―デジタル庁発足の9月、DX相場第2章で活躍が見込まれる業績好調株をロックオン―
東京株式市場はここ投資家にとって非常に厳しい地合いが続いている。7月から8月にかけてはまさに試練の夏相場となった。とりわけ企業の決算発表を通過した後の8月第3週は大荒れとなり、週末20日の取引でも日経平均株価は続落し、2万7000円大台攻防の様相を呈した。大引けは2万7000円ラインを首の皮一枚で残したものの、1月6日の安値2万7055円を下回り年初来安値を更新、昨年末以来約8ヵ月ぶりの安値水準に沈んだ。ここは買い向かうにもなかなか勇気のいる場面である。
●悪材料としてモンスター化した新型コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないことが重荷となっているのは言うまでもない。感染力が強く重症化率も高いとされるインド型変異株(デルタ株)の蔓延を背景に、菅政権が緊急事態宣言の対象地域拡大と期間延長を打ち出したことで、経済活動の正常化期待が遠のいた。米中摩擦が先鋭化するなか中国景気のピークアウト観測も出始め、こうした難局に際して、これまで相場の絶対的な拠りどころとなっていた超金融緩和的な環境にも終着点が意識され始めている。来週予定されるジャクソンホール会合で、パウエルFRB議長はテーパリング(量的緩和の縮小)開始時期について言及する可能性が高いとみられており、機関投資家はロングポジションを一部解消し、キャッシュ比率を高めざるを得ない雰囲気が漂っている。
しかし、週末のこうしたムードはこれまでにも何度も繰り返し経験してきた。マーケットが弱気心理に包まれ、売り方(空売り筋)が大上段に振りかぶったような時が、得てして目先の底となるケースが多い。冷静に考えれば、相場を取り巻く過剰流動性は今現在も変わらないどころか、現在進行形で膨張している。仮に今後テーパリングが実施されてもベクトルの向きはこれまでと同じである。水道の蛇口を締めきって利上げに切り替わるまでは、時間軸としてまだ当分の猶予があることを理解しておく必要がある。
●したたかに投資資金を誘引するDX
個別株は長く相場の牽引役を担っていた半導体関連株が戻り売りに押され、ここ動きの出ていた再生可能エネルギーや水素など脱炭素関連株も軒並み崩れ足を余儀なくされた。自動車関連(部品)株も“トヨタショック”の直撃で売り込まれる銘柄が相次いでいる。
投資家の闘争心が萎える(なえる)のも仕方のないところだが、この場面で敢然と強さを発揮しているセクターがある。それは、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連株だ。相場がここまで傷むと、理屈よりも株式需給が圧倒的に優先される。もとより今回の四半期決算で明らかにされたように企業業績は好調なものが多く、流動性相場の環境も維持されているなかで、投資マネーが動きを止めることはない。どこを目指すか。それは「なるべく皆が持っていない株」に流れ込むというのがマーケットの摂理である。これに該当する銘柄が、しばらく投資家の関心の外にあったDX関連銘柄に多くなっている。
●デジタル庁発足で新たな活力が生まれる
菅政権の支持率の低下はまさに危険水域を示唆しているが、そうした政局とは別に、政権スタート時点から看板政策に掲げられていたデジタル庁が9月1日に発足することは株式市場にとっても刺激材料となる。
新型コロナ対応での失敗を、“デジタル敗戦”として世界に発信されてしまった日本だが、個別ベースでみれば国内には優秀な精鋭企業がひしめいている。司令塔となるデジタル庁を中心軸に、企業のみならず個人の生活目線を含めた社会全体のデジタル改革推進に向けた動きが今後加速していく。そうしたなか、これまで電子政府化を阻んでいた縦割り行政からの脱却が、デジタル改革を支える民間企業にも活力を与えていくことになる。
●DX関連の先駆株が証明する資金の流れ
DX相場第2章の始まりを感じさせる動きは既にいくつかの個別株の動向に垣間見られる。例えば、人工知能(AI)技術を使ったデータ収集・分析を売り物とするリーガルテック事業を主力に、ライフサイエンス分野も深耕するFRONTEO <2158> [東証M]はその代表格だ。同社株は今週、好決算発表を契機にマドを開けストップ高に買われた後も上値を指向。週末20日には一時1300円台に乗せ、年初来高値まであと70円、7年ぶりの上場来高値まであと100円あまりに迫る場面があった。全体相場が嵐に見舞われていてもお構いなしである。
このほか、ITニュースサイトを運営しバーチャルイベントで商機を捉えるアイティメディア <2148> や医療データ分析のJMDC <4483> [東証M]、ソフトウェアテスト事業を手掛け、DX投資に伴うシステム導入で収益機会を獲得しているSHIFT <3697> など、好業績に裏打ちされた“DX勝ち組銘柄”には目を見張る強調展開を示しているものも決して少なくないことが分かる。今回のトップ特集では、新型コロナの感染拡大が懸念される状況下にあっても、揺るぎない収益成長シナリオを持つDX関連の好望株を5銘柄選出した。
●好業績光るDX関連の要注目5銘柄はこれだ
【クロスMは強力なDX経営推進で最高値視野】
クロス・マーケティンググループ <3675> は4ケタ大台指向、目先700円台半ばの押し目は買い場と判断される。祖業のネットリサーチ事業から脱却を図り、付加価値の高いデジタルマーケティング分野を深耕することで収益性を高めている。21年6月期は決算期変更に伴う6ヵ月の変則決算ながら、首都圏中心にマーケティングサービス事業を展開するドゥ・ハウスの連結化で営業利益は10億700万円と20年12月期通期の水準を超過した。更に、12ヵ月決算に戻る22年6月期営業利益は19億300万円を予想しており、これは過去最高だった16年12月期の13億4200万円を大幅に上回ることになる。24年6月期を最終年度とする中期経営計画「DX Action 2024」を発表しており、時価総額300億円、売上高300億円、営業利益30億円のトリプルスリーを掲げている。株価は17年6月の最高値1025円(分割修正後)奪回が期待される。
【フューチャーはAI活用コンサルがDXの柱】
フューチャー <4722> は大勢2段上げ前夜、昨年10月につけた高値2347円を早晩クリアして青空圏への飛翔が有力視される。同社はITコンサルティング事業を幅広く展開している。AIを活用したコンサルティングサービス「Future AI」では業界を問わず様々な顧客需要を獲得し、構想段階から効果が発現するまでトータルサポートを行う。金融向けではAI活用の法人融資審査、物流向けでは配送伝票の自動読み取り、医療分野向けではAIを活用したワクチン開発、このほか画像分析や言語解析など多方面で実力を発揮している。また、セキュリティーコンサルティングやIT人材育成なども得意分野だ。21年12月期業績はDX案件の受注が好調で従来見通しを上方修正、営業利益段階で前期比53%増の80億円を予想している。株主還元に積極的で毎期増配を続けている点は評価され、今期は前期実績に6円増配の46円を計画している。
【CACはM&AでグローバルにDX需要開拓】
CAC Holdings <4725> は1500円近辺で売り物をこなし中長期上昇トレンド形成への突入が期待される。独立系のシステム開発会社で医薬品の開発支援事業(CRO)なども展開している。ブロックチェーンなど時代の先端を行く最新技術への取り組みに注力しており、感情認識AIを活用したコミュニケーションアプリなどで独自ノウハウを持っている。業績面では積極的なM&A戦略の推進により、グローバル需要を開拓し利益急成長局面にあるが、企業の急速なDX投資ニーズに対応した経営に主眼を置き商機獲得になお積極的。21年12月期は営業利益が前期比8割増の35億円と急拡大を見込んでいる。株価は抜群の成長力を内包しながらPER12倍程度にとどまっており、年間配当60円と株主還元にも前向きで、配当利回りは4%前後に達する。株価は中長期狙いで19年5月につけた高値1924円奪回から2000円大台指向が期待される。
【ニーズウェルは金融分野のDXが活躍舞台】
ニーズウェル <3992> の600円台でのもみ合いは強気に買い向かって面白そうだ。コンピューターシステムに関する金融を中心とした業務系ソフト及び組込み系ソフトの開発・運用を手掛け、とりわけ基幹系で優位性が高い。RPAやAI技術を融合させた業務効率化ソリューションなどでも実績を積み重ねている。生命保険会社や通信メガキャリアなどエンドユーザーとの直接取引が売り上げの約半分と高水準を占めていることも特長。21年9月期は営業利益段階で前期比18%増の5億8000万円を予想、22年9月期も倉庫管理システムなどの貢献により利益成長トレンドは維持される見通しだ。株価は13週・26週移動平均線を足場に上放れの機をうかがう。業態を考慮すれば15倍近辺のPERに割高感はなく、配当利回りも高い。中期的には20年9月につけた上場来高値1043円(分割修正後)を目指す展開も十分可能なシナリオとなっている。
【日シス技術は教育・医療DXが成長の源泉】
日本システム技術 <4323> は1800~1900円のゾーンを中心としたもみ合いを経て2000円台活躍に向け強調展開が見込める。独立系で業務支援ソフト開発などを展開し、通信や金融向けのほか、教育や医療分野のDX投資需要を取り込む。業績面では長期にわたり成長路線を走り続け、営業利益は前期まで6期連続で大幅増益を続けている点は高く評価される。学校業務改革パッケージの開発及びサービスを行うGAKUEN事業や医療ビッグデータ関連事業の伸びしろに期待が大きい。22年3月期営業利益は伸び率こそ鈍化するものの前期比9%増の13億3000万円を予想。23年3月期も2ケタ成長が見込まれ、13倍程度のPERは成長力の高さを考慮すれば割安といえる。18年10月に2600円の最高値を形成しているが、足もとの営業利益は50%以上も当時の水準を上回っているだけに評価不足が歴然といえる。
株探ニュース
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