・株主優待を実施している上場企業は2021年4月末で1510件であった。アイアールマガジン(野村IR)夏期号にデータが紹介されている。
・導入企業数(各年9月末ベース)は、1992年251社、2001年660社、2011年1046社、そして2021年4月に1510社となった。ピークは2019年の1532社であったから、この2年は減少傾向にあった。
・2008年リーマンショックの時に、業績悪化から株主優待をやめる企業が増加した。優待廃止企業は2008年88社、2009年68社であった。今回はコロナショックの影響があり、2020年は75社であった。
・株主優待では、主に個人投資家に株主なってもらい、配当とは別の魅力で株主を引き付けたいという思いが、企業サイドにある。
・野村IRのサーベイ(複数回答)によると、提供する優待の中身では、①食品(590件)、②金券(537件)、③暮らし(469件)、④教養・娯楽(372件)などが多い。自社の商品を利用するケースや、クオカードを利用するケースも多い。
・人気が高いのは、①食品(63.3%)、②カタログギフトセット(61.8%)、③金券(61.8%)、④食事券(54.6%)、⑤地域特産品(41.8%)などであった。
・優待の中身が1つではなく、選択できるケースも増えている。その中で寄付などの社会貢献を導入するケースも増えている。また、中長期の株主になってほしいという観点で、株式を長く保有すると、優待の内容が充実してくるというケースも増えている。
・このような優待をどのように考えるか。日本では個人投資家向けに人気があり、すでに定着している。個人投資家説明会に出ると、「なぜ株主優待を導入しないのか」、「もっと内容を充実してほしい」という声をよく聞く。
・一方で、機関投資家からは、株主平等の原則に反するので、特定の少数株主を優遇するのはやめてほしい、という意見が一貫してきかれる。
・株主総会に来た株主に、おみやげを配る習慣は急速になくなっている。これは、会場に来れる株主と来れない株主で差が出ることを嫌うからである。かつては、わざわざ足を運んでくれたので、少額の粗品を渡すという考えであった。
・しかし、おみやげ目当てで来る株主もいることから、望まれなくなった。ましてこの2年は、コロナ禍で総会に来ないでほしいという対応も広まった。
・ファイナンスの基本原則からみると、会社は株主のもので、配当は株主還元の1つである。本来、会社の上げた業績はステークホールダーの貢献によるものである。
・株主へのリターンは、キャピタルゲイン(株式価値の向上)とインカムゲイン(配当)の合計である。自己資本を活用するのであれば、自社株買いも株主還元の1つである。ここまでは、株主1株に対してすべて平等である。
・では、株主優待はどうか。100株、1000株、1万株という株式数への比例ではなく、株主1人に対して、何らかの優待を発行する。例えば、株価1000円で100株(1単位)を保有する株主に、1000円相当の商品券やクオカードを出すとする。10万円投資して1000円であるから、1株10円、配当利回りとしてみると1%に相当する。
・株主構成が、機関投資家10%、オーナーファミリー30%、個人投資家60%の企業にとって、株主数が3000人であったとすると、優待は1000円×3000人で3百万円のコストとなる。
・一方、機関投資家(国内、海外含めて)70%、個人投資家30%の大企業で、株主数が10万人であったとすると、優待は1000円×10万人で1億円のコストとなる。
・株主にとって必ずしも平等ではないが、どの株主によりマーケティングして株主作りをしていくかという姿勢が表れている。株主優待は配当ではない。株主作りのマーケティング費用である。実際、会計上、株主優待の費用は交際費扱いである。
・一定の株主数を必要とする企業にとっては、株主優待でプラスアルファの魅力をつけることは有効である。B to Cの企業にとって、株主にも自社商品の顧客になってほしいと考えるのは自然である。B to Bの企業にとっては、自社商品では株主に対応できないので、お米を送るとか、クオカードを送るとかという選択になってきた。
・最近は、それがもっと進んできた。株主優待の商品やサービスの選択肢が増えている。さらに、優待をポイントにして、貯めることによって使える幅も大きく広がっている。
・マーケティング費用であるから、費用対効果が問われる。本業が悪化してくれば、こうした費用も使いにくくなる。株主にも我慢してもらう必要がある。
・また、優待はおまけのようなおみやげであるから、これが高額になるようでは本末転倒である。その時は、機関投資家が業績への影響という観点で本気でものを申してこよう。
・6月の日本ファイナンス学会で、青山学院大学の芦田教授が「株主優待と日銀買入れは新型コロナショックによる株価急落を和らげたか」というテーマで発表を行った。
・そこでのインプリケーションは、株主優待制度のある企業では、株式市場の急落期・回復期のボラティリティ(変動性)が低下する傾向にある。しかし、新型コロナショックでの株価急落を緩和するほどの効果はなかったと分析した。
・個人株主から企業をみると、第1に、本業が中長期にしっかり伸びていくか、業績の安定性は高いか、が重要である。第2に、株主にとっての魅力という点で、配当とともに、株主優待を充実することは一定の有効性を有する。
・但し、企業から見ると、そこには作戦が必要で、1)手間がかからずに、ユニークな魅力をつけること、2)使い勝手のよい喜ばれる中身にすること、3)費用対効果で決して無理をしないこと、が求められよう。
・筆者にとっては、クオカードは便利だが、さほど魅力はない。地域の産品もよいが選択肢がない。ふるさと納税の方が便利である。とすると、ポイントをもらって貯めていって、好きなもの購入するというやり方が合っているように思える。改めて、株主優待の活用を検討したいものである。
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