S&P500月例レポート(20年10月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2020年9月
個人的見解:不安にかられての3.92%下落は許容範囲だが、あくまでもこれで下げ止まった場合の話
パーティーは続き、9月は2日連続で終値での最高値を更新して(3580.84、最高値更新は年初来で22回)幕を開けましたが、上がったものはいずれ下がるのが世の常であり、あまりにも急速に上昇したものは、結果的に空売り投資家を喜ばせ、市場に不安感を募らせることになりました。市場の下落を後押ししたのは、新型コロナウイルス感染者数の増加による経済活動再開の撤回、欧州を中心とした活動の再停止と再規制、新学期の混乱などに対する懸念の高まりです。数ヵ月前から日程が決まっていたにもかかわらず多くの地域では新学期に対する準備が不十分で、子供たちの間、特に高等教育機関で感染が拡大しました(「子供はやはり子供」ということです)。
さらに、11月3日に迫る大統領選挙も市場の懸念に拍車をかけています。通常、今頃は資産の再配分により出来高が増加する時期ですが、勝者が確定する時期も含めて選挙結果に対する不透明感から、ペーパー・ポートフォリオは作られても実際の取引行動に至っていません。大統領候補による第1回討論会(この後10月22日に予定されています)や欠員が生じた最高裁判事の指名を巡る争いも、確実な取引にはつながりませんでした。
この影響は10月に一気に増大すると予想され(11月のことはまだ考えたくありません)、選挙結果に対する見方が取引を誘引すると思われます。もう一つの全体的な懸念事項として、予想される市場の混乱を乗り切ろうと多くの投資家が現金の確保(何も生み出さないにせよ)に走った場合、安全への逃避のための売りを買いがカバーしきれずに市場が一層の深みに沈む可能性があります。
実際の市場の動きを見ると、9月に市場は3.92%下落して8月の上昇分(7.01%)の半分以上を打ち消しましたが、第3四半期は8.47%上昇、年初来では4.09%の上昇となりました。年初来では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回っており(値上がり銘柄203銘柄のうち10%以上上昇は138銘柄、値下がり銘柄300銘柄のうち10%以上下落は218銘柄)、11セクター中6セクターが上昇しています。市場は終値での最高値を7回更新した8月のトレンドが持続し、9月も1日と2日に連続で最高値を更新しましたが(年初来では22回、2016年11月の大統領選以降では146回)、それ以降は下り坂がほぼ続いています。
多くのアナリストは新型コロナウイルスの感染者数の増加とそれに伴う経済活動の再停止、選挙イヤーの政治、最高裁判事の後任問題を指摘していますが、野獣を手なずけた(殺してはいません)のは単純に重力だったのかもしれません(過去114営業日で60.06%上昇していました)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は8月末の2万8430.85ドルから2.28%下落して2万7781.70ドルで9月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス2.18%)。8月は7.59%の上昇(同プラス7.92%)でした。過去3ヵ月間では7.63%上昇(同プラス8.22%)、年初来では2.65%下落(同マイナス0.91%)、過去1年間では3.21%上昇(同プラス5.70%)となりました。
過去の実績を見ると、9月は45.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.28%、下落した月の平均下落率は4.62%、全体の平均騰落率は0.96%の下落となっています。2020年9月は3.92%の下落となりました。
10月は57.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.13%、下落した月の平均下落率は4.72%、全体の平均騰落率は0.43%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日、3月16日-17日、4月27日-28日、6月15日-16日、7月27日-28日、9月21日-22日、11月2日-3日、12月14日-15日、2022年1月25日-26日となっています。
主なポイント
○8月の上昇分は9月(少なくとも9月2日に最高値を更新して以降)に打ち消され、選挙や最高裁判事といった政治の話題が市場で広まり、新型コロナウイルスの感染拡大や経済活動の再停止を巡る懸念が高まりました。
⇒S&P 500指数は3.92%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス3.80%)。過去3ヵ月間では8.47%上昇(同プラス8.93%)、年初来では4.09%上昇(同プラス5.57%)、過去1年間では12.98%上昇(同プラス15.15%)となりました 。
⇒2016年11月8日の米大統領選以降の同指数の上昇率は57.18%(同プラス69.76%)、年率換算では12.32%(同プラス14.56%)となりました。大統領選まで残り34日です。
⇒強気相場入りして以降、2020年3月23日の底値から50.31%上昇しており、9月2日の終値での最高値からは6.08%安の水準で月末を迎えました。
○米国10年国債利回りは8月末の0.71%から0.68%に低下して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは8月末の1.48%から1.46%に低下して月を終えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは8月末の1ポンド=1.3365ドルから1.2907ドルに下落し(同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは8月末の1ユーロ=1.1938ドルから1.1727ドルに下落しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は8月末の1ドル=105.86円から105.47円に上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は8月末の1ドル=6.8487元から6.7908元に上昇しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○原油価格は8月末の1バレル=42.82ドルから39.88ドルに下落して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、8月末の1ガロン=2.311ドルから2.259ドルに下落して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。
○金価格は8月末の1トロイオンス=1972.70ドルから下落して1900ドルを割り込み、最終的に1892.20ドルで月の取引を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は8月末の26.41から26.35に低下して月を終えました。月中の最高は38.28、最低は24.84でした(同13.78、同16.12、同11.05)。
○企業業績に関しては、決算発表シーズンが終了しましたが、予想が引き下げられていたために、多くの企業の業績が事前予想を上回る結果となり、投資家の関心は2020年よりも2021年の業績予想に向けられました。
⇒第2四半期の業績を見ると、82.3%に相当する413銘柄で利益が(下方修正済みの)予想を上回り、売上高に関しては313銘柄(62.5%)が(下方修正済みの)予想を上回りました。第2四半期は前期比で37.4%の増益、前年同期比では33.3%の減益となりました。
⇒第3四半期が始まり、決算時期がずれている16社が四半期決算を発表し、そのうち14社で利益が予想を上回り、1社が予想を下回り、1社は予想通りの結果となりました。売上高では15社中12社が予想を上回りました。第3四半期の利益予想は6月末から3.7%上方修正されており、前期比では19.5%の増益、前年同期比では19.5%の減益となっています。
⇒第4四半期の利益予想は6月末から0.6%下方修正され、前期比10.8%の増益、前年同期比では9.4%の減益が予想されています。
⇒その結果、2020年の予想EPSは27.5%の減益となり、それに基づく足元の予想株価収益率(PER)は29.5倍となっています。
→2021年については、企業利益は大幅に増加して過去最高を更新すると予想され、2020年比で44.3%増益(2019年比で4.6%増益)が見込まれています。それでも2021年の予想PERは20.5倍と引き続き高い水準となっています。
○米国の新型コロナウイルス対応のための財政政策:
⇒第1弾:医療機関への財政支援やウイルス感染拡大防止に83億ドルを拠出。
⇒第1段階:2週間の疾病休暇および最長10週間の家族医療休暇の給与費用に対する税額控除。
⇒第2段階:労働者、中小企業、事業会社、病院や医療関係機関に対する直接支援、ならびに融資保証を提供する2兆2000億ドルのプログラム。
⇒第3段階:(中小企業向け)給与保証プログラム(PPP)に3100億ドルと医療機関に750億ドルを含む、総額4840億ドルの拠出。ただし、州政府および地方自治体に対する資金支援は行わない。
⇒第4段階:追加経済対策を巡る与野党協議が難航(かつ複雑化)する中、連邦最高裁の後任判事の任命・承認を巡る共和党と民主党の意見対立が両党の水面下での攻防を激化させているようです。
⇒与野党合意を強く求めているのは航空業界です。航空各社向けの給与支援が期限切れを迎えたため、各社は人員削減に着手することになるでしょう。
○米国家計の純資産は2020年第2四半期に過去最高となる119兆ドルを記録しました。
○ビットコインは8月末の1万1680ドルから下落して1万0721ドルで月を終えました。月中の最高は1万2067ドル、最低は9916ドルでした(2019年末は7194ドル、2018年末は3747ドル)。
○市場関係者のS&P 500指数の1年後の目標値はこの1ヵ月で上昇し、現在値から11.5%上昇(先月は5.0%上昇)の3751(かなり強気な予想)となっています(8月末時点の目標値は3684、7月末時点の目標値は3506)。また、ダウ平均の目標値は現在値から9.7%上昇(先月は5.0%上昇)の3万0470ドルとなっています(同2万9845ドル、同2万8816ドル)。
トランプ大統領と政府高官
○トランプ大統領は米疾病対策センター(CDC)が有する感染対策の権限を活用し、低所得者層に対して2020年末まで家賃滞納による立ち退きを一時猶予する措置を実施すると発表しました。2021年には、今回猶予措置を受けた賃貸人は未払い家賃を支払う必要があります。
○国交正常化(と対イラン包囲網の強化)を模索していたイスラエル、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)と米国はホワイトハウスで和平協定に署名しました。
○米下院は12月11日(2021会計年度は2020年10月1日にスタート)まで政府資金を手当てする暫定予算案を可決しました(賛成359、反対57)。
○トランプ大統領は先日死去したリベラル派の最高裁判事ギンズバーグ氏の後任に保守派のエイミー・コニー・バレット連邦控訴裁判事(48歳)を指名しました(バレット氏は2017年にトランプ大統領によって控訴裁判事に指名されています)。共和党が過半数を握る上院で最高裁判事団の構成(バレット氏が承認されれば最高裁判事の構成は保守派6名とリベラル派3名となります)を巡って共和党が過半数を握る上院で議論が紛糾すると予想されていました。
○政局は盛り上がりを見せています。全ての言動が11月3日の大統領選挙とその結果が議会の上下両院の構成に及ぼす影響を意識しているといえるかもしれません。
新型コロナウイルス関連
○感染状況等:
⇒米国では新型コロナウイルスの累計感染者数が720万人を超え(8月は600万人、世界の感染者数は8月が2500万人で9月は3380万人)、死者数は20万6000人(同18万2000人)を上回りました(世界全体の死者数は8月の84万3000人から増加して9月は101万1000人)。
○CDCは各州に対して2020年11月1日までにワクチン接種の準備に入るように要請しました。現時点で複数の治療薬が臨床試験段階にありますが、現時点ではいずれの治療薬の臨床試験を終了していません。
○イスラエルでは感染拡大(感染者数と死者数)を受けて、(ユダヤ教の新年が始まるのに先立って)9月18日から国内全土で2回目のロックダウンを実施すると発表しました。
○英国政府は新型コロナウイルス関連の新たな制限措置を発表し、可能な場合には再び在宅勤務を行うように要請しました。
○新型コロナウイルス支援策第4段階を巡っては(「パンがないならケーキを食べればよい」的な議論に見えなくもありません)、交渉の決着が見通せなくなりました。というのも、最高裁判事の後任人事が与野党対立の俎上に新たに上がってきたからです。
○米国では経済活動の再開を巡り意見の対立が続いています。再開を目指す学校は増えたものの、多くは再開日を遅らせるかオンライン授業に戻ることを余儀なくされています。
○全米レストラン協会はコロナ禍の影響で10万件の飲食店が閉店(完全閉店もしくは長期休業)したと発表しました。
○感染拡大は続いており、ニューヨーク州では新規感染者数が6月以来の水準に逆戻りしました(1日の感染者数が1000人)。
○新型コロナウイルスの治療法と夢の万能薬
⇒米食品医薬品局(FDA)は新型コロナウイルスワクチンの審査プロセスを延長すると発表しました。
⇒世界156ヵ国が新型コロナウイルスワクチンへの平等なアクセスを担保する共同購入のために180億ドルを拠出しました。米国は世界保健機構(WHO)が主導していることを理由に、同枠組みへの参加を見送りました。米国では2021年7月にWHOを脱退する手続きが進められています(中国とロシアも同枠組みには参加していません)。
⇒新型コロナウイルス治療薬の研究も進んでいます(その動きは加速しており、少なくとも市場にとっては多少の支援材料となっています)。Pfizer(PFE)は有効性の評価で前進が見られたことを報告しています。Johnson & Johnson(JNJ)も最終段階の臨床試験に着手し、2021年の早い段階で終了する可能性があることを明らかにしました。Moderna(MRNA)とAstraZeneca(AZN)は、英国オックスフォード大学と共同開発中のワクチンの第3段階の臨床試験を継続中です。
各国中央銀行の動き
○地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、米国経済は大半の地区で拡大しているが、そのペースは緩慢となっています。また、一時帰休が解雇となるケースが発生していることが指摘されており、不透明感が強いことも示されました。
○イングランド銀行は政策金利の据え置き(0.1%)を決めましたが、マイナス金利導入の可能性があることを示唆しました(導入されれば326年の歴史の中で初めての出来事です)。
○米連邦準備制度理事会(FRB)は、大手銀行に課した配当と自社株買いの制限措置を年末まで延長する可能性を示唆しました(大手銀行は2020年第2四半期の自社株買いは実施せず、第3四半期も見送る方針を公表しています)。また銀行に対する新たなストレステストを準備していることを発表しました(また、これまでは銀行全体としての結果を公表してきましたが、次回は対象となる33行の個別の結果を公表することを明らかにしました)。
⇒パウエルFRB議長は上院での議会証言で、米国経済が完全に回復するまでには長い時間を要し、更なる支援策が必要だと述べました。
企業業績
○第2四半期の利益予想は既に2019年末時点から(2020年第2四半期末までの間に)47.3%引き下げられていたため、全体の82.3%に上る企業の利益が予想を上回りました。「期待していなかった」第2四半期の業績は「失望感を伴わない」結果となりました。現時点での第2四半期の業績を見ると、502銘柄が決算発表を終え、82.3%に相当する413銘柄で利益が(下方修正済みの)予想を上回りました。売上高に関しては、501銘柄中313銘柄(62.5%)が(下方修正済みの)予想を上回りました。第2四半期は前期比で37.4%の増益となりましたが、前年同期比は33.3%の減益となりました。
⇒第3四半期が始まりましたが、決算時期がずれている16社が第3四半期結決算を発表し、そのうち14社が予想を上回り、1社は予想を下回り、1社は予想通りでした。また、15社のうち12社が売上高予想を上回りました。第3四半期の利益予想は6月末からほぼ横ばい(3.7%増)で、前期比19.6%の増益、前年同期比で19.5%の減益となっています。
⇒第4四半期の利益予想は、6月末から0.6%下方修正され、前期比10.8%の増益、前年同期比9.4%の減益が予想されています。
⇒その結果、2020年の予想EPSは27.5%の減益となり、それに基づく目下の予想PERは29.5倍となっています。
⇒2021年については、企業利益は大幅に増加して、過去最高を更新すると予想され、2020年から44.3%の増益(2019年から4.6%の増益)が見込まれています。それでも2021年の予想PERは20.5倍と引き続き高い水準になっています。
⇒2020年6月末時点で、17.8%の企業で2019年6月末と比較して4%以上株式数が減少しました(2019年6月末時点では24.2%)。
⇒企業が自社株買いを縮小しているため、2020年第3四半期に関しては、株式数による前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業を見ると明らかです。
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