【伊賀大記のクロマなマクロ展望】来週の日米中銀会合は据え置きか、中東緊迫で「板挟み」

配信元:みんかぶ
著者:MINKABU PRESS
投稿:2026/03/11 11:54
 株、為替、債券など金融市場を横断的に俯瞰する「クロスマーケット(クロマ)」的な視点から今後のマクロ環境を展望していく。

 来週開催される日米中銀会合では、両会合とも政策据え置きの見通しだ。しかし、これは経済物価状況が前会合から大して変わらないからということではない。むしろ逆だ。中東情勢の悪化でインフレ圧力が高まる一方、景気圧迫の懸念も強まるという中銀にとっては非常に対応が難しい状況を前にした「板挟み」の様子見なのである。

 米連邦公開市場委員会(FOMC)は17~18日、日銀金融政策決定会合は18~19日に開催される。

●日銀「利上げやむなし」のムード高まれば

 日銀の氷見野良三副総裁は2日の金融経済懇談会後の記者会見で、中東情勢の見極めについて「どの程度見極めが必要になるかの見極めも、現時点ではできていない」と述べている。「(利上げ路線に)変化があるとは考えていない」としながらも、利上げの前提になる経済・物価情勢の改善基調が崩れないかを見極める考えを示した。

 その懇談会の挨拶(講演)で使ったのが「曼荼羅(マンダラ)」図だ。物価上昇率や金利、国内総生産(GDP)など経済・物価・金融の要素を円環状に並べ、影響の波及経路を矢印で示すことで、経済・物価・金融の関係を示している。

 文章ではわかりにくいことも図画で示すと一目でわかる、という趣旨なのだが、図は非常に複雑。これを一目見ただけで理解できる人は少ないだろう。この図が示すのは、「世の中は複雑に絡み合っており、経済の状況や金融政策の影響をその都度、見極めていかなければならない」ということが一目でわかるということなのではないか。

 まさに今はその状況だ。不透明な中東情勢。原油高はインフレ要因だが、景気圧迫要因でもある。どちらを先に対応すれば、総合的に経済にとってプラスになるのか、の見極めは難しい。高市早苗首相が追加利上げに難色を示したとの一部報道(2月24日の毎日新聞電子版)もある。その時点から、更に中東情勢の悪化という要素が加わった現在、利上げの容認を得るのは容易ではない。

 追加利上げが可能になるとすれば「利上げやむなし」のムードが世の中で高まったときだろう。ドル円が160円を突破し、輸入インフレへの警戒感が強まれば、国民から利上げ容認の声が強まる可能性がある。投機筋による円の売り越しポジションが溜まっていた2024年と違い、今はほぼトントン。米国が協調してくれれば別だが、日本単独の円買い介入には大きな効果は期待できない。円安が進行したときに備えて、トランプ関税の影響を見極めることを余儀なくされた昨年のように、じっと状況を注視するモードが続くのではないか。

●FOMCメンバーの見解、利下げ・据え置き・利上げが拮抗

 前回1月27~28日開催分のFOMC議事要旨で、利上げの可能性に触れた参加者がいたことが明らかになり、市場に驚きが走った。今後の金融政策の進め方についての討論において、参加者のうち、1)「Several」が利下げ、2)「Some」が当面据え置き維持、3)「Several」が場合によっては利上げ、とする意見を述べている。

 FOMC議事要旨で使われる「Several」は1人2人ではなく、少なくとも3人以上の参加者に用いられるとみられている。「Some」も「Several」よりはやや少ないが複数を意味すると言われる。つまり利上げ派は少数ではなく、相当数いることになり、FOMC内では現在、米金融政策の先行きで利下げ・据え置き・利上げの3派が拮抗している状態が伺える。

 6日に発表された2月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比9万2000人減となった。1月の12万6000人増から、市場予想に反して大幅なマイナスに転じた。振れが大きいことで知られる同統計だが、失業率も前月の4.3%から4.4%に上昇。非農業部門雇用者数は12月分と1月分も下方修正されており、本格的な雇用減速トレンドに入るのではないかと懸念されている。

 11日に発表を控える2月米消費者物価指数(CPI)は、米国とイスラエルがイランに軍事攻撃を開始する前のデータとなる。トランプ米大統領が9日に「戦争はほぼ終了した」と述べたことで原油価格が急落しているが情勢はまだ不透明感が強く、今後のインフレ高進への警戒は緩められない。

 雇用減速が心配だが、インフレ高進にも備えなければならない。米連邦準備制度理事会(FRB)のマンデート(法的使命)は雇用の最大化と物価の安定の2つ。中東情勢の悪化による影響を見極めるとして、来週のFOMCでは、政策据え置きが選択されそうだが、4月28~29日の次回会合までに結論が得られるかは不透明だ。

 パウエル議長は5月に議長としての任期を迎える。あるベテランのFedウオッチャーによると、パウエル議長は現在、無理に意見集約を行っていないように見えるという。新議長体制の下で、利下げ・据え置き・利上げの3つの意見がどれかに集約されていくのか、注目されよう。

●マーケットはどう反応するか

 日米中銀とも政策据え置きの場合、マーケットはどのように反応するのだろうか。政策が変わらないのだから反応しようがないとはみないほうがいいだろう。日銀は利上げしにくく、FRBは利下げしにくい、ということは円高圧力とドル安圧力が強まりにくいということを示す。つまりドル円に対してはドル高・円安方向に働くことになる。

 日本株、特に輸出株比率が高い日経平均株価にとっては、これまで円安はどちらかといえばプラス材料だった。しかし、原油価格の上昇という懸念材料が浮上する中では、そうとも言えなくなる。「産業のコメ」とも言われる石油は原料としてだけでなく輸送費など幅広くコストとしてのしかかってくるからだ。円安は原油高に拍車をかけることから、円安が日本株にネガティブに働く場面も想定しておく必要がある。

 原油価格の上昇でメリットを受けるのは、通常、鉱業や石油会社のほか商社などと言われている。だが、中東情勢の緊張感が高い中では、これらの企業も同地域でのビジネスに対し慎重にならざるを得ない。あくまでディフェンシブなセクター選好とみておくべきだろう。

伊賀大記(いが・だいき)
金融経済ジャーナリスト。株式専門誌やロイター通信での記者を経て現在フリー。金融市場やマクロ経済に関するトピックをブログ(東京クロマ通信)で毎営業日配信中。

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