―官民挙げて働き方改革に取り組む日本、大退職時代の到来につながるか―
日経平均株価が不安定な動きを続けている。コロナ禍が長引くなか消費低迷にあえぐ日本経済に、緊迫化するウクライナ情勢を背景としたインフレ懸念が重しとなっている。こうしたなか国内では最近、早期退職優遇制度を活用する企業が相次いでいる。
定年前に退職を希望する社員に対し優遇措置を設けて自主的な退職を促す同制度の多くは、組織の若返りや業績悪化に伴う人員整理のために実施される。また、働き方改革の進展を背景に、業務内容に応じた待遇や人材配置を定める「ジョブ型雇用」への切り替えなど余剰人員が発生するケースもある。ただ、総務省が発表した2020年平均の完全失業率は前年に比べて0.4ポイント上昇したものの、21年には2.8%と横ばいだった。新型コロナウイルス感染拡大の影響により20年は対面型サービス業などの求人は急減したが、21年は人手不足に苦しむ業種の採用ニーズが高まっており、求人倍率も緩やかながら回復基調にある。また、岸田首相が3%超の賃上げに期待を示した22年の春闘の行方も注目されている。
世界に目を向けると、経済活動が再開している米国では、失業率が低下し人手不足が賃金を押し上げており労働市場が「最大雇用」にあるとして、米連邦準備理事会(FRB)が利上げに舵を切った。近い将来、日本でも同様に人手不足による賃金上昇が発生する可能性は高く、就職支援サービス市場の拡大に伴って成長が期待できる関連銘柄の動向は要マークだ。
●賃上げに取り組む日本
21年に早期・希望退職募集を開示した上場企業は80社強で、募集人数は2年連続で1万5000人を上回ったとされている。今年に入ってからも富士通 <6702> が大規模な希望退職者の募集を行うことが明らかになった。しばらくはこうした動きが続きそうだ。昨年早期退職募集を実施した企業の業種別では、アパレル・繊維製品、サービスなどコロナ禍の影響を強く受ける業種が多かったとされている。総務省の「労働力調査」によると21年10-12月期の平均では、転職者数は309万人と前年同期比5万人減となったものの、四半期ベースでは21年の最高数を記録した。これには政府による賃金上昇への積極的な後押しも功を奏しているかもしれない。岸田政権では企業の労働者への分配を促す賃上げ促進税制の拡充などさまざまな政策も検討されている。
●米国では「FIRE」がブーム
コロナ禍であっても労働市場の雇用最大化に成功した米国を見てみたい。米国ではコロナ禍をきっかけに仕事に対する考え方が大きく変化しているとして、自主的に退職を選ぶ労働者が急増し「大退職時代」を迎えている。経済的自立を目指しその成果として早期退職を実現する「FIRE」(Financial Independence Retire Early)がブームで、20年ぶりの高い離職率とあって昨年には度々メディアで取り上げられるほど話題になった。一方、新型コロナワクチンの普及や経済活動の再開などによる人手不足で企業側の採用意欲も高く、賃金上昇などを背景に転職市場は活況を呈している。日本においては今後どのように全体の賃上げにつなげていくか、その道筋はまだ見えないが、少なくともこれまでの人材流動化の妨げとなっていた終身雇用を前提とした日本型雇用慣行を是正する動きは不変で、これが人材サービス関連株の収益機会の拡大につながっていくだろう。
●リクルート、賃金増での転職が増加
こうしたなか、日本を代表する人材サービス大手のリクルートホールディングス <6098> に注目したい。同社は国内最大級の転職サイト「リクナビNEXT」を運営するほか、求人検索エンジン「indeed」なども展開。22年3月期の連結営業利益3500億~3800億円(前期比2.2~2.3倍)の見通しが評価され、株価は昨年11月には8180円と上場来高値を更新した。その後は調整が進み足もと4000円台で落ち着いているが、成長期待は高く押し目買いの候補としておきたい。
同社が提供する転職支援サービス「リクルートエージェント」におけるリポートでは、21年10-12月期の転職決定者のうち「前職と比べ賃金が明確に1割以上増加した転職決定者の割合」は31.5%と2四半期連続で過去最高を更新した。業種別ではIT系エンジニアが36.2%と過去最高の更新を続けているほか、事務系専門職が31.4%と改善基調にある。また、接客・販売・店長・コールセンターが41.1%とコロナ禍前を超える高水準となった。企業の「業況感」は足もとでわずかにプラスに転じた一方、「人員不足感」は、16年ごろの(高い)水準に上昇しており、これが「前職と比べ賃金が明確に増加した転職者の割合」の上昇につながっているとした。
●プロフェッショナル領域で強みのビジョナル
今後、企業の業況感が更に回復し労働需給が逼迫した場合、専門人材やプロフェッショナル人材の確保も難しくなると予想される。そうしたなか、ビジョナル <4194> [東証M]に活躍余地が広がっている。昨年4月に東証マザーズに新規上場した同社は人材サービスの「ビズリーチ」を傘下に持つ。ビズリーチは専門知識や高度なスキルを持つプロフェッショナル人材採用の支援で高実績があり、積極的なテレビCM放送で知名度も高い。初値は公開価格5000円を43%上回る7150円をつけている。同社は昨年12月に、22年7月期の連結営業利益予想を従来の26億7000万円から60億円(前期比2.5倍)へ引き上げた。採用需要が旺盛で、求職者の新規登録やアクティビティーの活発化などを背景に、主力のビズリーチ事業が予想を上回るペースで成長していることが要因。直近15日には第2四半期累計(21年8月~22年1月)営業利益が41億300万円(前年同期比2.7倍)だったと発表した。足もとの業績が好調で通期計画に対する進捗率も高く、通期業績の一段の上振れ余地が意識される。
医師の転職支援を手掛けるメドピア <6095> は、22年9月期の連結営業利益として25億円を見込んでいる。会計基準の変更により単純比較はできないものの実質増益の見通しとあって、昨年11月の発表直後にはストップ高になるなど買われている。また、コロナ需要の一巡により展開する医師会員サイト「MedPeer」の成長性が鈍化するなか、同社に関しては、施策によって競合他社に比べ高い売上成長が継続する可能性があると指摘されている。製薬企業の利用拡大や単価の上昇により、来期以降は新サービスの収益貢献も期待されている。
クリーク・アンド・リバー社 <4763> は映像・ゲーム、ウェブコンテンツなどクリエイティブ分野などでプロデュース(請負・アウトソーシング)、ライツマネジメント(知的財産の収益化)を手掛ける。昨年12月には、ベンチャー企業や大手企業の社内ベンチャーなど、成長段階の企業が求めるクリエイターの採用情報に特化したサイト「HIGH-FIVEクリエイター転職」をオープンし、プロフェッショナル・クリエイターの紹介事業を開始した。22年2月期は4期連続で2ケタ増収を確保し、営業利益は32億円(前期比30.7%増)と最高益更新を見込んでいる。
●世界の経営管理プラットフォーム構築目指すMSジャパン
MS-Japan <6539> は公認会計士、弁護士など管理部門に特化した人材紹介を手掛けるが、50代以上限定の転職支援サイト「エキスパートシニア」も運営。また、仕事に役立つ情報を提供するメディア「マネジー」などもリリースし、経営管理領域を軸に事業ポートフォリオを拡張してきた。今後は人材データベースを更に強化しつつ「BtoB取引プラットフォーム」を構築し、世界一の経営管理プラットフォームを目指すとしている。22年3月期はその構想を具現化する初年度と位置付けており、業績面では2ケタの増収、営業利益15億4900万円(前期比25.0%増)の増益を見込んでいる。
株探ニュース
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