S&P500月例レポート(2019年9月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET: 2019年8月
●貿易問題と世界経済悪化が市場を不安定化
8月は、猛暑、ボラティリティ、逆イールド、下落に見舞われ、苦しい月となりました。上昇したその前の2ヵ月間、すなわち、7月は1.31%の上昇で、終値ベースで最高値を8回更新(ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は4回)、6月は6.89%の上昇(終値ベースの最高値更新は1回)の反動が出たようです。ただ、この反動は限定的で、7月末からの最大の下落率(日中)は5.31%で、8月は1.81%下落で月を終え、その結果、年初来リターンは16.74%上昇と、依然としてレイバーデイの旗を誇らしげに掲げられる水準にあります。通常は取引が閑散とする8月ですが、売買高は前月比で9%増加し(営業日数調整後)、前年同月比では16%増加しました。
ボラティリティも上昇し、日中の変動率が1%以上となった日数は22営業日中16営業日(7月は2日、2018年8月は1日)、前日比での変動率が1%以上の日数は10営業日(上昇が6日、下落が4日で、下落した4日のうち3日は2%以上下落)でした。これに対して7月は1%以上変動したのは1営業日(下落)で、2018年8月はゼロでした。ボラティリティの中心にあったのは貿易問題に対する市場の反応、そして世界経済の悪化でした。
ドイツでは2019年第2四半期の国内総生産(GDP)が0.1%減少し、30年国債の平均落札利回りはマイナス0.11%となりました(金利を負担するのは買い手のあなたです)。この2つの懸念材料により、米国の10年国債利回りが2年国債を下回る「長短金利の逆転(逆イールド)」が、2007年以来12年ぶりに生じました。逆イールドを受けて株式の売りプログラムが発動されましたが、その打撃を抑える買い手はほとんど現れませんでした。金利は世界中で、軒並み低下しました。米国30年国債の利回りは史上初めて2%を割り込み、1.90%を付けて過去最低水準を更新し(2018年末は3.02%)、1.97%で月を終え、米国10年国債の利回りも1.45%まで低下して、1.50%で月末を迎えました(同2.68%)。一方、米国2年国債の月末の利回りは1.51%でした(同2.50%)。
S&P 500指数は幅広く売られ、11セクター中3セクターが上昇したのに対し、8セクターが下落しました。8月は193銘柄が上昇し(15銘柄は10%以上上昇)、312銘柄が下落しました(102銘柄が10%以上下落)。現時点で、ウォール街が注目しているのは貿易問題と9月17-18日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の2点です。貿易問題に関しては、トランプ大統領が引き続き交渉の過程で相場を翻弄するとみられ、ボラティリティはさらに高まると予想されますが、ウォール街は依然として何らかの合意に至ると予想しています。
ただし、もう年内の合意は見込めないでしょうし、条件についても以前ほど楽観的にはなれません。FOMCに関しては、大方が0.25%の追加利下げを予想しています。そして、ウォール街の多くは既に9月以降に目を向け、10月29-30日の会合での追加利下げを予想し、中にはその後、12月10-11日の会合でさらに1回利下げがあるとみる向きもいます(事の是非はさておき、予想通りにならない場合、人は失望するでしょう)。市場参加者の大半は、9月が過ぎてから最初の取引を行う必要があると考えています。
8月の相場は1.81%下落と許容範囲内に終わり(最終週は前週末比で2.79%上昇)、年初来では16.74%上昇と、かなり満足できる結果でした。そして7月26日の終値ベースでの過去最高値からは3.29%の下落となりました。金利は、30年物が7月の2.53%から1.97%に、10年物が同2.02%から1.50%にそれぞれ低下し、2年物は同1.87%(10年を下回る水準)から1.51%に低下しました。
過去の実績を見ると、8月は59.3%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.85%、下落した月の平均下落率は4.01%、全体の平均騰落率は0.66%の上昇となっています。来る9月は45.1%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.32%、下落した月の平均下落率は4.62%、全体の平均騰落率は0.99%の下落となっています。
今後のFOMCのスケジュールは、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年の1月28日-29日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日となっています。
●主なポイント
○8月の市場は、6月の6.89%上昇と7月の1.31%上昇から反落しました。これは市場が逆イールド、過去最低を記録した米国30年国債の利回り(その結果、住宅ローンの借り換え申請が大幅増)、景気後退観測(これを裏付ける米経済指標はないものの、ドイツは第2四半期の成長率が-0.1%を記録し、後退局面入りの可能性大)に反応したためです。下落率は1.81%と許容範囲に収まり、終値での最高値(2019年7月26日の3,025.86)から3.29%下落し、年初来では16.74%の上昇(配当込みのトータルリターンはプラス18.34%)となりました。
・8月のS&P 500指数は1.81%の下落(同マイナス1.58%)となり、年初来8ヵ月の騰落率は16.74%(同プラス18.34%)となりました。1997年以降の年初来8ヵ月の騰落率は21.43%が最高です。
・2009年3月9日に始まった強気相場の上昇率は333%(年率換算で15.01%)、配当込みのトータルリターンはプラス439%(同プラス17.44%)となりました。
○米国30年国債利回りは史上初めて2%を割り込み、一時1.90%まで低下し(2018年末は3.02%)、1.97%で月を終えました。
・米国の10年国債と2年国債の利回りは2007年以降で初めて逆イールドとなり、株式の売りプログラムが発動しました。米10年債の利回りは1.50%(2018年末は2.68%、月中の最低は1.48%)、2年債の利回りは1.51%(2018年末は2.50%)で月を終えました。
○英ポンドは7月末の1ポンド=1.2154ドルから1.2164ドルに上昇し(2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル、2016年末は1.2345ドル)、ユーロは7月末の1ユーロ=1.1072ドルから1.0995ドルに下落しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は7月末の1ドル=108.78円から106.24円に上昇し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は7月末の1ドル=6.8843元から一時は7.1704元まで下落し、最終的に7.1567元で8月を終えました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。
○原油価格は7月末の1バレル=58.01ドルから55.07ドルに下落して月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は7月末の1ガロン=2.798ドルから2.661ドルに下落して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。
○金価格は7月末の1トロイオンス=1,426.30ドルから1,532.60ドルに上昇して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。
○VIX恐怖指数は7月末の16.12から18.98に上昇して月を終えました。月中の最高は24.81、最低は13.73でした(同25.42、同11.05、同14.04)。
○第2四半期の自社株買い額(暫定値)は第1四半期の2,060億ドル、2018年第4四半期の2,230億ドル(過去最高)から大幅に減少して1,660億ドルとなりました。
・減税効果を狙って株主還元の拡大を急いだため、企業は2018年に過剰な自社株買いを行った模様で、現在はその水準を引き下げることを模索しています。現時点で、2018年の自社株買いは1回限りの購入を含んでいたと思われ、2019年第2四半期の自社株買いが2018年のどの四半期より大幅に下回ったことから、2017年以前の水準を踏まえて改めて評価されることになります。
・足元の重要な問題は、通常の自社株買いがどこまで縮小するか、ということです。目下の1,700億ドルのレンジで下げ止まるか、それとも2017年をやや上回る水準まで縮小するのでしょうか。第3四半期には、株式数減少のEPSに対する追い風に加えて、自社株買いの水準とそれによる株価の下支えの度合いについて、見通しがより明確になるでしょう。
○ビットコインは7月末の1万0057ドル(6月末は1万1678ドル、5月末は8,534ドル)から下落して9,640ドルで月を終えました。月中の最高は1万2317ドル、最低は9,497ドルでした(2018年末は3,747ドル、2017年末は1万3850ドル、2016年末は968ドル)
○1年後の目標値は、S&P 500指数が3,290(現在値から12.4%上昇、7月末時点の目標値は3,233)、ダウ平均は2万9684ドルとなっています(同12.4%上昇、同2万9094ドル)。
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