クリプタクト社とミンカブの資本業務提携、ユーザーの利便性向上へまい進」
アズムデ アミン氏(株式会社クリプタクト 代表取締役)
斎藤 岳氏(同 代表取締役)
アズムデ アミン氏(左)と斎藤 岳氏
株式会社クリプタクトは、ゴールドマン・サックス証券で資産運用業務を担当していたメンバーが2018年に設立したFintech企業だ。個人の投資家が適切な判断と問題解決ができるよう、独自に開発したITサービスでサポートすることを目指している。2017年に暗号資産(仮想通貨)の損益計算サービスをリリース。2020年6月に投資SNS「アイデアブック」をリリースした。ミンカブ・ジ・インフォノイド <4436> とクリプタクトは2020年12月に資本業務提携を結んでいる。代表取締役のアズムデ アミン氏と斎藤岳氏にサービスの内容と展望を聞いた。
楽しさ求め仲間と起業
――クリプタクトは、どのような事業を展開していますか?
斎藤 大きく分けて2つのサービスを展開しています。
一つ目は、われわれが創業するきっかけとなった、暗号資産の資産管理をサポートするサービスです。ポートフォリオ管理や損益計算、特に確定申告用に簡単に使えるツールを提供しています。
もう一つが、「アイデアブック」と名付けている、投資家の皆さんがさまざまな投資アイデアを作成し、他の投資家に公開できるサービス。
アイデアブックは株、為替、暗号資産などに対応しており、ユーザーがアイデアを作る際は、シンプルに株だけに投資することもできますし、「株と暗号資産」「株と為替」「株と為替と暗号資産」など、複数の資産を組み合わせた複雑なアイデアを作成することもできます。
また投資期間中は開始(購入)時と現在の差額が、投資期間が終了したら開始時と終了時の差額が損益として表示され、この損益とリターン率が投稿者の成績になります。実際の価格データを利用して計算されるため、信頼性の高い投稿者を見つけることができます。
ユーザー同士が互いの投資アイデアについて意見を交わすことも可能なので、平たく言うと「コミュニティ参加型の投資SNS」ということになりますが、このような仕組みは今までにない、弊社が最初に開発したサービスです。
アイデアとして投稿しなくても、市場動向やニュースなどを気軽にディスカッションできる機能もあります。例えば、私やアミンは、毎日マーケット開始前に、米国・日本の市場動向の見通しや気になる個別銘柄や業界について触れる「モーニングコメント」というものを投稿しています。
アミン アイデアブックのビジョンは、一つのアセットに投資している人が、他のアセットにも出会えることです。
例えば、株に投資している人が暗号資産に出会える。FXに投資している人が株に出会える。もしくは、既に複数のアセットに投資している人でも、もっとベストな組み合わせに気付く。そういった新たな発見ができる機会をクロスアセットで展開しようとしています。
――斎藤さんとアミンさんはゴールドマン・サックスが運営する最大8000億円を超えるヘッジファンドのポートフォリオの投資・運用を担当されていました。お2人とも凄いキャリアを持っていたのに、それを手離して個人投資家に向けた事業へ参入しました。なぜですか?
斎藤 その点は、よく聞かれます。アミンは違うかもしれませんが、私は単純に「こっちの方が楽しそうだったから」なんです。
ゴールドマン・サックス証券には2007年から2019年まで12年弱勤めて、その間にそれなりの実績を残すことができました。資産運用業務が一区切り付いて、経済的にも余裕のある状態になったとき、心の中に「次のチャレンジをしたい」という意欲が湧いてきたんです。お金ではなくて楽しさを追い求めるのもいいかなって。
現在は2つのサービスを展開していますが、今後は更に拡大し、①アイデアの発見、②分析・調査、③売買・投資実行、④資産管理、といった各フェーズに必要なサービス・ソリューションを提供したいと考えています。
暗号資産の確定申告などが簡単にできるサービス
――暗号資産を取引する人のうち、クリプタクトのユーザーはどれぐらいいますか?
斎藤 業界団体の発表では、暗号資産の延べ口座数は四百数十万口座です。コインチェック1社だけでも百数十万口座あるので、国内のユニークユーザーは、おそらく200万人以上はいるのではないでしょうか。一方、われわれのユーザーはおよそ7万人ですから、まだまだ少ない数字です。ただし、同種のサービスの中では、弊社が最も大きなシェアを持っています。
――サービスの特徴は何でしょうか?
斎藤 暗号資産のポートフォリオ管理、損益計算までシームレスにできる点です。特に確定申告に必要な所得額の計算サービスはユーザーにとって便利なサービスだと思います。
――このサービスを使わずに確定申告をやろうとすると、どのような問題があるのでしょうか?
斎藤 確定申告で言うと、大きな問題が2つあります。
一つ目は、収入所得の申告は円でしますが、暗号資産の取引は必ずしも円建てじゃないことです。
株やFXは円で取引され、売った値段、買った値段が一目瞭然です。しかし暗号資産は、暗号資産同士の交換など、円でいくらになるかよく分からない。
また二つ目のネックは、株や為替は自分で計算しなくても、証券会社がやってくれる。でも、暗号資産は暗号資産の特性上、交換所や取引所が代わりにやってくれることはありません。
――自分で計算しなければいけないのに、計算しようにも円でいくらになるかよく分からない。
斎藤 そうです。取引の件数が増え、通貨の種類が増えていくと大変なことになる。全部記録して自分で計算できますか?
――暗号資産の損益計算サービスを最初にリリースされたのは、強いニーズがあったからなんですね。暗号資産取引に対する課税はどうなっているのですか?
斎藤 2017年末に初めて税制の計算のルールができて、毎年追加されています。暗号資産の取引は複雑なものが多いので、追い付くのが難しいようです。
アミン われわれの損益計算サービスは日本のみならず米国やユーロ圏の税制にも対応しています。私は米国籍を持っていて、米国への納税義務もあるのですが、このツールを使えば納税額の計算が簡単にできます。このように国内の納税にも海外の納税にもシームレスに対応できるサービスは、世界的に見ても、ほかにありません。
――みんかぶユーザーにぜひ伝えたいセールスポイントは?
斎藤 弊社のツールは、対応している取引所数、通貨数、計算速度が、国内最高を誇っています。
またDeFiなどの最先端で複雑な取引も、プロジェクトを組んで対応しているところです。
今後、暗号資産は税務調査のリスクが増すと言われています。みんかぶユーザーの皆さんにも、ぜひご利用いただき、確定申告を適切に行っていただきたいと思います。
投資をしている人に新しい気づきを提供する
――アイデアブックには、どういうニーズがあるのでしょうか?
斎藤 アイデアブックは非常に再現性の高いサービスです。
例えば「午後4時にA株を1000株購入し、翌日午前10時に全て売る」というアイデアを投稿する場合、午後4時は市場が閉まっている(リアルタイムの取引価格が存在しない)ため、通常なら午後3時の終値を購入価格とし、翌日の午前10時の売却価格との差額を利益として計算するでしょう。
しかしこの場合、もし午後3時半にTOBが入っていたとしたら、購入価格はそれを織り込んだ価格じゃないと「偽りの利益」を出すことができてしまいます。
そこでアイデアブックでは、株の時間外取引における購入価格は、次の日の午前9時の価格(初値)に設定しています。こうすれば時間外取引で運用成績を良くして、「百発百中だ」と誤解させるような詐術ができません。
また、失敗したアイデア(利益が出せなかったアイデア)を削除できないようにもしています。プラスでもマイナスでも必ず残るようにすることで、いままでのアイデアを見れば「トータルの運用成績が分かる」「自分の運用能力が分かる」という意味が出てくる。自分自身の投資日記として振り返って見ることもできます。
このようにプラットフォームに透明性があれば、他人のアイデアを見るときも「この人は、これだけ当たっているし、これだけ失敗している」「この人はこういうところはすごく得意そうだ」とはっきり理解することができます。また実際に投資をしなくても投稿を積み重ねていくうちに、それを自分のリアルな実績にすることも可能です。
アミン アイデアブックでは1つの投資アセットだけではなくて、株と為替を組み合わせたり、株と暗号資産を組み合わせたりと、複数の資産を跨いだアイデアを作成することができますが、ほかにも保有だけではなく、高度な空売りや短期の売買も可能にして、プロやセミプロでも使えるようになっています。
また、アイデアブックはプラットフォーム上で情報交換を促すきっかけにしたいと思って開発を始めました。だから一度作成したアイデアは削除できないようにして、その人が何をやってきたか、その人が残した成績はいくらかが正確に分かるようにしたのです。
株のことをよく分かっている人は、いいアイデアを作って、それを実績として残して信用を積み重ねていく。そういう信頼できる人とプラットフォーム上で出会えて、その人がやったことや書いたこと、言ったことを見れば、投資の勉強になります。実績のある人と交流すれば、プラスしかない。そういった場を提供できれば、プラットフォームとして、単なる投資記録以上の価値が生み出せると思いました。
――一般投資家は、成績の良い人の真似をすればいい?
アミン コピートレードすれば成功するというものではありませんが、再現性が非常に高いものを提供しているので、コピーもできます。また、成績の良い人をフォローすれば、その人がアイデアを投稿したタイミングで通知が来ます。
――ユーザーはどういう使い方をしているのですか?
斎藤 多種多様ですが、よくある使い方の一つに日記があります。
私自身もリアルな投資を日記のように投稿していて、自分が投資したときは、「こういう理由に基づいて投資しました」と投資メモを付けるようにしています。基本的に投資は長いスパンと思っているのですが、そうすると3ヵ月に1回の決算や、半年前の決算がどうだったかは忘れてしまいます。なので、決算が出るたびに、自分が投稿したアイデアにコメントを残しています。
アイデアブックは、リリースしてから約1年経つのですが、その間の成績を見ることで、自分の投資の考え方が変わってきていることに気付くことができました。「あの時は、こういうつもりで投資してたな」と振り返ることができるということです。ゴールドマン・サックス証券で機関投資家をしていた頃でも投資日記は付けていなかったので、新しい発見になりました。
またこのような日記を公開すると、それを見た人から質問やコメントをもらえます。自分の投資アイデアに対して他人の視点からの意見や理由付けを聞くことができるのは、アイデアブックの大きなメリットだと思います。
あと他人が投稿したアイデアをたくさん見ていると、投資で稼いでいる人を知ったり面白いアイデアを発見したりできる。多くのユーザーはこれを目的にしています。機関投資家でも、全部の株を見ている人はいません。投資家はそれぞれ得意とするエリアが決まっているものですが、他人をウォッチすることで、知らなかったアイデアに出会うことができます。「へえ、そういうことが起きているんだ」、そんな気付きを得るための使い方ができます。
アミン 投稿している人全員をランク付けする「ユーザーランキング」も、信頼できるコンテンツです。自分のランキングや打率、リターンが全体的に見てどうなのか、自分の位置付けを可視化できるし、トータルの成績のランキングも見られるので、投稿する側には、これらが一つのインセンティブになっています。
――ご自身のアイデアブックの成績は、機関投資家時代の実績と比較して、いかがですか?
斎藤 私の場合、リアルに投資しているものをアイデアブックに投稿していますが、プロでやっていたときと比較すると、プロのときよりも成績がいいくらいです。
――腕が上がった?
斎藤 いいえ。機関投資家として投資していたときは、ヘッジファンドという名称の通り、必ずヘッジをしなきゃいけないんです。つまりヘッジファンドは「日経平均が上がると思って買うけれども、どうなるか分からないから、リスク回避のために反対側のポジションも持ちます。例えば日経平均を空売りしておこう」という処理をするのですが、個人だとそんなことはしません。
アイデアブックでは日経平均も上がると思ったら、ゼロヘッジでリスクオールインみたいな一点集中をやっちゃう。そうするとプロ時代より個人の方が成績は良くなります。単純にリスクを取っているだけですが。
アミン 私の投資は95%が米株です。ただし、相当リスクがあるもの。他の人にはあまり勧められないものばかり。
具体的には、コロナ・ショック後に株価が下がった会社を分析し、バランスシートが強い何社かに集中的に投資をすることで、プロ時代をはるかに超える成績を昨年1年間で出しました。銘柄のうち、気がついたら3倍になっていたというようなケースもそこそこあります。ただしアイデアブックはまだ米株に対応していないので、投稿はできません。
近いうちに米株を追加する予定なので、こうした投資をアイデアブックで公開していきます。
斎藤 米株は日本人投資家にお勧めできると思うので、リリースした際はぜひ活用してください。
テスラとかGAFAは知っていても、それ以外はあまり分からないという人が多いと思いますが、その辺はアミンがちゃんとコメントを書いてくれます。「何で投資するのか」とか「この投資の利益はこうだ」とか。そんな投稿は他のユーザーにとっていい情報になると思います。
投資を軸に便利なツールをリリースしていく
――2020年12月に「ミンカブが有する国内外の金融経済データや運営メディアと、クリプタクトが有する投資支援プラットフォームの連携を行うことにより、個人投資家向けのサービス、金融機関向けサービスについて双方の事業を発展させる」とニュースリリースが発信されていますが、連携は進んでいるのでしょうか?
斎藤 具体的に動いているのは、ミンカブが持っている豊富なファンダメンタルなデータを、アイデアブックを中心とした弊社サービスに掲載することです。
アイデアブックはアイデアを投稿できる機能しかありません。例えばトヨタ自動車を知らない人はいないと思いますが、トヨタ自動車がどんな会社で、売り上げはどれぐらいあるのかといった情報がアイデアブックにはありませんでした。そのようなデータがないと投資アイデアは作れませんから、ミンカブさんとの協業でそこを拡充させています。ファーストステップとして、銘柄をクリックするとチャートが出て、売り上げの過去20年の変遷を見ることができるようになりました。
ゆくゆくはミンカブの豊富な情報と弊社が持っている情報分析ツールを融合させて、クロスセルができないかなど、幅広い視野で考えています。
――みんかぶユーザーが、クリプタクトのサービスを利用することのメリットは?
斎藤 いろんな投資のアイデアをユーザー同士が見ることができて、投稿できて、交換できることです。
単に「トヨタ自動車が買いだ」と書いてあっても、その投稿者がどんな人か分からないので情報として無価値です。でも、アイデアブックだとどんな実績の人が書いたかが分かるので、その情報を投資に役立てることができます。
また、毎日投稿される「モーニングコメント」で、機関投資家がどのようにニュースや市場動向を見通しているかをご参考にしていただけると思います。ブルームバーグや日経新聞など、さまざまなメディアから情報収集することが面倒という人は、ぜひご覧いただけると嬉しいです。
――今後、どのように会社を成長させたいお考えでしょうか?
斎藤 私もアミンも実際に投資に関わってきた自負があるので、その経験をうまく生かしながらユニークな会社にしたいですね。機関投資家の経験を持ち、ヘッジファンドで絶対収益で10年超取り組んできて、スタートアップしている会社はなかなかありません。その特色をうまく生かしていきたいと思っています。
具体的には、今後もアイデアブックのように投資に役立つ便利なサービスを開発・提供したいと考えています。ただし投資に便利なサービスは世の中にいっぱいあり、同じことをしても意味はありません。他社がやっていない、他社にはできないことを中心に拡充していきます。
また、われわれは暗号資産に関するICTサービスが強みですが、暗号資産は日進月歩で新しくなっているので、そこに追いついていくだけでバリューになるでしょう。こちらでも最新の取引状況に対応した新たな投資ツールを開発・提供していきます。
◇株式会社クリプタクト
https://www.cryptact.com/
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