・1月に公正取引委員会が、IPO(新規株式公開)の公開価格について報告書を出した。主幹事証券会社が過小な値付けをしているのではないか、という点に関して、独禁法に反する恐れがあるとして見直しを促している。
・2021年の新規上場企業数は125社(前年93社)、うちマザーズが93社、東証1部が6社であった。業種別では、情報・通信が53社(42%)、サービスが33社(26%)であった。
・あずさ監査法人の「2021年のIPO動向について」というレポートを見ると、海外投資家に向けてファイナンスを実施した会社が31社ほどあった。新しい動きである。新規上場時の初値騰落率は平均で+56.1%と、過去10年ではかなり低い方であった。公募価格割れした会社も20社ほどあった。
・毎年、どんな会社が公開してくるのかには多大な関心がある。その事業内容、ビジネスモデルの新規性については、興味が尽きない。しかし、筆者は新規公開株式への投資は、原則として実施しないことにしている。
・なぜなら、筆者にとって、IPO(新規株式公開)の株価形成は変動が大きいので、的確なバリューションが難しい。公開前に株式を購入できればよいが、それは引受証券会社の裁量によるので、一般顧客が手に入れることは容易でない。
・公開後なら買うことができるが、この価格が妥当かどうかを判断するのが難しい。公開時には目論見書の情報しかないので、その会社の将来性について、経営陣が十分説明する機会は少ない。決算説明会もまだないので、具体的な情報も乏しい。
・しかも、売り手と買い手の需給でいえば、買い手は多くの場合個人投資家であり、売り手は既存の株主の売り出しと公募の株式である。需給で買い手が多いと、株価は高くなる。
・この当初の値上がりをとろうとするデイトレイダーも多い。それは価格形成上必要であるが、妥当な株価水準の判断材料にはなりにくい。
・よって、筆者の場合は、関心ある会社の場合、公開後、株価が落ち着いてきた頃に、会社説明会に何度か参加して、会社の事業内容や経営陣の資質、事業の将来性について詳しく知るようにしている。そこで、ピンとくるものがあったら、そこからしばらくフォローしていく。
・その上で、タイミングをみて株式を少し購入する。株主として、中長期に保有することがよさそうとなれば、買い増していく、という投資行動をとる。それで遅くない。もし状況が変化すれば売却も検討する。
・大事なことは、少数の株式保有に留まる個人投資家に対して、経営陣がきちんと向き合って対話を行う姿勢を有しているかどうかである。
・成長性がはっきりして、一定の時価総額になってくれば、機関投資家も参加してくる。主要株主に機関投資家が増えてきた時でも、個人株主を大事にしてくれるかという点は重要である。
・昨年11月に一橋大学によるKPMG公開セミナーで、鈴木健嗣教授の講演を視聴した。テーマは、「望ましいIPO時の価格形成について」であった。その論点は大いに参考になる。
・IPOで、当該企業に成長資金は十分入っているか。低い価格でIPOされると、十分な資金が調達できない。それが成長の制約になってしまうかもしれない。
・IPO時の価格形成において、過小な値決めをしているのではないか。つまり、実態の価値よりも安い価格でIPOの株価(公開価格)を決める。
・当然、その株を手に入れた投資家は儲かり、引受証券会社は、IPO後の株価が上がることで、みんなに利益が出るので、成功したということになる。
・初期収益率=(市場価格-公開価格)/公開価格でみると、日本は翌日に大幅に儲かる。米国始め、他の先進国はそれほどでもない。統計的にみると、日本は+92%、米国+21%、インド+80%、中国+160%、先進国+10~30%というデータも示された。
・日本は2000年代からこうした状況にある。これはアンフェアではないか。公開価格を決める時、かつては類似会社比準方式で、入札方式を採用していた。それが、1997年からブックビルディング(BB)方式にかわった。米国もBB方式であるが、差が出ている。
・BB方式の方が、実需が反映されるはずである。というが、1)機関投資家は多くのIPO企業があまりにも中小型なので興味がない。2)個人投資家の意向は反映されない。よって、3)証券会社の裁量が大きくなる。4)しかも、算定価格からのディスカウントが要請される。
・では、どうすればよいのか。なかなかうまい手はない。①仮条件の再設定などによって、実需を反映させる工夫をする。2)入札のようなダイレクトリスティングを工夫してBB方式ではない新しい仕組みを検討する。3)公開価格の算定根拠を開示させる。4)IPOもインデックスに入れる。こうした手立てが考えられるが、まだ納得性は十分でない。
・今後もグロース市場への新規公開が増えてこよう。新しい会社が登場してくることは望ましい。そこをどう判断するか。過大な期待をもたせないような適切な情報開示に、さらに踏み込んでほしい。個人投資家にとって、もっとリスクがとれるようなファンドの形成も期待したい。
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