・6月に日経と総務省主催で、「世界デジタルサミット2021」が催された。その中の講演や対談を聴いて、今後の投資環境を考える上で参考になりそうな点をいくつか取り上げてみたい。
・テーマは、「ポストニューノーマル~レジリエントな社会を目指して」であった。レジリエンスとは、しなやかな強さ、復元力という意味で、突然の変化への対応力が優れていることを指す。
・日本は、かつてモノづくりで世界の先頭を走ったが、ITを使いこなすという点では遅れをとってきた。デジタルテクノロジーを活かす先進的な企業は存在するし、それを支える電子部品分野でも世界に誇れる企業は多い。
・しかし、今回のコロナショックで、デジタルが使い切れていないことがはっきりした。とりわけ、医療、教育、行政などの分野で遅れが目立ち、世代間、地域間のデジタル格差も制約となった。
・やるべきことははっきりしており、政府の成長戦略「骨太の方針」でもDXを強力に推進する。電子政府をリードするデジタル庁は9月にスタートする。5Gに続くBeyond 5G、つまり6Gについても、R&Dを官民あげて展開する。
・方向は分かるが、うまくいくのか。世界からみて遅れを取り戻せるのか。グローバルに躍進する企業がどんどん出てくるのか。期待は大きいが、懸念も拭えない。
・アーム(Arm、英国、半導体チップのソフトウエア開発)のCEOであるサイモン・シガース氏は、DXの質的向上はこれからであり、やるべきことが山のようにある。よって、モバイル向けを中心とした半導体チップの将来について全く心配していない。
・クラウドは拡大し、オフィスのDXもポストコロナでさらに高度化してくる。いたる所で監視ニーズが高まり、需要が増えてくる。半導体チップについて、コロナ前は需給が一定のバランスを保っていたが、現在は需要が指数関数的に供給力を上回っている。
・いずれ供給力は追いついてこようが、供給拡大のための投資については、その回収が読めることが重要である。過剰投資になって、需給バランスが崩れることを供給サイドは常に恐れる。だが、今は将来に対して楽観的であるという。リモートニーズが圧倒的に増えてくる。EVも大きく伸びてこよう。インテリジェントなICチップが必要になってくるので、投資はいたる所で拡大するとみている。
・一方で、地勢学的リスクが高まっている。ICチップをどこで生産するのか。主要な国々は、自国に生産拠点を確保したい。台湾、中国依存では困る。米国もECも日本も、自国で一定のICチップ拠点を確保したいと考えている。SCM(サプライチェーンマネジメント)において、分散化とそのコストをどのように克服するかが問われている。
・シガースCEOは、DXの高度化がさまざまな組織の管理と、迅速な意思決定に必須であると強調する。この点で、3つの変化に着目したい。第1は、コンピューティングの量が拡大する中で、エネルギー効率の向上が不可欠である。さもないと発電コストや環境負荷が大きな制約となる。
・第2は、次の10年をみると、省エネと安全(セキュリティ)に対応した商品が決定的に重要で、コンピューティングのソリューションをAIで解決していく必要がある。
・第3は、そのための戦略として、アームはエヌビディア(NVIDIA、画像ICチップメーカー)に買収されることに同意した。ソフトバンクグループ(SBG)が2016年にアームを買収したが、これによって大型の長期投資が実行できた。これは非上場となったおかげであり、孫氏もその経営を認めてくれた。SBGはエヌビディアの株主でもあるので、次の展開も期待できよう。
・エクイニクス(Equinix、米国)のCEOであるチャールズ・マイヤーズ氏は、データセンター(DC)のインターコネクション(相互接続)を強調した。エクイニクスは世界最大のDC企業である。コロナによって、リモート(Zoom、Webex、Teamsなど)が伸びた。これにもDCが必要である。エクイニクスは、GAFAにもNTTにもサービスを提供している。
・DCのインターコネクションは、血液のようなもので適切にスムーズに流れないと役割を果たすことができない。つながりが大事で、ストレージしつつ、リアルタイムに使うことが拡大している。リテールでも、ゲームでも、工場でも、交通でも、リアルタイムでの流れがカギを握る。5Gの普及でインターコネクションが益々重要になってこよう。
・パブリッククラウド、プライベートクラウド、そしてエッジのつながりに向けて、投資はさらに必要になってくる。マイヤーズCEOは、1)日本の企業は世界のニーズを知って、グローバルにデジタル化を進め、そして、2)新しいテックを取り入れてそのペースを速めることが必要である、と強調する。
・今後の課題として、1)DXは誰もがやろうとしているので、いかに俊敏に信頼性を持って、サービスを提供していくか、2)ハイブリッドクラウドを統合していくアプリをうまく生み出していけるか、3)インフラの分散化を的確に遂行できるか、という点を挙げた。
・エクイニクスは26カ国で事業を展開するが、日本ではまだトップではない。アジアのシェアを高めると共に、日本でも№1を目指すべく戦略を打ってこよう。
・NTTの澤田社長は、社会の脅威として、①パンデミック、②自然災害、③安全保障、④エネルギー、⑤食料、⑥経済の6つをあげた。これらに、いかに立ち向かうのか。
・実際、ワクチンの自国開発・生産が必要である。米中などに有事が生じた時のサプライチェーンマネジメントが問われる。日本は再生エネルギーで相対的に不利なポジションにいる。経済的な停滞で、この20年、日本は相対的に貧しくなっている。これらの対応には、分散型ネットワーク社会の形成がカギである、と位置付ける。
・NTTグループの新しい経営スタイルとして、澤田社長は、1)クラウドベースのゼロトラストシステム、2)事業プロセスのDX、3)リモートワークインフラで職住近接、4)組織の地域分散、5)人材のダイバーシティとジョブ型人事制度の導入、6)情報インフラの地産地消、を強力に推進すると語った。
・KDDIの高橋社長は、コロナ禍によって、ライフスタイルが変化し、価値観も変化しつつあるとみている。フィジカル空間がメイン、サイバー空間がサブではなく、サイバー空間がもう1つのメインになってきた。コロナによって社会的課題が浮き彫りになり、SDGsへの貢献がどの組織においても問われるようになった。その解決には、通信テクノロジーの革新とDXの推進がカギを握っている、と強調した。
・DXとは、ITの言い換えではなく、1)BM(ビジネスモデル)の変革であり、2)つながり続けることであり、3)リカーリング(継続循環的)な価値と収益を作り出すことである、と高橋社長は語る。
・例えば、①トヨタとの「つながるクルマプロジェクト」、②JR東日本との「空間自在プロジェクト」、③MICINによるオンライン診療、④ローソンとの食品ロス削減に向けた個店単位の1to1マーケティングなど、さまざまな取り組みが始まっている。
・KDDIは、「NEXTコア」として、通信、IoTで事業ドメインの拡大を目指す。1)コーポレートDX、2)ビジネスDX、3)事業基盤DX、によって、スマートワークにおける働き方のデータ可視化、BMに効くデジタルゲートやデジタルデザインの推進、サイバー空間のライフスタイルへの応用を目指す「リサーチアトリエ」の設置、などに取り組んでいる。
・このようにDX投資は大きく盛り上がってこよう。半導体は供給不足が続く。人材も圧倒的に不足している。DXでBMの革新ができるようなマネジメント人材は限られている。こうしたショーテッジ(供給不足)にいかに対応するか。若いベンチャー企業にとっても大いにチャンスがあろう。ポストコロナの新しいDXの成長に期待したい。
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