S&P500月例レポート(22年11月配信)<後編>

<前編>の続き

新型コロナウイルスとサル痘

 ○サル痘の感染拡大ペースは鈍化しており、(多くが)感染拡大に歯止めがかかったと判断しています。また、複数のワクチン接種会場の閉鎖も予定されています。米疾病対策センター(CDC)によると、現時点で米国内では2万8302人の感染が確認されています(9月時点では2万5613人)。世界全体での感染者数は7万6806人(同6万8017人)となっています。

 ○新型コロナウイルス関連データ:

  ⇒新型コロナウイルスによる世界全体の累計死者数は、659万人となりました(9月末時点は654万人)。

  ⇒米国は現時点で:

   →新型コロナウイルスの累計感染者数は9750万人となりました(同9630万人)。

   →新型コロナウイルスによる累計死者数は107万人となりました(同106万人)。

   →新規感染者数の7日間平均は10月末時点で3万6861人となり、9月末時点の4万8806人から減少しました。新規感染者数の7日間平均は2022年1月11日に141万7493人に達しました(2021年11月末時点では8万3120人)。また、死者数の7日間平均は352人に減少しました(9月末時点は404人)。

   →冬にかけて新型コロナウイルス(あるいは変異株)の感染者数が増加するのではないかとの懸念が強まりました。

各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

 ○オーストラリア準備銀行(中央銀行)は政策金利を0.25%引き上げ、2.6%としました。利上げ幅は0.50%が予想されていましたが、中銀は経済状況を見極めているとの声明を発表しました。

 ○2022年9月20-21日に開催されたFOMC会合の議事録によると、物価の上昇が続いていることに警戒感を一段と強めていたことが明らかとなりました。FRBは物価目標を達成するためには労働市場が軟化することが必要になると考えていました。

 ○地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、FRBは経済が緩やかなペースで拡大していると判断しつつ、「需要の減退に対する懸念が強まるにつれ、先行きに対する見通しはより悲観的となる」との見方も示しています。

 ○カナダ中央銀行は0.50%の利上げを決定しました(2021年末には0.25%だった政策金利は3.75%となりました)。市場では0.75%の利上げが予想されていましたが、中央銀行は僅かながらリセッション入りする可能性があるとの見解を示しました。

 ○欧州中央銀行(ECB)の政策理事会は市場の予想通り0.75%の利上げを決定し、中銀預金金利を1.50%としました。

企業業績

 ○本レポート執筆時点で276銘柄が2022年第3四半期の決算発表を終えました。このうちの191銘柄で営業利益が予想を上回り、273銘柄中186銘柄で売上高が予想を上回りました(過去最高を記録する可能性があります)。

  ⇒2022年第3四半期は前期比11.9%の増益、前年同期比0.8%の増益が見込まれています。

  ⇒2022年通年の利益は前年比1.9%の減益が見込まれており、2022年予想株価収益率(PER)は19.0倍となっています。

  ⇒2023年の利益は同13.4%増が見込まれており、2023年予想PERは16.7倍となっています。

  ⇒2022年第3四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は、2022年第2四半期の19.8%から20.6%に上昇しました。この割合は2021年第3四半期は7.4%でした(2019年第3四半期は22.8%)。

  ⇒売上高は過去最高となる見通しで、前期比1.9%増、前年同期比11.2%増が見込まれています。

   →速報値を見ると、売上高は四半期ベースの過去最高となる見通しですが、その理由は販売数量の増加ではなく、販売価格の上昇にあるかもしれないと考えられます。

 ○2022年第3四半期の営業利益率は、第2四半期の10.86%から上昇して11.93%となる見通しです(1993年以降の平均は8.26%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。

個別銘柄

 ○投資銀行グループのゴールドマン・サックス・グループは主要事業を以下の3部門に再編する計画を発表しました。(i)投資銀行/トレーディング事業、(ii)資産運用/ウエルスマネジメント事業、(iii)コンシューマー・バンキング事業(Marcus)。

 ○イーロン・マスク氏は総額440億ドルでツイッターの買収を完了し、経営陣を解任してマスク氏自身が唯一の取締役となりました。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、公益企業のパシフィック・ガス&エレクトリック、エネルギー企業のEQTコーポレーションとタルガ・リソーシズをS&P500指数に追加しました。また、ソフトウエア企業のシトリックス・システムズ、不動産企業のデューク・リアルティ、調査会社のニールセン・ホールディングスを同指数から除外しました。

  ⇒S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、保険サービスのアーチ・キャピタル・グループを2022年11月1日の取引開始前にS&P500指数に追加し、イーロン・マスク氏が買収したソーシャルメディア企業のツイッターを同指数から除外すると発表しました。

注目点

 ○JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は、今後の経済環境を踏まえると米国経済は向こう6-9ヵ月以内にリセッション入りすると発言しました。その理由として、「極めて深刻な」インフレ動向、金利の上昇、量的引き締めとウクライナ情勢を挙げています。

 ○米国最古の銀行であるバンク・オブ・ニューヨーク・メロンは、暗号資産のカストディサービスを開始することを明らかにしました。

インデックス・レビュー

◇S&P 500指数

 S&P500指数は10月に7.99%上昇して3871.98で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス8.10%)。9月は3585.62で終え9.34%の下落(同マイナス9.21%)、8月は3955.00で終え4.24%の下落(同マイナス4.08%)でした。過去3ヵ月では6.25%下落(同マイナス5.86%)、年初来では18.76%下落(同マイナス17.70%)、過去1年間では15.92%下落(同マイナス14.61%)、2022年1月3日の最高値からは19.28%下落(同マイナス18.23%)となり、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは14.35%上昇(同プラス19.45%)でした。

 10月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は9月の1.91%から2.14%に上昇しました(8月は1.28%)。年初来では1.88%(9月末時点では1.85%)、2021年は0.97%、2020年は1.73%、2019年は0.85%でした。2018年は1.21%、2017年は0.51%(1962年以来の最低)でした。10月の出来高は、9月に前月比32%増加した後、2%増加(営業日数調整後)、前年同月比では55%増加し、過去1年間では前年比6%減少しました。

 10月に前日比で1%以上変動した日数は21営業日中12日(上昇が9日、下落が3日)、2%以上変動した日数は8日(上昇が6日、下落が2日)でした。9月は1%以上変動した日数は21営業日中13日(上昇が4日、下落が9日)、2%以上変動した日数は2日(下落が2日)でした。年初来では、1%以上変動した日数は105日(上昇が52日、下落が53日)、2%以上変動した日数は41日(上昇が21日、下落が20日)となりました。2021年は、前日比で1%以上変動した日数は55日(上昇が34日、下落が21日)、2%以上変動した日数は7日(上昇が2日、下落が5日)となりました。2020年は1%以上変動した日数が109日(上昇が64日、下落が45日)、2019年は1%以上変動した日数が37日(上昇が22日、下落が15日)でした。

 10月は21営業日中19日で日中の変動率が1%以上となり(9月は21営業日中20日)、3%以上の変動があった日が3日ありました(9月は1日)。年初来では1%以上の変動が185日、2%以上の変動が80日、3%以上の変動が18日、4%以上の変動が3日、そして5%以上の変動が1日(10月13日)ありました。2021年は1%以上の変動が93日、3%以上の変動が3日でした。2020年はそれぞれ158日と34日、2019年はそれぞれ73日と1日、危機に見舞われた2008年はそれぞれ228日(253営業日中)と75日でした。

 10月は、値上がり銘柄数が426銘柄(平均上昇率は12.22%)と、9月の27銘柄(同4.36%)、8月の132銘柄(同4.01%)から大きく増加し、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回りました。10%以上上昇した銘柄は241銘柄(同17.21%)で、9月の3銘柄(同22.78%)、8月の8銘柄(同16.43%)から増加しました。25%以上上昇した銘柄は26銘柄(同32.86%)でした(9月は1銘柄で同36.66%、8月はゼロ)。

 一方、10月の値下がり銘柄数は76銘柄(平均下落率は5.30%)で、9月の476銘柄(同10.26%)、8月の369銘柄(同6.32%)から減少しました。10月は10%以上下落した銘柄が7銘柄(同21.65%)と、9月の233銘柄(同14.49%)、8月の71銘柄(同13.51%)から減少しました。25%以上下落した銘柄は3銘柄(同32.50%)でした(9月は10銘柄で同26.52%、8月はゼロ)。

 過去3ヵ月間では値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差は縮小しましたが、引き続き値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回りました。値上がり銘柄数は185銘柄(平均上昇率は10.24%)と、9月末の147銘柄(同8.15%)から増加し、値下がり銘柄数は316銘柄(平均下落率は12.56%)と、9月末の356銘柄(同10.68%)から減少しました。10%以上上昇した銘柄数は71銘柄(平均上昇率は19.69%)で、9月末の44銘柄(同18.17%)を上回りました。10%以上値下がりしたのは173銘柄で(平均下落率は18.70%)、9月末は161銘柄(同17.04%)でした。過去3ヵ月間で25%以上上昇した銘柄数は14銘柄(9月末時点は7銘柄)で、27銘柄(同20銘柄)が25%以上下落しました。

 年初来でも、値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差は改善しましたが、引き続き値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を大幅に上回りました。値上がり銘柄数は122銘柄(平均上昇率は24.91%)と、9月末の70銘柄(同18.16%)から増加した一方、値下がり銘柄数は379銘柄(平均下落率は24.91%)と、9月末の432銘柄(同27.32%)から減少しました。10%以上上昇した銘柄数は83銘柄(平均上昇率は34.45%)で、9月末の43銘柄(26.74%)を上回りました。10%以上値下がりしたのは315銘柄(平均下落率は28.87%)、9月末は372銘柄(同30.89%)でした。年初来で39銘柄(9月末は17銘柄)が25%以上上昇し、171銘柄(同239銘柄)が25%以上下落しました。

 2021年通年では、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回り、値上がり銘柄数は434銘柄(平均上昇率は34.30%)、値下がり銘柄数は70銘柄(平均下落率は12.01%)でした。10%以上上昇した銘柄数は367銘柄(平均上昇率は39.77%)、10%以上値下がりした銘柄数は36銘柄(平均下落率は19.27%)でした。259銘柄が25%以上上昇し、7銘柄が25%以上下落しました。

◇世界の株式市場:S&Pグローバル総合指数

 各国の中央銀行が金利を引き上げ、企業業績が予想を上回る(好調とは言えませんが、予想より良好でした)なか、10月はグローバル株式市場が反転しました。S&Pグローバル総合指数は9月の9.85%下落(2020年3月に記録した14.61%下落以来の最大の下落率)の後に、10月は5.93%上昇し、米国の8.07%上昇を除くと、2.84%上昇しました(9月は米国の9.45%の下落を除くと10.45%の下落、8月は3.63%の下落で、米国の3.94%下落を除くと3.19%の下落、7月は6.89%の上昇で、米国の9.28%上昇を除くと3.57%上昇、6月は8.74%の広範囲にわたる下落で、米国の8.54%下落を除くと9.02%の下落、5月は0.20%の下落で、米国の0.36%下落を除くと0.04%の上昇、4月は8.11%の下落で、米国の9.09%下落を除くと6.70%下落、3月は1.70%の上昇で、米国の3.11%上昇を除くと0.25%の下落)。世界の株式市場は、過去3ヵ月間では7.98%下落し(9月末時点は7.14%下落)、米国の6.00%下落(同4.94%下落)を除くと10.84%の下落(同10.21%下落)、年初来では22.61%の下落で(同26.95%下落)、米国の19.74%下落(同25.73%下落)を除くと26.63%の下落(同28.66%下落)、過去1年間では22.01%の下落で(同22.95%下落)、米国の18.07%下落(同19.15%下落)を除くと27.38%下落しました(同27.96%下落)。

 より長期では、米国のパフォーマンスが突出していました。過去2年間では、グローバル市場は6.04%上昇しましたが、米国の16.58%上昇を除くと7.00%の下落でした。過去3年間でもグローバル市場は8.61%上昇しましたが、米国の25.87%上昇を除くと10.60%の下落でした。2020年11月3日の米大統領選挙以降では、グローバル市場は2.83%上昇しましたが、米国の8.07%上昇を除くと9.74%の下落でした。

 S&Pグローバル総合指数の時価総額は10月に3兆5140億ドル増加しました(9月は6兆1860億ドル減)。米国以外の市場の時価総額は7130億ドル増加し(同2兆4630億ドル減)、米国市場の時価総額は2兆8010億ドル増加しました(同3兆7230億ドル減)。

 10月は11セクター中10セクターが上昇し、セクター間のリターンのばらつきは拡大しました(9月は上昇したセクターはゼロ、8月は1セクターが上昇)。10月のパフォーマンスが最高のセクター(エネルギー、17.68%上昇)と最低のセクター(コミュニケーションサービス、0.73%下落)の騰落率の差は18.41%となり、9月の8.29%、8月の7.38%から拡大しました。年初来のパフォーマンスの最高セクター(エネルギー、29.58%上昇)と最低のセクター(コミュニケーションサービス、38.34%下落)の差は67.92%と、9月末時点の48.00%から拡大しました。

 新興国市場は1月の0.98%下落(2021年12月は1.41%上昇)、2月の3.49%下落、3月の2.55%下落、4月の5.63%下落、5月の0.31%下落、6月の5.80%下落、7月の1.05%下落、8月の1.02%上昇、9月の10.44%の広範囲にわたる下落の後に、10月も3.61%の下落と、月間の騰落率はマイナスにとどまりました。

 過去3ヵ月間では12.79%下落、年初来では28.79%下落しています。過去1年間では30.39%の下落となり、過去2年間では18.87%下落、過去3年間では15.44%下落となっています。9月は24市場のうち全市場が下落したのに対して、10月は24市場のうち20市場が上昇しました(8月は12市場が上昇、7月は17市場が上昇)。トルコのパフォーマンスが最も良く、10月は23.21%上昇し、年初来では49.37%上昇、過去1年間では31.15%上昇しています。2番目はポーランドで10月は14.34%上昇し、年初来では41.94%下落、過去1年間では46.14%下落しました。3番目はハンガリーで10月は13.91%上昇し、年初来では43.96%下落、過去1年間では50.49%の下落でした。中国のパフォーマンスが最低となり、10月は14.86%下落し、年初来では42.22%下落、過去1年間では46.63%下落しました。これに続いたのが台湾で10月は5.05%下落し、年初来では39.37%下落、過去1年間では34.32%下落しました。3番目はエジプトで10月は3.99%下落し、年初来では37.83%下落、過去1年間では35.28%下落しました。

 先進国市場は10月に値を上げ、2021年12月の4.08%上昇、1月の5.82%下落、2月の2.25%下落、3月の2.21%上昇、4月の8.39%下落、5月の0.18%下落、6月の9.09%の下落、7月の7.88%の上昇、8月の4.16%下落、9月の9.79%下落の後に、10月は全体で7.12%上昇しました。先進国市場は米国を除くと、3月の0.54%上昇、4月の7.06%下落、5月の0.16%上昇、6月の10.11%下落、7月の5.23%上昇、8月の4.61%下落、9月の10.46%下落に対して(2月は1.51%下落、1月は5.38%下落、2021年12月は4.73%上昇)、10月は5.25%上昇しました。

 先進国市場は、過去3ヵ月間では7.39%下落、米国を除くと10.11%下落、年初来では21.85%下落、米国を除くと25.83%下落、過去1年間では20.95%下落、米国を除くと26.27%の下落となりました。過去2年間では9.61%上昇、米国を除くと2.37%下落、過去3年間では11.99%上昇、米国を除くと8.75%の下落となりました。10月は25市場中23市場が上昇し、上昇した市場がなかった9月を上回りました(8月は1市場が上昇)。

 パフォーマンスが最も良かったのはノルウェーで10月は11.20%の上昇で、年初来では18.54%下落、過去1年間では21.44%の下落でした。2番目はイタリアで、10月は10.49%上昇、年初来では28.60%下落、過去1年間では28.70%下落しました。3番目はアイルランドで10月は10.48%上昇、年初来では31.56%下落、過去1年間では32.05%下落しました。パフォーマンスが最低だったのは香港で10月は11.96%下落し、年初来では32.69%下落、過去1年間では35.89%下落しました。これに続いたのがシンガポールで10月は0.04%下落し、年初来では22.76%下落、過去1年間では31.41%下落しました。3番目は日本で10月は2.26%上昇し、年初来では25.23%下落、過去1年間では26.38%下落しました。

 注目すべき点として、ドイツは10月に9.11%上昇し、年初来では34.53%下落、過去1年間では35.60%下落しました。英国は10月に6.21%上昇、年初来では20.83%の下落、過去1年間では20.25%の下落となりました。カナダは10月に6.20%上昇、年初来では15.34%の下落、過去1年間では16.51%の下落となりました。
 

 

 

 

 

 

 
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

※このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはサイトをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム