S&P500月例レポート(22年11月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2022年10月
個人的見解:短期的には企業業績が下支えとなるが、今後はFRBの動きを注視
10月の市場は、企業業績が予想を上回ったことを受けて回復し、S&P500指数は7.99%上昇しました(年初来では依然として18.76%下落しています)。業績が良かったわけではありませんが、それ以上に予想が低かったため(ウィスパーナンバー=アナリストによる非公式の業績予想や企業のガイダンスによる予想は更に低くなっていました)、営業利益は276社中191社で予想を上回り、この割合が69%と、過去平均の66%に近かったことがプラスに寄与しました。
また、一部の経済指標が低調だったことも、市場にとっては好材料でした。9月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.2%上昇、卸売物価指数(PPI)は同8.5%上昇となり、米連邦準備制度理事会(FRB)が11月に予想される0.75%利上げの後に利上げペースを緩める、あるいは11月2日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明でその意向が示唆されるのではないか、との期待が浮上しました。なお大半は、12月に0.50%の利上げを見込んでいます。さらに、米国市場が安全かつ良好な投資先と認識されたことから資金フローも好調で、9月の9.34%の下落を受けて、底値狙いの一部の投資家が関心を寄せました。
物価や生活費の上昇が話題の中心にあり、市場のムードを形成しています。決算発表や業績ガイダンスでも、原材料コストや人件費に話題が集中しました。この問題は、11月8日の中間選挙に影響を及ぼすと見られています。選挙に関するニュースが増加し、選挙結果を見据えたポートフォリオや世論調査からは、下院で共和党が勝利し、上院でも共和党の勝利が示唆されています。そうなると、議会は共和党、政権は民主党というねじれ政府となり、州知事も共和党が優勢になるとみられます。「予想」が外れることがあれば、市場レベルで反映されるでしょう。
来週は小売り各社の決算発表が始まる予定で、消費者の支出動向が明らかになるのと同時に、年末商戦に向けたガイダンスも発表されるとみられます。4日の雇用統計も市場に何らかの影響があるかもしれません。
市場は、FRBが利上げペースを緩めるタイミングを見計らっており、ボラティリティの高い状況がしばらく続くことが予想されています。12月13-14日のFOMC会合(記者会見は14日午後2時30分)で明確な示唆が得られることを期待する向きが増えていますが、11月1-2日のFOMC会合(記者会見は2日の午後2時30分)でも何らかの動きがあるかもしれません。
過去の実績を見ると、10月は57.4%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.18%、下落した月の平均下落率は4.67%、全体の平均騰落率は0.46%の上昇となっています。2022年10月のS&P500指数は、7.99%の上昇となりました。
11月は60.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.00%、下落した月の平均下落率は4.16%、全体の平均騰落率は0.83%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2022年11月1日-2日、12月13日-14日、2023年は1月31日-2月1日、3月21日-22日、5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。
S&P500指数は10月に7.99%上昇して3871.98で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス8.10%)。9月は3585.62で終え、9.34%の下落(同マイナス9.21%)、8月は3955.00で終え、4.24%の下落(同マイナス4.08%)でした。過去3ヵ月では6.25%下落(同マイナス5.86%)、年初来では18.76%の下落(同マイナス17.70%)、過去1年間では15.92%下落(同マイナス14.61%)、2022年1月3日の最高値からは19.28%の下落(同マイナス18.23%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは14.35%上昇(同プラス19.45%)でした。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は10月に13.95%上昇して3万2732.95ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス14.07%)。9月は2万8725.51ドルで終え、8.84%の下落(同マイナス8.76%)、8月は3万1510.43ドルで終え、4.06%の下落(同マイナス3.72%)でした。2022年1月4日の最高値(3万6799.65ドル)からは11.05%下落しました。過去3ヵ月では1.04%上昇(同プラス1.41%)、年初来では9.92%の下落(同マイナス8.71%)、過去1年間では8.62%下落(同マイナス6.89%)しました。
主なポイント
○S&P500指数は、企業業績が予想を上回ったことを受けて上昇しました。業績は好調ではありませんでしたが、予想を上回ったことは事実です。利益の大幅な落ち込みや低調な第4四半期見通しといった懸念が現実になることはありませんでした。経済指標は引き続き高インフレの持続と経済の力強い基調を示しており、FRBは11月1-2日のFOMCで4回連続となる0.75%利上げを実施し、12月13-14日の次回会合で少なくとも更に0.50%利上げを実施するとみられています。S&P500指数は一時3905を付けたものの、月の大半は3500?3800のボックス圏での推移となり、最終的には企業業績を受けて安堵感から上昇して月を終えました。11月はFOMCでの動きと小売各社の決算発表(および第4四半期の年末商戦のガイダンス)に注目が集まるとみられます。
○これまでに276社(銘柄数で53%、時価総額で70%に相当)が2022年第3四半期の決算発表を終え、利益は好調ではありませんが、予想を上回って推移しており、事前のウィスパーナンバーよりは大幅に良好な水準となっています。決算発表を終えた276銘柄中191銘柄で営業利益が予想を上回り、273銘柄中186銘柄で売上高が予想を上回りました。売上高は過去最高を更新する見通しですが、販売数量の増加ではなく、販売価格の上昇によるものとみられます。
⇒2022年第3四半期の営業利益は前期比11.9%増、前年同期比では0.8%増となる見通しです。
⇒売上高は前期比1.9%増、前年同期比11.3%増が見込まれ、第2四半期に続いて過去最高を更新する見通しです。
⇒2022年第3四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は2022年第2四半期の19.8%から20.6%に上昇しました。この割合は2021年第3四半期は7.4%でした(2019年第3四半期は22.8%)。
⇒2022年第3四半期の営業利益率は11.93%となり、前四半期の10.86%から上昇しました(1993年以降の平均は8.26%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。
○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の10月の平均値は2.14%となり、9月の1.91%から上昇しました(8月は1.28%)。年初来では平均1.88%(9月末時点では1.85%)となりました。2021年は0.97%、2020年は1.73%、2019年は0.85%、2018年は1.21%、2017年は0.51%(1962年以降で最低)でした。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは、9月末の3.81%から4.05%に上昇して月末を迎えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは、9月末の3.77%から4.20%に上昇して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは9月末の1ポンド=1.1168ドルから1.1467ドルに上昇し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは9月末の1ユーロ=0.9801ドルから0.9882ドルに下落しました(同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は9月末の1ドル=144.72円から(151.94円をつけた後)148.74円に下落し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は9月末の1ドル=7.1160元から7.3029元に下落しました(同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
⇒ドルは高止まりしており、一部の通貨では海外利益や輸出価格に対する懸念の高まりを受け、ドル高が一段と進みました。
○10月末の原油価格は、9月末の1バレル=79.73ドルから同86.07ドルに上昇し(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇)、年初来の上昇率は14.2%(2021年末は同75.40ドル)となりました。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は年初来で15.2%上昇しました(9月末は1ガロン=3.887ドル、8月末は同3.832ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は77.8%上昇し(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は66.8%上昇しました(2020年末は同2.330ドル)。
⇒EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。
○金価格は9月末の1トロイオンス=1670.40ドルから下落して1636.00ドルで月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は9月末の31.62から25.88に下落して月を終えました。月中の最高は34.53、最低は25.75でした(2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12、2017年末は11.05)。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
石油とガス
○OPECプラスは会合を持ち、日量200万バレルの減産を決定しました(全世界の石油産出量は日量約7900万バレル)。こうした決定に先立ち、原油価格は減産の予想をもとに上昇に転じていました。生産動向を詳細に見ていくと、一部の産油国では目標生産量に対して未達となっているため、専門家は実際の減産量は日量80-90万バレルになると推測しています。この実際の減産量は米国による戦略石油備蓄(SPR)からの1日の放出量とほぼ同量となります(このため、一部では米国の放出量に相当する分だけを減産することでOPECプラスは対応するだろうとの観測が出ています)。
○バイデン大統領はSPRからの原油の放出を(従来の10月から)12月まで延長すると発表しました。現在までの総放出量は1億6500万バレル(米国の2021年の消費量は日量平均1990万バレル)、戦略石油備蓄の在庫量は4億500万バレルとなっています(1984年以来の低水準)。米国は原油価格が1バレル=72ドルを下回った水準での買い戻しを計画しています。
○EUは天然ガス価格に上限を設定する緊急措置を巡る協議を継続しています。
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