●ゲーム機や電子部品に大きな影響を与えるトランプ関税
今月もゲームセクターを取り上げたいのだが、先にトランプ関税の影響について触れておきたい。4月3日(日本時間)に米国のトランプ大統領は世界中の国・地域に、相互関税と称する措置を実施すると発表した。ほぼすべての製品に適用するとして、日本に対しても24%、中国も50%を大きく上回る水準になるとの発表で、それ以降、世界の株価は大きく調整している。まず、どうしてこうなったのかについて説明しておきたい。(※本稿執筆後に追加分の関税導入は、米国への報復措置を講じていないことを条件に90日間停止されることが発表された。なお、中国には追加関税を125%とするようだ。)
米国は巨額の貿易赤字を継続して計上している。これは国際競争に敗れた結果とも言えるのだが、トランプ大統領は米国が不公正な貿易による被害者であると主張しており、その解消のために関税を導入するということのようである。これだけの規模の関税となると世界経済に対する影響は避けられそうにない。
かつては高関税政策が実施されると代替品が登場し、高関税で価格が上がった輸入品をある程度補うことができた。しかし21世紀の現在、消費者が直接手に取るような商品は高度に差別化されており、代替が効かないものが多い。自動車にしてもゼネラル・モーターズ
いまでは高度に多様化、分散化した貿易財を一国で生産することは極めて困難になっている。そしてこれはゲーム機も同じなのである。このあと述べるが、任天堂 <7974> の「NINTENDO Switch2」(以下、「Switch2」)は非常に高度なテクノロジーを実装しているうえ、強力なIP(知的財産)を持っている。
これだけ世界に広がったサプライチェーンを理解せずに、トランプ政権が前近代的な施策を21世紀のいまになって実行するとは思わなかった。筆者はかねてから、人間の進歩のペースは非常にゆっくりで、検証もせずに安易に直感で行動してしまうものだと感じていたのだが、これが証明されてしまった感が強い。投資家は不確実性を嫌うので、このようなトランプ大統領の行動は大いに嫌がられたといっていいだろう。これが今回の株価急落の背景である。
特に電子部品セクター(村田製作所 <6981> 、太陽誘電 <6976> 、TDK <6762> )や電機(ソニーグループ <6758> 、シャープ <6753> )の株価は大きな影響を受けた。電子部品全体で見れば関税の影響は限定的かもしれないが、スマートフォンやエヌビディア
当然、このような局面では、今後の投資対象として関税の影響を受けないセクターを中心に物色していくことになろう。鉄道セクターはほとんど日本国内でビジネス展開をしているので、筆者が担当している範囲内ではJR東海 <9022> 、JR九州 <9142> 、名古屋鉄道 <9048>などが中期経営計画や長期ビジョンを発表しており、関税による混乱からの逃避的投資先として注目している。
●2025年のゲームセクター最大のテーマ、「Switch2」の価格から見る販売戦略
さて、今年に入ってからゲームセクターの投資テーマには、任天堂の新型ゲーム機「Switch2」に対する関心が非常に高まっていると感じていた。その最中、4月2日に任天堂はYouTubeなどで同社のプロモーション用映像コンテンツ、「ニンテンドーダイレクト」を配信した。内容はハードからソフトまで多岐にわたり、非常に充実したものであった。とてもすべてを説明できないため、要点と投資のポイントを記したい。
まず注目された発売日は6月5日に決まった。価格は映像では発表されなかったが、後のプレスリリースで米国が449.99ドル、欧州が469.99ユーロ、日本国内専用モデルが4万9980円、多言語モデルが6万9980円となっていた。同社は海外転売対策を行うとしていたが、欧州の規制もあってリージョンロック(国ごとにハードとソフトの互換性を制限する仕組み)が難しいこともあり、転売対策として日本語対応の専用モデルを用意したようだ。
そもそも転売と言えば、多くの人は日本国内で横流しをするようなイメージを持っていると思うが、実情は少々異なる。任天堂のIPは世界中の人々を魅了しているが、近年では隣国、中国でのゲーム熱が高まっている。そして、中国は言うまでもなく、非常に強い購買力を持っている。この影響が大きいのだ。
だが中国政府は強力な表現規制を行っており、ゲームを敵視するかのような政策を採っているため、ゲーム機の販売は検閲が前提でないと難しい。ゲームソフトも中国共産党流の"健全性"が問われるという状況なのである。このような状況下で中国のユーザーは個人輸入に頼るしかなく、遊びたいとなると一番近くで買って取り寄せよう、とするのは当然の動きと言えるだろう。そして市場規模が大きいのは日本である。よって買い取り専門の業者が、転売屋として跋扈(ばっこ)するという現象が生まれるのだ。
その現状を変えるべく、強力な施策を任天堂は打ってきたと考えている。これで海外流出を抑えることは可能になっただろうが、それでもなお需要はすでに強いと見ている。先行して予約が始まった欧州では、一部の店舗で販売開始後に売り切れたと報道されている。イーベイ
任天堂の古川俊太郎社長は25年3月期第3四半期決算時に、体験会の反応を見て供給をどうするか考えると語っていたのだが、黒くて小さく四角い「Switch2」の需要は相当なものになると見ていたので、筆者は増産を促す質問を行っていた。現時点でもゲーム機史上最大規模のローンチ(新製品発売)となるだろうが、それでも足りないとなると、今後はさらに在庫量に関して検討する必要がありそうだ。
なお、先ほど述べた関税の影響について不安視する読者もいるかと思われるが、米国での値上げを避けるのは難しいと見ている。ただ、ゲーム機は少しの値上げで販売数量が大きく減る牛丼のようなアイテムではない。関税で100ドル以上の値上げになっても飛ぶように売れるだろうと予測する。ましてや「Switch2」は大変な競争力を持つ製品である。トランプ関税への不安を吹き飛ばしてくれるだろう。
●錚々たるラインナップが出そろった「Switch2」向けゲームソフト
サードパーティ(外部事業者)からはかなりのラインナップが出そろった。スクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> からは「ブレイブリーデフォルト」のリマスター版に加え、「ファイナルファンタジーVII」のリメイク版が発表されたほか、カプコン <9697> からは「ストリートファイター6」と「祇(くにつがみ):Path of the Goddess」、バンダイナムコホールディングス <7832> からは大ヒットした「ELDEN RING(エルデンリング)」が発表された。
さらにセガサミーホールディングス <6460> からは「龍が如く0 誓いの場所」ディレクターズカット版、コーエーテクモホールディングス <3635> からは任天堂の「封印戦争(ゼルダの伝説)」をモチーフにした「ゼルダ無双 封印戦記」、コナミグループ <9766> からは「シャインポスト Be Your アイドル!」、マーベラス <7844> から「DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)」の続編など、海外のメーカーも含めて挙げたらキリがないほどである。
筆者はゲーム機の成否に関してソフトは関係なく、逆にハードが売れればソフトは連動して売れると考えているので、相当な成果が出るのではないかと楽しみにしている。さらに「プレイステーション(PS)5」世代の「サイバーパンク2077」(開発元=CD PROJEKT RED)や、「WILD HEARTS(ワイルドハーツ)」(開発元=コーエーテクモゲームス)といったゲームも登場する。
しかし「Switch2」は「PS5」の3分の1程度の性能と推測しているので、スペックを考えれば単純な移植は不可能のはずである。さらに「Switch2」はこの画質のゲームを携帯モードで本体だけで外に持ち出せるのだ。新しいゲーム機「Switch2」によって、今までの常識では考えられなかったようなことができるようになった。そう考えるのは、次に記すDLSS(ディープ・ラーニング・スーパー・サンプリング)と呼ばれる技術によるものである。
これに関して任天堂からではなく、エヌビディアの発表によって「Switch2」には光線追跡技術のレイトレーシングとDLSSが採用されていることが明らかになった。DLSSは生成AIテクノロジーを応用して、低解像度のコンピュータグラフィックス(CG)を高解像度に推論してくれるというものだ。これを使うと人間の目に綺麗に映るCGを生成するので、見栄えが大変良くなる。実際、筆者が直接画面を見た感じでは、移植前後のグラフィックの区別がつかなかった。
ところで「PS5」世代のゲームが出せるということは、ソニーグループのゲーム事業にとっては痛手だ。しかも「PS5」も関税の影響を受ける。最近は頻繁に値上げしても販売台数を維持しているが、関税でさらに値上げされれば大変厳しいと言わざるを得ない。だがソニーグループは素晴らしい会社なので、こんな苦境にも対応してくれるだろう。同グループでゲーム事業を展開するソニー・インタラクティブエンタテインメントの西野秀明CEO(最高経営責任者)の敏腕に期待したいところだ。
最後に、筆者は以前からDLSSはゲームチェンジャーになり得る生成AIのテクノロジーであると繰り返し述べてきた。任天堂がハイエンドの顧客を獲得できれば、ハード、ソフトの販売価格引き上げ効果が期待できる。さらにゲーム機は初動が高いと累計も多くなるため、ピーク販売数量の増加や、ハイエンド層獲得による販売数量の上積みも期待できる。同社にはこれまで繰り返し述べている通り、数千億円の損失リスクがあるものの、成功すれば逆に営業利益は過去のピークを大きく上回るはずだ。任天堂は大きな勝負に出てきた。その結果が出るのはもうすぐである。
【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト
1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。
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