資源・新興国通貨の2020年12月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2020/06/26 15:42

豪ドル

豪ドルは投資家のリスク意識の変化を反映しやすいという特徴があります。主要国で経済活動の再開が順調に進めば、市場ではリスクオフが後退し、豪ドル/円や豪ドル/米ドルは堅調に推移する可能性があります。

RBA(豪中銀)は3月に2回の利下げを行い(政策金利は過去最低の0.25%へ)、さらに無制限の量的緩和を導入しました。同じオセアニアの中銀であるRBNZ(NZ中銀)はマイナス金利政策を導入する可能性を示す一方、RBAはマイナス金利政策の導入に慎重な姿勢を示しています。RBAとRBNZの金融政策スタンスの違いが豪ドルを下支えするかもしれません。

一方で、米国などで新型コロナウイルスの新規感染者数がこのところ増加傾向にあります。行動制限などが再び強化されるなど主要国の経済活動が停止する状況になれば、豪ドル/円や豪ドル/米ドルは上値が重い展開になるかもしれません。また、米国と中国の関係にも注意が必要です。豪経済は対中依存度が高いため、米中の対立は豪ドルにとってマイナス材料です。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスの感染への主要国の対応。
・米中の関係。
・RBAの金融政策。RBAはマイナス金利の導入に慎重な姿勢。

NZドル

NZドル/円やNZドル/米ドルは6月、いずれも約4カ月ぶりの高値を記録しました。主要国が新型コロナウイルス対策の行動制限などの措置を緩和して経済活動の再開を進めたことでリスクオフが後退し、NZドル/米ドルやNZドル/円の上昇要因となりました。

今後は、主要国での新型コロナウイルスの感染“第2波”を警戒する必要がありそうです。主要国の経済活動が再び停止する状況になれば、リスクオフが進む可能性があります。

RBNZ(NZ中銀)は、将来的にマイナス金利政策を導入する可能性を示しています(6/25時点の政策金利は0.25%)。世界やNZの経済状況が悪化すれば、RBNZはマイナス金利政策へと踏み切るかもしれません。マイナス金利政策の導入(その観測が高まる場合も)はNZドルにとってマイナス材料です。

一方で、NZの総選挙が9月19日に行われる予定です。世論調査では、労働党(最大与党)の支持率は国民党(最大野党)を大きくリードしており、アーダーン首相が続投する可能性が高まっています。アーダーン首相が続投すれば政策の継続性が確保されることになり、NZドルの下支え要因となり得ます。

<注目点・イベントなど>
・NZ総選挙(9/19)。
・新型コロナウイルスの感染への主要国の対応。
・米中の関係。
・RBNZの金融政策。マイナス金利政策の導入は!?

カナダドル

カナダドル/円は原油価格の動向に影響を受けやすい展開になりそうです。原油価格の代表的な指標である米WTI原油先物は4月に一時、史上初めてマイナス価格を記録しました。その後、OPECプラス(OPEC加盟国と非加盟主要産油国で構成)による協調減産の開始(5月~)や主要国の経済活動の再開に支えられてWTI原油先物は上昇。6月23日には期近物として、一時3月6日以来の高値をつけました。

WTI原油先物が一段と上昇すれば、カナダドル/円は堅調に推移しそうです。一方で、米国などで新型コロナウイルスの感染者が足もとで増加傾向。またOPECプラスの協調減産の規模は8月から縮小する予定です(現行は日量960万バレル、8~12月は同770万バレル)。供給過剰への懸念が高まる可能性があり、その場合にはWTI原油先物は上値が重い展開になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・原油価格の動向。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は6月25日、政策金利を8.25%に据え置くことを決定しました。声明では、据え置きの理由を「(新型コロナウイルスの)パンデミックの影響によってコアインフレ指標のトレンドが若干加速した」ためと説明。また、季節要因やパンデミックの影響によって食品価格が上昇したとも指摘しました。

トルコの実質金利(政策金利から前年比の消費者物価指数上昇率を引いたもの)はすでに大幅なマイナス(6/25時点でマイナス3.14%)。今回利下げをしていれば、実質金利のマイナス幅は拡大することになったため、利下げ見送りはトルコリラにとってプラス材料と考えられます。

ただ、TCMBは2019年7月にウイサル総裁が就任してから金融政策を転換。2020年5月まで9会合連続で利下げを行ってきました。また、エルドアン・トルコ大統領は低金利を志向しています。政策金利の据え置きは一時的の可能性があり、今後利下げが再開されることも考えられます。利下げなどによって実質金利のマイナス幅が拡大する場合には、トルコリラに対して下押し圧力が加わるかもしれません。

その他にも、トルコのS400(ロシア製地対空ミサイルシステム)導入問題、低水準にある外貨準備高、シリア情勢やリビア情勢など、リラ売り圧力を強めかねない要因があります。

<注目点・イベントなど>
・マイナスのトルコの実質金利。
・トルコの外貨準備高の減少。
・トルコのS400導入問題。
・シリアやリビアの情勢。

南アフリカ

南アフリカランドは新興国通貨のため、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。新型コロナウイルスの感染状況や米中関係などを受けたリスク意識の変化に注意が必要です。ランドにとってリスクオン(リスクオフの後退)はプラス材料、リスクオフはマイナス材料です。

SARB(南アフリカ中銀)の金融政策も材料になりそうです。現在(6/25時点)のSARBの政策金利は3.75%、南アフリカの4月CPI(消費者物価指数)上昇率は前年比3.0%。南アフリカの実質金利(政策金利から前年比のCPI上昇率を引いたもの)は0.75%です。今後、SARBが利下げをする、あるいはCPI上昇率が高まるなどして、実質金利は再びマイナスになるかもしれません。その場合、ランドの上値を抑える要因となり得ます。SARBの政策金利は7月23日、9月17日、11月19日に発表される予定です。

<注目点・イベントなど>
・新型コロナウイルスの感染への主要国の対応。
・米中の関係。
・南アフリカの実質金利。
・南アフリカの予算案(10月)。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は6月25日の会合で0.50%の利下げを決定。政策金利を5.50%から5.00%へと引き下げました。利下げは9会合連続であり、決定は全会一致でした。BOMは「経済成長に対するリスクバランスが依然として大幅に下向きに偏っている」ことを利下げの理由として挙げました。

BOMの利下げは本来、メキシコペソにとってマイナス材料です。ただ、メキシコの実質金利(政策金利から前年比の消費者物価指数上昇率)は主要国や他の新興国と比べて依然として高い状況(6/25時点で2.16%)。BOMが今後、追加利下げをしたとしても、政策金利水準や実質金利における優位性は維持されるとみられます。金融政策面かペソは下支えされやすいと考えられます。

一方で、主要国における新型コロナウイルスの感染“第2波”には要注意です。ペソは新興国通貨であるため、リスクオフはペソの上値を抑える要因です。

<注目点・イベントなど>
・BOMの政策金利水準やメキシコの実質金利の高さ。
・新型コロナウイルスの感染への主要国の対応。
・原油価格の動向。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想