TCFDの活用~気候変動への対応

著者:鈴木 行生
投稿:2020/10/05 12:10

・7月に「TCFD(気候関連財務情報開示)に関するガイダンス2.0」が公表された。企業は気候に関してどのような情報を開示すればよいのか。投資家をはじめとするステークホルダーはそれをどう活用するのか。まだ何が足りないのか。こうした点について提言がなされた。改めて、いくつかの論点を取り上げてみたい。

・気候変動は誰のせいか。太陽系の中の惑星である地球46億年の歴史をみても、大変動を繰り返しながら変化している。人類がちっぽけな存在のうちは自然の一部として包含されてきたが、194か国、76億人の社会経済活動が自然を破壊し、気候変動を自ら招いているという自覚が先進国で高まった。

・先進国は自然を無視して先に発展しておいて、今更自然を大切にと言っても、それはこれから発展する途上国の成長を妨げる、という反論も根強い。先進国においても、格差がある中で、自由な活動に過度の制約をかけることは避けたいという勢力もある。政治的な対立となっている。

・しかし、自然を守り、気候変動への悪影響を避けるように社会経済活動を営んでいくべきであるという理念は、反論のしようがなく、欧州から受け入れられてきた。もはや実行の段階に入って、取り組みが遅い国や企業は世界の投資家からそっぽを向かれてしまう。

・日本のTCFDコンソーシアムは民間主導で、気候変動に関する財務情報の開示について提言を行っている。TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)に賛同した機関は、この7月に世界で1350に達した。日本では290機関が賛同しており、世界全体の20%強を占め、数では最も多い。

・今回の「TCFDガイダンス2.0」のねらいは、①事業会社が気候変動への取り組みを投資家などの情報利用者に対して見える化を行い、②投資家などの利用者はそれに対して適切な資金供給を行うことで、③事業会社のイノベーション創出を実現させ、④環境と成長の好循環を確立していくことにある。

・TCFDの内容を推進するには、企業において、1)気候関連のリスクと機会をしっかり見極めるためのガバナンスを確立し、2)それを事業として推進する戦略を立案し、3)リスクマネジメントのプロセスを明確にした上で、4)目標とKPIを設定することである。
・では、何を開示すればよいのか。投資家など利用者が知りたいことを開示してほしいというだけでははっきりしない。業種別の違いもある。そこで、本報告書では自動車、鉄鋼、化学、電機・電子、エネルギー、食品の6業種、銀行、生保、損保の3業種、計9業種について、業種別開示推奨項目を提示した。

・それ以外の企業はどうするのか。IT系の企業であれば、うちは関係ないと済ますのか。中小型企業はCO2の削減といわれるだけでも、実態把握や実施策において負担が重いかもしれない。それでも、わが社は関係ないと避けるわけにはいかず、どの程度の関係かをはっきり示す必要がある。負担の軽重ではなく、重要度を認識すべきである。

・単に言われたから仕方なくやるという形では、インセンティブは働かないし、対応も進まない。GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)には、CO2のほかに、メタン、酸化窒素、フルオカーボン、フッ化硫黄、フッ化窒素などがある。GHGを自社のバリューチェーンの中でいかに減らしていくか。その仕組みをイノベーションとして、作り上げていく必要がある。

・なによりも、企業価値創造の一環を位置づけることである。①規制をクリアするコストである、②とんでもない被害を避けるためのリスクマネジメントである、という位置づけではなく、③新しいビジネスモデル(価値創造の仕組み)にしっかり組み込んで、④そのPDCAサイクルをまわしていくことである。

・SDGsにおける社会的課題に対して、わが社のソリューションを提供し、社会的価値と経済的価値のバランスをとっていく。この両立を目指す経営力が求められる。そのためのイノベーションが求められる。業績がドスンと落ち込むことがないようなリスクマネジメントを実行していく必要がある。それを中長期的に支えるESGの確立が必須となっている。

・できるところからやっていってほしいが、長期ビジョンをもって、3カ年くらいの中期計画がないと続かない。不言実行よりも有言実行がよい。開示してコミットしていく。無理はしなくてよい。

・投資家は、1)できそうもないことを建前で言っている、2)かなり無理をしている、3)当たり前のことを並べているだけである、というように、斜に構えることも多い。しかし、本来、経営トップから現場まで、さらにバリューチェーンを広げて、全社的に取り組んでほしいと願っている。それが、企業のサステナビリティを担保することになるからである。

・昨年9月に催された日立の「ESG説明会」では、ESGがどのようにマネジメントされているかについて、具体的に話した。ESGについては、サステナブル戦略会議で方針を決定している。

・2016年に環境イノベーション2050を定めた。環境価値では、1)低炭素、2)高度循環、3)自然共生について、3年毎に計画を作っている。従来は各事業の中で、環境の課題とどう折り合いをつけていくかという所に力点をおいたが、今回の中計では、どのように事業を変えていくかが中心テーマとなった。

・CO2削減では、‘インターナル カーボン プライシング’を導入して、インパクト分析を行った。5000円/tとして、設備投資の基準に入れていく。日立の5つの事業分野でその影響は異なるが、各ビジネスユニットが自ら検討することが重要である。

・水資源のリサイクルでは、サーキュラーシステムをいかに作っていくか。水の単位使用量を下げていく。プラスチック、鉄スクラップ、鋳物砂などのリサイクルもバリューチェーン全体のリソースサイクルとしてみていく。

・日立の環境イノベーションは、それだけが独立して存在するわけではない。目先のトレードオフではなく、思いきった最適化が求めていくという。

・本気で取り組んでいれば、すぐに成果に結びつかなくても、投資家は注視していく。定性評価に、ポジティブに取り入れていく。いずれ定量評価に表れてくれば、投資パフォーマスに反映されてこよう。TCFDの実践を伴う情報開示のレベルアップに期待したい。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶマガジン
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