―バブル説は誤り、将来の政治リスクには留意を―
※「令和の大相場始動シリーズ(2)」から続く
(1)米国株沸騰、史上最高値
景気ミニサイクル底入れで米国株史上最高値更新
3指数そろって史上最高値更新、今年に入って3回目(4月末、7月末、10月末)の史上最高値。米中貿易戦争の休戦、FRBの金融緩和、景気実態の健全さ(消費と半導体)の3つが理由。
長期景気拡大途絶の公算は小さい。製造業の変動によるミニ景気循環は底入れ、半導体が明確に転換、力強い拡大はほぼ確か。中国の政策転換などに支えられて自動車関連や工作機械、建設機械などの広義の資本財にも徐々に広がっていく可能性が大きい。2018年初からの下落をリードした投資関連、貿易関連は現在がほぼ底であろう。米国内需主体の非製造業の需要の堅調に加えて、これまでの3回の利下げ効果も見込める。2020年11月の米国大統領選挙の前に景気が失速する心配はほぼなくなったとみてよい。5G投資競争が勃発、半導体投資が急伸し、半導体株が株価上昇をリードしていることは、既にレポートした通りである。
米国経済拡大長期化を推進する産業革命、雇用とインフレに好変化
10年を超えた史上最長景気を支えているものは、技術革新・産業革命の寄与であろう。新技術の下で企業の生産性が高まり業績が好調、また人々のライフスタイルが、例えば“所有からシェアへ”などと大きく変化し、新しいサービス事業分野が生まれている。雇用は全分野で拡大しているが、教育医療、娯楽観光、専門サービスなどが特に好調である。
低インフレの背景にスキルのシェアリングの進展がある
好調なのにインフレが抑制され、それが中央銀行の裁量の余地を大きくし、市場に安心感を与えている。なぜ、3%台の低失業率にもかかわらず、かつてのようにインフレが高まらないのだろうか。それは、技術革新により生産性が高まり、供給力が恒常的に増大しているから、と考えるほかはない。供給力の天井が上がるので、需要が少しばかり増えても、需給ひっ迫 ⇒ インフレには結びついていないのである。
加えて65歳以上の高齢者など、いわゆるdiscouraged worker(就業意欲喪失者)の労働市場への再参加、フリーランス・副業兼業の増加など、表面的な失業率の低下(労働需給ひっ迫)を緩和する、外部からの労働力供給が働いている可能性もある。既に米国就業人口のほぼ1/3に達したフリーランス比率はさらに大きく増加する見通しである。シェアリングエコノミーにおいて、最も大事なシェアは労働スキルである。スキルを兼業・副業・フリーランス化によって企業の枠から開放すれば、(従来の統計の枠外で)労働生産性は大きく上昇しているはずである。
米国金融市場の健全性、資本が退蔵されない、企業の100%利益還元が寄与
以上の実体経済に加えて、米国の金融の健全性が、先進国中では突出した米国の好調さを支えている。先進国の中で健全な資金循環が維持されているのは米国のみである。日欧では巨額の余剰貯蓄が国債市場に滞留しマイナス金利を引き起こしている。それは需要創造を阻害するだけでなく、長短スプレッドをなくすことで銀行の収益力を破壊し、銀行のリスク提供機能を奪っている。日欧の銀行株の低迷がそれを如実に示している。
ただ、米国だけは例外、資本循環が維持されている。長期金利は8月に1.4%まで低下したものの、それをボトムに上昇、銀行株式も日欧に比し高水準を維持。日欧のように、国債市場が余剰資本を吸収し金融循環がそこで停止するといったことは起きていない。それは米国企業が自社株買いと巨額配当により利益のほとんどすべてを株主に還元し、その結果もたらされた株高が家計の資産を増価させ、堅調な消費をけん引しているからである。ここは事実だけを見ていただきたい。米国企業の最大のキャッシュフローは、年間5000億ドルに上る自社株買いである。過去4年間(2015~2018年)に米国企業(非金融)は4.09兆ドルの税引き利益を計上したが、4.24兆ドルとその100%以上を株主に還元した。内配当2.29兆ドル、自社株買い1.95兆ドルとなっている。
資産価格上昇は米国国民全体を潤している
しかし米国でも、家計、年金、保険、投信の余剰資金は一手に国債に向かっている。米国債の投資主体別保有比率であるが、2015年以降のテーパリングでFRB及び外国人が米国国債を売る中で、一手に買い続けてきたのは米国国内投資家(家計・銀行・機関投資家)だったのである。
しかし、企業の巨額の株主還元が家計の金融所得を押し上げ、株価上昇による資産効果もあって、旺盛な消費を維持させているといえる。株価上昇や配当は富裕層のみを利しているという主張がある。しかし、米国の家計貯蓄の7割は株・投信であり(日本の場合7割が現預金)、株主還元は大半の貯蓄者を利しているといえる。
さらに、株高をけん引役とする資産価格上昇が家計の純資産を著しく増加させた。2009年第4半期リーマンショック後のボトムでは49兆ドルに落ち込んでいた家計純資産は、2019年第2四半期には113兆ドルへと10年間で60兆ドル(米国GDPの3倍)も増加したが、そのうち年金資産は10兆ドルから27兆ドルへと著増し、年金財政を大きく支えているのである。
インフレ圧力が弱い、つまり潜在的供給力余剰が存在している局面では、緩和的金融政策、拡張的財政政策が求められる。まして貿易戦争による負の影響が懸念される時、従来の共和党政策から離れたトランプ政権の拡張的経済政策は適切なものであると評価できよう。
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