S&P500月例レポート(2019年12月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2019年11月
2018年12月の再来にならぬことを願い、感謝祭を祝う

 11月は感謝を捧げる月になりました。米国では感謝祭からホリデーシーズンが始まり、米国市場がグローバル市場を大幅にアウトパフォームするなど、感謝するには最適な月でした。誰もあえて市場を弾劾しなかったため、10月に終値で最高値を2回更新したS&P 500指数は、11月も終値で11回(20営業日中)最高値を更新しました。ただ、終値での高値更新、そして強気相場がいつまで続くのかを懸念する声は依然として多くありました。11月のS&P 500指数は3.40%上昇しましたが、遡ってみると、10月は2.04%の上昇、9月は1.72%の上昇でした(8月は1.81%の下落)。

 市場が祝福ムードにあったことは、バーで皆に1杯奢りたがる人たち(もちろん、法人カード払いですが)を見かけたことから明らかでした。そして、12月は過去において72.5%の確率で上昇するなど、値上がりする傾向が高いため、今年は良い年になると盛んに言われましたが、市場では不安感や警戒ムードがくすぶり続けました。11月初めの時点で、先行きにさらに多くの政治イベントが控えていることは明らかでした。弾劾調査が続き(今のところ市場にほとんど影響はないものの)、調査が続く中、資産配分の見直しや、場合によっては投資を手控える動きなど、影響が予想されました。

 しかし、結局のところS&P 500指数は年初来で25.30%上昇(配当込みのトータルリターンは27.63%)と、終値での最高値を若干(0.40%)下回る水準で月を終えました。11セクター全てがプラスのリターンを付け、最下位は1.72%上昇で唯一リターンが1桁台となったエネルギーでした(2016年11月の大統領選挙以降では15.50%下落)。米中貿易協議が、短期的に一進一退があっても徐々に進展し続けている限り、そして大規模な利食い売りが始まらなければ、高級シャンパンを手に年末を迎えられるでしょう。

 しかし、2018年12月にS&P 500指数の419銘柄が値を下げて9.18%下落した強烈な記憶を拭えない向きは、そのことを話題にしました(年初来では432銘柄が上昇しており、2018年は174銘柄が上昇)。目下のところ上昇を祝い続けている市場ですが、不安感も高まっています。ビデオゲーム「Turkey of Christmas Past(過去のクリスマスの七面鳥)」(チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」に登場する幽霊“The Ghost of Christmas Past”をもじったもの)に登場する七面鳥のようにはなりたくないからです(編集部注:擬人化した猫がクリスマスに対して反逆する七面鳥を剣で制圧するゲーム)。2019年の上昇(25.30%、配当込みのトータルリターンは27.63%)を守ることが投資目標になるかもしれません。

 過去の実績を見ると、11月は60.4%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.87%、下落した月の平均下落率は4.25%、全体の平均騰落率は0.72%の上昇となっています。12月は72.5%の確率で上昇し(どの月よりも高い)、上昇した月の平均上昇率は2.94%、下落した月の平均下落率は3.08%、全体の平均騰落率は1.28%の上昇となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、そして2021年が1月26日-27日となっています。

主なポイント

 ○11月は感謝を捧げる月になりました。誰もあえて市場を弾劾しなかったため、10月に終値で最高値を2回更新したS&P 500指数は、11月も終値で11回最高値を更新しましたが、これがいつまで続くのか懸念する声は依然として多くありました。11月のS&P 500指数は3.40%上昇しましたが、遡ってみると、10月は2.04%の上昇、9月は1.72%の上昇でした(8月は1.81%の下落)。

 ○11月のS&P 500指数は3.40%上昇しました(配当込みのトータルリターンは3.63%)。3カ月間のリターンは7.33%上昇(同7.86%)、年初来のリターンは25.30%上昇(同27.63%)と、年初から11カ月では2013年26.62%上昇以来の最高の上昇率を記録しました。

 ○2009年3月9日に始まった強気相場の上昇率は364%(年率換算で15.39%)、配当込みのトータルリターンはプラス481%(同プラス17.83%)となりました。

 ○米国10年国債利回りは10月の1.69%から1.78%に上昇して月を終えました(2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。米国30年国債利回りは10月の2.18%から2.20%に上昇して月を終えました(同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは10月末の1ポンド=1.2928ドルから1.2931ドルに上昇し(2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル、2016年末は1.2345ドル)、ユーロは10月末の1ユーロ=1.1154ドルから1.1018ドルに下落しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は10月末の1ドル=108.02円から109.48円に下落し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は10月末の1ドル=7.0387元から7.0326元に上昇しました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。

 ○原油価格は10月末の1バレル=54.14ドルから55.42ドルに上昇して月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、10月末の1ガロン=2.692ドルから2.672ドルに下落して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。

 ○金価格は10月末の1トロイオンス=1,515.40ドルから1,470.40ドルに下落して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は10月末の13.22から12.62に下落して月を終えました。月中の最高は14.17、最低は11.42でした(同16.12、同11.05、同14.04)。

 ○第3四半期の自社株買いのうち97%が発表され、期待されていた1,700億ドルの水準(株価を依然として支え、引き続きEPSを押し上げる水準)に達しました(しかし、「任務完了」とは誰も言っていません)。現時点で、第3四半期の自社株買いは約1,800億ドルになると推定され、2019年第2四半期の1,650億ドルを上回るものの、2019年第1四半期の2,060億ドル、2018年第3四半期の2,040億ドルを下回るとみられます。第4四半期に関しては、通常は増加する傾向にあり、小幅な増加が予想されます。1,900億ドル(そして過去最高を付けた2018年第4四半期の2,230億ドル)をやや下回る水準が見込まれ、そうなれば(前述の通り)引き続き株価は支えられ、EPSは押し上げられるでしょう。

 ○第3四半期の設備投資のうち97%が報告され、合計額は同銘柄ベースで前期比2.2%増、前年同期比4.4%増となりました。一方で、最終利益は伸び悩み、大規模な先行投資が行われたことを示す兆候は限られています(不確実性がその要因とされています。常にスケープゴートが必要なのです)。

 ○第3四半期の利益予想は期初来で1.9%、2018年末からは9.6%引き下げられました。現在では、前期比で0.2%の減益、過去最高となった2018年第3四半期からは3.2%の減益が予想されています。

  →これまでに、S&P 500指数構成銘柄の97.2%、時価総額ベースで96.6%に相当する491銘柄が第3四半期の決算発表を終えています。491銘柄のうち、368銘柄(75.0%、過去平均は66.6%)で利益が予想を上回りました。売上高に関しては、491銘柄中288銘柄(59.0%)が予想を上回りました(過去最高を更新)。

  →第4四半期に対する楽観的見方は持続していますが若干弱まっています。第4四半期の利益予想は2019年9月末から4.1%、2018年末から10.6%、それぞれ引き下げられ、現時点では前期比で1.1%の増益、落ち込んだ2018年第4四半期と比べると15.6%の増益となる見通しです(会計方針の変更や通常の減損処理など)。これは過去最高だった2018年第3四半期を2.1%下回る水準です(2020年第2四半期に利益は過去最高を更新すると予想されています)。

  →2019年通年では前年比で4.7%の増益、大統領選が行われる2020年は同11.4%の増益が見込まれています。

    →注:通常、アナリストは第3四半期決算の内容を吟味して目標株価を調整するため、12月に予想は修正されます。しかし、足元の環境や一段と高まる不確実性から、今年は市場全体というよりも、特定の銘柄やグループごとに予想の修正が行われる可能性があります(注視を怠らないように)。

o ビットコインは10月末の9,220ドル(9月末は8,265ドル)から下落して7,754ドルで月を終えました。月中の最高は9,505ドル、最低は6,617ドルでした(2018年末は3,747ドル、2017年末は13,850ドル、2016年末は968ドル)。

 1年後の目標値はS&P 500指数が3,363(現在値から7.1%上昇、10月末時点の目標値は3,316)、ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は29,746ドルとなっています(同6.0%上昇、同29,380ドル)。

トランプ大統領と政府高官

 ○トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の電話でのやり取りをめぐり、米下院が弾劾調査を開始しました(事実調査)。この結果を受けて、トランプ大統領の弾劾手続き開始の是非が決定されます(手続きを開始する場合、まず下院本会議で弾劾決議案が採決され、過半数が賛成すれば、上院の本会議で弾劾裁判が開かれます。トランプ大統領の罷免には上院の3分の2の賛成が必要です)。トランプ大統領はこの訴追手続きについて「でっちあげ(bullshit)」と述べ、中国とウクライナにバイデン氏の調査を求めました(バイデン氏はオバマ政権の副大統領で、2020年の大統領選挙における有力な民主党候補です)。

  →米下院は大統領の弾劾について、証人喚問を最初は非公開で開き、その後、公開喚問を2週間行いました。大統領側と大統領の罷免を求める側のいずれもが、引き続き勝利を主張しています。

 ○議会は21日、12月20日までのつなぎ予算を可決し、大統領が署名しました。それにより、同日の深夜に予定されていた政府機関の一部閉鎖が回避されました。

 ○議会はまた、香港の人権尊重を支援する香港人権法を可決し(口頭での支援であり、法的な措置ではありません)、大統領が署名しました。

 ○現在進行中の米中貿易協議で、中国は第1段階の合意を妨げている問題の解決について、意見が一致したようだと発表しました(この発表を受けて市場は上昇しました)。

中央銀行関連の動き

 ○クリスティーヌ・ラガルドECB総裁は就任後初めての講演(ベルリン)で、あらゆる勢力と協力していく姿勢を示し、ドイツに対して財政黒字をより多く支出する財政政策に費やすよう要求することを避け、ドイツとの衝突を回避しました。

 ○イングランド銀行(英中銀)は11月の金融政策委員会(MPC)で金利を0.75%に据え置きました。委員9人中2人が金利の0.25%引き下げに賛成票を投じました。

 ○米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、米議会(上下院合同経済委員会)での証言の中で、金利は適切な水準にあると思われると述べました。市場はこの発言を受けて、FOMCは12月の会合で利上げする意向はないと解釈しました(同日、市場は終値での過去最高を記録しました)。また、パウエル議長は自国の債務水準について警告を発しました。

 ○パウエルFRB議長はホワイトハウスでトランプ大統領とムニューシン財務長官と会談しました。大統領は会談後、「良い、誠意ある会談だった」とツイートしましたが、金利水準を比較的高めに設定しているFRBの金融政策を批判しました。

 ○10月のFOMC議事録は、現在の金利が当面、適切な水準にあるとFOMCが考えていることを示し、それを受けて2019年12月のFOMC会合での利下げ観測は後退しました。

  →パウエル議長は講演で、金利の変更を当面見送ることを示し、市場参加者の見方を裏付けました。

 ○FRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)は小売市場がホリデー商戦に先立ち、小幅ながら加速していることを示しました。

企業業績

 ○2019年第3四半期の利益予想は、第3四半期の初めから1.9%、2018年末から9.6%、それぞれ引き下げられています。現時点において、第3四半期利益は前期比で0.2%減益、過去最高だった前年同期比で3.2%の減益が見込まれています。

 ○これまでに、S&P 500指数構成銘柄の97.2%、時価総額ベースで96.6%に相当する491銘柄が第3四半期の決算発表を終えています。491銘柄のうち、368銘柄(75.0%、過去平均は66.6%)で利益が予想を上回りました。売上高に関しては、491銘柄中288銘柄(59.0%)が予想を上回りました(過去最高を更新)。

 ○第4四半期に対する楽観的見方は持続していますが若干弱まっています。第4四半期の利益予想は2019年9月末から4.1%、2018年末から10.6%、それぞれ引き下げられ、現時点では前期比で1.1%の増益、落ち込んだ2018年第4四半期と比べると15.6%の増益となる見通しです(会計方針の変更や通常の減損処理など)。これは過去最高だった2018年第3四半期を2.1%下回る水準です(2020年第2四半期に利益は過去最高を更新すると予想されています)。

 ○2019年通年では前年比で4.7%の増益、大統領選が行われる2020年は同11.4%の増益が見込まれています。

 ○[注]:アナリストは通常、第3四半期決算の内容を分析・検証して目標株価を調整するため、12月に予想は修正されます。しかし、足元の環境や一段と高まる不確実性から、今年は市場全体というよりも、特定の銘柄やグループごとに予想の修正が行われる可能性があります(注視を怠らないように)。

 ○株式数による影響も続いており、決算発表を終えている企業のうち、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄(つまり、利益の総額は横ばいながら、1株当たり利益では4%以上上昇)の割合は23.4%となりました。この割合は、2019年第2四半期は24.2%、2018年第3四半期は17.7%で、最近で最も高かったのは2016年第1四半期の28.2%でした。

  →特筆すべき点として、2019年第3四半期の株式数との比較に基づき、2019年第4四半期に入る前の時点(2019年第4四半期の自社株買いが行われる以前)で15%の銘柄が2018年第4四半期から4%以上のEPS押し上げが見込まれます。

個別銘柄

 ○ファストフード大手McDonald’s(MCD)の最高経営責任者(CEO)は、部下との不適切な関係を認めて解任されました。

 ○高機能アパレルブランドメーカーのUnder Armour(UA)は、会計処理をめぐって調査を受けていることを明らかにし、さらに決算発表では北米売上高が5四半期連続で減少しました。

 ○旅行予約サイトを運営するExpedia(EXPE)は11月に株価が25.6%下落しました。予約サイトの競争の激化と、Alphabet傘下のGoogleが検索者を自社サイトに誘導できるようになった点が嫌気されたようです。これは同業のTripAdvisor(TRIP)にとっても脅威であり、同社の株価も29.7%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス21.0%)。

 ○Googleの親会社のAlphabet(GOOG/L)は消費者向けに当座預金口座サービスを提供することを明らかにしました(Citigroup(C)が運営)。

 ○中国のEコマース企業Alibaba(BABA)は香港証券市場で総額130億ドル相当の新株を発行しましたが、応募超過となりました。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、クラウドソリューションを手掛けるServiceNow(NOW)をS&P 500指数に加え、製薬会社Bristol-Myers Squibb(BMY)に買収されたバイオ医薬品会社のCelgene(CELG)を同指数から除外しました。また、S&P中型株400指数の構成銘柄である保険持ち株会社のW.R. Berkley(WRB)を、2019年12月5日の取引開始前にS&P 500指数に加え、CBS(CBS)による買収手続きが進められているメディア企業Viacom(VIAB)を同指数から除外する予定です。

<後編>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム