S&P500月例レポート(2019年3月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2019年2月
個人的見解:スコアはさらなる高みへ

 私が持っている早見表によると、今年3月15日(アイズ・オブ・マーチ、古代ローマの将軍カエサルが暗殺された日)はダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)の算出開始から3万3,333営業日目にあたり、4万4,444日目は2063年にやってきます。残念ながら体験できるのはせいぜいそこまででしょう。ちなみに、ダウ平均は1896年以降で3月15日に上昇した確率は55.2%で平均上昇率は1.13%、1896年以降の全取引日では52.3%の確率で上昇し、平均上昇率は0.71%でした。

 「そしてビートは続き」、「スコアは頂点に向けてさらなる高みへ上る」。S&P 500指数は1月に7.87%上昇し(1月としては1987年以降で最高、この年に市場は暴落)、2018年12月の9.18%の下落分(12月としては1931年以降で最大の下落率)の大半を取り戻した後、2月も相場の流れを引き継いで2.97%の大幅な上昇となりました。年初来では11.08%上昇し、1991年の11.16%に次ぐ上昇率となりました。

 2月の上昇で、S&P 500指数は終値での過去最高値まであと4.99%に迫り、市場では2019年3月9日の強気相場10周年に合わせて「最高値更新を達成したらどんなに素晴らしいか」が話題に上るようになりました。3月9日は土曜日のため、前日終値で最高値を更新したら最高のパーティーになるでしょう。

 この記念すべき日まで残り6営業日という時点で、今回の上昇相場は年率で17.69%のトータル・リターンを上げました(1999年末以降の年率リターンの5.42%の3倍以上、1989年末以降の9.64%の約2倍で、1926年以降では10.09%、1977年5月の筆者のS&P入社以降では11.53%)。株価ベースでは、S&P 500指数の時価総額は上昇相場の期間に17兆4,900億ドル増加し(同期間の配当の3兆3,000億ドルは除く、含めると追加で18.8%増加)、米国市場全体では23兆8,900億ドル増加しました(S&Pグローバル総合指数の時価総額は37兆1,700億ドル増加)。

 具体的なデータはなくあくまで私見ですが、米国市場の時価総額が23兆ドル増加するのに伴い、過去に類を見ない多くの人が直接的に影響を受けたのではないでしょうか。単純計算すると、国民1人当たり平均で6万4,718ドル資産が増加したことになります。ただし、単純平均であり、国民の間で配分が均一ということではありません。同様に2017年の米国の国民1人当たり所得の4万8,150ドルと言う数字も単純平均です。

 2月の市場では、低調が予想されていた企業決算に注目が集まりました。2018年第4四半期の利益は無傷と言うわけにはいきませんでしたが(過去最高だった前期比で15.3%減、前年同期比で3.5%増)、期待が切り下がっていたため大きな失望を呼ぶことはなく、減税効果による利益の上振れを受けて市場は低い利益成長に基づいて大幅に上昇しました。売上高の伸びは好調で、前期比1.8%増、前年同期比5.4%増となり、四半期では過去最高を更新しました。

 決算数字以外では、貿易・関税問題が引き続き市場の神経を揺さぶり、イベントが短期的な急騰をもたらす場面もありましたが、月末には3月の中国との合意(あるいは部分的な合意)に対する期待が高まりました。現段階で市場は合意を予想しているため、合意がまとまらなければ株価は下落する可能性があります。ブレグジットをめぐる交渉も続き、期限まで1カ月を切った可能性も出てきました。メイ英首相は3月29日の離脱期限を延期する案を議会採決にかけると発言しましたが、実際に延期するにはEUの承認が必要です。

 トランプ大統領はメキシコ国境の壁建設をめぐって非常事態を宣言し、議会の反対を押し切って壁の建設費用を他の予算から捻出しようとしています。下院は非常事態宣言を無効化する決議案を可決し(大統領の拒否権を覆すのに必要な3分の2の賛成は得られませんでした)、議論は今後上院に持ち込まれ、最終的に司法判断に行き着く見通しですが、市場への影響は限定的でしょう。

 第4四半期と2018年通年の決算発表がほぼ出そろい、3月の市場の関心はイベントや基調的な経済(お互いに絡み合っています)に向かい始めるとみられます。市場は企業が発表する年次報告書や説明会に基づき、2019年の業績や基調的な成長率を予想し始めており(配分見直しにつながる可能性も)、最近の低ボラティリティを受けて投資先が決まっていない待機資金が動き出すかもしれません。

 イベント面では、米中の貿易問題が大きな注目を集め、トランプ大統領と習近平国家主席が会談する可能性もあり(市場に影響する公算大)、必ずしも最終合意ではありませんが、何らかの合意が見込まれます。3月29日に期限を迎えるブレグジットは、合意なき離脱の可能性はあるとはいえ、期限が延長される可能性の方が高く、影響は相対的に軽微にとどまるでしょう(欧州市場は影響を受けている一方、米国市場への影響は限定的)。米連邦準備制度理事会(FRB)は3月19-20日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置く見通しですが、金利変更とバランスシート縮小のタイミングに関する発言が、市場に影響を与えることが見込まれます。

 興味深い点として、3月9日に「強気相場10周年」を迎えます。配車サービスのLyftは新規株式公開(IPO)を実施する予定で、同じく配車サービスのUberがその後に控えていますが、IPOは直後ではなく2019年第2四半期になる可能性があります。

 2020年の米大統領選レースの動きも広がり、一部で好感されるとしても、多く(大半と言って差し支えありません)にとって苛立たしい材料となるでしょう。

 過去の実績を見ると、2月は53.3%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.34%、全体の平均騰落率は0.02%の下落となっています(市場はこれまで52.8%の確率で上昇していますが、2月14日のバレンタインデーに上昇した確率は42.6%にとどまっています ― 今年は経験則通りの結果となり、0.27%の下落となりました)。3月は60.4%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.35%、下落した月の平均下落率は3.61%、全体の平均騰落率は0.60%となっています。市場はこれまでに52.8%の確率で上昇していますが、3月15日(アイズ・オブ・マーチ)に上昇した確率は60.3%です。

 今後のFOMCのスケジュールは、3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月18日-19日、7月30日-31日、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日となっています。

●主なポイント

 ・2月のS&P500指数は2.97%上昇し(配当込みのトータル・リターンはプラス3.21%)、12月(9.18%下落、12月としては1931年以来最低)から7.87%の上昇に転じた1月(1月としては1987年以来最高)の勢いを維持しました。

 ・2月のS&P 500指数は2,784.49で取引を終え、1月末の2,704.10から2.97%上昇しました(配当込みのトータル・リターンはプラス3.21%)。1月は7.87%の上昇でした(同プラス8.01%)。2月の上昇により、S&P 500指数は終値ベースの最高値(2018年9月20日の2,930.75)まで4.99%の水準まで戻り、高値更新に近づきました。年初来では11.08%上昇(同プラス11.48%)、過去3カ月間では0.88%上昇(同プラス1.42%)、過去1年間では2.60%上昇(同プラス4.68%)、2017年末からは4.15%上昇(同プラス6.59%)、2016年11月8日の大統領選当日(終値2,139.56)以降では30.14%上昇となっています(同プラス36.34%、年率換算でそれぞれプラス12.11%、14.39%)。ダウ平均は25,916.00ドルで2月の取引を終え、1月末の24,999.67から3.67%上昇しました(配当込みのトータル・リターンはプラス4.03%)。1月は7.17%の上昇(同7.27%)で、1月としては8.01%を付けた1989年以来の上昇率を付けました。

 ダウ平均は、年初来では11.10%上昇(同プラス11.62%)、過去3カ月間では1.48%上昇(同プラス2.03%)、過去1年間では3.54%上昇しました(同プラス5.95%)。

  ○強気相場は2019年3月9日に10年を迎えます(暴落がなければ)。これまでの上昇率は312%、配当込みのトータル・リターンはプラス407%で、年率換算ではそれぞれ15.24%、17.69%となっています。

 ・S&P 500指数の時価総額の95%以上の企業が決算発表を終え、利益は引き下げられていた予想を上回り(この作戦は成功しました ― ほぼ毎回のことですが)、売上高は予想より好調で、四半期の過去最高を更新しそうです。現時点で485銘柄の決算発表が終了し、そのうち330銘柄(68.0%)で利益が予想を上回り、121銘柄(24.9%)が予想を下回り、34銘柄(7.0%)は予想通りでした。売上高は、480銘柄中294銘柄が予想を上回りました(61.3%)。

 ・ビットコインは1月末の3,442ドルから上昇して3,825ドルで月を終えました。月中の最高は4,222ドル、最低は3,362ドルでした(2018年末は3,747ドル、2017年末は1万3,850ドル、2016年末は968ドル)。

 ・2018年第4四半期は自社株買い承認額の87%が実施され、2018年第3四半期を3.6%、2017年第4四半期を57.0%それぞれ上回り、4四半期連続で過去最高を付ける可能性があります(自社株買いに関してワシントンから更にニュースが伝わることが予想されます)。

 ・1年後の目標値は、S&P 500指数が3,065(現在値から10.1%上昇、1月末時点の目標値は3,055)、ダウ平均は2万8,122ドルとなっています(同8.5%上昇、同27,884ドル)。

●トランプ大統領と政府高官、そして外交相手国

 ・トランプ大統領と議会は、国境沿いに新設するフェンスに14億ドルを投じることになったことを受けて、政府機関閉鎖の解除で合意しました。

  ○その後、大統領は国境の壁を建設するための費用(追加で43億ドル)を議会承認なしで確保するため、非常事態を宣言しました。

  ○大統領の非常事態宣言に対して16州が提訴しました。

  ○下院は大統領の非常事態宣言を無効にする決議案を可決しました(上院に送付)。ただ、採決結果は245対182で、大統領が行使の意向を明らかにしている拒否権を覆すのに必要な3分の2の賛成票を確保できませんでした。

 ・トランプ大統領は、ロシアとの中距離核戦力廃棄条約について、ロシアの条約違反を理由に条約履行義務を停止すると通告しました。条約は6カ月後に失効します。

 ・トランプ大統領は中国からの輸入品2,000億ドル相当に対する関税引き上げ(10%から25%)の期限(3月1日)を延長しました。新たな期限は設けていません。これについて、中国と生産的な協議が行われていることを理由に挙げ、3月に習近平国家主席と会談を行う計画だと述べました。

 ・トランプ大統領はベトナムを訪問し、北朝鮮の金正恩委員長と2回目の首脳会談を行いました(1回目はシンガポールで2018年6月に開催)。笑顔と希望に包まれて始まった会談ですが、合意(米国による制裁解除、北朝鮮による核兵器の放棄)には至りませんでした。今回の首脳会談に合わせて、ベトナムのBamboo AirwaysとVietJet AviationはBoeing(BA)から航空機合計110機(150億ドル)を購入する契約に調印しました。

 ・2020年11月3日の大統領選に向けて立候補表明が相次いでいます。

  ○トランプ大統領は再選を目指すとみられ、現時点で共和党に特に対立候補はいません。

  ○民主党からは12名が立候補を表明しており(上院議員のコリー・ブッカー氏(ニュージャージー州)、同カマラ・ハリス氏(カリフォルニア州)、同キルステン・ジルブランド氏(ニューヨーク州)、同バーニー・サンダース氏(バーモント州)、同エリザベス・ウォーレン氏(マサチューセッツ州)など)、その数はさらに増える見込みです。

  ○議会では自社株買いが問題になっており、複数の上院議員が投資への悪影響や富の分配の格差への影響を指摘し、条件を付けることで利用を制限する法案の提出を示唆しています。

●中央銀行関連の動き

 ・1月29~30日に開催されたFOMCの議事要旨が公表され、FRBが4兆ドル規模のバランスシートの縮小をめぐる計画を発表することが明らかとなりました。FRBは過去の利上げの影響を見極めるため、さらに時間が必要と考えており、当面利上げを見送ることを決めました。

 ・パウエルFRB議長は半期に一度の議会証言で、FRBは将来の利上げに対して「忍耐強く」対応していく方針であると確認しました(従来から変更はなく、市場に影響はありませんでした)。

●企業業績

 ・時価総額で95%の企業が決算発表を終えた時点で、利益は下方修正されていた予想を上回り(この作戦は成功しました-ほぼ毎回のことですが)、売上高は予想より好調で四半期としての過去最高を更新する見込みです。これまでのところ、485銘柄が決算を発表し、事前予想を上回ったのが330銘柄(68.0%)、予想を下回ったのが121銘柄(24.9%)、予想通りだったのが34銘柄(7.0%)となっています。売上高では480銘柄中294銘柄が予想を上回りました(61.3%)。

 ・決算発表が峠を越す中で、第4四半期の営業利益は過去最高となった第3四半期と比べて15.3%減(投資に適用される新たな時価会計基準が導入されたことも影響)、前年同期比では3.5%増(第1~第3四半期累計は前年同期比28.6%増)になる見通しです。2018年通年の営業利益は前年比21.8%増(大半は減税効果)、2019年は同9.5%の増益が予想されています(市場参加者はこの予想を受け入れ始めています)。第4四半期の売上高は過去最高を更新する見込みで、前期比1.8%増、前年同期比5.4%増、2018年通年では前年比9.1%増が予想されています。増収減益の結果、第4四半期の利益率は過去最高だった第3四半期の12.13%から現時点で10.08%に低下し、2017年第4四半期の10.27%も下回っています。それでも、2018年第4四半期の予想利益率である10.90%は、依然として過去平均の8.12%(1988年以降)を大きく上回っています。

<後編>に続く
 


みんなのETF
配信元: みんかぶ株式コラム