―ホンダのパイロットライン公開で注目度アップ、政府も次世代電池の実用化に本腰―
ホンダ <7267> [東証P]はこのほど、量産化に向けて研究開発を進めている 全固体電池のパイロットラインを公開した。これまでの リチウムイオン電池の課題を解決する次世代電池として自動車メーカーをはじめ各社が取り組んでおり、経済産業省の2025年度概算要求でも「次世代電池の実用化に向けて必要な支援を行う」という項目が重点政策のひとつに掲げられている。将来はIoT機器や電気自動車(EV)のバッテリーが全固体電池に代わることが予想され、市場規模の拡大が期待できることから関連銘柄に改めて注目してみたい。
●EV巻き返しのカギ握る
ホンダがパイロットラインを建設した場所は、栃木県さくら市の本田技術研究所の敷地内で、延べ床面積は約2万7400平方メートル。電極材の秤量・混練から、塗工、ロールプレス、セルの組み立て、化成、モジュールの組み立てまでの各工程の検証が可能な設備を備えており、25年1月の稼働開始を予定している。同社は高効率な生産プロセスによってコスト競争力を高めるとともに、四輪車に限らず二輪車や航空機など、さまざまなモビリティーに適用を広げることで、スケールメリットを生かした更なるコスト低減を目指す考えだ。
また、今春には日産自動車 <7201> [東証P]が横浜工場に敷設するパイロットラインを公開。トヨタ自動車 <7203> [東証P]は今秋、次世代EVなどへの搭載を目指している次世代電池と、全固体電池の開発・生産計画について、経産省から「蓄電池に係る供給確保計画」として認定された。
自動車メーカーが研究開発を加速させている背景には、電気を繰り返し充放電するために必要な「電解質」に液体ではなく固体を使うことで、EVの走行距離が大幅に伸びるほか、充電時間の短縮への期待がある。11月19日に開かれた「第2回蓄電池産業戦略推進会議」に経産省が提出した資料によると、23年の企業別のEVシェアは中国系が43%、米国系が29%、欧州系が19%の一方、日系は3%と大幅に出遅れている。巻き返しには全固体電池の市場投入が不可欠であり、カギを握る関連銘柄のビジネス機会が更に広がるだろう。
●市場拡大を支える銘柄群
HIOKI <6866> [東証P]はEV用全固体電池の研究開発市場に向けて、10月29日から「粉体インピーダンス測定システム」の提供を開始した。このシステムは、全固体電池材料の評価とドライプロセス(溶媒を使用せず、粉体材料を直接加工して電極を作製する製造方法)の検証に不可欠な主要パラメーターを同時に測定することで、材料評価の安全性とコスト効率を大幅に向上させるもの。また、評価コストの削減だけでなく作業時間も短縮されるため、実験の試行回数を増やすことが可能になるという。
出光興産 <5019> [東証P]は10月28日、全固体電池の材料となる固体電解質の大型パイロット装置の基本設計を始めたことを明らかにした。石油製品の製造過程で副次的に発生する硫黄成分を原料とした固体電解質を年間数百トンつくり、トヨタが開発するEV向け全固体電池で使用される予定。量産設備は千葉事業所に建てる計画で、最終投資決定は25年中を見込み、27年の完工を目指すとしている。
三井金属鉱業 <5706> [東証P]は9月24日、全固体電池向け硫化物系固体電解質「A-SOLiD」について、初期量産工場の新設を決めたと発表した。総合研究所(埼玉県上尾市)の敷地内に新棟を建設し、27年の稼働開始を予定。現在稼働中の量産試験棟とあわせ、世界最大規模の固体電解質の生産能力を備えることになるとしており、更なる需要増に対応する構えだ。
このほかの関連銘柄としては、固体電解質層のシート化及び薄型化を可能とする支持体を扱うニッポン高度紙工業 <3891> [東証S]、車載用全固体電池向け硫化物固体電解質の新生産技術を開発済みのAGC <5201> [東証P]、高いリチウムイオン伝導性を持つ固体電解質材料を提供するオハラ <5218> [東証S]、硫化物系固体電解質の量産性に優れた製造技術を持つ三菱マテリアル <5711> [東証P]、リチウムイオン伝導性固体電解質セラミックスを手掛ける東邦チタニウム <5727> [東証P]、固体電解質の評価を行うクオルテック <9165> [東証G]など。
エスペック <6859> [東証P]は25年2月に、最先端の車載用バッテリーの安全性試験に対応する新試験所「あいち次世代モビリティ・テストラボ」のサービス開始を予定している。背景には車載用バッテリーの安全性確保やEV・自動化モジュールの信頼性確保に向けた試験需要が高まっていることがあり、全固体電池の試験にも対応予定。既にバッテリーの大型化や高容量化に対応した「あいちバッテリー安全認証センター」の先行予約を始めているほか、EV・自動化モジュールの環境・動作シミュレーションを強化するなど「豊田試験所」の機能を拡充するとしている。
●産業機器向けの実用化進む
全固体電池はEV以外での用途も想定され、むしろそれらの実用化が先行している。直近ではマクセル <6810> [東証P]が、23年から量産を始めたセラミックパッケージ型全固体電池「PSB401010H」を電源とした産業機器のバックアップ用全固体電池モジュールを開発したと発表。一次電池(使い切りのタイプ)からの置き換えや産業機器の新製品への搭載も可能だとしている。
カナデビア <7004> [東証P]は11月、従来の自社製全固体リチウムイオン電池「AS-LiB(1Ahタイプ)」と比較して、厚さが4分の1(3.0ミリ)、体積当たりエネルギー密度が約2倍以上(200Wh/L以上)となる新型の1AhタイプAS-LiB(Ultra-thin model)を開発したと発表。AS-LiBは広い使用温度域や真空域など使用可能環境の多様性に特長があり、宇宙用装置向けや半導体製造装置向け、産業機械向けでの採用を目指しているという。
これ以外では、全固体ナトリウムイオン二次電池のサンプル出荷を行っている日本電気硝子 <5214> [東証P]、従来品に比べてエネルギー密度が約100倍となる全固体電池用の材料を開発済みのTDK <6762> [東証P]、全固体電池の高エネルギー密度化の技術開発に成功しているソフトバンク <9434> [東証P]などをマークしておきたい。
株探ニュース
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