■今後の事業戦略
テラ<2191>の業績はここ数年、樹状細胞ワクチン療法の症例数減少に伴い業績の悪化が続いていた。類似の治療法を行う医療機関の増加や免疫チェックポイント阻害剤等の新たな治療薬の開発が要因と考えられる。このため同社では樹状細胞ワクチンの医薬品化に向けた開発を進めているが、薬事承認申請は2022年を目標としているため、当面は開発費用が先行する格好となる。こうした状況において同社は収益基盤の強化を図るために、新たに細胞加工受託事業への参入を決定したほか、海外事業の取り組みについても強化していく方針を打ち出した。
1. 細胞加工受託事業
同社は関西圏で自社の細胞培養加工施設を新たに整備し、2018年7月に厚生局に特定細胞加工物製造の許可申請を行った。製造許可取得までの期間は申請からおよそ6ヶ月となるため、早ければ2019年12月期第1四半期にも認可が下り、事業を開始できる見通しだ。CPCの設備機器は既存設備を活用しているため、設備投資はさほどかかっていない。製造する細胞は、主にがん免疫治療を目的とした樹状細胞や活性化リンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞などを予定している。
今回、同事業に参入した目的は大きく2点ある。第1に、樹状細胞ワクチン療法の契約医療機関の拡大と症例数の回復を図ることにある。従来、医療機関が樹状細胞ワクチン療法を行うには、自身でCPCを設置し細胞培養を行う専門スタッフを雇用する必要があったため容易ではなかった。同社の契約医療機関のうちCPCを保有する医療機関(基盤提携及び提携医療機関)に細胞加工を委託することも可能だが、医療機関同士の連携が上手く機能しないこともあった。同社の樹状細胞ワクチン療法の症例数のうち、CPCを保有しない連携医療機関が占める比率が1割未満にとどまっていることからも、こうした状況がうかがえる。
こうした状況を打開するため、同社が自ら細胞加工受託事業に参入し、高品質な細胞製品を医療機関に供給する役割を担うことによって、CPCを保有していない医療機関からの需要の掘り起こしが可能となる。同社では対象となる医療機関は全国で400弱程度あると見ており、今後これら医療機関の中で樹状細胞ワクチン療法に関心を持つ医療機関との契約を進めていきたい考えだ。また、CPCを保有する医療機関であっても、需要があれば受託サービスを提供していく考えだ。
第2の目的は、再生・細胞医療の研究開発を行うアカデミアや民間企業に対して、研究用の特定細胞加工物の製造開発受託サービスを行い、新たな収益源とすることにある。
同社の強みは、ほぼすべてのがん種に発現する「WT1」と呼ばれるたんぱく質をがん抗原とした「WT1ペプチド」の独占的通常実施権を保有していることや、特定のがん種への効果が高く次世代がん抗原ペプチドと言われている「MAGE-A4ペプチド」、「サーバイビンペプチド」の特許権等も保有するなど、多様なニーズに応えることができる品ぞろえを有していることや、高品質で安定的な細胞培養技術を有していることが挙げられる。CPCの製造能力については非開示だが、需要が拡大して製造能力をオーバーする状況になれば追加設備を導入していくことも可能となっている。
なお、細胞加工受託事業に関してはメディネット<2370>が先行して事業展開しており、2018年9月期の同事業における売上見込みは前期比半減の約10億円、営業損失は約6億円となっている。受託契約医療機関での患者数減少が減収要因で、固定費負担が重いこともあって営業損失となっている。このため、同社では当面は固定費を極力しぼって事業をスタートする予定にしており、まずは既存の連携医療機関からの受注取込や、新規契約医療機関、アカデミア、製薬企業などからの受注を獲得していきながら、CPCの稼働率を上げていくことで早期に収益化していく戦略となっている。
2. 海外事業の展開
新たな収益源の1つとして、海外事業の展開を進めていく。従来から、海外への進出は視野に入れていたが、各国における法規制の問題等により進展していなかった。しかし、2018年9月に台湾のバイオベンチャーであるVBと業務提携契約の締結を発表し、ようやく一歩前進した格好だ。台湾では近年、再生医療や細胞医療に対する関心が高まっており、再生・細胞医療を推進するための法整備や規制緩和が進むなかで、2018年9月にリスクが低い一部の再生・細胞医療について医療機関での提供(自由診療)が可能となったこと、また、同社の樹状細胞ワクチン療法に関する多くの論文発表を見て、VBがその将来性に着目したことが今回の業務提携契約につながったと考えられる。
今後は同社が有する樹状細胞ワクチン療法を中心としたがん免疫細胞療法の技術・ノウハウをVBに移転し、VBの細胞加工施設で樹状細胞ワクチンを製造、台湾内の関連医療機関に提供していくことになる。契約一時金は80万米ドル(約90百万円、113.7円/米ドル換算)である。2019年12月期の第1四半期中に技術移転を完了させる計画で、その後は治療件数に応じたロイヤリティ収入をVBから得ることになる。また、医薬品化についてもVBと検討する予定としている。
同社では台湾をモデルケースとして、他のアジア地域へも樹状細胞ワクチン療法の技術導出を目指して行く方針だ。市場の開拓は、VBとの共同展開やその他の企業との協業も視野に入れながら進めていくことになる。国内での免疫細胞療法が医療環境の変化や規制の強化に伴い縮小傾向となるなかで、免疫細胞療法に対する関心が高まっているアジア地域への展開が進めば、収益基盤の強化につながるものと期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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テラ<2191>の業績はここ数年、樹状細胞ワクチン療法の症例数減少に伴い業績の悪化が続いていた。類似の治療法を行う医療機関の増加や免疫チェックポイント阻害剤等の新たな治療薬の開発が要因と考えられる。このため同社では樹状細胞ワクチンの医薬品化に向けた開発を進めているが、薬事承認申請は2022年を目標としているため、当面は開発費用が先行する格好となる。こうした状況において同社は収益基盤の強化を図るために、新たに細胞加工受託事業への参入を決定したほか、海外事業の取り組みについても強化していく方針を打ち出した。
1. 細胞加工受託事業
同社は関西圏で自社の細胞培養加工施設を新たに整備し、2018年7月に厚生局に特定細胞加工物製造の許可申請を行った。製造許可取得までの期間は申請からおよそ6ヶ月となるため、早ければ2019年12月期第1四半期にも認可が下り、事業を開始できる見通しだ。CPCの設備機器は既存設備を活用しているため、設備投資はさほどかかっていない。製造する細胞は、主にがん免疫治療を目的とした樹状細胞や活性化リンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞などを予定している。
今回、同事業に参入した目的は大きく2点ある。第1に、樹状細胞ワクチン療法の契約医療機関の拡大と症例数の回復を図ることにある。従来、医療機関が樹状細胞ワクチン療法を行うには、自身でCPCを設置し細胞培養を行う専門スタッフを雇用する必要があったため容易ではなかった。同社の契約医療機関のうちCPCを保有する医療機関(基盤提携及び提携医療機関)に細胞加工を委託することも可能だが、医療機関同士の連携が上手く機能しないこともあった。同社の樹状細胞ワクチン療法の症例数のうち、CPCを保有しない連携医療機関が占める比率が1割未満にとどまっていることからも、こうした状況がうかがえる。
こうした状況を打開するため、同社が自ら細胞加工受託事業に参入し、高品質な細胞製品を医療機関に供給する役割を担うことによって、CPCを保有していない医療機関からの需要の掘り起こしが可能となる。同社では対象となる医療機関は全国で400弱程度あると見ており、今後これら医療機関の中で樹状細胞ワクチン療法に関心を持つ医療機関との契約を進めていきたい考えだ。また、CPCを保有する医療機関であっても、需要があれば受託サービスを提供していく考えだ。
第2の目的は、再生・細胞医療の研究開発を行うアカデミアや民間企業に対して、研究用の特定細胞加工物の製造開発受託サービスを行い、新たな収益源とすることにある。
同社の強みは、ほぼすべてのがん種に発現する「WT1」と呼ばれるたんぱく質をがん抗原とした「WT1ペプチド」の独占的通常実施権を保有していることや、特定のがん種への効果が高く次世代がん抗原ペプチドと言われている「MAGE-A4ペプチド」、「サーバイビンペプチド」の特許権等も保有するなど、多様なニーズに応えることができる品ぞろえを有していることや、高品質で安定的な細胞培養技術を有していることが挙げられる。CPCの製造能力については非開示だが、需要が拡大して製造能力をオーバーする状況になれば追加設備を導入していくことも可能となっている。
なお、細胞加工受託事業に関してはメディネット<2370>が先行して事業展開しており、2018年9月期の同事業における売上見込みは前期比半減の約10億円、営業損失は約6億円となっている。受託契約医療機関での患者数減少が減収要因で、固定費負担が重いこともあって営業損失となっている。このため、同社では当面は固定費を極力しぼって事業をスタートする予定にしており、まずは既存の連携医療機関からの受注取込や、新規契約医療機関、アカデミア、製薬企業などからの受注を獲得していきながら、CPCの稼働率を上げていくことで早期に収益化していく戦略となっている。
2. 海外事業の展開
新たな収益源の1つとして、海外事業の展開を進めていく。従来から、海外への進出は視野に入れていたが、各国における法規制の問題等により進展していなかった。しかし、2018年9月に台湾のバイオベンチャーであるVBと業務提携契約の締結を発表し、ようやく一歩前進した格好だ。台湾では近年、再生医療や細胞医療に対する関心が高まっており、再生・細胞医療を推進するための法整備や規制緩和が進むなかで、2018年9月にリスクが低い一部の再生・細胞医療について医療機関での提供(自由診療)が可能となったこと、また、同社の樹状細胞ワクチン療法に関する多くの論文発表を見て、VBがその将来性に着目したことが今回の業務提携契約につながったと考えられる。
今後は同社が有する樹状細胞ワクチン療法を中心としたがん免疫細胞療法の技術・ノウハウをVBに移転し、VBの細胞加工施設で樹状細胞ワクチンを製造、台湾内の関連医療機関に提供していくことになる。契約一時金は80万米ドル(約90百万円、113.7円/米ドル換算)である。2019年12月期の第1四半期中に技術移転を完了させる計画で、その後は治療件数に応じたロイヤリティ収入をVBから得ることになる。また、医薬品化についてもVBと検討する予定としている。
同社では台湾をモデルケースとして、他のアジア地域へも樹状細胞ワクチン療法の技術導出を目指して行く方針だ。市場の開拓は、VBとの共同展開やその他の企業との協業も視野に入れながら進めていくことになる。国内での免疫細胞療法が医療環境の変化や規制の強化に伴い縮小傾向となるなかで、免疫細胞療法に対する関心が高まっているアジア地域への展開が進めば、収益基盤の強化につながるものと期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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