S&P500月例レポート(20年8月配信)<後編>

<前編>の続き

企業業績

 ○これまでに、S&P 500指数構成銘柄のうち、490銘柄が2021年第2四半期の決算発表を終え、このうち利益が予想を上回ったのは422銘柄(86.1%)、予想を下回ったのは53銘柄、予想通りだったのは15銘柄でした。また、売上高に関しては、489銘柄中427銘柄(87.5%)で予想を上回りました。2021年第2四半期の利益予想は1年前(2020年第2四半期末)から37.3%、2021年第2四半期末(2021年6月30日)から18.0%、それぞれ上方修正されています。第2四半期は最高益を更新する見通しで、過去最高を記録して好調だった2021年第1四半期から9.9%の増益、(新型コロナウイルスの影響を受けた)2020年第2四半期から94.5%の増益が見込まれています。

  ⇒2021年通年については過去最高益を更新する見通しで、2020年比で62.3%の増益が見込まれており、2021年の予想PERは22.8倍となっています。

  ⇒2022年は2021年比でさらに9.7%の増益と、再度の最高益更新が見込まれており、2022年の予想PERは20.8倍となっています。

  ⇒2021年第2四半期の決算発表を終えた銘柄のうち、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄の割合は5.5%です(2021年第1四半期は5.8%、2020年第2四半期は17.8%、2019年第2四半期は24.2%)。

個別銘柄

 ○映画館運営のAMCエンターテインメント・ホールディングスAは、年末までにビットコインでの支払いを導入することを明らかにしました。

 ○テスラのオートパイロットシステムを搭載した自動車の衝突事故が複数発生したことを受けて、米当局が調査を開始しました。

 ○オンライン小売大手アマゾン・ドット・コムは、衣料品と日用品を販売し、商品の交換を認める小売店舗をオープンする計画を発表しました。

 ○デルタ・エアーラインズは、同社の医療保険制度に加入している従業員が新型コロナウイルスワクチンを接種していない場合、毎月200ドルを徴収することを明らかにしました。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスはヘルスケア企業のバイオ-テクネをS&P 500指数に採用し、米国の半導体メーカーでアナログ・デバイセズに買収されたマキシム・インテグレーテッド・プロダクツを同指数から除外しました。

注目点

 ○金融プラットフォームのPoly Networkがハッキング被害を受け、6億1000万ドル相当の暗号資産が盗まれました。攻撃を仕掛けたハッカーは「(事件を起こしたのは)楽しむため」というメッセージとともに、盗んだ暗号資産の大半を返却しました。

 ○中国で、ハイテク企業によるデータ収集を制限する新たな個人情報保護法が可決されました(2021年11月1日施行)。

 ○1932年発表のSF小説『すばらしい新世界』(『ブレイブ・ニュー・ワールド』としてドラマ化)の21世紀版さながらに、テスラのイーロン・マスクCEOは特定の作業を行うことができる人型ロボットの開発計画を発表しました。

 ○世界最大の半導体受託生産企業である台湾積体電路製造(TSMC)ADRは価格を最大20%引き上げると発表しました。

 ○ハリケーン「アイダ」が襲来したニューオーリンズでは、ほぼ全面的に停電が発生し、一部の製油所が操業を停止したため、地元のガソリン価格が上昇しています。

  ⇒9月は市場にとってのハリケーンシーズンです。過去の実績を見ると、9月は1年で最も低調な月で、1926年以降、9月は平均で0.99%下落しています。10月は相場の急落が発生しており、1987年10月19日は22.47%、1929年10月28日は12.34%、1929年10月29日は10.16%それぞれ下落しました。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債利回りは7月末の1.23%から1.32%に上昇して月を終えました(2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは7月末の1.90%から1.94%に上昇して取引を終えました(同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは7月末の1ポンド=1.3906ドルから1.3744ドルに下落し(同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは7月末の1ユーロ=1.1869ドルから1.1806ドルに下落しました(同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は7月末の1ドル=109.69円から110.14円に下落し(同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は7月末の1ドル=6.4615元から6.4607元に上昇しました(同6.5330元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○原油価格は7月末の1バレル=73.68ドルから68.60ドルに下落して月を終えました(同48.42ドル、同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、7月末の1ガロン=3.232ドルから3.237ドルに上昇して月末を迎えました(同2.330ドル、同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は7月末の1トロイオンス=1816.80ドルから下落して1815.80ドルで月の取引を終えました(同1901.60ドル、同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は7月末の18.24から16.48に低下して月を終えました。月中の最高は24.74、最低は15.19でした(同22.75、同13.78、同16.12、同11.05)。

  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

インデックス・レビュー

◇S&P 500指数

 S&P 500指数は8月に2.90%上昇して4522.68で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス3.04%)。7月は4395.26で終え、2.27%の上昇(同プラス2.38%)となり、6月は4297.50で終え、2.22%の上昇(同プラス2.33%)でした。過去3ヵ月間では7.58%上昇(同プラス7.95%)、年初来では20.41%上昇(同プラス21.58%)、過去1年間では29.21%上昇(同プラス31.17%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは33.56%上昇(同プラス36.99%)して月を終えました。

 ダウ平均は1.22%上昇の3万5360.73ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス1.50%)。なお、7月は3万4935.47ドルで終え、1.25%の上昇(同プラス1.34%)、6月は3万4502.51ドルで終え、0.08%の下落(同プラス0.02%)でした。過去3ヵ月間では2.41%上昇(同プラス2.88%)、年初来では15.53%上昇(同プラス17.04%)、過去1年間では24.38%上昇(同プラス26.77%)でした。

 S&P 500指数の8月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は7月の0.80%から0.64%に低下し(6月は0.62%)、年初来では0.94%となりました(7月末時点は0.99%)。2020年は1.73%と2019年の0.85%から上昇し、2018年は1.21%、2017年は0.51%(1962年以来の最低)でした。出来高は前月比19%減少した7月から9%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では28%減少し、過去1年間でも7%減少しました。

 8月の前日比で1%以上変動した日数は22営業日中1日となりました(上昇が0日、下落が1日で、2%以上の変動は0日。7月は21営業日中4日で、上昇が3日、下落が1日)。年初来では前日比で1%以上変動した日数は34日(上昇が22日、下落が12日)、2%以上変動した日数は4日(上昇が1日、下落が3日)となりました。2020年は1%以上変動した日数が109日(上昇が64日、下落が45日)、2019年は37日(上昇が22日、下落が15日)でした。

 8月は22営業日中4日で日中の変動率が1%以上となり(7月は21営業日中4日)、3%以上変動した営業日はありませんでした(7月と6月も0日)。年初来では1%以上の変動が59日、3%以上の変動が2日となりました。2020年は1%以上の変動が158日(11月末時点は154日)、3%以上の変動が34日(同34日)、2019年はそれぞれ73日と1日、危機に見舞われた2008年はそれぞれ228日(253営業日中)と75日でした。

 8月は11セクター中10セクターが上昇し、7月の9セクター、6月の6セクターを上回りました。金融が5.00%上昇し(7月は0.61%下落)、騰落率首位となりました。同セクターは年初来では29.94%上昇しています。コミュニケーションサービスが月間と年初来のリターンの両方で僅差で続き、8月に4.99%上昇し、年初来で29.30%上昇しました。不動産も好調となり、8月に2.70%上昇し(7月は4.55%上昇)、年初来ではS&P 500指数のセクターの中でパフォーマンスが最高となる30.71%の上昇となりました。公益事業も8月に3.50%上昇し(7月は4.21%上昇)、年初来で8.71%上昇しました。情報技術は8月に3.44%上昇して年初来の上昇率を21.60%とし、ヘルスケアも2.88%上昇して年初来で18.85%上昇しました。エネルギーは7月の8.44%安に続き、8月も2.88%安と唯一下落しましたが、年初来では26.60%上昇しています。

 8月は値上がり銘柄数が増加し、値下がり銘柄数との差が拡大しました。8月の値上がり銘柄数は325銘柄(平均上昇率は5.45%)と、7月の290銘柄(同5.74%)と6月の218銘柄(同5.66%)を上回りました。10%以上上昇した銘柄数は37銘柄(同13.74%)と、7月の39銘柄(同14.19%)から減少しましたが、6月の31銘柄(同16.73%)は上回りました。25%以上上昇した銘柄はありませんでした(7月は1銘柄、6月は4銘柄)。

 一方、値下がり銘柄数は179銘柄(平均下落率は3.93%)と、7月の215銘柄(同5.14%)、6月の287銘柄(同4.37%)から減少しました。8月の10%以上下落した銘柄数は12銘柄(同13.64%)と、7月の26銘柄(同13.93%)、6月の16銘柄(同12.05%)から減少しました。25%以上下落した銘柄は5月、6月、7月と同様にありませんでした。

 過去3ヵ月間では、値上がり銘柄数は284銘柄(平均上昇率は12.47%)と、7月末時点の290銘柄(同10.17%)、6月末時点の373銘柄(同10.22%)から減少した一方、値下がり銘柄数は220銘柄(平均下落率は8.06%)と、7月末時点の214銘柄(同6.82%)、6月末時点の131銘柄(同4.51%)から増加しました。

 10%以上上昇した銘柄数は137銘柄(平均上昇率は20.84%)と、7月末時点の118銘柄(同18.56%)から増加し、10%以上下落した銘柄も79銘柄(平均下落率は14.44%)と、7月末時点の43銘柄(同15.06%)から増加しました。36銘柄が25%以上上昇した一方(7月末時点は20銘柄)、25%以上下落した銘柄はありませんでした(同1銘柄)。

 年初来では、値上がり銘柄数は442銘柄(平均上昇率は26.29%)と、7月末時点の445銘柄(同22.91%)から減少した一方、値下がり銘柄数は62銘柄(平均下落率は7.81%)と7月末時点の59銘柄(同7.12%)から増加しました。

 10%以上上昇した銘柄数は355銘柄(平均上昇率は31.49%)と、7月末時点の343銘柄(同28.20%)から増加した一方、10%以上値下がりした銘柄数は17銘柄(平均下落率は17.55%)と、7月末時点の18銘柄(同15.33%)から減少しました。205銘柄が25%以上上昇し(7月末時点は166銘柄)、1銘柄が25%以上下落しました(同1銘柄)。

◇世界の株式市場

 8月の世界の株式市場は低調ではあったものの、結果的に上昇した7月の後で、好調となりました。米国市場が引き続きアウトパフォームし、上昇した市場数と下落した市場数の差は改善しました。変異株による新型コロナウイルス感染拡大が8月も続きました。新規感染者数が過去最高となった地域もあり、多くの地域で活動の制限や店舗の閉鎖が行われました。ワクチン接種も米国以外では引き続き拡大しました。米国でのワクチン接種のスピードは鈍化したものの、その後、変異株による感染拡大を受けて加速しました。米国ではワクチンの未接種は、ワクチンの不足ではなく、接種しないことを選択した結果によるものです。

 世界の株式市場全体は8月に2.35%上昇しました。米国市場は2.73%上昇、米国を除くグローバル市場は1.84%上昇しました。8月は50市場中44市場が上昇し、7月の25市場から増加しました(6月は20市場、5月は36市場が上昇)。

 S&Pグローバル総合指数は7月に0.32%上昇した後(米国の1.68%の上昇を除くと1.46%の下落)、8月は2.35%上昇しました(米国の2.73%上昇を除くと1.84%上昇)。6月は1.08%の上昇でした(米国の2.41%上昇を除くと0.60%下落)。

 過去3ヵ月間では、世界の株式市場は3.78%上昇(米国の6.97%上昇を除くと0.25%下落)しました。年初来では14.69%の上昇で、米国の19.66%上昇を除くと8.58%上昇しました。過去1年間では28.19%上昇し、米国の31.55%上昇を除くと23.90%の上昇となっています。より長期では、米国のパフォーマンスが突出していました。過去2年間では、グローバル市場は45.16%上昇しましたが、米国の56.53%上昇を除くと32.11%の上昇でした。過去3年間ではグローバル市場は40.19%上昇し、米国の55.49%上昇を除くと23.49%の上昇でした。2020年11月3日の大統領選挙以降では、グローバル市場は31.35%上昇しましたが、米国の35.56%上昇を除くと26.04%の上昇でした。

 S&Pグローバル総合指数の時価総額は8月に1兆8050億ドル増加しました(7月は2090億ドル増)。米国以外の市場の時価総額は5900億ドル増加(同4640億ドル減)、米国市場は1兆2150億ドル増加しました(同6730億ドル増)。7月は11セクター中9セクターが上昇し、セクター間のばらつきは縮小しました(7月と6月はいずれも6セクターが上昇)。パフォーマンスが最高のセクター(金融、3.87%上昇)と最低のセクター(素材、0.28%下落)の騰落率の差は4.15%となり、7月の9.23%、6月の9.75%、5月の6.73%から縮小しました。

 新興国市場は8月に2.69%上昇しました。7月は6.40%の下落(6月は1.12%の上昇)でした。過去3ヵ月間では2.81%の下落、年初来では3.71%の上昇、過去1年間では19.03%の上昇となりました。過去2年間では30.92%上昇、過去3年間では25.55%上昇しています。

 8月は、25市場中22市場が上昇しました(7月は10市場が上昇、6月は14市場が上昇)パフォーマンスが最高となったのはタイで8月は10.27%上昇し、過去3ヵ月間では0.48%上昇、年初来では4.19%上昇しました。2番目(僅差)はコロンビアで8月は10.27%上昇し、過去3ヵ月間では8.98%上昇、年初来では16.04%下落しました。3番目はフィリピンで8月は10.08%上昇し、過去3ヵ月間では0.11%下落、年初来では5.58%下落しました。

 パフォーマンスが最低だったのはブラジルで8月は2.56%下落し、過去3ヵ月間では4.33%下落、年初来では1.59%下落しました。これに続いたのがパキスタンで8月は2.03%下落し、過去3ヵ月間では9.56%下落、年初来では1.55%下落しました。3番目がペルーで8月は1.26%下落し、過去3ヵ月間では20.66%下落、年初来では26.35%下落しました。

 先進国市場は6月の1.08%上昇、7月の1.19%上昇の後、8月は全体で2.31%上昇しました。米国を除くと1.55%の上昇(7月は0.32%上昇、6月は1.20%下落)でした。過去3ヵ月間では4.64%上昇、米国を除くと0.65%上昇、年初来では16.17%上昇、米国を除くと10.34%上昇となりました。過去1年間では29.41%上昇、米国を除くと25.65%上昇、過去2年間では47.08%上昇、米国を除くと32.58%上昇、過去3年間では42.19%上昇、米国を除くと23.12%上昇となりました。

 8月は25市場中22市場が上昇し、7月の15市場、6月の6市場を上回りました。パフォーマンスが最高となったのはオランダで、8月は7.33%上昇し、過去3ヵ月間では11.59%上昇、年初来では32.50%上昇しました。2番目はポルトガルで8月は7.11%上昇し、過去3ヵ月間では1.75%下落、年初来では0.17%下落しました。3番目はルクセンブルグで8月は5.32%上昇し、過去3ヵ月間では10.24%上昇、年初来では27.56%上昇しました。

 パフォーマンスが最低だったのは8月も韓国で1.51%下落し(7月は4.86%下落)、過去3ヵ月間では4.06%下落、年初来では0.41%上昇しました。これに続いたのが8月も香港で1.25%下落し(7月は4.50%下落)、過去3ヵ月間では9.27%下落、年初来では3.08%上昇しました。3番目はスウェーデンで8月は0.38%下落し、過去3ヵ月間では2.55%上昇、年初来では17.60%上昇しました。

 注目すべき点として、日本は8月に2.98%上昇し、過去3ヵ月間では1.00%上昇、年初来では2.34%上昇しました。ドイツは8月に1.51%上昇し、過去3ヵ月間では0.52%の下落、年初来では9.19%の上昇となりました。英国は8月に0.64%上昇し、過去3ヵ月間では0.90%下落、年初来では12.48%上昇しました。カナダは0.08%上昇し、過去3ヵ月間では1.16%下落、年初来では19.10%上昇しました。
 

 

 

 

 

 

 
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

※このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはサイトをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム