企業価値向上に貢献する投資家とは~的を射た提言に期待

著者:鈴木 行生
投稿:2022/04/08 11:33

・通常、投資家は企業価値を評価する立場であって、企業価値の向上策を具体的に提案することはあまりない。その会社が、今後一層の価値向上を図れるか。その戦略の実効性を何らかの形で評価し、納得した上で投資を行う。

・どうやれば価値向上が実現するかについて、執行サイドが必死で考え、手を打っている。その経営陣に、こうすればもっと価値が上がると提言することは容易でない。多くの投資家は、それは執行サイドの役割であって、自分の仕事ではないと考えている。

・企業のCEOやCFOにとって、投資家との対話(エンゲージメント)は重要である。マーケットからのさまざまな声に耳を研ぎ澄まし、疑問にきちんと応えていく必要がある。投資家の声を経営に活かす度量の広さも必要である。

・しかし、投資家から企業価値向上策について、目の覚めるような提言が出てくるだろうか。相当難しい。その会社の経営戦略をつきつめて考え、グローバルにベンチマークして、会社の戦略を見直す方向で価値向上を実現する提案ができれば、それはあるべき姿の1つであろう。

・誰ができるか。ファンドマネジャーやアナリストが一流の域に達していれば、できるかもしれない。実際に作成するとなると、チームで分析し、将来をシミュレーションして、具体的な提言書にまとめる必要がある。アナリストでいえば、質の高いベーシックレポートに相当する提言書を作って、マネジメントと真剣に議論していくことが求められる。

・こうしたことができる能力が十分でないと、企業とのエンゲージメントにおいて一目置かれる存在にはなれない。ハードルは高いが、それを実現する能力を身に付けることはできる。

・実際、戦略提言をエンゲージメントする運用会社やコンサル会社はある。何らかのファンドを活かして、株主として参加し、企業価値向上の成果を持分に応じて得ていくというビジネスモデルである。

・アクティビストといわれる投資家は多様であるが、本来の価値向上を提言するエンゲージメントで勝負する人々がもっと台頭してほしい。

・米国のバリューアクト・キャピタルが、セブン&アイ・ホールディングス <3382> に事業の選択と集中を迫っている。グローバルなコンビニ事業に集中して、グループの百貨店やGMS(総合スーパー)をダイベストしていくという戦略をどこまで取り入れていくのか。

・バリューアクトのパートナーがすでに社外取締役に入っているオリンパス <7733>JSR <4185> では、同社のロバート・ヘイル氏をどう見ているのか。

・昨年12月にオリンパスの竹内CEOの話をCFOフォーラムで視聴した。オリンパスは創業103年目であるが、2016年頃から新たな成長戦略を立案し、実行しようとしていた。しかし、まだ体制が不十分であった。現在は内視鏡が売上の6割を占め、海外売上比率が8割であるが、当時ガバナンスが整っていなかった。

・2019年にグローバルメドテックビジョンを掲げ、医療機器メーカーとしてなくてはならない存在を目指すと決めた。メドテック業界で世界17位の地位を大きく上げていく。そのために、取締役会のメンバーにバリューアクトのロバート・ヘイル氏と医療機器メーカーでの経験が深いジミー・ビーズリー氏に入ってもらった。

・ヘイル氏には、いわゆるアクティビストではなく、グローバルビジネスを拡大する上での的確な社外人材として、参画を要請した。2人のアドバイスがグローバル化の決め手になっている、と竹内CEOは語る。

・メドテックカンパニーとして、成長性と収益性の向上を目指し、世界水準に高める方針である。営業利益率20%、フリーCF成長率20%以上、ROIC 20%以上、EPS成長25%以上を目標にする。

・竹内CEOは、企業再生を図る中で、グローバルに通用する世界トップクラスの企業へのCX(企業革新)を目指している。その志が、ロバート・ヘイル氏の求めるものと一致した。そこで社外取締役に入ってもらい、適切なアドバイスを受けている。それが役立つと評価している。

・執行役とシニアクラスのリーダーを入れて、既に30人中5割が外国人である。英語は公用語ではなくローカルでよいとしているが、2年を経て英語を普通に使うようになり、仕事のスピードも上がっているという。

・JSRはどうか。宮崎CFO(常務執行役員)の話を、野村IRの個人投資家説明会で聴いた。現在の社長CEOエリック・ジョンソン氏は、日本合成ゴム時代の2001年9月に入社しており、20年以上JSRの中で育ってきた。

・石油化学の合成樹脂からスタートして、ディスプレー材料、半導体材料と、領域を進化させてきた。これからはデジタルソリューション(半導体材料など)とライフサイエンスを成長の二本柱とする方針である。

・フォトレジストの中で、世界シェアNo.1の有力材料を有し、新しい領域ではNo.1のパテントをもつ会社をM&Aした。ライフサイエンスではバイオ医薬品分野で、CDMO(開発製造受託)を伸ばしていく。当社の高分子技術、精密製造技術に、ライフサイエンス領域で実験、診断薬、精製技術などを有する海外企業を4社ほど買収し体制を整えている。

・営業利益率20%、年平均成長20%、ROE10%以上を目指す。ジョンソンCEOも宮崎CFOも、ロバート・ヘイル氏とIRという立場で話をし、従来のアクティビストとは違うと感じた。

・会社の目指す方向と投資態度が一致しているので、社外取締役に入ってもらうことにした。取締役会での議論は活発になっており。企業価値向上のスピードアップも図れそうだと語った。

・ヘイル氏は、短期指向の目先のリストラで利益をあげようとする投資家ではない。グローバルに戦える強い企業を作って、企業価値を上げていこうとする。

・そのためのアドバイスを、戦略を練って提言を行う。オリンパス、JSRとも、会社が目ざす方向と一致していた。それなら、社外取締役として入ってもらった方が戦略実行のスピードアップに役立つと判断した。

・企業のM&A戦略、資本業務提携戦略に加えて、実務能力の高い戦略提言型の投資ファンドが、日本でも育ち始めている。すべてがうまくいくわけではないが、外部の人的資本を活用するという企業価値向上策の成否に注目したい。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム

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