[資源・新興国通貨12/21~25の展望] トルコ中銀は追加利上げか

著者:八代和也
投稿:2020/12/18 13:49

豪ドル

豪州の11月失業率は6.8%と、市場予想(7.0%)に反して10月の7.0%から低下しました。RBA(豪中銀)は12月1日の政策会合時の声明で、「高い失業率に対処することが重要な国家的事項だ」としたうえで、「少なくとも3年間は利上げしないと予想している」と表明。ただ、失業率の低下が続く場合、この見方の修正を検討し始めるかもしれません。

足もとで鉄鉱石価格が上昇しています。大連商品取引所の鉄鉱石先物は今週(12/14- )、2013年10月の取引開始以降の最高値を更新しました。鉄鉱石は豪州の主力輸出品のため、その価格上昇は豪ドルにとってプラス材料です。鉄鉱石価格が一段と上昇すれば、豪ドルは底堅さを増しそうです。目先、豪ドル/米ドルは0.76740米ドル(2018/6高値)、豪ドル/円は80.000円(心理的節目)が上値メドになりそうです。

一方で、コロナの発生源をめぐる調査や南シナ海をめぐる問題によって豪州と中国の関係が悪化しており、「中国は豪州産石炭の輸入制限に動いている」との報道もあります。市場は今のところ豪中関係の悪化はそれほど材料視していないものの、注意は必要でしょう。

NZドル

NZの7-9月期GDP(国内総生産)は前期比14.0%、前年比0.4%と、市場予想(13.5%、マイナス1.3%)よりも良好な結果でした。RBNZ(NZ中銀)は11月の金融政策報告で7-9月期GDP成長率を前期比13.4%、前年比マイナス1.3%と予想しており、それを上振れました。

また、ロバートソンNZ財務相は17日、「NZ経済は予想よりも強く、NZドルの水準に大きな不快感はない」と語りました。

GDPの堅調な結果やロバートソン財務相が足もとのNZドル高に懸念を示さなかったことで、NZドルは堅調に推移しそうです。上値メドとして、NZドル/米ドルは0.73900米ドル(2018/4高値)、NZドル/円は76.730円(2019/3高値)が挙げられます。

カナダドル

マックレムBOC(カナダ中銀)総裁は15日、「コロナの世界的大流行からのカナダ経済の回復は、非常に難しい局面にある」と指摘。「近い将来、コロナの感染拡大が経済成長を鈍化させ、経済的な落ち込みが深まる可能性もある」と語りました。

マックレム総裁はまた、「最近のカナダドルの上昇は、米国市場におけるカナダの輸出業者の競争力を傷つけている」と述べ、カナダドル高に懸念を示しました。

これらはカナダドルにとってマイナス材料です。

一方で、カナダの主力輸出品である原油の価格が堅調に推移しています。原油価格の代表的な指標である米WTI原油先物は今週(12/14- )、9カ月半ぶりの高値を記録。コロナワクチンの普及や米国の追加経済対策への期待が、WTI原油先物の支援材料となりました。

原油価格が一段と上昇すれば、市場はマックレム総裁の発言よりも原油高の方を強く意識するかもしれません。その場合、カナダドルは堅調に推移しそうです。カナダドル/円については、米ドル/円の動向にも影響を受けるものの、82.066円(12/10高値)に向けて上昇する可能性があります。

トルコリラ

アーバルTCMB(トルコ中銀)総裁は16日、「TCMBの政策決定における優先事項は物価安定だ」と述べ、「われわれはインフレ率を押し下げることを決意している」と強調。「インフレ率が持続的に低下するまで金融政策の引き締めスタンスを維持し、必要に応じて金融政策を一段と引き締めることも可能」と語りました。

TCMBは11月19日の会合で4.75%の利上げを実施。政策金利を10.25%から15.00%へと引き上げました。一方でトルコの11月CPI(消費者物価指数)上昇率は前年比14.03%と、前月の11.89%から加速し、1年3カ月ぶりの強い伸びを示しました。

12月24日にTCMBが定例会合を開きます。その結果がトルコリラの今後の動向に影響を与えそうです。TCMBは11月に大幅な利上げを行ったばかりですが、CPI上昇率の加速やアーバル総裁の発言をみると、24日の会合で追加利上げに踏み切る可能性があります。インフレ抑制に十分と市場が判断する幅の利上げにTCMBが踏み切れば、トルコリラのサポート要因になりそうです。

南アフリカランド

南アフリカランドは今週(12/14- )、対米ドルで10カ月半ぶりの高値を記録。コロナワクチンの普及や米国の追加経済対策への期待から、リスクオンの動きが市場で強まり、新興国通貨であるランドを押し上げました。対円は、米ドル/円が下落した影響によって伸び悩みました。

リスクオンの流れが継続すれば、ランドは引き続き堅調に推移するとみられます。米ドル/円の動向次第では、ランド/円は7円台に定着する可能性があります。

南アフリカは14日、コロナの感染拡大を受けて対策を強化。金・土・日曜のアルコール飲料の販売を禁止し、レストランやバーなどの営業は午後10時まで。外出禁止の開始時間を従来よりも1時間早めて午後11時~翌午前4時までとし、観光地(東ケープ州)の一部ビーチを12月16日~2021年1月3日まで閉鎖します。コロナ対策の強化は南アフリカの景気を下押す要因と考えられるものの、市場は今のところ対策の強化をほとんど材料視していないようです。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は17日、政策金利を4.25%に据え置くことを決定。据え置きは2会合連続です。

声明は、「(利下げの)一時停止は、インフレの軌道が目標へと収束するのを確認するために必要な余地を提供する」と指摘。11月の前回会合で示された“一時停止”との表現は維持されました。これは2019年8月に開始された利下げ局面が終了していない可能性を示すものと言えそうです。

政策金利を据え置くという決定は3対2で下され、据え置きに反対した2人の政策メンバーは0.25%の利下げを主張しました。

BOMのグスマン副総裁は12月31日に退任。新たにボルハ氏が副総裁に就任します。グスマン氏は利下げに慎重なタカ派とされます。一方、ボルハ氏の金融政策に対する見解はほとんど明らかになっていないものの、ボルハ氏はハト派的な姿勢を取るとの見方が市場ではあります。今回3対2という僅差で据え置きが決定されたことからみて、ボルハ氏が利下げを支持すれば、利下げ票は半数を超える可能性があります。BOMの次回会合は2021年2月11日です。

BOMが今後利下げする可能性が残されたことは、メキシコペソにとってマイナス材料です。一方で、米国の追加経済対策やコロナワクチンの普及への期待、堅調な原油価格、などペソにとってプラス材料もあります。BOMの声明を材料にペソが下落を続ける状況ではなさそうです。

メキシコの12月前半のCPI(消費者物価指数)が23日に発表されます。CPIが強い結果になれば、BOMが利下げする可能性は低下しそうです。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想