S&P500月例レポート(20年7月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2020年6月
経済回復期待と新型コロナ感染再拡大の懸念の間で揺れるマーケット

 米国では、新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者数が47000人超と過去最多に増加しました。国内の感染者数は260万人を超え(世界の感染者数は1050万人)、死者数も12万7000人を上回っています(同51万1000人)。米国内でのウイルス封じ込めの進捗状況は依然として州によってばらつきがあり、その成果もはっきりしていないものの、感染状況が最初に深刻化しその後感染の震源地となったニューヨーク市は、経済を再開させました。

 一方で、アリゾナ州、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州では感染者数と入院患者数の急増が報告され、フロリダ州やテキサス州などは再び経済活動を制限したほか、制限措置の再導入を検討する州も散見されています(こうした対応は極めて政治的な問題となっています)。各州で感染再拡大の兆候が確認される中、ニューヨーク州(コネチカット州とニュージャージー州も同様)は、「ホットスポット」とされる16州からの訪問者に対して、14日間の自主隔離を求めると発表しました(以前にニューヨーク州からの訪問者に対して一部の州が設けた措置と同様の対応)。

 米国以外では、EUが14ヵ国(および恐らく中国も)に対し一般旅行客の域内への渡航を解禁すると発表しました。ただし、米国は感染者数が増加中であることを理由に、渡航制限の解除には至りませんでした。コロナウイルスに関して重要なことは、まだ何も分かっていないということです。感染状況に対する体系的な見方は、科学的というよりも一段と政治的なものになっています。

 そして、市場は、いずれ治療薬を含む治療方法やワクチンといった対策が見出されることで経済は回復すると信じています。こうした景気回復に向けて、前述の通り、早い段階で感染が拡大した地域では状況が改善してきました。しかしながら、当初それほど感染が深刻化しなかった地域では悪化し始めており、いまだ対応に追われている最中です。最終的には経済が再開される(そして株価は期待によって決まる)との判断から、市場は上昇基調に転じました。終値での最高値(2020年2月19日)から直近安値(3月23日)まで33.9%下落した後、市場は38.6%上昇し(3月23日から年初来で若干上昇となった6月8日までは44.5%の上昇)、年初来でも大いに許容範囲といえる4.04%の下落まで戻しました(終値では高値から8.44%の下落)。第1四半期の騰落率は20.00%の下落でしたが、第2四半期は19.95%の上昇となりました。

 現時点での主な懸念事項は、市場が景気の回復を先取りし過ぎているのではないか(2020年予想PERは28.4倍、2021年予想PERは19.2倍)、一段と長い回復期間を織り込む必要があるのか、ということです。約70%の企業が2020年第2四半期の業績発表(すでに予想利益は半減されており、さらなる悪化が見込まれています)を行う7月には、この点に関する最新の情報が明らかになると同時に、下半期の業績予想が何らかの手掛かりを与えてくれるでしょう(市場にとって重要な情報です)。そして、7月の業績予想よりもさらに先の材料を欲している投資家に対しては、8月に再び激しい中傷合戦となる政治が新聞各紙のトップ記事になるはずです。シェイクスピア流に言えば「2つの名家」である共和・民主の両党が、大統領候補を正式に指名し、政党綱領が示され、長く暑い夏となりそうです。

 過去の実績を見ると、6月は55.4%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.00%、下落した月の平均下落率は3.17%、全体の平均騰落率は0.76%の上昇となっています。2020年6月の上昇率は1.84%となりました。また、7月は58.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.93%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は1.56%の上昇となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日となっています。

主なポイント

 ○6月の株式市場は下値を固める動きを見せ、2020年第1四半期の下落分の大半を取り戻しました。

  ⇒6月のS&P 500指数は1.84%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス1.99%)。2020年第2四半期は19.95%上昇(同プラス20.54%)、年初来では4.04%の下落(同マイナス3.08%)、過去1年間では5.39%上昇となりました(同プラス7.51%)。

  ⇒2016年11月8日の米大統領選当日以降の同指数の上昇率は44.90%(同プラス55.85%)、年率換算では10.72%(同プラス12.86%)となりました。

  ⇒弱気相場の中での反発局面が続き、6月中には2月19日の終値での最高値から4.5%下回る水準まで戻す場面もありました。S&P 500指数は2020年3月23日に付けた底値から38.57%上昇しましたが、2月19日の終値での最高値を8.44%下回っています。

 ○米国の10年国債利回りは、5月末の0.66%から0.65%に低下して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは5月末の1.41%から変わらずで月を終えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは5月末の1ポンド=1.2347ドルから1.2388ドルに上昇し(同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは5月末の1ユーロ=1.1104ドルから1.1235ドルに上昇しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は5月末の1ドル=107.82円から107.99円に下落し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は5月末の1ドル=7.1373元から7.0655元に上昇しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○原油価格は(4月に一時マイナスに落ち込んだ後)5月末の1バレル=35.32ドルから上昇して39.67ドルで月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、5月末の1ガロン=2.049ドルから2.260ドルに上昇して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は5月末の1トロイオンス=1743.00ドルから1799.40ドルに上昇して月を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は5月末の27.31から30.43に上昇して月を終えました。月中の最高は44.44、最低は23.34でした(同13.78、同16.12、同11.05)。

 ○企業業績に関しては、パンデミックの影響がどの程度続くかが注目される中、市場では今年後半に期待される企業業績の好転に引き続き関心が向けられました。

  ⇒第1四半期の決算を見ると、500銘柄が業績発表を終えました。第1四半期の利益予想はすでに今年スタート時点から51.6%引き下げられていたため、329銘柄(65.8%という割合は過去平均をわずかに下回っています)で利益が予想を上回りました。第1四半期は2019年第4四半期から50.2%の減益、前年同期比では48.7%の減益となりました。売上高は295銘柄(59.0%)が予想を上回りましたが、前期比9.9%、また前年同期比では1.8%の減収となりました。

  ⇒第2四半期の利益予想もすでに(2019年末時点から)47.2%下方修正され、第3四半期は32.4%、第4四半期は22.4%、さらに通年では37.9%引き下げられています。2020年の業績はほとんど重視されていない一方で、2021年の業績に対する希望はまだ失われていません(とはいえ、現時点で信頼できる数字はほとんど示されていません)。ただし、利益予想は2019年末時点から12.0%下方修正されています。

  ⇒株式数による影響は2020年第1四半期も続きましたが、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄の割合は低下し、全銘柄のうち19.6%となりました(2019年第4四半期は20.7%、2019年第1四半期は24.9%)。企業が自社株買いを縮小(または保留)しているため、今後は前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業数を見ると明らかです。

 ○S&P 500指数構成企業は2020年第1四半期に自社株買いを積極的に行い、2019年第4四半期の1816億ドルから9.4%増加して1987億ドルとなりました。とはいえ、2019年第1四半期の2058億ドルからは3.4%減少しています。

 ○ビットコインは5月末の9388ドルから下落して9156ドルで月を終えました。月中の最高は1万0200ドル、最低は8976ドルでした(2019年末は7194ドル、2018年末は3747ドル)。

 ○米国の新型コロナウイルス対応のための財政政策:

  ⇒第1弾:医療機関への財政支援やウイルス感染拡大防止に83億ドルを拠出。

  ⇒第1段階:2週間の疾病休暇および最長10週間の家族医療休暇の給与費用に対する税額控除。

  ⇒第2段階:労働者、中小企業、事業会社、病院や医療関連機関に対する直接支援、ならびに融資保証を提供する2兆2000億ドルのプログラム。

  ⇒第3段階:(中小企業向け)給与保証プログラム(PPP)に3100億ドルと医療機関に750億ドルを含む総額4840億ドルの拠出。ただし、州政府および地方自治体に対する資金支援は行わない。

  ⇒第4段階:下院(民主党が支配)は3兆ドル規模の支援パッケージを可決(賛成208、反対199)しました。このパッケージには、州政府および地方自治体に対する支援(1兆ドル)、年収7万5000ドル未満の人に現金1200ドルを追加支給し、この支給対象を子ども(扶養家族3人まで)と社会保障番号を持つ人に拡大(2900億ドル)、失業保険給付の週600ドルの上乗せの終了期限の2020年7月31日から2021年1月までの延長(2600億ドル)が含まれます。この法案は現在、上院(共和党が多数党)で審議されており、7月中の法案成立は不透明な状況にあります。

 ○S&P 500指数の1年後の目標値は(相場が上昇した)この1ヵ月でわずかに低下して3226(現在値から7.3%上昇、5月末時点の目標値は3228、4月末時点の目標値は3182)、ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)の目標値は2万7711ドルとなっています(同7.4%上昇、同2万6871ドル、同2万6478ドル)。

トランプ大統領と政府高官

 ○米中関係には大きな進展がありました。トランプ大統領は中国の航空会社による米中間の定期旅客便(現在7社が運航)の運航を6月16日で停止することを命じ、これを受けて中国は従来の規制を緩和し、同国への乗り入れを認める外国の国際便の便数を増やしました。

 ○上院は、米国の証券取引所に上場する中国企業(中国国内に本社所在地がある)に対して米国の証券と同様の基準を遵守することを義務付ける外国企業説明責任法(Holding Foreign Companies Accountable Act)を可決しました。

 ○これを受け、香港は上記に該当する企業に対して香港証券取引所に上場するよう呼びかけました。

 ○トランプ大統領は米国における就労ビザの発給凍結の対象をグリーンカード(永住権)やH-1B(特殊技能職)などに拡大すると同時に、凍結期間を2020年末まで延長しました。これにより約52万5000人の雇用に影響が及びます。

新型コロナウイルス関連

 ○欧州中央銀行(ECB)は、新型コロナウイルス関連の追加支援策として、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の購入額を6800億ドル増やすことを承認し、期間を2021年半ばまで延長しました。

 ○米国上院は、下院で可決済みの給与保証プログラム(PPP)の利用期間を従来の8週間から24週間に延長することを可決し、その後トランプ大統領が署名しました。

 ○娯楽大手のWalt Disney(DIS)はウイルスの感染拡大を受け、7月17日に予定されていたディズニーランドの営業再開を延期すると発表しました。

 ○米国のウイルスの封じ込めは地域によってばらつきがあり、ニューヨーク市の経済再開がフェーズ2に移行した一方で、複数の州(アリゾナ州、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州)では感染者数と入院者数の急増が報告されており、一部の経済活動の再制限や対策の一部再導入などが検討されています。ニューヨーク州、コネチカット州、ニュージャージー州の3州は共同で声明を発表し、感染が拡大している「ホットスポット」からの訪問者に対して14日間の自主隔離を要請する意向を明らかにしました(以前に一部の州がニューヨーク州からの訪問者に対して行った措置と同様)。

 ○製薬会社のGilead Sciences(GILD)は新型コロナウイルス感染症治療薬「レムデシビル」の価格について、米国で投与された場合の病院への請求額が3120~5720ドル(治療期間によって異なる)になると発表しました。

 ○世界保健機関(WHO)は、現在の新型コロナウイルスの状況は収束からほど遠く、感染のピークもまだ超えていないとの見方を示しました。

 ○EUは、14ヵ国(および恐らく中国も)からの渡航制限を解除すると発表しました。米国については、感染者の増加を理由に渡航制限は継続されました。

 ○経済活動が徐々に再開される中、感染者数の増加が報告されている一部の地域では活動が再び制限され、規制が再導入されています。市場はこれまで通り、こうした状況に応じた動きを見せると予想されます。

 ○経済再開が制限された場合、回復に向けた新たな予想に基づいて株価は見直されるでしょう。

各国中央銀行の動き

 ○FOMCは現行の政策を据え置き、パウエル議長は、「今後数年は政策金利をゼロ付近で維持する」とした上で(後に2022年までと言及)、経済の下支えと景気回復のためにFOMCは必要なことなら何でもやると述べました。また2020年のGDP成長率はマイナス6.5%、2020年末の失業率は9.3%となる見通しを明らかにしました。

 ○米連邦準備制度理事会(FRB)は社債買い入れプログラムの対象を流通市場に拡大し、この追加支援のニュースを受けて市場は好転しました。

 ○パウエル議長は上院銀行委員会での半期に一度の議会証言に臨み、経済に安定化の兆候が見られるが、長期に及ぶ傷跡を残すリスクも残っていると述べた上で、雇用環境が大幅に改善したとしても、労働市場は(記録的低水準となった)パンデミックによる活動停止以前の水準を「大きく下回る」状況が続く可能性があると付け加えました。

 ○米国の銀行当局は規制(ボルカー・ルール)を緩和し、ベンチャーキャピタルへの投資が認められる他、デリバティブ取引の際に証拠金を社内に留保する要件が撤廃されます。

 ○FRBによる年次ストレステストの結果、複数の銀行で自己資本が最低基準に近づく可能性があることが明らかになり、FRBは大手銀行に対し、第3四半期中の自社株買いの停止と配当の制限を命じました。FRBはまた、年内に最新の資本計画を提出するよう各行に求めました。

 ○ストレステストの結果を受け、Wells Fargo(WFC)は2020年第3四半期に支払う配当の減配を発表しました。

企業業績

 ○新型コロナウイルスの影響がいつまで続くかが問題となる中、市場は引き続き下半期の企業業績の好転を期待しています。

 ○全ての企業が2020年第1四半期の決算発表を終えましたが、今年に入ってから第1四半期の利益予想は全体で51.6%下方修正されたため、329社(65.8%に相当し、過去平均をわずかに下回ります)で利益が予想を上回ったこともうなずけます。最終的に、第1四半期の利益は前期比で50.2%、前年同期比で48.7%減少しました。売上高では295社(59.0%)で予想を上回りましたが、前期比で9.9%の減収となりました。

 ○決算時期がずれている15社が第2四半期決算を発表し、そのうち12社が下方修正後の利益予想を上回り、9社が売上高予想を上回りました。

 ○2020年第2四半期の利益予想は2019年末時点から47.2%、第3四半期は32.4%、第4四半期は22.4%、通年では37.9%、それぞれ引き下げられています。2020年の業績はほとんど重視されていない一方で、2021年の業績に対する希望はまだ失われていません(とはいえ、現時点で信頼できる数字はほとんど示されていません)。ただし、利益予想は2019年末時点から12.0%下方修正されています。

 ○株式数による影響は2020年第1四半期も続きましたが、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄の割合は低下し、全銘柄のうち19.6%となりました(2019年第4四半期は20.7%、2019年第1四半期は24.9%)。企業が自社株買いを縮小(または保留)しているため、今後は前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業数を見ると明らかです。

個別銘柄

 ○iPhoneメーカーのApple(AAPL)は、15年にわたって継続してきたIntel(INTC)製プロセッサの採用をやめ、今後は自社開発のプロセッサを搭載する意向を明らかにしました。

 ○IT大手のDell Technologies(DELL)は、株式81%を保有するVMware(VNM)のスピンオフを検討していると報じられました。

 ○ライフサイエンス企業のBayer Aktiengesellschaft(BAYRA)は、除草剤Roundupの発がん性をめぐる訴訟(2018年のMonsanto買収と共に引き継ぎ)について、総額100億ドルの和解金で決着することで合意に達しました。

注目点

 ○6月も破綻の波が続きました。

  ⇒スポーツジムチェーンの24アワー・フィットネスがチャプター11(破産法)の適用を申請しました。

  ⇒5月にはレンタカー大手のHertz(HTZ)の他、百貨店のJ.C. Penney(JCP)、J. Crew、Neiman Marcusが相次いで破産法の適用を申請し、老舗百貨店のLord & Taylorは完全な清算に動くことを明らかにしました。

  ⇒石油とガスの価格が下落する中で、シェールガスなどのエネルギーを扱うChesapeake Energy(CHK)が破産法(チャプター11、保護の申し立て)の適用を申請しました。

 ○これらの企業とは逆に、小売り大手Macy’s(M)は45億ドルの追加資金を調達することに成功しました(同社は従業員のレイオフを実施しました)。

 ○報道によると、オンライン小売のAmazon(AMZN)は毎年7月に開催されるPrime Dayを延期し、2020年10月に7-10日間のイベントを実施する可能性があります。

 ○都市での暴動を受けて、Apple、NIKE、生活用品ストアのTarget、Walmartなどは一部の店舗を閉鎖しました。これらの企業の多くは、休業は一時的であると発表しています。

 ○第2四半期の業績発表が間近に迫る中、運動具、スポーツウェア・メーカーのNIKE(NKE)は3-5月期(第4四半期)決算を発表し、オンラインの売り上げは75%増加したものの、全体の売上高は前年同期比で38%減少したことを明らかにしました。

<後編>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム