S&P500月例レポート(20年9月配信)<前編>

投稿:2020/09/29 14:09

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P500 MARKET:2020年8月
個人的見解:株式市場は好調だが、背後に潜むウイルスに注意すべきでは?

 完璧な1カ月ではなかったものの、8月の上昇率は7.01%に達し、一部の市場関係者は完璧だったと考えているかもしれません。個人的にはそのように考えており、それは8月の騰落率としては1986年の7.12%に次ぐ上昇となったからです。とはいえ、最後の1週間は3.64%上昇し完璧な週と評価できるものでした。すなわち、S&P500指数は5日連続で終値での最高値を更新し(これは2017年10月16-20日、さらに遡ると1998年3月16-20日に記録した5日連続の最高値更新以来の出来事です)、終値での最高値(3508.01)と共に日中最高値(3514.77、8月31日に記録)も更新しました。最高値を更新する過程では、3400台と3500台と相次いで初の大台を(終値でも)突破してきました。

 また、S&P500指数は年初来で過去最高値を20回更新し、2016年11月の大統領選以降(注目の次回大統領選挙は64日後に迫っています)では、144回更新したことになります。2020年3月23日の底値からの目を見張るような上昇(56.45%、年率換算で176%)は、プロの運用担当者を驚愕させ、彼らは2021年の予想利益に基づくPERを21.3倍に押し上げている楽観論を正当化する理由を探しています。現時点での向こう12カ月の利益予想に基づけば確かに割高とも考えられますが、今後16カ月で見た場合は割高とは言えないでしょう。

 今回の現行版「根拠なき熱狂」を支えているのが、新型コロナウイルス感染症に対する市場の楽観的な見方です。つまり、治療法が確立されなくても、いずれは抑え込めるであろうと考えているのです(完全な治癒を得られなくても、対症療法や簡単で安価な検査によって、死に至る病とはならずに2週間程度の厳格な隔離措置によって対処できるというもの)。マエストロ(巨匠)と呼ばれた米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長であるグリーンスパン氏が1996年12月5日に前掲の「根拠なき熱狂」と発言した当時、S&P500指数の年初来騰落率は21.0%の上昇、過去12カ月の利益に基づく実績PERは18倍でした(現在の同PERは28倍)。そして、言うまでもないことですが、株式市場はその後2000年3月24日までにさらに105%上昇しました(745から1527に上昇)。

 短期的には独自の動きを見せるものの、長期的にはS&P500指数と連動した動きを示す傾向があるダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、(蚊帳の外に置かれたくはなかったのでしょう)年初来の騰落率が一時的にプラスに転換しました(0.40%のプラス。ただし、最高値を更新した2020年2月12日を3.58%下回る水準)。しかしながら、8月31日に下落し、年初来騰落率は再びマイナスとなりました(年初来騰落率はマイナス0.38%。最高値を3.79%下回る水準ながら、月間騰落率はプラス7.57%)。また、Appleの1対4の株式分割を受けて、ダウ平均は構成銘柄の入れ替えを行い、Exxon Mobil(XOM)の代わりにSalesforce.com(CRM)、Pfizer(PFE)の代わりにAmgen(AMGN)、Raytheon Technologies(RTX)の代わりにHoneywell International(HON)を採用すると発表しました。

 今後を展望すると、少なくとも大統領選までの64日間に関しては、相場の運命を決定づけるであろう2つの明白な要因があります。第一の要因は選挙の勝敗の行方、また新政権の顔ぶれと同様に議会の勢力図も重要です。株式市場は両党の全国大会や政策綱領には反応してきませんでしたが、両陣営の動きやメディア報道の本格化を踏まえると、想定される選挙結果を考慮した資産配分の見直しが始まることによって、市場のボラティリティが高まる可能性もあります(コロナ禍の今年3月と比べると市場関係者は冷静さを取り戻しています)。大統領選に影響する材料としては、パンデミック対応のための財政政策と2020年10月1日からスタートする新年度予算関連の問題、選挙期間中の暫定的な支出措置の承認、または政府機関閉鎖の可能性が挙げられます(少なくとも話題には上るでしょう)。

 第二の要因は引き続きヘビー級の重石として市場にのしかかっている新型コロナウイルスの問題、そして経済(具体的には、消費者支出とそれに続く企業支出の回復・拡大)がいずれはコロナ危機の影響を乗り越え、実際に2021年第4四半期には過去最高益を実現すると信じる市場の力です。市場はこのような確信を織り込みつつあり、勝ち組と負け組を区別しています(依然として年初来では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回っている状況です)。いかなる理由であれ、市場がこうした確信を変えなければならなくなった場合、それが単なるタイミングの見直しだとしても、リプライシングの動きは避けられないでしょう。さらに利益を上げている企業が集中している点を勘案すると、厳しいリプライシングにつながる可能性があります。

 過去の実績を見ると、8月は58.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.85%、下落した月の平均下落率は3.95%、全体の平均騰落率は0.63%の上昇となっています。2020年8月の上昇率は7.01%となりました。

 9月は45.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.28%、下落した月の平均下落率は4.62%、全体の平均騰落率は0.96%の下落となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日、3月16日-17日、4月27日-28日、6月15日-16日、7月27日-28日、9月21日-22日、11月2日-3日、12月14日-15日、2022年1月25日-26日となっています。

主なポイント

 ○8月も株式市場の回復基調は続きました。年初来騰落率がプラスに戻り、感染拡大は制御されるとの確信を背景に月中に最高値を7回更新しました。

  ⇒S&P500指数は7.01%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス7.19%)。過去3カ月では14.98%上昇(同プラス15.48%)、年初来では8.34%上昇(同プラス9.74%)、過去1年間では19.61%上昇(同プラス21.94%)となりました。

  ⇒2016年11月8日の米大統領選以降の同指数の上昇率は63.60%(同プラス76.47%)、年率換算では13.79%(同プラス16.07%)となりました。

  ⇒強気相場に突入: 2020年の弱気相場(2020年2月19日から3月23日にかけて33.93%下落したが、弱気相場としては史上最短)は正式に終了し、(2020年3月23日の底値を起点とする)強気相場(かつての弱気相場の中での強気局面)が正式に始まりました。8月末現在で、強気相場の上昇率は3月23日の底値から56.45%、年率換算では176%となっています。

 ○米国10年国債利回りは7月末の0.54%から0.71%に上昇して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは7月末の1.20%から1.48%に上昇して月を終えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは7月末の1ポンド=1.3081ドルから1.3365ドルに上昇し(同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは7月末の1ユーロ=1.1778ドルから1.1938ドルに上昇しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は7月末の1ドル=105.87円から105.86円に小幅上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は7月末の1ドル=6.9752元から6.8487元に上昇しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○原油価格は7月末の1バレル=40.43ドルから42.82ドルに上昇して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、7月末の1ガロン=2.265ドルから2.311ドルに上昇して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は7月末の1トロイオンス=1994.20ドルから1972.70ドルに下落して月の取引を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は7月末の24.46から26.41に上昇して月を終えました。月中の最高は27.09、最低は20.28でした(同13.78、同16.12、同11.05)。

 ○企業業績に関しては、決算発表シーズンが終了しましたが、予想が引き下げられていたために、多くの企業の業績が事前予想を上回る結果となり、投資家の関心は2020年よりも2021年の業績予想に向けられました。

  ⇒第2四半期の決算を見ると、ほとんどの企業が業績発表を終えました。第2四半期の利益予想は既に2019年末時点から(2020年第2四半期末までの間に)47.3%引き下げられていたため、全体の82.2%に上る企業の利益が予想を上回りました。「期待していなかった」第2四半期の業績は「失望感を伴わない」結果となりました。現時点での第2四半期の業績を見ると、494銘柄が決算発表を終え、82.2%に相当する406銘柄で利益が(下方修正済みの)予想を上回りました。売上高に関しては、493銘柄中306銘柄(62.1%)が(下方修正済みの)予想を上回りました。

 ○米国の新型コロナウイルス対応のための財政政策:

  ⇒第1弾:医療機関への財政支援やウイルス感染拡大防止に83億ドルを拠出。

  ⇒第1段階:2週間の疾病休暇および最長10週間の家族医療休暇の給与費用に対する税額控除。

  ⇒第2段階:労働者、中小企業、事業会社、病院や医療関連機関に対する直接支援、ならびに融資保証を提供する2兆2000億ドルのプログラム。

  ⇒第3段階:(中小企業向け)給与保証プログラム(PPP)に3100億ドルと医療機関に750億ドルを含む、総額4840億ドルの拠出。ただし、州政府および地方自治体に対する資金支援は行わない。

  ⇒第4段階:上院(共和党が支配)は下院(民主党が支配)の3兆5000億ドル規模のパッケージに対抗して1兆ドルの追加経済対策案を発表しました。9月から交渉が始まり、大統領選挙の争点となるとみられます。また、9月末には会計年度末を迎えますが、選挙期間中をカバーする暫定予算が承認される可能性があります。

 ○ビットコインは7月末の1万1362ドルから上昇して1万1680ドルで月を終えました。月中の最高は1万2394ドル、最低は1万1012ドルでした(2019年末は7194ドル、2018年末は3747ドル)。

 ○S&P500指数の1年後の目標値はこの1カ月で上昇し、現在値から5.0%上昇(先月は7.3%上昇)の3674(7月末時点の目標値は3506、6月末時点の目標値は3326)、ダウ平均の目標値は現在値から5.0%上昇(先月は9.0%上昇)の2万9845ドルとなっています(同2万8816ドル、同2万7711ドル)。

トランプ大統領と政府高官

 ○2020会計年度(2019年10月~2020年9月)の7月までの10カ月間の財政赤字は過去最高の2兆8000億ドルとなり、歳出が前年同期の3兆7300億ドルと比べて5兆6300億ドルに増加したことが影響しました。

 ○米中貿易交渉をめぐる2国間協議が開催されました。2020年1月15日に署名された貿易合意では、それぞれの政策内容と履行状況を確認するために6カ月ごとの協議実施が決められていましたが、今回の協議では、両国とも問題を先送りしたい意向が見受けられ、実質的というよりも形式的なものにとどまったとみられます。

新型コロナウイルス関連

 ○感染状況等:

  ⇒週の新規失業保険申請件数は96万3000件となり、20週間ぶりに100万人を下回りました(3月は合計で887万人に達しました)。感染拡大が始まる前は平均で20万人台前半でした。失業保険の継続申請件数は1548万6000人となりました。感染拡大前は170万人台で推移していましたが、5月には一時2491万人に達しました。

  ⇒米国では新型コロナウイルスの累計感染者数が600万人を超え(7月は450万人)、世界の感染者数は2500万人(同1730万人)となりました。米国の死者数は18万2000人を上回り(同15万2000人)、世界全体では84万3000人となりました(同67万4000人)。

  ⇒フロリダ州が新たな感染の震源地となり、1日の感染者数が1万人を超えた一方、かつて最悪の感染状況にあったニューヨーク州では状況の改善が続いています。

  ⇒カリフォルニア州では感染者に占める17歳未満の割合が5月は2.3%でしたが、6月は6.8%、7月は8.4%に上昇したと報告されています(米国疾病対策センターによると、7月のカリフォルニア州の同数値は6.4%)。

  ⇒Walmart(WMT)、Kroger(KR)、McDonald’s(MCD)、Home Depot(HD)、Lowe’s(LOW)など、来店客にマスク着用を義務付ける国内小売企業は、列挙しきれないほどに増加し続けています。

 ○新型コロナウイルス支援策第4段階をめぐっては(「パンがないならケーキを食べればよい」的議論に見えなくもありません)、交渉の決着がつかないまま政治家は党大会に出かけ、夏季休暇明けの議会で引き続き審議されることになっています(上院は9月8日、下院は9月14日に議会が再開される予定です)。具体的な支援がないにもかかわらず、失業保険申請件数は減少し、雇用統計や経済指標は改善しています(底から見たら改善していますが、好調な時から比べると依然として悲惨な状況です)。今後は大統領選挙が政治の話題を独占し(通常であれば政策の転換はないはずです)、9月は年度予算も話題に上るでしょう(10月1日から新会計年度が始まります)。

 ○米国では経済活動の再開をめぐり意見の対立が続き、直近の争点は学校の再開に関するものでした。

  ⇒新学期のタイミングで学校を再開するかどうかが問題となっており、大都市ではオンライン授業に限定することを決めた所が増えています。国内で学校の数が最も多いニューヨーク市は、対面授業とオンライン授業を併用するとしています(9月10日に授業再開の予定)。既に授業を再開している一部の学校でも(ほとんどは9月に再開)、順調ではないようです。ほとんどの大学はオンライン授業に切り替えていますが、多くの大学が新入生のために学生寮を開ける予定です。新学期商戦では学校用品、衣料品、生活用品などの市場に活気はなく、また、大きな収益源となるはずの大学スポーツの試合が行われないため、学校や地元の小売企業にとって重要な売り上げが断たれています。とはいえ、7月の小売売上高は感染拡大前の水準を上回りました。

 ○新型コロナウイルスの治療法と夢の万能薬

  ⇒ロシアは「スプートニク5号」を打ち上げました。スプートニク1号は1957年10月に打ち上げられた世界初の人工衛星で、3週間にわたって軌道上にとどまりました。プーチン大統領の説明によれば、今回のスプートニクは新型コロナウイルスワクチンです。大々的に報道されましたが情報は限定的で(ほとんどありません)、ワクチンはまだ初期段階にあり、人に対する大規模な第三相臨床試験は終わっていないとみられます。ロシアは大規模試験を間もなく開始する予定であると表明していますが(ここでも見出しのみで詳細な情報はありません)、大半の医療関係機関は懐疑的に見ています。

  ⇒米食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルスの治療に回復期血漿を使用する緊急使用許可(EUA)を付与しました。

  ⇒ヘルスケア大手のAbbott Laboratories(ABT)はウイルスの抗原を調べる迅速簡易検査キット(機器は不要)が承認され(販売価格は5ドルの予定)、2020年10月から月間5000万回分を生産する計画です。

各国中央銀行の動き

 ○7月28-29日開催のFOMC議事録では、金利を低水準に維持しながら経済成長を加速させるにはどうしたらよいかという点に議論が集中し、企業の成長速度が予想を下回っていること、2020年下半期の見通し、6月の家計支出の増加などが話題に上りました。

 ○FRBが毎年夏にジャクソンホールで開く年次会議はオンラインで開催され、パウエル議長は、一定期間の間、平均で2%のインフレ率を目指す新たな戦略と広義の失業データの使用が全会一致で承認されたことを明らかにしました。市場は、FRBが低金利を予想以上に長期にわたって維持する意向であると受け止めました。

企業業績

 ○決算報告の準備に手間取っている企業と仕上げ作業(四半期報告書のチェック)を除き、第2四半期の決算発表がほぼ一巡しました。第2四半期の利益予想は既に2019年末時点から(2020年第2四半期末までの間に)47.3%引き下げられていたため、全体の82.2%に上る企業の利益が予想を上回りました。「期待していなかった」第2四半期の業績は「失望感を伴わない」結果となりました。現時点での第2四半期の業績を見ると、494銘柄が決算発表を終え、82.2%に相当する406銘柄で利益が(下方修正済みの)予想を上回りました。売上高に関しては、493銘柄中306銘柄(62.1%)が(下方修正済みの)予想を上回りました。

  ⇒今後に目を向けると、第3四半期の利益予想は引き続き上方修正されて(6月末時点から3.3%)、前期比では18.7%の増益、前年同期比では19.8%の減益となっています。

  ⇒第4四半期の利益予想は6月末からほぼ横ばい(0.8%減)で、前期比11.2%の増益、前年同期比では9.5%の減益が予想されています。

  ⇒その結果、2020年の予想EPSは27.8%の減益となり、それに基づく目下の予想PERは30.8倍となっています。

  ⇒2021年については、企業利益は大幅に増加して過去最高を更新すると予想され、2020年から44.5%の増益が見込まれています。それでも2021年の予想PERは21.3倍と引き続き高い水準となっています。

  ⇒株式数による影響は第2四半期も続き、第1四半期までに行われた自社株買いによりEPSは前年同期比で押し上げられました。2020年6月末時点で、18.1%の企業が2019年6月末と比較して4%以上株式数が減少しました(2019年6月末時点では24.2%)。企業が自社株買いを縮小しているため、今後は前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業数を見ると明らかです。

<後編>へ続く

 


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