■アサヒ衛陶<5341>の中長期の成長戦略
(3) 世界の新型コロナウイルス感染者数の動向
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界の感染者数は2020年7月末に1,700万人を突破し、米国では8月に入って感染者数が450万人に到達した。同社グループの進出先では、バングラデシュにおける感染者数の増加が顕著だ。一方、ベトナム、ミャンマー、ウルグアイが低位で推移している。貧困層の多いバングラデシュでは、日ごとの糧を得るために経済活動を止めるわけにいかず、感染症の拡大に歯止めがかかりづらい。一方でベトナムやミャンマーなど国家統制力の強い国では、比較的よく押さえ込まれている。厚生労働省データによると、7月末の感染者数は、日本の34,372人に対し、ベトナムは509人、ミャンマーが353人、ウルグアイが1,243人であった。バングラデシュは、23万人超とケタが違う。
日本政府は、ベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの4ヵ国と例外的に人の往来を可能とする仕組みを施行するため、協議調整を進めており、国際的な人の往来が部分的、段階的に再開される方向にある。同社は、2020年3月に新製品開発の技術陣が日本に帰国しているが、環境が整えば再度ベトナムに赴任する予定だ。ベトナムは、ローカルビジネスは動いていることから、現時点では中期経営計画に対する遅れは1年程度と同社では推測している。一方で、他の3ヵ国は1年半ほどの遅れを想定している。
同社は、ビジネスのつながりの深い国々に対する「出来うる社会貢献活動」に努めていることから、バングラデシュとウガンダにおいて、PPE(personal protection equipment)細菌防御服とサージカルマスクなどの防疫商品を病院及び警察に寄付した。それらの活動は、両国のマスメディアに取り上げられており、ウガンダでは同国大統領が国営テレビ放送で謝意を表した。
(4) 世界経済見通し
世界銀行は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを踏まえた「世界経済見通し(Global Economic Prospects)」2020年6月版をリリースした。2020年の世界経済成長率はマイナス5.2%と、2020年1月版から7.7ポイント下方修正された。これは第二次世界大戦以来最悪の景気後退であり、1870年以降で最も多くの国で1人当たり生産量が減少することになる。予想経済成長率は、先進国がマイナス7.0%、途上国・新興国がマイナス2.5%となる。感染症の被害が大きく、経済活動停止の影響が大きい米国はマイナス6.1%、ユーロ圏はマイナス9.1%、日本はマイナス6.1%と予測された。日本は潜在成長率が低いこともあり、2021年にプラスに転じるものの2.5%と、世界の4.2%、米国の4.0%、ユーロ圏の4.5%と比べて回復が鈍い見通しとなっている。
一方で、ベトナムの経済成長率は、2020年に2.8%、2021年に6.8%と高成長が予測されている。また、ミャンマーの予想経済成長率は、2020年に1.5%、2021年に6.0%、ウガンダはそれぞれ3.3%、3.7%が見込まれており、いずれもマイナス成長を回避する見込みだ。なお、バングラデシュは、2019年の推定値8.2%から、2020年に1.6%、2021年に1.0%と新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けると予測されている。
(5) 海外事業の計画値の検証
新中期経営計画において同社は、海外事業の売上高の急拡大と高い収益性を計画している。前述したように、海外事業の売上高は、2022年11月期までの3期間で400百万円、1,000百万円、1,600百万円と急拡大を見込む。同様に、売上高営業利益率は、13.8%、20.0%、18.8%と高水準で推移する計画となっている。
その妥当性を、業界トップのTOTOのデータで検証してみる。TOTOのグローバル住設事業の売上高は、2020年3月期に5,719億円となった。これは、5年前の2015年3月期と比較すると9.0%の増加となる。地域別では、グローバル住設事業売上高の76.2%を占める日本国内の伸び率が同9.0%増にとどまるのに対し、アジア・オセアニアは同26.9%増加した。また、2020年3月期のグローバル住設事業の売上高営業利益率は7.1%となった。地域別では、日本が5.8%であるのに対し、海外は11.2%と高く、内訳は中国が15.2%、アジア・オセアニアが16.6%、米州が2.0%となった。欧州の売上高構成比は0.7%と小さいものの、10年以上損失計上が続いている。なお、中国の利益率は、過去10期中7期で20%を超えていた。アジア・オセアニアは、2014年3月期以降は常に2ケタ台を維持しており、2018年3月期は21.3%に達した。このことから、同社が海外事業に想定している利益水準がとりわけ高いわけではないと言える。
TOTOがターゲットとする市場セグメントは、ワンランク上の高級ゾーンになる。一方、同社は国別によってミドルからハイエンド、もしくはローからミドルエンドをメインとする。日本仕様の製品は、同社がターゲットする国及び市場セグメントには過剰品質であり、また水の流し方や構造など最適とはならない。ベトナム子会社が、海外市場のニーズに適した商品の企画開発を行っている。アジア・アフリカ市場には、日本市場向けの仕様・品質の商品は、様々な意味で販売に不適合だが、ベトナム向けの商品は販売可能だ。国内では、商習慣上、小口・多頻度配送を余儀なくされるが、海外では代理店へのコンテナ売りと販管費が国内ほどかからない。販管費率が抑えられることで、高い営業利益率が実現可能とみている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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(3) 世界の新型コロナウイルス感染者数の動向
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界の感染者数は2020年7月末に1,700万人を突破し、米国では8月に入って感染者数が450万人に到達した。同社グループの進出先では、バングラデシュにおける感染者数の増加が顕著だ。一方、ベトナム、ミャンマー、ウルグアイが低位で推移している。貧困層の多いバングラデシュでは、日ごとの糧を得るために経済活動を止めるわけにいかず、感染症の拡大に歯止めがかかりづらい。一方でベトナムやミャンマーなど国家統制力の強い国では、比較的よく押さえ込まれている。厚生労働省データによると、7月末の感染者数は、日本の34,372人に対し、ベトナムは509人、ミャンマーが353人、ウルグアイが1,243人であった。バングラデシュは、23万人超とケタが違う。
日本政府は、ベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの4ヵ国と例外的に人の往来を可能とする仕組みを施行するため、協議調整を進めており、国際的な人の往来が部分的、段階的に再開される方向にある。同社は、2020年3月に新製品開発の技術陣が日本に帰国しているが、環境が整えば再度ベトナムに赴任する予定だ。ベトナムは、ローカルビジネスは動いていることから、現時点では中期経営計画に対する遅れは1年程度と同社では推測している。一方で、他の3ヵ国は1年半ほどの遅れを想定している。
同社は、ビジネスのつながりの深い国々に対する「出来うる社会貢献活動」に努めていることから、バングラデシュとウガンダにおいて、PPE(personal protection equipment)細菌防御服とサージカルマスクなどの防疫商品を病院及び警察に寄付した。それらの活動は、両国のマスメディアに取り上げられており、ウガンダでは同国大統領が国営テレビ放送で謝意を表した。
(4) 世界経済見通し
世界銀行は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを踏まえた「世界経済見通し(Global Economic Prospects)」2020年6月版をリリースした。2020年の世界経済成長率はマイナス5.2%と、2020年1月版から7.7ポイント下方修正された。これは第二次世界大戦以来最悪の景気後退であり、1870年以降で最も多くの国で1人当たり生産量が減少することになる。予想経済成長率は、先進国がマイナス7.0%、途上国・新興国がマイナス2.5%となる。感染症の被害が大きく、経済活動停止の影響が大きい米国はマイナス6.1%、ユーロ圏はマイナス9.1%、日本はマイナス6.1%と予測された。日本は潜在成長率が低いこともあり、2021年にプラスに転じるものの2.5%と、世界の4.2%、米国の4.0%、ユーロ圏の4.5%と比べて回復が鈍い見通しとなっている。
一方で、ベトナムの経済成長率は、2020年に2.8%、2021年に6.8%と高成長が予測されている。また、ミャンマーの予想経済成長率は、2020年に1.5%、2021年に6.0%、ウガンダはそれぞれ3.3%、3.7%が見込まれており、いずれもマイナス成長を回避する見込みだ。なお、バングラデシュは、2019年の推定値8.2%から、2020年に1.6%、2021年に1.0%と新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けると予測されている。
(5) 海外事業の計画値の検証
新中期経営計画において同社は、海外事業の売上高の急拡大と高い収益性を計画している。前述したように、海外事業の売上高は、2022年11月期までの3期間で400百万円、1,000百万円、1,600百万円と急拡大を見込む。同様に、売上高営業利益率は、13.8%、20.0%、18.8%と高水準で推移する計画となっている。
その妥当性を、業界トップのTOTOのデータで検証してみる。TOTOのグローバル住設事業の売上高は、2020年3月期に5,719億円となった。これは、5年前の2015年3月期と比較すると9.0%の増加となる。地域別では、グローバル住設事業売上高の76.2%を占める日本国内の伸び率が同9.0%増にとどまるのに対し、アジア・オセアニアは同26.9%増加した。また、2020年3月期のグローバル住設事業の売上高営業利益率は7.1%となった。地域別では、日本が5.8%であるのに対し、海外は11.2%と高く、内訳は中国が15.2%、アジア・オセアニアが16.6%、米州が2.0%となった。欧州の売上高構成比は0.7%と小さいものの、10年以上損失計上が続いている。なお、中国の利益率は、過去10期中7期で20%を超えていた。アジア・オセアニアは、2014年3月期以降は常に2ケタ台を維持しており、2018年3月期は21.3%に達した。このことから、同社が海外事業に想定している利益水準がとりわけ高いわけではないと言える。
TOTOがターゲットとする市場セグメントは、ワンランク上の高級ゾーンになる。一方、同社は国別によってミドルからハイエンド、もしくはローからミドルエンドをメインとする。日本仕様の製品は、同社がターゲットする国及び市場セグメントには過剰品質であり、また水の流し方や構造など最適とはならない。ベトナム子会社が、海外市場のニーズに適した商品の企画開発を行っている。アジア・アフリカ市場には、日本市場向けの仕様・品質の商品は、様々な意味で販売に不適合だが、ベトナム向けの商品は販売可能だ。国内では、商習慣上、小口・多頻度配送を余儀なくされるが、海外では代理店へのコンテナ売りと販管費が国内ほどかからない。販管費率が抑えられることで、高い営業利益率が実現可能とみている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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