英次期連立政権に思惑【フィスコ・コラム】

配信元:フィスコ
投稿:2023/08/06 09:00
*09:00JST 英次期連立政権に思惑【フィスコ・コラム】 来年行われるイギリスの総選挙を控え、「スナク後」の政権に関する議論が活発化しそうです。背景にあるのは7月の補欠選挙。政権奪還を狙う労働党は想定ほど得票を伸ばせなかったようです。これにより野党第2党との連立政権発足に思惑が広がり始めました。


ジョンソン元首相がコロナ禍にもかかわらず官邸でパーティを開催していた問題で、下院特権委員会の報告書が6月に提出されました。同氏は下院を故意に欺いたとする内容に抗議し、保守党の側近2氏とともに辞職。この保守党3議席の補選が7月20日に実施され、保守党と労働党、自由民主党が1議席ずつ分け合う結果となりました。保守党はジョンソン氏の選挙区で議席を守り、全敗を免れました。


投票前の情勢調査では次回の総選挙に向け、労働党の支持は保守党の2倍近くに及び、労働党の優位が予想されていました。短期間で退任したトラス前首相の後任としてマーケットの混乱を収束させたスナク首相は世界的な富豪としても知られ、記録的なインフレによる生活苦で有権者の反感を買ってしまっているようです。そのため、次期総選挙では2010年に野党に転落した労働党の躍進が見込まれています。


補選の3選挙区が保守党の地盤だったことを考えれば、労働党が1議席でも獲得できたのは善戦したと言えます。ただ、次期総選挙を見据えると、政策面での弱点を露呈したのも事実。カーン・ロンドン市長(労働党)が取り組む温暖化ガスの削減政策で、厳格化された環境規制が生活費の負担増につながっています。そこに目を付けた保守党候補が労働党の政策批判を展開し、今回1議席を守りました。


スナク氏は補選で全3議席を失わなかったことについて、次期総選挙での「労働党の勝利は既成事実ではない」と発言しています。労働党の支持拡大は物価の高騰を招いたスナク政権への批判の表れですが、労働党の気候変動対策も物価の高騰を和らげるわけではなく、政策を見直す余地が出てきました。それを示しているのが、イングランド南西部での野党第2党、自由民主党候補の圧勝です。


自由民主党はかつての自由党などの流れを汲む中道左派政党です。政策的には労働党に近く、次期総選挙でどの政党も得票が過半数に到達しない場合には労働党との連立政権発足が自然の流れでしょう。ただ、自民党には苦い過去があります。2010年に保守党と合流しキャメロン政権を支えることになると、大学の授業料無償化といった独自の政策を次々に引っ込め支持者の信頼を失いました。


そうした経緯から、デイビー党首は現時点で他党との連携に否定的です。いずれにしても、次期総選挙は物価高騰による生活防衛が争点になるのは間違いなく、インフレ率の動向が選挙の指標になる可能性があります。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。



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