ポストコロナを見据えた投資とは~新たな価値創造社会の実現

著者:鈴木 行生
投稿:2021/01/18 11:17

・「ポストコロナの経済学」の著者である熊谷亮丸氏(大和総研専務取締役調査本部長)の話を聞いた。熊谷氏は菅内閣の内閣官房参与でもある。首相に経済・金融について、いろいろアドバイスしている。今後の経済をどう見るのか。熊谷氏の話を参考に、注目すべき点をいくつか吟味したい。

・感染症パンデミックは歴史の断層につきものである。人が移動すれば、折にふれてウイルスもついてくる。天然痘、ペスト、コレラ、スペイン風邪などが世界を激変させた。今日の新型コロナ(COVID-19)もその1つであり、生活様式の見直しが迫られ、元に戻れない部分も多い。

・ワクチンと治療薬が行き渡れば、コロナショックは収まろう。楽観はできないが、1年後には落ち着きが出てこよう。それまでは、できるだけ動かずに生活を維持するしかない。でも、それでは生活が保てない人々が続出する。すでに世界的に事態は深刻化している。

・大和総研の見通しでは、第3波、第4波が緊急事態宣言までいけば、今年度のGDPが-6.0%ではなく、-9%へ低下し、来年度の回復も遠のく。さらに、世界的な金融危機が加われば、-16%への落ち込みもありうると分析している。

・コロナから生命を守ると同時に、生活も守らないと社会は混乱に陥る。生命を守るにはワクチンが行き渡るまで、とにかく医療崩壊を防ぐしかない。さもないと、医療を受けられずに亡くなる人が続出してくる。一方、働けなくなって収入がなくなれば、希望を失って自殺者が急増してくる。すでにその傾向もみられる。

・生活を守るには、1)現金を配る、2)需要を作る、3)働き方を変える、4)企業をつぶさない、5)新しい雇用を創ることがスピーディーに求められる。政府の資金を100兆円単位で使うことになろう。大盤振る舞いである。日本のGDP 540兆円のうち、年率換算で50~80兆円が消えようとしているのであるから、何としても手を打つ必要がある。

・動く人はとにかく検査を受けて、陽性ならすぐ隔離することである。エッセンシャルワーカーはもちろん、相当多くの人々が検査を受けられるようにする。

・人と直接会わない非接触型行動をとるには、ITネットの活用を図ることである。これもすでに始まっているが、まだ十分でない。今は一定の限られたオフィスワーカーしか、リモートの活用ができていないが、今後1~2年で相当な広がりが出てこよう。

・会わないと仕事が進まない。集まらないと教育できない。対面でないとサービスが提供できない。これまでの常識では、そうであったスタイルも大きく変化しよう。リアルとネットのハイブリッドワーク、ハイブリッドライフ、ハイブリッドレジャーが当たり前になってこよう。

・一番困っている人々へのサポートとして「GoToキャンペーン」が始まった。補助金をつけて、お金を使ってもらい、困っている地域、観光、交通、サービスへの需要を作ろうという狙いであった。経済効果は大きいので、うまいやり方とみられたが、弊害もある。

・人が動くと、それなりに防備していても、コロナが広がってしまう。実際、第3波によって、GoToキャンペーンは年末に一旦停止となった。常に経済活性化と感染防止は綱引きである。

・政府のサポートがあるとしても、危機に直面してうまく対応できないことも多い。かなりの産業、企業がつぶれることになろう。失業者も増えよう。緊急の100兆円を使っているうちはよいが、経済が落ち着いてくれば、いずれ減らす必要がある。しかし、民間の自力で500兆円のGDPを600兆円に持っていく活力を引き出すには相当のパワーを要する。

・菅政権は、①コロナ対策、②グリーン対応、③デジタル革新を軸に、産業構造を変革させる構想を推進しようとしている。いずれの場面でも、変革のための支出を費用(コスト)としてではなく、投資(インベストメント)と捉えてリターンを求めていく姿勢が重要である。このリターンのあり方が問われている。

・人材の再教育は、ヒューマンキャピタル投資である。CO2の削減は環境コストではなく、実行のためのイノベーションが、新しい投資として需要を作り出すと捉える。あらゆる分野におけるデジタライゼーションが、全く新しいライフスタイルを生んでいく。

・学ぶために都会に来なくてよい。働くために都会に来なくてよい。遊ぶために遠くに出かけなくてよい。国際的な交流もわざわざ出かけなくてよい。本当にそうなるだろうか。すぐには無理と思うが、いずれ実現する方向に進むのは間違いない。

・グローバル化の中で、エネルギー資源の取り合い、食料資源の取り合いが、歴史の必然であった。今や格差が生存権の取り合いになっている。先進国VS途上国ではなく、どの国においてもクラス間(格差の広がり)の戦いになっている。米中の覇権争いは今後とも激化しよう。コロナショックで各国の財政は限りなく膨張している。財政破綻も中進国以下で顕在化してこよう。

・このようにコロナショックを乗り切ったとしても、次の経済は停滞しかねない。でも道はある。新しいネットワークの形成がカギとなろう。

・新しい価値をいかに生み出すか。価値とは何か。それは相手が感じてくれる有難さである。社会に対する貢献を感じてもらえれば、それが価値である。その価値提供を続けるには、持続性(サステナビリティ)を支えるための原資(リソース)が必要である。

・企業でいえば、価値創造とは、中長期の社会的価値創造のためのビジネスモデル(持続的な金儲けのしくみ)を作り出すことである。新たな価値創造社会の実現に向けて、各々の立場で邁進したいと思う。

・これを株式投資の視点に置き換えると、①創業の精神は今活かされているか、②経営者のリーダーシップは輝いているか、③新しい社会的価値の創造にビジネスとして取り組んでいるか、④中長期的にもっと儲かる企業になるか、ということになろう。ポストコロナを見据えて、おもしろい会社を引き続き探索したい。

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配信元: みんかぶ株式コラム