資源・新興国通貨の2021年9月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2021/05/31 15:52

豪ドル

RBA(豪中銀)が金融政策運営で注視している失業率は改善傾向にあり、20年6月と7月に7.4%だった失業率は21年4月には5.5%まで低下しました。豪州ではコロナの感染者は抑えられていることから、豪景気は今後堅調に推移するとみられ、失業率の低下傾向は続くとみられます。

RBAは「少なくとも24年まで利上げの条件は満たされない」との見通しを示す一方、市場では早ければ23年半ばに利上げが行われるとの観測があります。失業率の低下が続けば、利上げ観測が高まって豪ドル高材料となり得ます。

豪ドルはまた、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。コロナのワクチン接種が進んで世界の景気回復への期待が高まる、あるいは主要国の株価が上昇を続ければ、リスクオンが強まる可能性があります。リスクオンは豪ドルにとってプラス材料です。

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豪ドル/NZドルは引き続き、1.00000~1.15000NZドルのレンジ内で推移しそうです。ただ、RBAよりもRBNZ(NZ中銀)の方が先に利上げするとの観測が市場であり、その観測が豪ドル/NZドルの上値を抑えるかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の金融政策。RBAは失業率を注視。
・投資家のリスク意識の変化。
・資源(主に鉄鉱石)の価格動向。
・米中関係、豪中関係、中国経済の動向(中国は豪州の主要輸出先)。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は5月26日の会合で政策金利を0.25%に据え置く一方、早ければ22年7-9月期にも利上げする可能性を示しました。

<RBNZの金融政策報告における政策金利見通し>
※現在の政策金利は0.25%
・21年6月~22年6月まで:0.3%
・22年9月:0.5%
・22年12月:0.7%
・23年3月:0.9%
・23年6月:1.0%
・23年9月:1.3%
・23年12月:1.5%
・24年3月:1.6%
・24年6月:1.8%

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、本稿執筆時点で市場が織り込むRBNZ(NZ中銀)の利上げ(幅は0.25%と仮定)の確率は、22年4月に50%を超えます。市場は22年4月の利上げを有力視しているようです。RBNZの利上げ観測はNZドルにとってプラス材料と考えられます。

NZドルは豪ドルと同様、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。今後、主要国で経済活動の正常化が一段と進めば、世界の景気回復への期待が市場で高まるとみられます。その場合にはリスクオンが強まり、NZドル高材料になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米中関係、中国経済の動向(中国はNZの主要輸出先)。
・乳製品(NZ最大の輸出品)の価格動向。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)の金融政策見通しを背景に、カナダドル/円は堅調に推移しそうです。BOCは4月の会合で、カナダ国債の買い入れ額を週40億カナダドルから30億カナダドルへと減額することを決定。主要国の中でいち早く量的緩和を縮小しました。市場では、7月にも量的緩和を一段と縮小するとの観測があります。BOCはまた、早ければ来年下半期にも利上げする可能性を示しています。

米国の景気回復もカナダドル/円にとってプラス材料。カナダの輸出全体の7割強は米国向けのため、米景気回復はカナダ景気を押し上げるとみられます。

加えて、原油価格(米WTI原油先物など)が堅調に推移すれば、カナダドル/円は93.210円(15年10月と11月につけた高値)に接近する可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の金融政策。
・米国景気の動向。
・資源(特に原油)価格の動向。
・米国の対カナダ政策。

トルコリラ

エルドアン大統領は3月20日、インフレ抑制に向けて積極的に利上げを推進していたアーバルTCMB(トルコ中銀)総裁を解任。それから2カ月あまりの間にTCMBの金融政策委員会のメンバー7人のうち、4人を解任しました(アーバル総裁、副総裁2人、政策委員1人)。

市場ではTCMBの独立性をめぐる懸念が高まっており、その懸念が後退しない限り、トルコリラ/円には下押し圧力が加わりやすいとみられます。

利下げ観測もトルコリラの重石となりそうです。TCMBは政策金利について、「インフレ率(CPI上昇率)よりも高い水準に設定する」との方針を示しています。この方針はタカ派的にみえるものの、カブジュオール総裁の過去の経歴やエルドアン大統領が低金利を志向していることを考えると、違った見方もできます。

TCMBの政策金利は19.00%。4月のCPI(消費者物価指数)上昇率は17.14%です。上述のTCMBの方針に照らせば、すでに利下げ余地がある(ハト派的)とみなすことも可能です。TCMBは「CPI上昇率は4月にピークに達し、その後は低下する」との見通しを示しており、早期に利下げを開始する可能性があります。

一方で、最近の資源価格の上昇やトルコリラ安の影響によって、TCMBの見通しに反してCPI上昇率は今後一段と加速する可能性もあります。政策金利とCPI上昇率が接近する場合、TCMBは利上げできるのか疑問です。

トルコリラ/円はいずれ、過去最安値の11.998円(20年11月)割れを試すかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。
・トルコは外貨準備の売却を再開するか
・トルコとEU、米国との関係。
・トルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は5月20日の会合で政策金利を3.50%に据え置きました。クガニャゴSARB総裁は会合後の会見で、最近のインフレ加速は一時的な現象との見方を示しつつも、「インフレ見通しに対するリスクは上向きだ」と指摘。「(今後)インフレにサプライズがあれば、SARBは適切に行動する用意がある」と述べました。

南アフリカの4月CPI(消費者物価指数)は前年比4.4%と、前月の3.2%から上昇率が加速し、20年2月以来の高い伸びを記録。SARBのインフレ目標(3~6%)の中央値である4.5%に接近しました。

市場ではSARBの次の一手は利上げとの観測があり、クガニャゴ総裁の発言はその観測を補強する内容でした。利上げ観測に支えられて、南アフリカランド/円は堅調に推移しそうです。

一方で南アフリカでは、エスコム(国営電力会社)の資金不足によって計画停電がたびたび実施されています。今後も計画停電が頻繁に行わるようなら、南アフリカ景気への懸念が高まり、ランド/円の上値を抑える要因となる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の金融政策。
・米FRBの金融政策に関する市場の観測。
・資源価格の動向。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は19年8月に利下げを開始して以降、21年2月まで合計4.25%の利下げを行いました(現在の政策金利は4.00%)。

BOMは5月13日の会合時の声明で、総合CPI(消費者物価指数)やコアCPIについて、「いずれも2022年第2四半期(4-6月期)から3%の目標へと収束する」との見通しを示しつつも、「インフレをめぐるリスクバランスは上向きに傾いている」との文言を追加。それを受けて、市場では、BOMの利下げ局面は終了し、次の一手は利上げとの観測が高まりました。メキシコの4月総合CPIは前年比6.08%、コアCPIは同4.13%。いずれもBOMのインフレ目標(3%)を大きく上回っており、目標の許容レンジ(2~4%)の上限も上回っています。

BOMの政策金利の水準は主要国中銀と比べて高い状況。BOMが利下げする可能性は低いとみられることから、政策金利面の優位性は今後も保たれそうです。

原油価格(米WTI原油先物など)の動向にも目を向ける必要があるものの、メキシコペソ/円は堅調に推移すると考えられます。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)の金融政策。
・米景気動向。
・資源(主に原油)価格の動向。
・米FRBの金融政策に関する市場の観測。
・米国とメキシコの関係。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想