[資源・新興国通貨] 2021年3月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2020/11/27 16:10

豪ドル

RBA(豪中銀)は11月3日の会合で0.25%の利下げを決定。政策金利を0.25%から0.10%へ引き下げました。

RBAの利下げは、今回で終了する可能性があります。ロウRBA総裁は16日にマイナス金利について「RBAが導入する可能性は非常に低い」と述べ、「すべての主要中銀がマイナス金利を導入した場合のみ、検討する」と語りました。RBAがマイナス金利の導入に否定的な見解を示したことは、豪ドルを下支えしそうです。

豪ドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。足もとのワクチン開発への期待などによるリスクオンの動きは、豪ドルにとってプラス材料。リスクオンの流れが継続すれば、豪ドルは上値を試す可能性があります。

豪ドル/NZドルについては引き続き、1.10NZドル~1.15NZドルのレンジ内で推移しそうです。11月の利下げによってRBAの政策金利は、RBNZ(NZ中銀。0.25%)よりも低くなりました。ただ、両者の差は0.15%と、依然としてほとんど差がなく、この状況は当面続くと考えられるためです。

<注目点・イベントなど>
・RBAの金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米中、豪中の関係。

NZドル

NZドルは11月、対米ドルで2年5カ月ぶり、対円で10カ月ぶりの高値を記録しました。

足もとのNZドル上昇の要因として、以下のことが挙げられます。
・10月のNZ総選挙で与党・労働党が単独過半数を獲得したことで、アーダーン政権が一段と安定して政策を進めやすくなるとの見方
・RBNZ(NZ中銀)のマイナス金利導入観測の後退

オアRBNZ総裁は11月11日の会合後の会見で、「マイナス金利の可能性が低下したのかについて語るのは、時期尚早だ」と述べつつも、「8月以降の国内や世界の経済活動は、当初想定したよりも回復力がある」と指摘。「政策金利を2021年3月まで据え置くというコミットは継続している」と語りました。

ロバートソンNZ財務相は24日、「RBNZに対して金融政策決定において住宅価格の安定も考慮するように求めた」と発言。NZの住宅価格はこの3年間に20~30%上昇しており、利下げは住宅価格を一段と押し上げるおそれがあります。

RBNZの現在の政策金利は0.25%。市場では「早ければ2021年1-3月期にもマイナス金利が導入される」との観測があったものの、オア総裁やロバートソン財務相の発言を受け、マイナス金利導入観測は後退しました。

NZではコロナの感染拡大が抑えられていることも考えると、独自材料でNZドルが下落を続ける状況ではなさそうです。

NZドルは豪ドルと同様に、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があり、足もとのリスクオンはNZドルにとってプラス材料。リスクオンの流れが継続すれば、NZドルは上値を試す可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・RBNZの金融政策。マイナス金利を導入する可能性低下。
・投資家のリスク意識の変化。
・米中関係。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は当面、現行0.25%の政策金利を据え置くとみられます。BOCの金融政策は材料になりにくいと考えられます。

カナダドルは、原油価格(米WTI原油先物)の動向に注目です。WTI原油先物は11月、一時46ドル台へと上昇し、3月上旬以来の高値を記録。“コロナのワクチンが普及すれば、世界の経済活動が正常化へと向かって原油需要が回復する”との期待が、原油価格上昇の主な要因です。

11月30~12月1日のOPECプラスの会合における協調減産の規模に関する決定が、原油価格の動向に影響を与える可能性があります。

現在の協調減産の規模は日量770万バレル。2021年1月から570万バレルへと規模が縮小される予定です。市場では、2021年1月以降も現在の規模を維持するとの観測があり、その通りの結果になれば、原油価格の支援材料になりそうです。カナダドル/円については、米ドル/円の影響も受けるため、投資家のリスク意識の変化に注意が必要なものの、原油価格が上昇すれば、堅調に推移すると考えられます。

<注目点・イベントなど>
・原油価格の動向。
・投資家のリスク意識の変化。

トルコリラ

11月7日TCMB(トルコ中銀)総裁が交代。新たに就任したアーバル氏は19日の会合で4.75%の利上げを決定。主要政策金利である1週間物レポ金利を10.25%から15.00%へと引き上げました。

アーバル総裁が就任後すぐに大幅な利上げに踏み切ったことは、独立性が懸念されるTCMBに対する市場の信頼を回復する第1歩になるかもしれません。

ただし、エルドアン大統領は「高金利が高インフレを招く」というのが持論。今回はTCMBの利上げを認めたとみられるものの、インフレ率が低下しない場合にエルドアン大統領は我慢できるのか疑問は残ります。今後利上げが必要になった時にTCMBは躊躇なく利上げできるか注目でしょう。

12月10~11日のEUサミットでは、対トルコ制裁が協議される可能性があります。東地中海でのトルコの海底資源探査をめぐり、トルコとEUは関係が悪化しています。対トルコ制裁が決定されれば、リラに対して下押し圧力が加わるとみられます。

トルコと米国の関係にも要注意。トルコはS400(ロシア製地対空ミサイルシステム)の配備計画を進めており、10月にはS400の試射を実施しました。米国はS400を破棄しなければ制裁を科すとトルコに警告しながらも、トランプ大統領は制裁の発動を見送ってきました。ただ、バイデン氏はトルコに対して強硬とみられており、バイデン氏が大統領になれば対トルコ制裁が現実味を帯びるかもしれません。

トルコリラには依然として懸念材料が多く、リラ/円は過去最安値(11.998円)を下回る可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・TCMBの金融政策。利上げが必要になった時に躊躇なく利上げできるか。
・トルコの外貨準備高の少なさ。
・EUや米国は対トルコ制裁を発動するか。
・地政学リスク。

南アフリカランド

南アフリカランドは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)に影響を受けやすい地合いであり、この状況は当面続く可能性があります。リスクオンの流れが今後も継続すれば、ランドは上値を試すかもしれません。

ただし、ランドにはマイナス材料が散見されます。格付け会社のムーディーズやフィッチは11月、すでに「ジャンク(投機的)」としていた南アフリカの格付けを一段と引き下げました。
・ムーディーズ:「Ba1」から1段階引き下げ「Ba2」へ
・フィッチ:「BB」から1段階引き下げ「BBマイナス」へ

また、南アフリカにはエスコム(国営電力会社)の問題があります。エスコムに対する支援は国家財政の大きな負担となっており、また過去にたびたび実施された計画停電は景気を下押してきました。

これら独自のマイナス材料が市場でより強く意識された場合、ランドに対して下押し圧力が加わる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・投資家のリスク意識の変化。
・南アフリカの電力供給不安。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。

メキシコペソ

メキシコペソは11月、対米ドルや対円で8カ月ぶりの高値をつけました。

ペソが上昇している背景として、リスクオンの動きや原油価格(米WTI原油先物)の上昇が挙げられます。新興国通貨であるペソにとってリスクオンはプラス材料であり、メキシコは産油国です。主要国の株価が上昇するなどしてリスクオンの流れが継続し、また原油価格が堅調に推移すれば、ペソは対米ドルや対円で上値を試す展開になりそうです。

BOM(メキシコ中銀)の金融政策もペソを下支えするかもしれません。BOMは2019年8月以降、2020年9月まで11会合連続で利下げを実施。11月の前回会合では政策金利を4.25%に据え置きました。

メキシコのCPI(消費者物価指数)上昇率は前年比で10月まで5カ月連続でBOMのインフレ目標である3%を上回っており、直近3カ月は許容レンジである4%も上回っています。CPI上昇率が低下傾向にならなければ、BOMの利下げは9月で打ち止めかもしれません。市場では今後、主要国中銀と比べて高いBOMの政策金利の水準が意識される可能性があります。

トランプ米大統領は、不法移民問題などでメキシコに対して強硬な姿勢を示してきました。バイデン氏が大統領に就任して両国の関係が改善へと向かえば、ペソにとってプラス材料と考えられます。

<注目点・イベントなど>
・BOMの金融政策。利下げ局面は終了かどうか。
・投資家のリスク意識の変化。
・原油価格の動向。
・米国とメキシコの関係。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想