クオールHD Research Memo(2):大手調剤薬局チェーンで保険薬局事業と医療関連事業を両軸に展開

配信元:フィスコ
投稿:2021/07/06 15:02
■会社概要

1. 沿革
クオールホールディングス<3034>は1992年、現取締役会長の中村勝(なかむらまさる)氏により設立された。1993年に日本橋兜町に調剤薬局第1号店を開設以来、自社出店に加えてM&Aを積極的に活用して調剤薬局店舗網の拡大を進めてきた。その傍ら、関連事業・周辺事業への進出も図り、2003年にはフェーズオン(株)を設立して治験関連事業に進出したほか、2008年にはクオールメディス(株)を設立し労働者紹介・派遣事業を開始した。

その後、同社は保険薬局事業とBPO事業(現、医療関連事業)の2つの事業セグメントに事業を整理し、経営の効率化と業容の拡大を図り、2018年10月に持株会社体制へと移行した。同社本体は純粋持株会社としてクオールホールディングス(株)に社名を変更し、コーポレート・ガバナンスの充実やグループの中長期成長戦略の策定、グループ全体の統率等に取り組んでいる。保険薬局事業についてはクオール(株)やM&Aでグループ化した企業等で展開しており、医療関連事業については、アポプラスステーション(株)でCMR派遣を中心としたCSO事業を、2019年8月に子会社化した藤永製薬で医薬品製造販売事業をそれぞれ展開している。また、2020年2月に分社化し、同年8月より事業展開しているアポプラスキャリア(株)は、薬剤師等の医療系人材紹介派遣事業の事業展開を促進するため、アポプラスステーションから事業移管している。

同社が、保険薬局事業と医療関連事業の2軸で事業展開を進めているのは、収益の安定性を高めながら事業成長を図ることが狙いとなっている。保険薬局事業については安定して収益を獲得できる事業ではあるものの、医療行政の方針(2年に1度の診療報酬改定等)によって収益変動リスクがつきまとう。改定年度では、収益面でマイナス要因となることが多く、こうしたマイナス分を医療関連事業でカバーすることで全体の収益を安定して伸ばしていくことが可能となる。

事業セグメント別の収益の構成比を見ると(2021年3月期実績)、保険薬局事業が売上高の91.5%、営業利益の82.7%を占める主力事業となっている。


『マンツーマン薬局』と異業種連携による『新業態』薬局を展開、M&Aも活用しながら店舗数を拡大
2. 保険薬局事業
(1) 事業規模と業界内でのポジショニング
保険薬局事業セグメントの主な事業内容は調剤薬局の運営となり、2021年3月期末の店舗数で見ると、総店舗数811店舗のうち97%にあたる790店舗を調剤薬局で占めており、残り21店舗は病院内売店の運営となる。また、セグメント売上高のうち約92%は処方箋売上高(いわゆる調剤売上高)が占めており、残りは薬局やコンビニ、病院内店舗での商品販売や、クオール公式通販サイト内での健康食品、衛生用品等の販売収入となる。

調剤薬局業界における同社のポジショニングについて見ると、店舗数では上場している調剤専門チェーンのなかでアインホールディングス<9627>(2021年4月末で1,134店舗)に次ぐ2番手、売上高についてはアインホールディングス、日本調剤<3341>に次ぐ3番手となっている※。日本調剤は店舗売上高の大きい門前薬局での展開が多いことから、売上高では同社を上回る。

※未上場企業を含めると、さくら薬局を運営するクラフト(株)が2020年3月時点で1,002店舗、売上規模で1,937億円となっており、同社は店舗数で3位、売上高で4位となる。


(2) 店舗戦略
同社の店舗戦略の特徴の1つとして、タイプの大きく異なる2つの業態で事業を展開していることが挙げられる。1つは『マンツーマン薬局』であり、もう1つはコンビニ大手であるローソン<2651>ビックカメラ<3048>等異業種との連携による『新業態薬局』となる。

マンツーマン薬局とは、通常のクオール店舗を対象とした店舗展開の基本スタンスを表象するコンセプトであり、事業モデルにおける“コアビジネス”でもある。そのポイントは処方元医療機関とクオール薬局との深い連携関係にある。“マンツーマン”という言葉は医療機関との深い連携関係をするために使用されていると弊社では理解している。マンツーマン(1対1)という言葉からは、1つのクオール薬局は1つの処方元医療機関とだけ連携を深めるとイメージしがちだ。しかし実際には、1つの薬局は複数の医療機関と深い連携関係を構築していることが多いもようだ。

マンツーマン薬局では医療機関との連携を生かして効率的でローコストのオペレーションを実現し、その果実を患者のためのサービス向上に資することを目指している。具体的には、マンツーマン関係にある処方元医療機関の診療科目や地域性等に応じて店舗設計や機能を変化させた店づくりを追求している。その原資は、マンツーマン経営の利点である医薬品在庫の効率化をはじめとする店舗の低コスト構造から生み出される。同社はマンツーマン薬局のコンセプトのもと、患者にとって利用価値の高い、患者から選ばれる薬局づくりを店舗戦略の中核に位置付けている。また、医療機関との連携を本質とするマンツーマン薬局のコンセプトは、国が掲げる『患者のための薬局ビジョン』に沿ったものと言え、成長戦略においても重要なポイントとなっている。さらには、2019年の薬機法改正によって2021年8月から導入される認定薬局制度(詳細は後述)においても強みになると弊社では見ている。

もう1つの業態である、異業種との連携による新業態薬局の展開は、2009年6月の薬事法改正により、コンビニやドラッグストア、スーパー等の他業種店舗が登録業者として、一般用医薬品(いわゆる大衆薬)を販売できるようになったことが背景にある。これを機にドラッグストア等で調剤薬局事業に参入する流れができ、それを迎え撃つ施策として同社は既述の2社との事業連携に踏み切り、その後も他異業種との事業連携等を逐次推進してきている。

事業連携を通じた店舗が“新業態”とされるのは、マンツーマン薬局との対比において、ターゲット顧客層が異なるためだ。マンツーマン薬局では顧客層がある程度絞り込めるため、医薬品在庫等もそれを念頭において効率化されたものとなっている。一方、新業態薬局は人通りの多い立地で不特定多数の顧客をターゲットとする、いわゆる面対応型薬局となる。このため、店舗の在庫管理等の点でマンツーマン薬局よりも負担が増えるが、より多くの来店客数(すなわち処方箋応需枚数)を期待できることにもなる。マンツーマン薬局をコアモデルと位置付けつつ、新業態でも展開することで顧客層の拡大を図るというのが同社の狙いとなっている。

なお、2021年3月期末の地域別出店数を見ると、関東が333店舗(構成比41.1%)と最も多くなっており、次いで関西が136店舗(同16.8%)、甲信越が107店舗(同13.2%)となっている。東京を創業地として店舗展開してきたことから関東圏が多いが、2016年3月期末からの増加数で見ると、甲信越が94店舗、関西が52店舗とそれぞれ関東を上回っている。甲信越では2016年10月に新潟に拠点を置く(株)共栄堂を子会社化したこと、関西でも2018年から2020年にかけて複数のM&Aを実施したことが主な増加要因となっている。同社は店舗拡大戦略として、自力出店に加えてM&Aによる店舗拡大を積極推進しており、今後も東名阪エリアを中心に店舗を拡大していく戦略だ。人口構成比率との比較で見ると、関東は上回っているものの、東海・北陸エリアについては大きく下回っており、特に愛知県を中心とした東海エリアの開拓が今後の課題と言える。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)


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