S&P500月例レポート(20年3月配信)<1>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2020年2月
新型ウイルスは「原因」なのか、あるいは「きっかけ」にすぎないのか?

 2月の最終週、空が落ち、世界は終末に近づきました。S&P 500指数は2日連続で3%下落し、その後さらに4%下落して(その後も下落は続きました)、この11年間の強気相場しか知らない投資家やトレーダーを打ちのめしました。願わくば、3月11日になって、強気相場の11周年を祝うバースデーカードが安く売られていますように。そうした投資家やトレーダーは、「こんなことが起こるなんて誰も教えてくれなかった」と文句を言っていますが、市場がパニックになることはありませんでした。取引は一方的でしたが秩序が維持され、また今では電話で取引することがなくなったため、理論的にはマージンコールは発生せず、誰かが窓から身を投げる理由もありませんでした。もっとも今は、大半の窓は開かないようになっていて、かつてのティッカー・テープ・パレード(ビルの窓から紙吹雪が投げられるパレード)もあまり見かけなくなりました ―― ヤンキースが最近優勝から遠ざかっていることもあります。

 私ぐらいの年代以上の者にとってマーケット暴落はデジャブのようなもので(バーで昔の苦労話を語る絶好のチャンスです)、市場の反射的な反応(現れるのが遅かったとの声も多く聞かれます)は、「新型コロナウイルスが米国に侵入」した場合の直接的影響、供給サイドに起因するより大規模な経済的損失、そして個人消費の落ち込みに伴うさらに深刻な打撃を咀嚼する方向に変化しました。企業支出が精彩を欠くため、個人消費が売り上げを支えてきましたが、現時点において、当面マイナスの経済的影響を及ぼす可能性が極めて高くなっています。

 また、老若男女を問わず投資家に対するダメージも大きく、S&P 500指数は1週間で11.49%下落し、2月19日に付けた終値での最高値から12.76%下落、月間では8.41%下落、年初来では8.56%の下落となり、正式に調整局面入りしました(過去最高値を6回更新した同じ月にです)。時価総額は最高値から3兆5,800億ドル減少、月間で2兆2,400億ドル減少し、グローバル市場の時価総額もそれぞれ6兆9,900億ドル、4兆8,700億ドルの減少となりました。金利は低下し、安全資産への逃避の動きから米国10年国債利回りと同30年国債利回りは過去最低を更新しました(月末時点でそれぞれ1.15%と1.68%)。市場は米連邦準備制度理事会(FRB)が3月と4月に利下げを行うことを織り込んでおり、4月に50bpの利下げを予測する向きもあります。1月に1バレル当たり63ドルを超えた原油価格は一時45ドルを割り込み、45.26ドルで月末を迎えました。

 中国への渡航歴のないウイルス感染者が初めてカリフォルニア州で報告されたことを受けて、企業は2020年第1四半期の業績に警告を発し始めました。第1四半期の利益予想は既に5.0%引き下げられていますが、100社近い企業が注意喚起していることから、さらなる下方修正が予想されます。政府は対策を強化し、トランプ大統領はペンス副大統領を新型コロナウイルス感染の対策担当に任命しました。

 バーでのもう一つのとびきりの話題は(昔話から現在に戻すと)、新型コロナウイルスが「原因」なのか、それとも「きっかけ」にすぎないのかです。市場の反応のどの程度がウイルス感染懸念によるものなのでしょうか。これまで株価が大きく値を下げることもなく最高値を更新したことで、市場は利益を確定する理由を探していたのかもしれません(S&P 500指数は2月19日に最高値を記録)。

 現時点での答えは、1月の下落と同様に「私たち」全員が売り時を模索していたことから、調整のタイミングにあったということと、新たな見方として、新型コロナウイルスが米国の企業利益や市場にとって最大の脅威になったということです。感染の拡大と市場への影響は制御されておらず、投資家にできることは備えを怠らず、状況に応じて反応することしかありません。目下の結論としては、市場はコンセンサスの見方に基づいて銘柄に対する影響を見定め、株価はそれに応じて調整しており、今後実際に何が起こるのかを注視しているということです(市場は感じたことにまず反応し、その後に事実に反応するものです)。

 過去の実績を見ると、2月は53.8%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.34%、全体の平均騰落率は0.01%の上昇となっています。また、3月は60.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.32%、下落した月の平均下落率は3.61%、全体の平均騰落率は0.61%の上昇となっています。今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、3月17日-18日、4月28日-29日、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日となっています。

主なポイント

 〇2月はベテランの市場関係者にとっても波乱の月末でしたが、それまでの上昇分のおかげで市場はどうにか踏みとどまり、あとは新型コロナウイルスの影響が限定的であることを願うばかりです。

  →2月のS&P 500指数は8.41%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス8.23%)。年初来では8.56%下落(同マイナス8.27%)、過去3ヵ月間では5.95%下落(同マイナス5.50%)、過去1年間では6.10%の上昇となりました(同プラス8.19%)。

  →2016年11月8日の米大統領選以降の同指数の上昇率は38.08%(同プラス47.50%)、年率換算では10.26%(同プラス12.48%)となりました。

  →2009年3月9日に始まった強気相場の上昇率は336.67%(同449.00%)、年率換算では14.38%(同16.79%)となりました。

 〇米国10年国債利回りは、1月末の1.51%から1.15%(62年ぶりの低水準)に低下して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは1月末の2.00%から1.68%(43年ぶりの低水準)に低下して月を終えました(同2.39%、同3.02%、同3.05%)。

 〇英ポンドは1月末の1ポンド=1.3204ドルから1.2816ドルに下落し(2019年末は1.3253ドル、2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル)、ユーロは1月末の1ユーロ=1.1097ドルから1.0809ドルに下落しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は1月末の1ドル=108.34円から108.09円に上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は1月末の1ドル=6.9367元から6.9919元に下落しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 〇原油価格は1月末の1バレル=51.63ドルから一時45ドルを割り込み、45.26ドルに下落して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、1月末の1ガロン=2.595ドルから2.555ドルに下落して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 〇金価格は1月末の1トロイオンス=1,593.40ドルから一時は7年ぶりの高値を付けましたが、1,587.30ドルに下落して月を終えました(同1,520.00ドル、同1,284.70ドル、同1,305.00ドル)。

 〇VIX恐怖指数は1月末の18.84から40.11に上昇して月を終えました。月中の最高は49.48、最低は13.38でした(同13.78、同16.12、同11.05)。

 〇企業収益を見ると、時価総額の96%に相当する企業が決算発表を終え、2019年第4四半期の業績発表がほぼ出揃いました。市場関係者の関心は2020年第1四半期の業績と新型コロナウイルスの影響に移り始めています。現時点で、481銘柄が決算発表を終え、うち334銘柄で利益が予想を上回りました。110銘柄が予想を下回り、37銘柄が「予想通り」(予想に届かなかったと解釈する向きもある)となりました。また、478銘柄中300銘柄の売上高が予想を上回りました。

  →第4四半期の利益予想は前期比1.5%の減益で、落ち込んだ2018年第4四半期を11.9%上回る見通しです。2019年通年では前年比3.7%の増益が見込まれています。

  →2020年第1四半期の利益予想については下方修正が始まっており、前期比5.0%の減益が見込まれています。ただし、新型コロナウイルスの影響を警告する企業が増えていることから、下方修正は今後も続くと予想されています。現時点での2020年第1四半期の利益予想は2019年第4四半期から1.1%減益、前年同期比では2.0%の増益となっています。2020年通年では前年比10.1%の増益になると予想されていますが、今後引き下げられると見込まれます。また、市場は2021年に関して同11.4%の増益を予想しています。

  →株式数による影響も続いており、決算発表済みの企業のうち、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄(つまり、利益の総額が横ばいでも、1株当たり利益では4%以上上昇)の割合は21.1%となりました。

 〇株式市場が続落したため、S&P 500指数の配当利回りは2.07%となりました。配当を支払っている424銘柄の配当利回りは2.56%、さらに353銘柄が米国10年国債利回りを上回る配当利回りを提供している状況です。

 〇2019年第4四半期の自社株買いのうち95%が発表され、実施金額は前期比4.5%増加しましたが、記録的水準となった2018年第4四半期と比較すると16.4%の減少となりました。2019年第4四半期の自社株買い金額は1,780億ドルに達すると予想されています。

 〇ビットコインは1月末の9,360ドルから下落して8,761ドルで月を終えました。月中の最高は10,458ドル、最低は8,577ドルでした(2019年末は7,194ドル、2018年末は3,747ドル)。

 〇1年後の目標値はこの1ヵ月でさらに上昇しました。S&P 500指数が3,629(現在値から22.8%上昇、1月末時点の目標値は3,507)、ダウ平均は3万2,624ドルとなっています(同24.5%上昇、同3万0,809ドル)。「実現すれば素晴らしいことだ」と言いたくなるような水準です。

<2>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム