「根拠なき熱狂」と「熱狂なき最高値」

著者:広木隆
投稿:2013/03/15 17:18

 

この形は何を示すのか?確か、「2 つ星、3 つ星」というのではないか、と疎覚(うろおぼ)えで、ググってみると(グーグルで検索してみると)、ミシュラン・ガイドの星についての情報がずらっと出てきてしまった(>_<)。
「二ツ星・三ツ星」と入力しなければいけなかったのだ。

で、この形。二ツ星・三ツ星とは、ごく短い線が 2 つ、3 つ連続することをいう。短線、極線、コマ、星などともいう。要は、ローソク足の短いもので、売り買い拮抗、相場の気迷い商状を表す。

売り買いが拮抗している状態だから、相場の転換点にもなり得るが、この次の展開が重要で、再び上放れた場合、さらなる上昇の始まりを示す買いシグナルとなるそうだ。だったら、二ツ星・三ツ星自体は、あまり意味はない気もするけど、一応、有名な酒田五法だから、敬意を払って「要注目」と指摘させていただく。

 

昨日、ダウ工業株 30 種平均は 9 日続伸し、7 日連続で過去最高値を更新した。ダウ平均が9連騰したのは 1996 年 11 月 4~15 日(10 日続伸)以来、約16 年ぶりのことである。しかし、さすがに上値が重くなってきた印象だ。続伸といっても、一昨日は 2 ドル高、昨日は 5 ドル高と「いっぱいいっぱい」の感じがありありである。それが、この「二ツ星」というチャートの形に表れている。果たして、一段と上伸できるか。明日の展開が重要である。

それにしても、ダウ平均が 7 日連続で過去最高値を更新というものの、市場に高揚感はまったくない。ダウ平均が 9 連騰した 1996 年の年末に、当時 FRB 議長だったアラン・グリーンスパンは上がり続ける株式市場を「根拠なき熱狂」と呼んだ。それから 16 年後の今、同じくダウ平均は連騰を続けているが、当時と違って現在はさしずめ、「熱狂なき高値更新」といった様相である。商いがまるで盛り上がっていないのである。ブルームバーグによると昨日の米国証券取引所全体の出来高は 55 億株、過去 3 カ月の平均を 13%下回る水準だ。


S&P500は11日、1,556ポイントをつけ、史上最高値まであと 9 ポイントに迫った。前回、史上最高値をつけた 2007 年 10 月当時と現在の状況を比較したのが表1 である。予想利益は現在より約 1 割も低い。それでも最高値ということは、当然バリュエーション(PER)が今より高かった(益利回りは低かった)。そして、金利も今より高い(というより今が低すぎる)から、そのスプレッド(いわゆるリスク・プレミアム)は 2%以下の小ささであった。現在は 5%以上プレミアムがついている。


逆に言えば、前回、2007 年に最高値をつけたときより利益は 1 割も多く、金利は半分以下の低さで、プレミアムが 5%もついている現在の株価は、最高値圏にあっても尚、割安に映る。これで株が高値に押し上げられないほうがおかしい。株価は、押し上げられるべくして高値に押し上げられているのである。当時と今とでは何が違うのか。バリュエーションが高まってこないことから明らかなように、現在は成長期待が薄らいでい
るのだ。

例えば、前回はリスク・プレミアムが約 2%だった。これは見かけ上、2%であるが、実はリスク・プレミアム5%で成長期待 3%という組み合わせだったかもしれない。その伝でいけば、現在はリスク・プレミアム 5%で成長期待 0%という組み合わせなのだろう。なにしろ、少し前まで全米一の時価総額を誇ったアップルの株価が、「成長神話の陰り」を理由に低迷を続けている。これでは市場の成長期待も高まらず、バリュエーションも上がらず、商いも盛り上がりを欠く中、指数だけが静かに最高値更新となるのも不思議ではないだろう。
広木隆
マネックス証券株式会社 チーフ・ストラテジスト
配信元: 達人の予想