言えば、「迅速抗体検査キット」の輸入販売を2020年9月から開始した。直販と代理店販売で、医療・介護施設、研究機関、企業へ販売を強化している。特に、大手企業ではESG視点や健康経営視点で、“社員の健康を守る”ことが重要視されており、大口需要やリピート需要として、大いに期待されている。
2. 2020年9月期通期業績及び2021年9月期の業績見通し
2020年9月期通期の業績は、売上高が前期比26.1%減の783百万円、営業損失が926百万円(前期は1,008百万円の損失)、経常損失が836百万円(同995百万円の損失)、当期純損失が842百万円(同795百万円の損失)となった。コロナ禍の影響で医療機関の患者数(インバウンド)が減少し、売上高は前期比で2ケタの減収となった。売上高が縮小すれば収益も減少し大きな損失を招きかねない。しかし実際は、細胞加工業のセグメント損失は33百万円(黒字見通しも期末に滞留債権の貸倒引当金33百万円計上)に食い止められた。これは、2019年9月期に同社創業以来初の「合理化とリストラ」(細胞加工施設の統廃合、早期退職の募集、研究開発投資の選別等)による事業構造のスリム化ができていたからこそ、最小限の影響で食い止めることができたと言える。
今後は、リソースを増やさず製造受託の処理能力を如何に増やせるかが喫緊の課題である。ただ、細胞は“生もの”であり、均一品質を確保するに高度な製造技能と運営ノウハウが求められる。このハードルをクリアできれば、細胞種拡大や新規顧客(アカデミアやバイオベンチャー等)の開拓などで製造受託件数が増大し、さらに、“バリューチェーン/ストック型ビジネス”(再生・細胞医療のコンサルティング、細胞培養加工施設の運営管理、細胞加工技術者の派遣・教育システムの提供等)が本格的に事業展開されてくれば、安定収益軌道に乗るものと推測できる。
2021年9月期通期の業績は売上高が前期比3.4%増の810百万円、営業損失が1,775百万円(前期は926百万円の損失)、経常損失が1,762百万円(同836百万円の損失)、当期純損失が1,768百万円(同842百万円の損失)を見込んでいる。
3. バイオベンチャーでは“両利きの経営”を実践する希有な存在
現在、同社の事業ポートフォリオは「細胞加工業」と「再生医療等製品事業」から成る。前者は医療機関で保険外診療(自費診療)として行われる治療用の細胞の加工・培養を行う特定細胞加工物製造業を始め、CDMO事業※1
(開発・製造受託業)とバリューチェーン事業(施設設計から運用管理業務受託)に細分され、いずれも収益化が実現しているビジネスである。後者は、薬機法で規定された再生医療等製品を開発し、失われた臓器やからだの機能を修復させる製品として、保険診療で用いられることで収益となる再生医療ビジネスである。同社は「細胞加工業」で最新の再生医療を今必要としている患者に届け、「再生医療等製品事業」では、保険診療を通じてより多くの患者に再生医療を届けたいという想いを持ち、開発を行っている。一般的にはバイオベンチャーはハイリスク・ハイリターンである再生医療や創薬の一本足打法が多いなか、同社は二兎を追う“両利きの経営”※2
を実践する希有な存在である。
※1 CDMO(Contract Development Manufacturing Organization)とはバイオ医薬品の受託開発・製造企業を指す。
※2 不確実性の高い「探索」(新結合のための試行錯誤)を行いながらも、「深化」(既存の深掘り、改善)によって安定した収益を確保しつつ、そのバランスを取って両者を高いレベルで実現していく。
■Key Points
・がん治療分野で実績のある強み技術(自家樹状細胞)を生かした「新型コロナウイルス感染症ワクチン」を開発中
・コア事業の「細胞加工業」はコロナ禍の影響を最小限に食い止める。中長期的な成長基盤固めが整いつつある
・バイオベンチャーでは“両利きの経営”を実践する希有な存在
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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