【Alox分析】今年の倒産を予測する – 2021年 –

著者:塙 大輔
投稿:2021/02/03 11:00

例年通り、2020年の倒産動向を振り返り、2021年の倒産について予測する。

【2020年の倒産件数(全企業)】

倒産件数 7,773社 〔2019年:8,383社〕 <前年比0.93倍>
負債総額 1兆2,200億円 1兆2,200億円 <前年比0.86倍>

今年の倒産件数は、新型コロナウイルス対応融資などにより、抑制された。

1月~4月までは前年同月よりも多い件数が続いていたが、裁判所が「破産などの不急の申立てを控えるよう要請」したため、5月は前年同月比の半分(314件)の倒産件数となった。

5月以降(6月を除いて)、ほぼ前年同月比20%減の倒産件数となり、バブル期(7234件)並みの倒産件数となった。

≪2010年~2019年倒産件数(全企業と上場企業)の棒グラフ≫

 
http://alox.jp/dcms_media/other/210118_kensuu.pdf

【2020年の倒産件数(上場企業)】

倒産件数 2社 〔2019年:1社〕 <前年比2.0倍>

2020年の上場企業倒産は、東証1部のレナウンとジャスダック上場のNutsの2件である。

ただし、倒産のカテゴリーには含まれないが、児玉化学工業【東証2部】、サンデンホールディングス【東証1部】、ユー・エム・シー・エレクトロニクス【東証1部】が事業再生ADRを申請した。

直近10年間の上場企業の倒産件数と日経平均株価の推移は、下記の通りである。

『上場倒産件数と日経平均株価【大納会終値】の推移』

 
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の棒グラフ≫

 
http://alox.jp/dcms_media/other/210118_stockkensuu.pdf

≪上場企業の倒産件数と大納会終値の折れ線グラフ≫

 
http://alox.jp/dcms_media/other/210118_relation.pdf

【今年は?】
需要喪失の影響により、上場企業、全企業の両方ともに、昨年よりも倒産件数は増加する。

【重大イベントカレンダー】
今年の政治経済にインパクトがあるイベントを列挙した。
このイベントの情報等を踏まえて、倒産件数に影響のある要因を〔ネガティブ〕と〔ポジティブ〕に分けて、記載する。
 

 

〔ネガティブ要因〕
(1)
新型コロナウイルスの沈静化可否
2021年1月23日現在、米国における新型コロナウイルスの死者は41万人を超えた。
第二次世界大戦の米国戦死者29万1557人も上回り、世界の中でも突出している。
その他の国では、ブラジル21万人、インド15万人、メキシコ14万人、イギリス9万人、イタリア8万人、新型コロナ対策の優等生と言われるドイツでさえ5万人である。
日本の死者数は約5064人であり、死者数という観点では抑制されている方だ。

現時点では、新型コロナウイルスの沈静化は、「有効なワクチンの普及」の一点にかかっている。
ただし、日本人は薬害エイズ事件によるワクチンへの不信感があるため、ワクチン接種をためらう人は多い。
それゆえ、「有効なワクチンがあっても、新型コロナウイルスは沈静化しない」という可能性も充分にありえる。
つまり、「新型コロナウイルスの感染者は一定数いる」という状態が、ニューノーマルであり、平時と捉えるべきだろう。

(2)銀行と投資ファンドの将来見通し
銀行は、新型コロナウイルスの資金繰り支援のため、積極的な融資を行っている。
その一方、将来の倒産に備えて、貸倒引当金を積み増している。
つまり、回収できない債権(不良債権)が増えることを想定している。

また、過剰債務企業、不良債権や倒産の増加を見越して、投資ファンドが資金を確保し、虎視眈々と投資チャンスを狙っている。
2021年1月13日の日本経済新聞によれば、「日経内投資ファンドのニューホライズンキャピタル(東京・港)は2021年中に、金融機関から不良債権を買い取って対象企業の再建を支援するファンドを設立する。」という。

つまり、当事者以外で、最も企業の経営状態を把握可能な立場の銀行は、「今後、倒産(休廃業も含む)は増える」と予測しているのだ。

(3)借金の膨張する各国政府の債務不履行懸念
新型コロナウイルス対応のため、日本のみならず、世界中で金融緩和や膨大な支出がなされている。
日本では、日本銀行が約45兆円の国債を買い進め、市中に現金を供給した。
さらに、日本政府は、全国の信用保証協会を通じて、金融機関の融資を保証している。
その保証承諾件数は、リーマンショック時(2008年)の130万件とほぼ同等の件数に達しており、月当たり5~6万件の保証承諾件数が、2020年6月には31万件となり、「平時の6倍の数」を記録している。

“異常事態”のため、ある程度の資金供給は、やむを得ない。
しかし、大半の国では、借金に基づく政策が多く、過剰債務となりつつある。
つまり、ギリシャやアルゼンチンで起きたような債務不履行は、起こりうる。
場合によっては、一国の債務不履行が他国に連鎖する、連鎖倒産ならぬ「連鎖国家破綻」が起きても不思議ではない。

ちなみに、日本政府が借金をして支出(国債、ETFの購入など)をやめいない理由を著名投資家のジム・ロジャース氏は「投票権を買収しているようなものでしょう」と表現していることは付記しておく。
(参照元:週刊ダイヤモンド『2021総予測』「ineterview 著名投資家 ジム・ロジャース」P83)

(4)休廃業の増加と業界再編
昨年の休廃業の件数は、最多の4.9万件となった。
倒産と休廃業は反比例の関係にあり、倒産は減る一方で、休廃業は増加傾向にある。

≪反比例する倒産と休廃業の推移グラフ)≫

 
http://alox.jp/dcms_media/other/210118_kyugyo.pdf

倒産の多くは、資金繰り破綻(支払ができない)が原因である。
一方で、廃業は「経営者の事業継続断念(つまり経営者の心が折れること)」が原因となる傾向がある。
つまり、後継者がいないから事業断念という理由もあるが、「現金はあり、借入もできるが、コロナ下においては、今の事業を継続しても現金は減る一方であり、将来性がない。」と考え、事業の継続を断念する経営者が多いようだ。

残念ながら、今後もこの傾向は続き、いわゆる需要が激減した業界(旅行、航空、鉄道、ホテル、飲食業、居酒屋、集客系の娯楽など)は、中小企業の休廃業だけではなく、大手企業によるM&Aを通じた業界再編が起こるのは必死だ。
それは同じ業界ではなく、例えばSBIホールディングスが複数の地方銀行へ出資しているように、異業種のガリバーが業界を再編し、地殻変動を起こすこともありえる。

(5)減損リスクの高い座礁資産
脱炭素社会へ向けて世界は動いている。
脱炭素とは、極論すれば、「二酸化炭素を排出しないこと」であり、さらに突き詰めると「石油や石炭などの化石燃料を利用しないこと」である。

日本政府は、2050年に脱炭素社会を実現すべく実行計画をまとめたが、EUは「2030年に90年比の55%削減」など、さらに先行している。

この動きにより、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料資産は、価値が大きく毀損する「座礁資産」となる可能性が高い。
脱炭素化の動きに伴い世界の座礁資産(1900兆円)に上るという試算もあり、一挙に減損処理を行う必要に迫られる可能性もある。

例として、電気自動車を考えれば分かるだろう。
動力源としてのガソリンの価値は低下しており、それを扱う業界や企業も変革を迫られることになる。

(6)スーパーリーダーの引退
ドイツのメルケル首相は2021年秋に政界を引退する予定だ。
21世紀最大の政治家として歴史に名を残すレベルの人物の引退であり、ドイツのみならず、EUにおいても、引退後の政治経済は、やや不安定とならざるを得ない。

〔ポジティブ!?要因〕
(1)
K字回復
新型コロナウイルスが沈静化した場合、GoToトラベル・イートなど政府の経済刺激策を通じて、一定の割合で経済は回復する。
しかし、それはV字回復ではなく、K字回復となると言われている。
つまり、圧倒的な繁栄と圧倒的な凋落(場合によって倒産)の両極端に分かれる。
ある意味では当然であり、新型コロナウイルスが発生する以前の世界に、瞬時に戻ることはないため、インバウンドなど需要回復の見込みは薄い。
人々の移動や密を基本とするような飲食や宿泊業、交通系、娯楽施設系などの回復は鈍く、オンラインで業務が可能なソフトウェア、通信、さらには製造業の回復は早い。
大きく話題にはなっていないが、広告需要も急減しており、マスコミ、広告業界も、近年稀にみる逆風が吹いている。

引き続き、任天堂の「あつまれ どうぶつの森」に代表される“巣ごもり需要”と言われる在宅者向けサービス・製品は、新型コロナウイルスが沈静化後も消費者の支持を得続けるだろう。

(2)DX化(デジタル・トランスフォーメション)に伴う社会変革
新型コロナウイルスの“効能”と言えるのは、DX化の加速だ。
一部の企業の一部の担当者しか実施していなかったテレワークという勤務形態が、最もあるべき勤務形態として定着した。
テレワークを行うための仕組みとして、AWS(アマゾン ウェブ サービス)等のクラウドサービスがあり、押印のステップをなくした電子契約のサービスがあり、Zoom等のWEB会議システムがある。
さらに、5Gの普及によりDX化は、加速する。
各企業において、業務の棚卸がなされ、DX化により不要な業務や効率化が可能な業務の選別がなされ、結果として、リストラ(人員削減)が行われる。
よく使われるフレーズとして、「将来、AIに職を奪われる」とあるが、「DX化によって職を失う」ということは、今そこにある現実である。

(3)金余りの株高
日経平均は、社会情勢、企業業績とは“乖離”した株高となっている。
2019年の大納会終値23,657であり、コロナ下の2020年大納会終値27,444となり、4000円近い上昇となった。
よく「株価は6カ月先ないしは一年先を予測して動く」と言われるが、今回の株高はワクチンへの期待、金余りによる資金の流入、日本銀行のETFの購入に起因している。
「実体経済を反映した株価」と捉える人は少ないと思うが、ネガティブ要因で記載した通り、今後、倒産は増える可能性が高いため、今後も株価が上昇し続けることは考えにくく、急落することも想定しておくべきだ。

(4)その他のキーワード
AI、高齢者向け製品・サービス、電気自動車、
ESG(環境、社会、ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)などは、これから数年のトレンドであり、時流に乗れる企業と乗れない企業で、天と地の開きが発生するだろう。
自動車分野では、テスラ・モーターズの隆盛が著しく、日本の基幹産業というべき自動車業界も、相当なる覚悟をもって、“待ったなし自己改革”をしなければ、生き残りさえ厳しくなる。

【総括】

米国ではバイデン大統領が誕生した。
癖のあるトランプ氏と比較するのは酷だが、存在感がない。
高齢ということもあり、国民から「任期満了まで大統領としての職責を全うできるのか?」と思われている時点で、期待感は低いと言わざるを得ない。
日本では、「オリンピック開催を叫ぶ政治家」と「あきらめムードの冷めた国民」の間に、すきま風が吹いている。
上記及びネガティブ、ポジティブの要因や過去からの推移から、今年は下記の倒産件数を予想する。

<倒産件数>
〔上 場〕   →  5(±3)
〔全企業〕   →  9,200(±300)

※ 参照資料
・東京商工リサーチ  『2020年(令和2年)の全国企業倒産7,773件』
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2020_2nd.html
『2020年「休廃業・解散企業」動向調査』
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210118_01.html
・帝国データバンク  『全国企業倒産集計2020年報』
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/20nen.html
・週刊東洋経済    『2020年大予測』
・日経ビジネス   『徹底予測2021』
・週刊ダイヤモンド 『2021総予測』
・週刊エコノミスト 『世界経済総予測2021』
・週刊エコノミスト 『日本経済総予測2021』
・PRESIDENT 『「完全予測」2021→2025』
・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 座礁資産
https://ja.wikipedia.org/wiki/座礁資産

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配信元: みんかぶ株式コラム