資源・新興国通貨の2022年12月までの展望

著者:八代和也
投稿:2022/08/01 15:42

豪ドル

豪ドル/NZドルと政策金利差(月足)
豪ドル/NZドルと政策金利差(月足)出所:リフィニティブより作成

RBA(豪中銀)は5月に0.25%、6月と7月にいずれも0.50%の利上げを行っており、現在の政策金利は1.35%です。

RBAは今後も利上げを継続する意向を表明しており、OIS(翌日物金利スワップ)によると、市場ではRBAの政策金利は22年末までに3.10%へと引き上げられるとの見方が有力です。RBAの次回政策会合は8月2日。RBAは8月を含めて年内にあと5回会合を開きます(12月まで毎月開催)。RBAと日銀との金融政策の方向性の違いをみれば、豪ドル/円は堅調に推移する可能性があります。

豪ドル/米ドルについては、米FRBの金融政策にも影響を受けると考えられます。FRBの利上げペースが鈍化するとの観測が市場で強まる場合には、豪ドル/米ドルは底固い展開になりそうです。

豪ドルは、投資家のリスク意識(リスクオン/オフ)の影響を受けやすいという特徴もあります。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合、豪ドル/円や豪ドル/米ドルは上値が重くなる可能性があります。

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豪ドル/NZドルは7月28日、18年8月以来の高値をつけました。豪ドル/NZドルが堅調な主な要因として、市場が「RBAはRBNZ(NZ中銀)よりも積極的に利上げする」とみていることが挙げられます。OISによれば、22年末までにRBAはさらに1.75%利上げし、RBNZはさらに1.25%利上げするとの見方が市場では有力です。

一方で、月足を確認すると、豪ドル/NZドルは13年7月以降、1.10~1.15NZドルのレンジ内で上下動を繰り返しており、現状ではそのレンジ内での値動きとなっています。

長い目でみれば、豪ドル/NZドルはRBAとRBNZの政策金利が重要なカギを握りそうです。09年以降の豪ドル/NZドルとRBAとRBNZの政策金利差の関係をみると、RBAの政策金利がRBNZの政策金利を上回ると、おおむね豪ドル/NZドルは1.15NZドルより上の水準で推移しています。

豪ドル/NZドルが1.15NZドルを超えるためには、RBAの政策金利がRBNZの政策金利を大きく上回る必要がありそうですが、その可能性は低そうです。

市場の見方通りに利上げが行われれば、22年12月末時点の政策金利はRBAが3.10%、RBNZは3.75%となり、政策金利の水準はRBNZの方が高いという状況です。

RBAは市場の見方ほど大幅な利上げを行わないかもしれません。豪州の4-6月期CPI(消費者物価指数)は前年比6.1%と、RBAのインフレ目標(2~3%)を上回ったものの、他の主要国に比べればCPI上昇率は低い状況です(NZのCPI上昇率は前年比7.3%)。また、RBAの5月~7月の利上げペース(合計1.35%)は94年以降で最も速いうえ、今後も積極的に利上げを行えば、豪景気を強く下押しする可能性もあるからです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の利上げペース。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料。
・資源(主に鉄鉱石)価格は上昇するか。資源価格の上昇は豪ドルの上昇要因。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は前回22年7月まで6会合連続で利上げを行っており、現在の政策金利は2.50%です。

NZの4-6月期CPI(消費者物価指数)は前年比7.3%と、90年4-6月期以来、32年ぶりの高い伸びを記録。RBNZ(NZ中銀)のインフレ目標(1~3%)から一段と上方へかい離しました。RBNZは今後さらに利上げを行うとみられます。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物)金利スワップによると、RBNZの政策金利は22年末までに3.75%へと上昇するとの見方が有力です。RBNZの利上げ観測に支えられて、NZドル/円は堅調に推移しそうです。

NZドル/米ドルについては、米FRBの金融政策にも影響を受けると考えられます。FRBの利上げペースが鈍化するとの観測が市場で強まる場合には、NZドル/米ドルは底固い展開になりそうです。

NZドルは豪ドルと同様に、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)にも影響を受けやすいという特徴があります。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合、NZドル/円やNZドル/米ドルは上値が重くなる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・主要国の株価動向には注意が必要。リスクオフはNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品価格の動向。乳製品価格の上昇はNZドルにとってプラス材料。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は前回7月13日の政策会合まで4会合連続で利上げを行っており、現在の政策金利は2.50%です。

カナダの6月CPI(消費者物価指数)は前年比8.1%と、83年1月以来、39年5カ月ぶりの高い伸びを記録。BOC(カナダ中銀)のインフレ目標(2%を中心に1~3%のレンジ)から一段と上方へかい離しました。インフレを抑制するためBOCは今後も利上げを続けるとみられます。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場ではBOCの政策金利は22年末までに3.50%へと上昇するとの見方が有力です。日銀は現在の大規模な金融緩和策を今後も維持すると考えられることから、金融政策面からみればカナダドル/円は堅調に推移しそうです。

米ドル/カナダドルについては、米FRBも利上げを当面続けるとみられます。BOCとFRBの利上げペースに大きな差がなければ、金融政策面からは米ドル/カナダドルに明確な方向感が出にくいと考えられます。

一方で、原油価格や主要国株価の動向には注意が必要です。原油価格が下落を続ける、あるいは主要国株価が下落するなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合、カナダドル/円は上値が重くなり、米ドル/カナダドルは底固く推移する可能性があります。原油安はカナダドルにとってマイナス材料であり、リスクオフは円や米ドルにとってプラス材料だからです。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はカナダドルにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、米ドル/カナダドルは底固く推移か。

トルコリラ

トルコリラは7月29日、対米ドルや対円で21年12月以来、約7カ月ぶりの安値をつけました。トルコリラ安の主因として、トルコの高インフレやTCMB(トルコ中銀)の金融政策が挙げられます。トルコの6月CPI(消費者物価指数)は前年比78.62%と、98年2月以来24年4カ月ぶりの高い伸びを記録しました。インフレ圧力の高まりへの対応策として利上げが考えられるものの、TCMBは21年12月に“利下げ”して以降、政策金利を14.00%に据え置き続けています。その結果、トルコの実質金利(政策金利からCPI上昇率を引いたもの)はマイナス64.62%と、大幅なマイナスとなっています。

金融政策に大きな影響力を持つエルドアン大統領は低金利を志向していることから、TCMBが利上げするのは困難と考えられます。トルコリラには引き続き下押し圧力が加わりやすいとみられ、トルコリラ/円は一段と下落する可能性があります。

金融政策をめぐるエルドアン大統領の言動には要注意です。エルドアン大統領はこれまでに自らの意向に従わないTCMB総裁を解任したことがあるからです(19年7月以降、3人の総裁を解任。直近では21年3月に解任)。エルドアン大統領が総裁を解任するようなことがあれば、TCMBの独立性をめぐる懸念がさらに強まるだけでなく、TCMBは利下げを再開するとの見方から、トルコリラ/円には強い下押し圧力が加わる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。利下げを再開すればトルコリラ安圧力が強まりそう。
・金融政策をめぐるエルドアン大統領の言動には要注意。
・トルコと米国やEUとの関係は改善するか。
・シリア情勢などトルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は21年11月に利上げを開始し、前回22年7月の政策会合まで4会合連続で利上げを実施。現在の政策金利は5.50%です。

南アフリカの6月CPI(消費者物価指数)は前年比7.4%と、09年4月以来、13年2カ月ぶりの高い伸びとなりました。SARBのインフレ目標である3~6%を上回っており、SARBは今後さらに利上げを行うと考えられます(年内の政策会合は9月と11月の2回)。利上げ観測が南アフリカランド/円を支援するとみられます。

一方で、南アフリカでは、発電設備の老朽化などによる電力不足によって計画停電がたびたび実施されています。停電が長期間行われる事態になれば、南アフリカ景気をめぐる懸念が市場で強まって南アフリカランド/円に対して下押し圧力が加わるかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・今後、南アフリカで停電が長期間行われるようなら、南アフリカランド安材料になる可能性も。
・米FRBの利上げペース。
・金など商品価格の動向。商品価格の上昇は南アフリカランドにとってプラス材料。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は前回6月の政策会合まで9会合連続で利上げを行っており、現在の政策金利は7.75%です。

BOMが利上げを続けているにもかかわらず、メキシコではインフレ圧力が高まっています。メキシコの6月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比7.99%、変動の大きいエネルギーや食品を除いたコア指数は同7.49%と、それぞれ01年1月以来、00年12月以来の高い伸びを記録しました。

BOMは今後さらに利上げを行うとみられます。BOMの年内の会合はあと4回(8/11、9/29、11/10、12/15)。金融政策面からみれば、メキシコペソ/円は上昇しやすいと考えられます。

一方で、メキシコペソはカナダドルと同様に原油価格の動向にも影響を受けやすいという特徴があります。世界的な景気減速への懸念が強まる場合、原油需要が減少するとの見方から原油価格に対して下押し圧力が加わる可能性があります。また、主要国の株価が下落を続ければ、リスクオフ(リスク回避)の動きが強まることも考えられます。原油安が進む、あるいはリスクオフの動きが強まる場合には、メキシコペソ/円は伸びや悩むかもしれません(リスクオフは円高要因のため)。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)は利上げを継続するとみられる。メキシコペソ/円を支援しそう。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はメキシコペソにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、メキシコペソ/円は上値が重くなる可能性も。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想