S&P500月例レポート(22年10月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2022年9月
個人的見解:ジャクソンホール後の株価急落の余波は収まらず

 過去の実績を見ると、9月は1年で最もパフォーマンスが低調な月ですが(平均で1.03%下落)、今年もその通りとなりました。S&P500指数は9月に9.34%の広範囲にわたる下落を記録し(9月としては2002年9月の11.00%の下落に次ぐ下落率)、年初来では24.77%の下落となりました。これは2002年の28.94%下落以降では最大の下落率です(とはいえ、少なくともこれに続く2002年第4四半期には株価は7.92%上昇しています)。9月は全11セクターが下落し、S&P500指数構成銘柄で月間の騰落率がプラスになったのはわずか27銘柄でした(これら27銘柄中で年初来の騰落率がプラスとなっているのは14銘柄に過ぎません)。

 ジャクソンホールでのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演をきっかけとした相場下落の流れ(2022年8月26日にS&P500指数は3.37%下落)は、その後も続きました。9月に入ってから底値を拾う動きが散見されたものの、金利の上昇(現時点では、2023年に入ってもしばらくは続くと見られています)と高インフレ(高水準の雇用と強い需要が原因)という現実に対抗するには全くの力不足でした。株式市場は下値支持線とされていた3900を割り込み、6月16日に付けた終値の直近安値(3667)をも下回りました。3600(3610まで下げる場面もありました)を新たな支持線とする動きが続いたものの、取引最終日の大引けでついにS&P500指数は3600を割り込み、3585.62(同日の取引時間中の最安値は3584.13)で9月の取引を終えました。

 今後を展望すると、10月は企業業績の発表が控えています。第3四半期の業績予想はすでに7%下方修正されており、ウィスパーナンバー(アナリストによる非公式の業績予想)の数値はこれよりも若干厳しいものとなっています。(家計部門の消費が続いていた第3四半期の実績値よりも)一層懸念されているのは、第4四半期のガイダンスです。消費を控える動きが見られ、インフレ上昇が続く中、FRBによる「調整」が一段と大きな影響を及ぼしてくるとみられるためです。

 過去の実績を見ると、9月は44.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.28%、下落した月の平均下落率は4.62%、全体の平均騰落率は1.03%の上昇となっています(過去の実績では1年で最も悪い月)。2022年9月のS&P500指数は、9.34%の下落となりました。

 10月は57.4%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.18%、下落した月の平均下落率は4.67%、全体の平均騰落率は0.46%の下落となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2022年11月1日-2日、12月13日-14日、2023年は1月31日-2月1日、3月21日-22日、5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。

 S&P500指数は9月に9.34%下落して3585.62で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス9.21%)。8月は3955.00で終え、4.24%の下落(同マイナス4.08%)、7月は4130.29で終え、9.11%の上昇(同プラス9.22%)でした。過去3ヵ月では5.28%下落(同マイナス4.88%)、年初来では24.77%の下落(同マイナス23.87%)、過去1年間では16.76%下落(同マイナス15.47%)、2022年1月3日の最高値からは25.25%の下落(同マイナス24.35%)となり、今年の安値である3585.62(2022年9月30日)で月を終えました。コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは5.89%上昇(同プラス10.41%)でした。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は8.84%下落の2万8725.51ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス8.76%)。8月は3万1510.43ドルで終え、4.06%の下落(同マイナス3.72%)、7月は3万2845.13ドルで終え、6.73%の上昇でした(同プラス6.82%)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は正式に弱気相場入りし、2022年1月4日の最高値(3万6799.65ドル)からは21.94%下落して月を終えました。過去3ヵ月では6.66%下落(同マイナス6.17%)、年初来では20.95%の下落(同マイナス19.72%)、過去1年間では15.12%下落(同マイナス13.14%)しました。

主なポイント

 ○(FRBが再度0.75%の利上げを決定した後の)金利の動向、企業利益(2022年第3四半期の利益予想は7%下方修正)、個人消費(物価上昇と消費減速)といった要因が株価を押し下げるという懸念を背景に、市場では下値抵抗線を模索する動きが続きました。S&P500指数は3900の抵抗線を割り込み、さらに2022年6月16日に付けた直近最安値をも下回りました(3610.40まで下落)。市場は金利の上昇が長引くことを受け入れ、3600の抵抗線を維持しようと試みましたが、結局9月の終値は3600を下回りました(3585.62)。9月にS&P500指数は9.34%下落し、全11セクターで月間の騰落率はマイナスとなりました。2022年第3四半期は5.28%の下落(月間の騰落率がプラスとなったのは1セクターのみ)、年初来では24.77%下落となりました(同1セクター)。

  ⇒コロナ危機前の2020年2月19日の高値からの上昇率は2022年9月末時点では5.89%でしたが、過去最高値を付けた2022年1月3日時点では41.65%でした。

 ○決算期がずれている企業による2022年第3四半期決算の発表が始まりました。15銘柄中9銘柄で利益が予想を上回り、また9銘柄で売上高が予想を上回りました。第3四半期は前期比17.8%、前年同期比6.1%の増益が見込まれています。

 2022年第2四半期の決算発表シーズンが終わり、暫定分を含む決算内容を振り返ると、372銘柄で営業利益が予想を上回り(74.5%)、102銘柄で予想を下回り、25銘柄で予想通りとなりました。また、売上高は356銘柄で予想を上回り(71.5%)、四半期ベースでの過去最高を更新しました。2022年第2四半期は前期比5.0%の減益(第1四半期は過去最高となった2021年第4四半期から13.0%減益)、前年同期(2021年第2四半期)比10.0%の減益となりました。売上高は前期比2.3%増、前年同期比12.2%増となり、過去最高を更新しました。

 2022年第2四半期中に株式数の減少によってEPS(1株利益)が大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は、2022年第1四半期の16.6%から2022年第2四半期は19.8%に上昇しました(5銘柄中1銘柄近く)。この割合は、2021年第2四半期は5.4%でした(2020年第2四半期は17.8%、2019年第2四半期は24.2%)。2022年第2四半期に、企業によるコスト上昇の転嫁はあったものの、営業利益率は10.86%となり、前四半期の11.93%から低下しました(1993年以降の平均は8.24%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。

 ○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の9月の平均値は1.91%となり、8月の1.28%から上昇しました(7月は1.68%)。年初来では平均1.85%(8月末時点では1.85%)となりました。2021年は0.97%、2020年は1.73%、2019年は0.85%(2018年は1.21%、2017年は0.51%で、これは1962年以降で最低)でした。

 ○S&P500指数は9月に9.34%下落して3585.62で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス9.21%)。8月は3955.00で終えて4.24%下落(同マイナス4.08%)、7月は4130.29で終えました(9.11%上昇。同プラス9.22%)。過去3ヵ月では5.28%の下落(同マイナス4.88%)、年初来では24.77%の下落(同マイナス23.87%)となっています。

 ○バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は6.42%上昇(同プラス9.57%)しています。しかしながら、翌2021年1月20日の就任式以降では6.91%の下落(同マイナス4.52%)となっています。

 ○同指数に関する主な騰落率:2022年1月3日に付けた終値での最高値から25.25%下落(同マイナス24.35%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは5.89%上昇(同プラス10.41%)しています。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債利回りは8月末の3.17%から3.81%に上昇して月末を迎えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは8月末の3.28%から3.77%に上昇して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは8月末の1ポンド=1.1621ドルから1.1149ドルに下落し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは8月末の1ユーロ=1.0052ドルから0.9807ドルに下落しました(同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は8月末の1ドル=138.98円から144.78円に下落し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は8月末の1ドル=6.8904元から7.1160元に下落しました(同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

  ⇒ドル高基調は続き、対英ポンドでの最高値を更新しました(1ポンド=1.0349ドル)。ユーロは8月に対ドルでパリティを割り込みましたが、引き続きパリティを下回って推移し1ユーロ=0.9556ドルまで売られました。

 ○9月末の原油価格は、8月末の1バレル=88.87ドルから同79.73ドルに下落し(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇)、年初来の上昇率は5.7%(2021年末は同75.40ドル)となりました。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は年初来で13.5%上昇しました(9月末は1ガロン=3.832ドル、8月末は同3.938ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は64.7%上昇し(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は64.5%上昇しました(2020年末は同2.330ドル)。

  ⇒EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。

 ○金価格は8月末の1トロイオンス=1722.40ドルから下落して1670.40ドルで月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は8月末の25.87から31.62に上昇して月を終えました。月中の最高は34.88、最低は22.64でした(2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12、2017年末は11.05)。

  ⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。

  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

石油とガス

 ○ロシアは欧州向けのガスパイプライン「ノルドストリーム」を、メンテナンスを理由に閉鎖しましたが、実際には欧州のウクライナへの支持を制限するための威嚇射撃だというのが大方の見方です。ロシアはそれまで、ノルドストリームの稼働率を20%に引き下げていました(現在も状況は変わっていません)。

新型コロナウイルスに加えて今度はサル痘も

 ○サル痘の感染拡大は続いていますが、感染のペースは引き続き鈍化しており、感染拡大に対する懸念も和らいでいます。米疾病対策センター(CDC)によると、現時点で米国内では2万5613人の感染が確認されています(8月時点では1万8417人)。世界全体の感染者数は106ヵ国(同99ヵ国)で6万8017人(同4万9974人)に達しています。

 ○CDCは「BA.4」や「BA.5」といったオミクロン派生型にも対応する新たな新型コロナウイルスワクチンを承認し、9月下旬に接種が開始されました(筆者も接種しました)。

 ○新型コロナウイルス関連データ:

  ⇒新型コロナウイルスによる世界全体の累計死者数は、654万人となりました(8月末時点は648万人)。

  ⇒米国は現時点で:

  ⇒新型コロナウイルスの累計感染者数は9630万人となりました(同9400万人)。

  ⇒新型コロナウイルスによる累計死者数は106万人となりました(同104万1000人)。

  ⇒新規感染者数の7日間平均は9月末時点で4万8806人となり、8月末時点の9万428人から減少しました。新規感染者数の7日間平均は2022年1月11日に141万7493人に達しました(2021年11月末時点は8万3120人)。また、死者数の7日間平均は404人に減少しました(8月末時点は473人)。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム