・昨年GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のチーフストラテジスト兼ESGチームヘッドである塩村賢史氏の話を視聴した。GPIFは国民の年金のために100年というスパンで運用を考えている。
・運用資産は200兆円近いので、αを追求することは難しい。よって、マーケットの成長そのものが重要である。
・今後、年金の積立額はどのくらいまで増えていくのか。いくつかのシミュレーションをしているが、中位の見方によると、2079年度で479兆円に達する。何と2050年より先にピークがある。つまり、GPIFにとって、2050年はそれほど長期ではない。
・年金をかけている被保険者のために、長期の利益を確保していく。ESG投資はそのためにある。「専ら厚生年金の被保険者の利益のため」が第一義的なので、1)インパクト投資、2)政策現実投資、3)ダイベストメントが優先されることはない。
・年金オーナーとして、株式の運用は全て外部委託される。GPIFは2022年3月で、ESG指数に基づく株式パッシブに12.1兆円、ESG債に1.6兆円(グリーン65%、サステナビリティ19%、ソーシャル16%)の投資を行っている。
・過去5年のパフォーマンスをみると、8本の株式パッシブは、いずれもインデックスとするTOPIXやMSCIACWIを上回っていた。
・気候変動に関連したS&P/JPX Carbon Efficient指数では、同業種のウエイトは中立(同じ)ながら、CO2などの情報開示に優れており、環境負荷(カーボンインテンシティ)の低い企業をオーバーウエイトしている。つまり、セクター内での負荷が低くなるようにしている。
・公益インフラセクターでは高インパクト企業への傾斜は大きくなり、ITセクターでは環境負荷が相対的にマテリアル(重要)ではない。βがよくなることが目標なので、ESG活動報告書を通して、GPIFの活動を見える化し、市場の底上げを図っている。
・ESG投資は、企業がアクションをとり、それが市場全体に浸透してきて、次第にパフォーマンスに結び付いてくるはずである。長期的に評価していく必要があり、そのための行動変容をうながしていく。
・カーボン・エフィシェント指数では、1)GHGの排出量の開示があるか、2)開示データに信頼性や網羅性があるかによって、ウエイトの加算を図っていく。
・セクター内の浮動株調整時価総額をベースに10分位に分け、①情報開示をしていれば、+10%、非開示なら-10%、②負荷削減のインパクトを高、中、低の3段階に分け、インパクトファクターとして、高は×3.0、中は×1.0、低は×0.5とする。
・よって、第1分位で、開示が十分ならウエイト40%(非開示なら30%)、セクター内での負荷インパクトが高ならば、40%×3.0=120%となる。逆に、第10位で、非開示ならば、ウエイト-30%(開示なら-20%)、インパクトが低ならば、-30%×0.5=-15%となる。
・これによって、セクター内の重み付時価総額は大きく変動し、インデックス内に組み込まれるウエイトも上下する。同じインデックス買いでも、GHGに優れた企業には多くの買いが入り、劣る企業はその逆となる。
・GHGをCO2に換算して、商品やサービスのライフサイクルアセスメント(LCA)によるCFP(カーボンフットプリント)では、原料調達から廃棄、リサイクルまでの全体をみていく。
・このCO2の足跡(フットプリント)では、スコープ3がカギを握る、スコープ1(自社直接排出)、スコープ2(自社間接)は捉えやすいとしても、スコープ3(取引先の上流、下流)となると、その算定が容易でない。
・では、ポートフォリオの気候変動に伴うリスクを全体として、どのように捉えるのか。1つの手法として、気候バリューアットリスク(CVaR: Climate Value-at-Risk)によるポートフォリオ評価について、塩村氏はコメントした。
・将来の気候変動がどうなるか。そのシナリオ次第でリスクは大きく変動する。NGFS(Network for Greening the Financial System: 各国金融当局ネットワーク)によるシナリオをベースに、1)気候変動政策(リスク)、2)低炭素技術(機会)、3)物理的影響(リスクと機会)に分けて、総合的にCVaRをみていく。
・気候変動によって、市場における一定期間の一定信頼区間での最大損失額を想定する。株式においては、やはり低炭素技術が資産価値向上のコアとなろう。日本が世界に通用する技術はどこにあるのか。
・今の強み、今後の技術開発投資、そのビジネス化、新ビジネスモデルの確立が優劣を決めよう。日本全体の底上げができるか。GPIFのポートフォリオは世界をみている。世界のマーケットでの開発動向と政策の行方がカギとなろう。投資のヒントが得られるGPIFの動向には今後とも大いに注目したい。
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