S&P500月例レポート(20年3月配信)<2>

<1>の続き

トランプ大統領と政府高官

 〇予想通りに、米上院の弾劾裁判ではトランプ大統領に無罪評決が下され、この問題は(今のところは)決着を見ました。とはいえ、政治劇は依然として続いています。

 〇貿易面では大きな進展は見られませんでした。トランプ大統領は中国に対する制裁に関してはコメントしたものの、EUに対してはほとんど発言しませんでした。新型コロナウイルスの影響拡大(輸出入の減少と制限)から貿易問題が二の次となったとの声も聞かれます。

 〇トランプ大統領は4.8兆ドル規模の2021年度予算案(2020年10月から始まる会計年度)を発表しました。議会との協議がこれから始まりますが、米議会予算局(CBO)の予測では2020年度の財政赤字は1.02兆ドルとなっています。

 〇トランプ大統領はインドを公式訪問しました(米印間の年間貿易額は1,600億ドル)。36時間の滞在中にモディ首相と共にインド国民の前で演説を行いましたが、新たな貿易協定の締結には至りませんでした(一部では合意に達するのではとの見方がありました)。

指名争いを継続するか、撤退するか(ここが思案のしどころ)

 〇次期米大統領選に関しては、予備選挙や党員集会が始まり、民主党の有力候補者は、進歩派グループの2人(サンダース氏と、支持率で大差をつけられているウォーレン氏)、中道派リベラルの3人(ブティジェッジ氏がリードしており、次いでクロブシャー氏、バイデン氏は大きく引き離されている)に絞られてきたようです。また、前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏(金融情報メディアBloombergの創業者)はスーパーチューズデー(3月3日)から正式に予備選挙に参戦する準備を進めています。

  →マイケル・ブルームバーグ氏は民主党候補者によるテレビ討論会に参加しましたが、市場はこのイベントには無反応でした。まだ誰が候補者となるかを見極めるには時期尚早だという判断が働いたことが一因とされています(向こう2週間で45%を上回る代議員が選出されるため、状況が大きく変わる可能性があります)。

新型コロナウイルス関連

 〇国際エネルギー機関(IEA)は新型コロナウイルスの影響による中国の石油需要の減少を理由に、2020年の世界の石油需要予想を2011年以降で最低となる日量82万5,000バレル(前回予想から36万5,000バレル削減)に引き下げました。

 〇クルーズ船大手のRoyal Caribbean(RCL)は18件のクルーズがキャンセルされ、同社の利益に甚大な影響が及ぶと警告しました。

 〇中国人民銀行は、流動性を確保するために(1週間で)3,000億ドルの資金供給を実施しました。

  →300を超える中国企業は新型コロナウイルスの業績への影響を相殺するために82億ドル相当のバンクローンを必要としています。

 〇中国の1月の消費者物価指数は前年同月比5.4%の上昇となりました。食料品およびエネルギー価格の上昇が原因で、これらを除いたコアインフレ率の伸びは同1.5%でした。

 〇ソーシャルメディア大手のFacebookは、サンフランシスコで開催を予定していたイベント「グローバル・マーケティング・ミーティング」を中止しました。他社も世界各地でのイベントの延期や中止を発表しています。

  →法人客や個人客を対象とした旅行業界でも、ツアーやホテルの宿泊予約のキャンセルが報告されています。消費者動向のレポートからも売上高の減少が散見されます。

   ⇒中国の2月の乗用車販売台数は、販売店の休業や工場の操業停止が続いていることから、月初からの16日間で前年同月比92%減少しました(中国商務省は販売促進のための政策措置の導入を検討していることを明らかにしました)。

 〇カリフォルニア州で初めて、渡航歴のない新型コロナウイルス感染患者が報告されました。

各国中央銀行の動き

 〇FRBのパウエル議長は2日間の議会証言(半年に1度実施)に臨み、米財政赤字(今年、1兆ドルに達する見込み)を削減するのに良い機会であるとの考えを示しました。パウエル議長は中国発の新型コロナウイルスについて、状況を注視し、米国経済に影響が及ぶことがないかを見守っていくと述べましたが、強調したのは米国経済の力強さで、コロナウイルスの影響についてはあまり深刻に捉えていないようでした。

 〇中国人民銀行は、金融機関向け貸出金利を従来の3.25%から3.15%に引き下げ、同じ週の後半には最優遇貸出金利についても、1年物を4.15%から4.05%に、5年物を4.80%から4.75%に引き下げました。

 〇1月のFOMC議事録によると、FRBは緩やかな成長ペースが続くと予想しており、ウイルス感染のリスクについて指摘しつつも、金融政策を現状維持としても問題はないと判断しました。

  →複数の委員が新型コロナウイルスの影響への懸念を表明しましたが、現時点で影響は限定的だとして、状況を注視する考えを示しました。

  →パウエル議長は、FRBは適切な措置を打ち出す用意があると述べました。ウォール街ではほとんどが、FRBはコロナウイルスへの懸念から3月19~20日のFOMCで政策金利を引き下げ、4月28~29日のFOMCでも追加利下げがあると予想しています。一部ではそれより早く、3月のFOMC前に利下げが実施されるとの観測も浮上しました。

企業業績

 〇決算発表のペースが緩やかになる中で、市場の関心は新型コロナウイルスに移り、2020年第1四半期の予想に話題が集まりました。時価総額ベースで96.3%の企業が2019年第4四半期の決算発表を終え、利益が予想を上回ったのは481銘柄中334銘柄(69.4%)、予想を下回ったのは110銘柄、予想通りとなったのは37銘柄でした。売上高は478銘柄中300銘柄が予想を上回りました。

 〇2019年第4四半期の利益予想は前期比1.5%の減益、落ち込んだ2018年第4四半期からは11.9%の増益となる見込みで、2019年通年の利益は前年比で3.7%の増益となる見通しです。

 〇2020年第1四半期の利益予想は5.0%引き下げられ、予想の下方修正が始まりました。新型コロナウイルスの影響について警告を発する企業が増える中で、今後も引き下げは続くと予想されます。現時点で、2020年第1四半期は前期比で1.1%の減益、前年同期比で2.0%の増益と予想されています。

 〇2020通年では10.1%の増益が予想されていますが、予想の下方修正が見込まれます。2021年は11.4%の増益が予想されています。

 〇株式数による影響も続いており、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄(つまり、利益の総額が横ばいでも、1株当たり利益では4%以上上昇)の割合は21.1%となりました。

  →2020年第1四半期の先行指標(2019年第4四半期の株式数/2019年第1四半期の株式数)によると、株式数の減少によって2020年第1四半期のEPSが前年同期比で4%以上押し上げられる銘柄の割合は13.6%になると見込まれます。

個別銘柄

 〇時価総額1兆ドル規模の銘柄にメディアの注目が集まる中、Microsoft (MSFT)、Apple(AAPL)、Amazon(AMZN)は引き続き1兆ドルを上回り、Alphabetは若干割り込み、Facebookの時価総額は大幅に減少して5,160億ドルとなりました。

 〇Boeing(BA)は、737 MAXの運航再開(約700機が運航停止)まで「数四半期」を要すると発表し、加えてソフトウエアの不具合が新たに見つかったことを明らかにしました。

 〇新規株式公開(IPO)関連では、寝具販売のCasper Sleep(CSPR)は当初設定したIPO価格17~19ドルを引き下げ、12ドルで株式を公開し、10.38ドルで取引を終えました。

 〇米国で個人向け食事配達サービスを展開するDoorDashはIPOを申請しました(今年後半に実施の見込み)。企業価値は130億ドルと推定されます。

 〇S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、制御・圧縮装置を製造・販売するGardner Denver Holdings(GDI)を、2020年3月3日の取引開始前にS&P 500指数に追加し、原油・天然ガスの探鉱・生産会社Cimarex Energy(XEC)を同指数から除外すると発表しました。

<3>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム